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『え?!
し、城を買った?!』
激動の戦いが終わって、リムジンに幹部全員と俺が乗る。応急処置を受けた刃斬は既に犬飼と話し合いを始めていて、相変わらずの回復力は流石としか言い様がない。
そんな中、隣に座るボスから衝撃の事実を知らされて思わず声を上げた。
『…ああ。丁度今のアジトじゃ手狭な上に奇襲には弱ェからな。丁度良いところにこの話が転がって来て話進めて、内覧に行ったらこのザマだ。
まぁ待ち伏せはされてたが、売却の話は本当だったからな。漸く奴等を黙らせたんなら、引っ越しも秒読みだな』
犬飼から手当てを受けるボスは、腹部を打撲したようで痣が痛々しい。奇襲の際に受けたらしく他にも切り傷やら色々ある。だが、涼しい顔で手当てを終わらせた後、彼はすぐに俺の手当てをするよう命じた。
『いや、俺は帰ってからで…。大したことないし』
『ダメです! その子、最初の襲撃からずっと動きっぱなしで最速でアジトに来て無茶したんですから! 犬飼、ちゃんと脱がせて傷の詳細を辰見に伝えておいてください』
げっ!!
慌ててシートから立ち上がって逃げ出そうとするも、近くにいた猿石に捕まって元の場所に戻される。救急箱を用意する犬飼に、ボスまで加わってカーディガンとトレーナーを脱がされた。
何となく予想はしていたが、そこそこな有様になった身体にボスが言葉を失っていた。カーディガンは濃い緑色に、中に着ていた服も黒かったから見た目ではよくわからなかっただろう。
ナイフによる刺し傷やら殴られたり蹴られたりで内出血が進み、不健康な白い肌に目立つそれらが幾つも浮き出ている。冷静に対処して避けたり、見切ることも出来ただろう…でもこの身体には多少の無茶が許される。そういった面倒を省いた結果だ。
治りはするが、見て気持ちの良いものではないから隠したかったのに。
『…ボスのせいじゃないよ。別にこれくらい、平気だし。二人に比べたら擦り傷だって』
あんまり誤魔化すと怒るだろうから優しい声でそう言ったのに、ボスは酷く傷付いたような顔で遠慮がちに身体に手を触れた。
『傷だらけじゃねェか…、っそんな小せェ身体で、何言ってんだお前』
いやそんな小さくない。今周りにいる人たちがスタイル抜群過ぎるだけで、俺は普通だそこだけは間違えないでほしい。
それから横に座るボスに寄り掛かるようにされ、正面にしゃがむ犬飼が改めて俺の身体を見て、うわぁ…と声を漏らして消毒液を手にする。それを見てボスに縋り付く俺は容赦なく掛けられた消毒液に悲鳴を上げた。
『…大丈夫か?』
取り敢えず最低限の処置のみしてもらい、新しいインナーと黒河からコート、白澄からはマフラーを借りてボスに手を引かれて車から降りる。真っ赤な目をした俺は鼻を鳴らしながら頷き、そっとボスに寄り添う。
…大変痛かった。
『折角の日だからな。本来は暗くなるまで海にでも行くつもりだったが、この時間なら問題ねェ。
お前、あの城気に入ってただろ。中はまだ内装にまで手を出してねェからな。取り敢えず今日は外側だけだが…この景色は、俺からのプレゼントだ』
なんだかんだしてたらもう午後四時頃。今にも雪が降りそうな暗い空と寒さだが、それら全てが気にならなくなるような輝きが見えた。
『燃えた木は本来、城が燃えないよう防火の役割を担ってる。だからあの辺りの木々は燃え難い種類なんだとよ、消火が楽で助かった。
…綺麗か?』
古城がライトアップされ、沢山の電球によって飾り付けされた美しいイルミネーション。少し小高い丘から見下ろすそれは、息を呑むような美しさで言葉を忘れて魅入ってしまった。
凄い…、今日の為にわざわざ…?
『宋平』
ハッとしたら左手を取られ、そっと握り込まれる。やがて指の間に絡む手が…恋人繋ぎみたいにガッチリと握り離れなくなる。真っ白な息を吐きながら見上げた人は、少し赤くなった顔で小さく笑った。
『良い子にはプレゼントをやるもんだからな』
ああ。そんなの、ズルい…ズル過ぎるよ。
こんなことをされて、一体…どうやって貴方を諦めて忘れろって言うんだ。
『っ、ぅ…ぅうう』
泣き出しそうな顔を見られないよう右手で何度も顔を擦る。幸せ過ぎて、胸が張り裂けそうで、鼻が痛い。
嫌だ。誰にも取られたくない、俺を選んでほしい。ずっと傍にいろって言ってほしい。
そんな我儘、ダメなのに…笑ってありがとうを、言わなくちゃいけないのに。口から漏れるのは嗚咽ばかり。ボスはそんな俺を引き寄せ、ずっとイルミネーションを眺めていた。
『…それからこれを』
『ごんどばだにぃっ?!』
半ば泣きながらキレる俺にボスは笑いながら懐から何かを取り出して俺にそれを手渡す。
小さな紫色の箱に入っていたのは、俺の眼の色とそっくりな紫色の小さな硝子…? がはめ込まれた指輪だ。
え。が、硝子だよね? …まさか宝石なわけないよな?!
『な、に…? どうしたの、ボス…?』
『お前に似合うと思ったから、やる。気に入らなきゃ売って金にしろ。それなりの金にはなる』
やっぱ宝石だコレーっ!!
『むっ無理だよ!! こんな小さなもの、絶対無くしちゃう! やだよっ、無くしたら一生後悔する自信あるっ…こんな綺麗なの、俺には』
『無くしたら無くしただ。それまでそれは、お前だけのモンだ。してみろ、俺が見てェ』
パカっと開いた箱にある美しい指輪。右手をゴシゴシと服で拭いてから小さな指輪を取り出すとどの指に嵌めれば良いかわからず混乱しながらボスに預ける。
受け取ったボスは何か心得たように微笑んでからその場にしゃがみ、俺の右手を取った。
『え?! ぁ、そんな…っボス…』
まるで何処かの王子様のように綺麗な所作で俺の右手の薬指に指輪を嵌めた。少し余裕があるから成長しても大丈夫なようにだろう。それを見てからボスは満足気に頷くと、更に手を引き…指に口付けをしてから、そっと離れる。
…気絶しそうなんだが…?
『っお前…、顔真っ赤だぞ』
『だれのっ、せいだと…!!』
そんな恥ずかしくなるような一連の動きも、ボスがやるとサマになるのだから困りもの。右手を伸ばしてみると包帯を巻かれた手に煌めく指輪が綺麗で、思わず見惚れてしまう。
綺麗だ。まさか、誰かに…よりによってボスに指輪を貰うような日が来るなんて。
『本当に…、貰っても?』
『言っただろ。それはもうお前のモンだ。似合ってる、宋平』
こんな綺麗な指輪、俺みたいな奴に似合うんだろうか…でも、ボスが言うんだからきっとそうなんだ。
『指輪なんて貰ったの初めて…、凄く綺麗で嬉しい。ほんとうに、嬉しいっ…ありがとうございます。
ずっと大切にします。一番の宝物にする』
そっと右手を左手で包むようにしてから抱きしめると、離れたはずのボスがグッと俺の腰を掴んでから引き寄せる。声を上げる間もなくボスに抱き付いたら、そのまま抱き上げられて肩に手を置いた。二人で暫く城のイルミネーションを見ていたら、そういえば全員でここまで来たよな? と思い出して振り返ると、他の幹部たちが何やら空に向かって毒付いていた。
『いやここで初雪のパターンでしょ、冬空さん空気読めー?』
『そーだそーだ』
『どうする? 仕方ない、いっそ紙吹雪でも降らせたら良いヨ』
『そんなもんないネ。…刃斬君、ちょっとその新しいシャツ提供する気ない?』
やんややんや、と騒ぐ彼らを二人で見て、顔を合わせて笑い合う。その場の空気から脱がざるを得ない刃斬を止める為に二人で輪に戻った。
止めてあげて、刃斬の兄貴ってば新しいシャツだけ着て何も着てないんだから…本人は全然寒くないみたいだけど。
『騒がしいぞ、テメェ等』
『…覚さんまたムービー撮ってない?』
俺の言葉に笑顔で首を横に振る覚だが、どう考えてもあの構えに言い逃れは出来ないだろう。
『城スゲェ綺麗だな!』
『うん! あそこが次のアジトになるんだって』
猿石にそう言うと、へぇ…と言いながら興味深そうにそれを眺める。どうやら新しいアジトが広くてご満悦らしい。
『どの辺がソーヘーの部屋だ?』
『え? いや、俺の部屋はないんじゃない…? いつもの溜まり部屋みたいのが俺の待機場所だと思うけど』
その答えに臍を曲げた猿石は、ムスっと顔を顰めてから嫌だと首を振る。ボスに抱き上げられているから手を伸ばせばすぐに彼の顔に手が届く。
『改築もするだろうし、部屋割りはまだ先だよ、きっと。アニキも良い部屋貰えるだろうし、少しは荷物を増やさなきゃ引っ越しのし甲斐がないよ?』
『キッチン雑貨だけ持ってく。アレさえあれば良い、そうすりゃソーヘーはオレの部屋に来るし』
伸ばした手に嬉しそうに擦り寄る彼を存分に撫で回す。サングラスを外してゴロゴロと甘える男が、先程まで人を地面に叩き付けていたなんて信じられない。
近くに寄る猿石に近ェ、と文句を言って蹴り上げるボスに猿石は不満気に文句を言ってから俺の右手を見る。
『それ似合ってる! 良かったな、ソーヘー!』
『うん! へへ、ありがとうアニキ』
それからハッとして自分が皆にあげるべきプレゼントを置いて来てしまったことに気がつく。それを伝えれば、明日で構わないと言われたので委員長にお礼を言って預かり物を取りに行かなければと予定を立てる。
その後、委員長に連絡をすると彼女からは何度もお礼の言葉とその後の心配をされて上手く誤魔化した。委員長はクリスマスにお出掛けの予定があるらしく、夕方近くになっても良いかと聞かれると丁度アジトに行けるのはそのくらいの時間だから構わないと返事をした。
アジトに戻ると既に掃除は大体終わっていて、怪我人は次々と運ばれる。刃斬やボス…猿石に当然俺も呼ばれて辰見の前に座らされる。
折角のクリスマスイブ。ブチ切れる主治医と聞き流すボスの、なんとも言えない光景を眺めながら
アジトには…とびっきりのクリスマスソングが軽快に流れるのだった。
.
し、城を買った?!』
激動の戦いが終わって、リムジンに幹部全員と俺が乗る。応急処置を受けた刃斬は既に犬飼と話し合いを始めていて、相変わらずの回復力は流石としか言い様がない。
そんな中、隣に座るボスから衝撃の事実を知らされて思わず声を上げた。
『…ああ。丁度今のアジトじゃ手狭な上に奇襲には弱ェからな。丁度良いところにこの話が転がって来て話進めて、内覧に行ったらこのザマだ。
まぁ待ち伏せはされてたが、売却の話は本当だったからな。漸く奴等を黙らせたんなら、引っ越しも秒読みだな』
犬飼から手当てを受けるボスは、腹部を打撲したようで痣が痛々しい。奇襲の際に受けたらしく他にも切り傷やら色々ある。だが、涼しい顔で手当てを終わらせた後、彼はすぐに俺の手当てをするよう命じた。
『いや、俺は帰ってからで…。大したことないし』
『ダメです! その子、最初の襲撃からずっと動きっぱなしで最速でアジトに来て無茶したんですから! 犬飼、ちゃんと脱がせて傷の詳細を辰見に伝えておいてください』
げっ!!
慌ててシートから立ち上がって逃げ出そうとするも、近くにいた猿石に捕まって元の場所に戻される。救急箱を用意する犬飼に、ボスまで加わってカーディガンとトレーナーを脱がされた。
何となく予想はしていたが、そこそこな有様になった身体にボスが言葉を失っていた。カーディガンは濃い緑色に、中に着ていた服も黒かったから見た目ではよくわからなかっただろう。
ナイフによる刺し傷やら殴られたり蹴られたりで内出血が進み、不健康な白い肌に目立つそれらが幾つも浮き出ている。冷静に対処して避けたり、見切ることも出来ただろう…でもこの身体には多少の無茶が許される。そういった面倒を省いた結果だ。
治りはするが、見て気持ちの良いものではないから隠したかったのに。
『…ボスのせいじゃないよ。別にこれくらい、平気だし。二人に比べたら擦り傷だって』
あんまり誤魔化すと怒るだろうから優しい声でそう言ったのに、ボスは酷く傷付いたような顔で遠慮がちに身体に手を触れた。
『傷だらけじゃねェか…、っそんな小せェ身体で、何言ってんだお前』
いやそんな小さくない。今周りにいる人たちがスタイル抜群過ぎるだけで、俺は普通だそこだけは間違えないでほしい。
それから横に座るボスに寄り掛かるようにされ、正面にしゃがむ犬飼が改めて俺の身体を見て、うわぁ…と声を漏らして消毒液を手にする。それを見てボスに縋り付く俺は容赦なく掛けられた消毒液に悲鳴を上げた。
『…大丈夫か?』
取り敢えず最低限の処置のみしてもらい、新しいインナーと黒河からコート、白澄からはマフラーを借りてボスに手を引かれて車から降りる。真っ赤な目をした俺は鼻を鳴らしながら頷き、そっとボスに寄り添う。
…大変痛かった。
『折角の日だからな。本来は暗くなるまで海にでも行くつもりだったが、この時間なら問題ねェ。
お前、あの城気に入ってただろ。中はまだ内装にまで手を出してねェからな。取り敢えず今日は外側だけだが…この景色は、俺からのプレゼントだ』
なんだかんだしてたらもう午後四時頃。今にも雪が降りそうな暗い空と寒さだが、それら全てが気にならなくなるような輝きが見えた。
『燃えた木は本来、城が燃えないよう防火の役割を担ってる。だからあの辺りの木々は燃え難い種類なんだとよ、消火が楽で助かった。
…綺麗か?』
古城がライトアップされ、沢山の電球によって飾り付けされた美しいイルミネーション。少し小高い丘から見下ろすそれは、息を呑むような美しさで言葉を忘れて魅入ってしまった。
凄い…、今日の為にわざわざ…?
『宋平』
ハッとしたら左手を取られ、そっと握り込まれる。やがて指の間に絡む手が…恋人繋ぎみたいにガッチリと握り離れなくなる。真っ白な息を吐きながら見上げた人は、少し赤くなった顔で小さく笑った。
『良い子にはプレゼントをやるもんだからな』
ああ。そんなの、ズルい…ズル過ぎるよ。
こんなことをされて、一体…どうやって貴方を諦めて忘れろって言うんだ。
『っ、ぅ…ぅうう』
泣き出しそうな顔を見られないよう右手で何度も顔を擦る。幸せ過ぎて、胸が張り裂けそうで、鼻が痛い。
嫌だ。誰にも取られたくない、俺を選んでほしい。ずっと傍にいろって言ってほしい。
そんな我儘、ダメなのに…笑ってありがとうを、言わなくちゃいけないのに。口から漏れるのは嗚咽ばかり。ボスはそんな俺を引き寄せ、ずっとイルミネーションを眺めていた。
『…それからこれを』
『ごんどばだにぃっ?!』
半ば泣きながらキレる俺にボスは笑いながら懐から何かを取り出して俺にそれを手渡す。
小さな紫色の箱に入っていたのは、俺の眼の色とそっくりな紫色の小さな硝子…? がはめ込まれた指輪だ。
え。が、硝子だよね? …まさか宝石なわけないよな?!
『な、に…? どうしたの、ボス…?』
『お前に似合うと思ったから、やる。気に入らなきゃ売って金にしろ。それなりの金にはなる』
やっぱ宝石だコレーっ!!
『むっ無理だよ!! こんな小さなもの、絶対無くしちゃう! やだよっ、無くしたら一生後悔する自信あるっ…こんな綺麗なの、俺には』
『無くしたら無くしただ。それまでそれは、お前だけのモンだ。してみろ、俺が見てェ』
パカっと開いた箱にある美しい指輪。右手をゴシゴシと服で拭いてから小さな指輪を取り出すとどの指に嵌めれば良いかわからず混乱しながらボスに預ける。
受け取ったボスは何か心得たように微笑んでからその場にしゃがみ、俺の右手を取った。
『え?! ぁ、そんな…っボス…』
まるで何処かの王子様のように綺麗な所作で俺の右手の薬指に指輪を嵌めた。少し余裕があるから成長しても大丈夫なようにだろう。それを見てからボスは満足気に頷くと、更に手を引き…指に口付けをしてから、そっと離れる。
…気絶しそうなんだが…?
『っお前…、顔真っ赤だぞ』
『だれのっ、せいだと…!!』
そんな恥ずかしくなるような一連の動きも、ボスがやるとサマになるのだから困りもの。右手を伸ばしてみると包帯を巻かれた手に煌めく指輪が綺麗で、思わず見惚れてしまう。
綺麗だ。まさか、誰かに…よりによってボスに指輪を貰うような日が来るなんて。
『本当に…、貰っても?』
『言っただろ。それはもうお前のモンだ。似合ってる、宋平』
こんな綺麗な指輪、俺みたいな奴に似合うんだろうか…でも、ボスが言うんだからきっとそうなんだ。
『指輪なんて貰ったの初めて…、凄く綺麗で嬉しい。ほんとうに、嬉しいっ…ありがとうございます。
ずっと大切にします。一番の宝物にする』
そっと右手を左手で包むようにしてから抱きしめると、離れたはずのボスがグッと俺の腰を掴んでから引き寄せる。声を上げる間もなくボスに抱き付いたら、そのまま抱き上げられて肩に手を置いた。二人で暫く城のイルミネーションを見ていたら、そういえば全員でここまで来たよな? と思い出して振り返ると、他の幹部たちが何やら空に向かって毒付いていた。
『いやここで初雪のパターンでしょ、冬空さん空気読めー?』
『そーだそーだ』
『どうする? 仕方ない、いっそ紙吹雪でも降らせたら良いヨ』
『そんなもんないネ。…刃斬君、ちょっとその新しいシャツ提供する気ない?』
やんややんや、と騒ぐ彼らを二人で見て、顔を合わせて笑い合う。その場の空気から脱がざるを得ない刃斬を止める為に二人で輪に戻った。
止めてあげて、刃斬の兄貴ってば新しいシャツだけ着て何も着てないんだから…本人は全然寒くないみたいだけど。
『騒がしいぞ、テメェ等』
『…覚さんまたムービー撮ってない?』
俺の言葉に笑顔で首を横に振る覚だが、どう考えてもあの構えに言い逃れは出来ないだろう。
『城スゲェ綺麗だな!』
『うん! あそこが次のアジトになるんだって』
猿石にそう言うと、へぇ…と言いながら興味深そうにそれを眺める。どうやら新しいアジトが広くてご満悦らしい。
『どの辺がソーヘーの部屋だ?』
『え? いや、俺の部屋はないんじゃない…? いつもの溜まり部屋みたいのが俺の待機場所だと思うけど』
その答えに臍を曲げた猿石は、ムスっと顔を顰めてから嫌だと首を振る。ボスに抱き上げられているから手を伸ばせばすぐに彼の顔に手が届く。
『改築もするだろうし、部屋割りはまだ先だよ、きっと。アニキも良い部屋貰えるだろうし、少しは荷物を増やさなきゃ引っ越しのし甲斐がないよ?』
『キッチン雑貨だけ持ってく。アレさえあれば良い、そうすりゃソーヘーはオレの部屋に来るし』
伸ばした手に嬉しそうに擦り寄る彼を存分に撫で回す。サングラスを外してゴロゴロと甘える男が、先程まで人を地面に叩き付けていたなんて信じられない。
近くに寄る猿石に近ェ、と文句を言って蹴り上げるボスに猿石は不満気に文句を言ってから俺の右手を見る。
『それ似合ってる! 良かったな、ソーヘー!』
『うん! へへ、ありがとうアニキ』
それからハッとして自分が皆にあげるべきプレゼントを置いて来てしまったことに気がつく。それを伝えれば、明日で構わないと言われたので委員長にお礼を言って預かり物を取りに行かなければと予定を立てる。
その後、委員長に連絡をすると彼女からは何度もお礼の言葉とその後の心配をされて上手く誤魔化した。委員長はクリスマスにお出掛けの予定があるらしく、夕方近くになっても良いかと聞かれると丁度アジトに行けるのはそのくらいの時間だから構わないと返事をした。
アジトに戻ると既に掃除は大体終わっていて、怪我人は次々と運ばれる。刃斬やボス…猿石に当然俺も呼ばれて辰見の前に座らされる。
折角のクリスマスイブ。ブチ切れる主治医と聞き流すボスの、なんとも言えない光景を眺めながら
アジトには…とびっきりのクリスマスソングが軽快に流れるのだった。
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