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8.エーリヒ①

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エーリヒ・ランドルフは6人兄弟の末子として生をつけた。

兄達は全て皇妃の息子だった。

第二妃の母は、アーネリアといい、皇帝が帝国の最北端へ視察に行った時に見つけてきた娘だった。帝国内でも珍しい白銀の瞳と髪を持つ娘だった。


アーネリアが18歳になるのを待って皇帝はアーネリアを第二妃に迎えた。皇妃や周囲からの反発もあったが、皇帝は意に返さなかった。

アーネリアはすぐに妊娠して第六皇子を産む。帝国の皇子は全て土魔術の恩恵を受け茶色の眼と髪をしていた。

だが、アーネリアが産んだ皇子は、銀髪で茶眼の皇子だった。

生まれつき氷冷の強い魔力を身に纏うエーリヒに近づける者は母しかいなかった。

父の皇帝でさえエーリヒに近づく事ができない。

エーリヒの部屋は常に凍りつき、皇城の奥深く配置され、部屋には魔力封具が張り巡らされた。

毎日短い時間だけ訪れる母はエーリヒに何度も話をした。

「エーリヒ。お前は誇り高い氷冷族の正統な跡取りなのです。もう、私とお前以外に王族は誰もいません。必ず、氷冷族を、復活させるです。遥か昔にランドルフ帝国に滅ぼされ、もう名前も無い美しい氷の国を貴方が蘇らせるの。」

何度も聞く母の話では、エーリヒと母の先祖は最北端の地に王国を築いていたらしい。
だが、数百年前に先祖は広い領土を持つランドルフ帝国に滅ぼされ、雪山に逃げ込み、小さな集落で細々と暮らすようになった。母が10歳の時に、雪崩が起き、集落が全て雪に覆われた。
氷冷神の加護がある母のみ生き残り皇帝に保護されたらしい。


子供ながらに、銀髪銀眼の美しい母は、雪の女王のようだった。氷冷神の加護を持つ母は、冬や寒さには強かった。だが暑さには弱かった。


ある夏の日、8歳になるエーリヒの部屋に母が訪れた。

右半身に火傷を負い、ふらつきながらエーリヒの元に来る。

「お母様!」

「エーリヒ。私の愛しい子。お願い。熱いわ。母をお前の氷で冷やして頂戴。」

エーリヒは何度も母の体を冷やす。だが
、氷の魔術は加減が難しい。

「冷たい。ありがとうエーリヒ。まるで故郷に帰ったようだわ。お願いよ。エーリヒ。我らの悲願をお前が叶えるの。お願い。」

熱にうなされていた母は次の日、微笑みながら冷たくなっていた。


エーリヒの部屋から出てこない母を心配したのか、母の侍女が尋ねてきた。母が死んだ事を伝えると、驚き何処かへ走っていく。

帰ってきた侍女は沢山の魔力制御具を部屋に押し入れてきた。

侍女の言われる通り魔力制御具をつけて部屋を開ける。

銀髪の中年の侍女が、泣き腫らした眼を赤くして立っていた。



母は運び出され、エーリヒは初めて父と会う事になった。父の皇帝はエーリヒを見て驚いた。

「まさか、神の恩恵を複数持っているのか?素晴らしい。ランドルフ帝国が大陸統一の悲願を果たすのも夢ではないぞ。」

父の皇帝は何かを叫び、エーリヒは、その日から様々な訓練を課せられるようになった。

後で聞いたのは、母は皇妃に嫌がらせをされていたらしい。あの日は皇妃に熱湯をかけられて、夏の暑さに弱っていた母は、抵抗する暇が無かったとの事だった。


訓練を担当する魔術師が皇帝へ報告する。

「第六皇子は強い魔力を持ち、氷冷と地属性の強い魔術を扱えます。陛下の言われる通り2つの神の恩恵を持っていると思われます。兵器としては最強でしょう。ですが、強い氷冷の魔力ゆえに魔力制御具を外した状態で第六皇子に触れられる者が誰一人いません。子供は望めないでしょう。」

「ふむ。次の皇帝にはなり得ないか。出来損ないだが、利用価値はある。外遊の準備をしろ。各国への脅しに使えそうだ。」


「「御意。ランドルフ帝国に幸あれ。」」



部屋の外に出るようになってから、沢山の人間に囲まれる様になった。だが、エーリヒに触れられる人間は今も昔も死んだ母だけだった。

(お母様。氷冷族の復活にはどうすれば?加護持ちの中には俺に並べる者もいるのでしょうか?)

皇帝と同じようにエーリヒも外遊に期待していた。母の意志を継ぎ、氷冷族の国を復活させる為に、エーリヒの魔力に凍えない加護持ちが必要だった。



10歳から半年をかけてエーリヒは皇帝と共に外国の国を巡った。ランドルフ皇帝は、滞在する国々でエーリヒの魔術を見せた。神の恩恵を複数持つ者の誕生に各国は畏怖と驚愕を持ってエーリヒを迎え入れた。


南端のキーベルデルク神国に滞在した時だった。

晩餐の後で、エーリヒのみが内密にマロイ王に呼び出された。


向かった客室ではマロイ王が一人酒を飲んでいる。

「エーリヒ殿。来ていただいて助かります。」

「何の御用でしょう?」

「ああ、一つ取引をしていただきたいのです。」

「取引ですか?」

「貴方は今まで幾つ魔力制御具を壊されましたかな?」

エーリヒは押し黙った。
封具が張り巡らされた部屋から出てから幾つもの魔力制御具が凍りつき、壊れてきた。

「こちらを提供しましょう。私が国は水神の加護を持つ。他国の物に比べ、氷冷魔力を抑える力も強いでしょう。力をコントロールするのです。貴方の氷冷神の強い加護は大陸の脅威となりかねない。」

マロイ王が出してきたのは、数十個の水色、白、銀の魔力制御具だった。

「何が望みだ。」

「もし貴方が皇帝になったら、我が国に手を出すのは最後にして貰いたい。」

「  ?  父は私を後継にするつもりがない。皇帝には兄の誰かがなるだろう。」

「まさか、兄皇子達が貴方ほどの脅威を見逃すはずが無いでしょう。神の加護は呪われている。兄弟殺しが必ず起こる。一つ助言をしましょう。攻撃されたら躊躇わない事です。私と同じように後悔したく無いのであれば。」

そう言うマロイ王はとても疲れている様に見えた。

「いいだろう。これは頂く。何故、同盟では無いのだ。」

「同盟などは、王が変わらない時のみ価値がある。そうでしょう。未来の皇帝よ。」

マロイ王の青い瞳は何もかもを見透かしているように透き通っていた。






キーベルデルク神国を後にしたエーリヒは、ランドルフ帝国へ帰った。
父は、周辺国がエーリヒを見て怯える様子に気を良くした様だった。

暫くして、マロイ・キーベルデルク王が死に、キーベルデルク神国の水神の加護が失われたと噂に聞く。

(まさか自分の死を予測していたのか?)

エーリヒは印象に残ったキーベルデルク王とのやり取りを思い出していた。



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