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6.帰還準備
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メイナは、銀の複雑な刺繍が入った紫のワンピースを着せられた。
服と一緒に皇帝のテントへ来た侍女はノンネと名乗り、メイナの身支度を手際良く整えた。ノンネは白銀の髪と目をしており、急に現れたメイナにも丁寧に接して来た。
「まさか、エーリヒ様のお相手が出来る方が現れるなんて、母も喜びます。」
「どういう事?」
「私の母は、エーリヒ様の母である側妃アーネリア様の侍女でした。それは、本当にエーリヒ様の事を心配していたんです。あれほどの魔力ですから、近づける者がおらず、エーリヒ様が沢山の魔力制御具をつけてなんとか私達もお世話させて貰っていましたから。」
「魔力制御具、、、。」
「ええ、メイナ様は見られましたよね。エーリヒ様がつけられている腕輪や装飾具が全てそうです。」
メイナは顔を青ざめた。確かにエーリヒは沢山の装飾具をつけていた。
あの時は、全て外していたはずだ。
「エーリヒ様も封具が張り巡らされている帝都の居室以外では、魔力制御具を外されないはずですが、今回は何故か外されたみたいで、皆驚いていました。寵姫のメイナ様をこのような場所に留めるのは申し訳無いですが、多くの物資が凍りついてしまって、移動の準備が整うまでもうしばらく時間がかかりそうです。」
ノンネは申し訳なさそうにメイナに告げてくる。
「もしかして、皇帝には皆近づけないの?」
「ええ、公にはされていませんが、そうなんです。近づこうとすると頭痛や吐き気で動けなくなるみたいで、私や主人のシルバは氷魔術師なので、魔力制御具さえつけられていれば、平気なのですが、、、
もしかして、メイナ様は大丈夫なのですか?」
(ライザーの時から、何度も勧誘されてきたのはそのせいだわ。私は魔術の影響を受けない体質だけど、まさか残虐王に目をつけられていたなんて!)
「ノンネは皇帝の事を昔から知っているの?」
「ええ、そうです。夫のシルバと一緒に、遊び相手として城に伺っていました。」
「じゃあ、17年前皇帝がどうしていたか知っているの?」
「17年前ですか?エーリヒ様が10歳の時ですね。その時はまだ、皇帝になっておらず、帝都に居られたと思います。エーリヒ様は学院にも通っていませんでしたから。」
(じゃあ、キーベルデルク王を殺したのは残虐王じゃないのかな?いくら残虐王でも10歳で加護持ちの王を殺すなんて、、)
「ああ、でもその頃だったかもしれません。当時の皇帝様に連れられて大陸を回られた事があったと思います。南のキーベルデルク神国まで行かれたとか。」
「そうなのね。」
(その時に、キーベルデルク王を殺した?10才で可能なの?)
メイナは、様々な魔力も持つ昨日のエーリヒを思い出していた。
(出来るかもしれない。どうしよう。私にエーリヒを殺せるかな?とてもできそうに無い。そもそも従属指輪がある限り無理だわ。先に逃げる方法を考えなくちゃ。)
メイナが考えている間にノンネは、メイナの艶めく黒髪を器用に結い上げて髪飾りをつけた。
「エーリヒ様がメイナ様のような美しい方と出会えるなんて、私も嬉しいです。」
鏡に映る自分を見たメイナは驚く。
目元は黒いライナーで縁取られ、目尻に真紅の色をつけられる。チークと赤いルージュは明らかに最高級の質のものだ。
いつもと違う妖艶な美女がそこにいた。
「少しやり過ぎじゃない?」
「とんでもありません。控えめなぐらいです。帝国には、未来の国母の為、沢山の最高級の宝石や装飾具が用意されています。帰ったらもっと綺麗になりますよ。楽しみにしていてください。」
ノンネの熱の入りようにメイナは圧倒され、押し黙った。
(帝国に着くまでに絶対に逃げてやるんだから。)
そう決心するメイナの左手の薬指では、黒い指輪がメイナの決意を嘲笑うようにキラリと黒光りしていた。
皇帝のテントの外では、兵達が忙しく帰還の準備をしていた。
「帝国へ帰るのか?急だな。」
「そうだな。だが、正直助かったよ。物資は凍りつくし、このままじゃ進軍できなかっただろうな。」
「キーベルデルク神国は神の加護が失われているんだろう。我らが王ならすぐに制圧できそうだけどな。」
「ははは、違いない。もうキーベルデルク神国以外は帝国の支配下か同盟国だからな。大陸統一までもう少しだ。エーリヒ様なら、またすぐに進軍するだろう。」
凍りついたテントや物資を溶かしながら、兵達は帰還の準備をしていた。
服と一緒に皇帝のテントへ来た侍女はノンネと名乗り、メイナの身支度を手際良く整えた。ノンネは白銀の髪と目をしており、急に現れたメイナにも丁寧に接して来た。
「まさか、エーリヒ様のお相手が出来る方が現れるなんて、母も喜びます。」
「どういう事?」
「私の母は、エーリヒ様の母である側妃アーネリア様の侍女でした。それは、本当にエーリヒ様の事を心配していたんです。あれほどの魔力ですから、近づける者がおらず、エーリヒ様が沢山の魔力制御具をつけてなんとか私達もお世話させて貰っていましたから。」
「魔力制御具、、、。」
「ええ、メイナ様は見られましたよね。エーリヒ様がつけられている腕輪や装飾具が全てそうです。」
メイナは顔を青ざめた。確かにエーリヒは沢山の装飾具をつけていた。
あの時は、全て外していたはずだ。
「エーリヒ様も封具が張り巡らされている帝都の居室以外では、魔力制御具を外されないはずですが、今回は何故か外されたみたいで、皆驚いていました。寵姫のメイナ様をこのような場所に留めるのは申し訳無いですが、多くの物資が凍りついてしまって、移動の準備が整うまでもうしばらく時間がかかりそうです。」
ノンネは申し訳なさそうにメイナに告げてくる。
「もしかして、皇帝には皆近づけないの?」
「ええ、公にはされていませんが、そうなんです。近づこうとすると頭痛や吐き気で動けなくなるみたいで、私や主人のシルバは氷魔術師なので、魔力制御具さえつけられていれば、平気なのですが、、、
もしかして、メイナ様は大丈夫なのですか?」
(ライザーの時から、何度も勧誘されてきたのはそのせいだわ。私は魔術の影響を受けない体質だけど、まさか残虐王に目をつけられていたなんて!)
「ノンネは皇帝の事を昔から知っているの?」
「ええ、そうです。夫のシルバと一緒に、遊び相手として城に伺っていました。」
「じゃあ、17年前皇帝がどうしていたか知っているの?」
「17年前ですか?エーリヒ様が10歳の時ですね。その時はまだ、皇帝になっておらず、帝都に居られたと思います。エーリヒ様は学院にも通っていませんでしたから。」
(じゃあ、キーベルデルク王を殺したのは残虐王じゃないのかな?いくら残虐王でも10歳で加護持ちの王を殺すなんて、、)
「ああ、でもその頃だったかもしれません。当時の皇帝様に連れられて大陸を回られた事があったと思います。南のキーベルデルク神国まで行かれたとか。」
「そうなのね。」
(その時に、キーベルデルク王を殺した?10才で可能なの?)
メイナは、様々な魔力も持つ昨日のエーリヒを思い出していた。
(出来るかもしれない。どうしよう。私にエーリヒを殺せるかな?とてもできそうに無い。そもそも従属指輪がある限り無理だわ。先に逃げる方法を考えなくちゃ。)
メイナが考えている間にノンネは、メイナの艶めく黒髪を器用に結い上げて髪飾りをつけた。
「エーリヒ様がメイナ様のような美しい方と出会えるなんて、私も嬉しいです。」
鏡に映る自分を見たメイナは驚く。
目元は黒いライナーで縁取られ、目尻に真紅の色をつけられる。チークと赤いルージュは明らかに最高級の質のものだ。
いつもと違う妖艶な美女がそこにいた。
「少しやり過ぎじゃない?」
「とんでもありません。控えめなぐらいです。帝国には、未来の国母の為、沢山の最高級の宝石や装飾具が用意されています。帰ったらもっと綺麗になりますよ。楽しみにしていてください。」
ノンネの熱の入りようにメイナは圧倒され、押し黙った。
(帝国に着くまでに絶対に逃げてやるんだから。)
そう決心するメイナの左手の薬指では、黒い指輪がメイナの決意を嘲笑うようにキラリと黒光りしていた。
皇帝のテントの外では、兵達が忙しく帰還の準備をしていた。
「帝国へ帰るのか?急だな。」
「そうだな。だが、正直助かったよ。物資は凍りつくし、このままじゃ進軍できなかっただろうな。」
「キーベルデルク神国は神の加護が失われているんだろう。我らが王ならすぐに制圧できそうだけどな。」
「ははは、違いない。もうキーベルデルク神国以外は帝国の支配下か同盟国だからな。大陸統一までもう少しだ。エーリヒ様なら、またすぐに進軍するだろう。」
凍りついたテントや物資を溶かしながら、兵達は帰還の準備をしていた。
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