上 下
9 / 18

異母姉

しおりを挟む
私は、舞踏会を中座してザックを部屋へ連れて帰った。疲れたのかザックはすぐに眠りにつき、スヤスヤと寝息を立てる。

ザックと私の部屋には、侍女が控えている。侍女にザックを頼み、私は再び舞踏会場へ向かった。

今日は私の御披露目の為の舞踏会だ。

本心では、もう休みたかった。だけど、戻らないといかない。まだ挨拶をしていない帝国貴族が残っている。

中庭が見える廊下を歩いて行く。ガイア帝国が栄えているのは本当らしい。真新しい高価な調度品が並んでいる。祖国ガージニア王国は歴史があるが、近年は衰退していた。数多くの高価な骨董品を見せびらかす様に配置していた祖国とは正反対だ。

外には丸く朱金に輝く月が周囲を照らしている。まるでジークとザックの瞳の赤が月に反映されたようだ。私は、美しく神秘的な月を見ようと窓へ近づいた。



その時、私の後ろで音がした。


ガチャ。


私は振り向く。


銀のドアノブを手にしながら、出てきたのは長い茶髪の女性だった。


彼女の事は知っている。


ガージニア王国第6王女メルーシア・ガージニア。私の異母姉になる。美しいと評判のメルーシアは、王国の貴族達から婚姻の申し込みが相次いでいた王女だ。

長い茶髪に、大きな瞳、その唇は朱色で、妖艶な美しさが醸し出されている。

メルーシアは、私を睨みつけ近づいてきた。


私は、離れようとするが、メルーシア王女の方が早く私の手首を掴み言った。
「こっちへ来て。話があるわ。貴方の秘密を私は知っている。」

私は、頷きメルーシアについて行った。



メルーシアは、ドアの中に私を押し入れた。

その部屋は薄暗く、王女が滞在する部屋とは思えない。

ほとんど使われていないのか、埃っぽい空気に私は眉を顰める。

メルーシアは、私に近づき体を密着させて小声で言った。
「貴方は、ルーナではない。私はルーナが死ぬ所をこの目で見たの。確かに貴方はルーナにそっくりだし、王国作法を習った佇まいをしている。誰が見ても王女に見えるわ。でも違う。何が目的なの?」

私は言う。
「御姉様。私はルーナとしてここにいます。私には目的なんてありません。息子と無事に暮らせたら、それだけで、、、」

私はメルーシアの瞳を見詰める。メルーシアはふっと笑った。

「どうやら、嘘はついていないみたいね。貴方のお陰で私も助かったのよ。ジーク皇帝の子供を私達王女の誰かが産まなければいけないのに、どうしても皇帝には近づけない。貴方が本物でも、偽物でもいいの。ガージニア王国の王女が皇帝の子供を産みさえすれば、あの方の目的は達成できるはずだから。」

私は、メルーシアに問いかける。
「あの方って、、、もしかして、、、生きて。」

メルーシアは呆れたように言った。
「王女を名乗る癖になにも知らないのね。ええ、生きていらっしゃるわ。貴方も気を付けて。私は、逃げる。役割がない王女なんて殺されるだけよ。私だって死にたい訳じゃないもの。これは、勇気がある私の妹王女へ餞別よ。」

メルーシアは私に使い古された手帳を渡してきた。
「貴方も生き延びるのよ。これには私が集めた情報を書き込んでいるわ。負けないで。」



メルーシアは私の頬にキスをしてそっと離れ、部屋から出て行った。



薄暗い部屋で私は、渡された手帳を抱きしめた。







しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

デートリヒは白い結婚をする

毛蟹葵葉
恋愛
デートリヒには婚約者がいる。 関係は最悪で「噂」によると恋人がいるらしい。 式が間近に迫ってくると、婚約者はデートリヒにこう言った。 「デートリヒ、お前とは白い結婚をする」 デートリヒは、微かな胸の痛みを見て見ぬふりをしてこう返した。 「望むところよ」 式当日、とんでもないことが起こった。

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻

鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
 没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

記憶のない貴方

詩織
恋愛
結婚して5年。まだ子供はいないけど幸せで充実してる。 そんな毎日にあるきっかけで全てがかわる

処理中です...