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俺のアルファを知りませんか?
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苦しい。
頭が痛い、胸が痛い。ズキズキして、ギュウギュウして自分の身体の悲鳴が明確に形として現れているのがわかって怖い。
『どこ…? あ。あった、こんなところに』
フラフラしながら部屋を出ると部屋から持ち出された物を探しに行く。クッションやぬいぐるみ、予備のカバーにタオルケット。フロアに散りばめられた沢山の物を探し、本能のまま手に取る。
見つけた物を抱いて部屋に戻り、元の場所に戻しては再び出るのを繰り返す。一度も見たことがないはずの引き出しの中も丁寧に物を揃えてからそっと閉じて、次の場所へ向かう。
『ちがう。こっち…、これはお揃いだから一緒に置かなきゃダメ…』
何度も頭痛や吐き気で立ち止まりそうになる身体に喝を入れて足を動かした。そして何度も何度もボスの私物を部屋に入れようとする自分を律しては本能に抗うように手の甲を引っ掻く。
ダメなのに。ボスのものは、入れちゃダメなのにっ。
『っ~、やだぁ…匂い全然足りないのに…、でも入れたらダメだ! でもっでも…!』
完璧になったはずの部屋で永遠に足りないものを求める自分が、バラバラになってしまいそうだ。頭と心が違う方に引き合っておかしくなる。
完璧なのに完璧じゃない…、なにこれ。頭おかしくなる…!
『はやく。早く戻らなきゃ…、ぅ!』
切り替えなきゃいけないのにどうしてもと、オメガの本能が泣き叫ぶ。仕方なくボスに内心謝罪を並べまくり寝室に向かえばラッキーなことに昨晩のものかシャツが一枚だけベッドに置かれているのを確認。入口から鼻を摘んで走り、シャツだけ持って帰ってきた。
あの部屋はボスの匂いが薄過ぎる。シャツに鼻を押し付けると、やっと得られたアルファの匂いに多幸感で腰が抜けた。
ああ。これをあの巣に持ち込めたら、どんなに幸せなんだろう…。
『っすき、だいすき…。俺、ちゃんと出来たよ。貴方だけの為に直した大切な巣なのに』
願わくば二人で入れたら、どれだけ幸せか。
『…におい、消さなきゃ…。二人の部屋、なのに…違うオメガのフェロモンなんて残せない…』
なんとかコントローラーを呼び起こしてバランサーに切り替える。そのまま倒れた俺はポケットからスマホを取り出すと履歴からある人物に連絡を入れて、床に放置する。スマホを耳に当てる気力すらない。ただ呆然と寝転び、呼び出し音に耳を傾けた。
【もしもし。…宋平? おい、どうした?
…宋平!? いないのか、どうしたんだ!】
腕に力が入らない。瞼が重く、頭の中に霧が掛かったように思考が遮られて上手く動けない。
『ディー、ちゃん…。お願い、先生を』
力尽きるように眠る俺の耳に最後に届いたのは、またしても勝手に起動する人工知能。相変わらず耳が良いなと少し笑いながら安心して意識を落とすと、誰かに呼ばれてから運ばれたような気がする。
夢を見た。
小さな巣の中で、誰かを待つ夢。沢山の衣服を纏って安心してその人を待つ。だけど、待てど暮らせど待ち人は来ない。不安に思って巣を出ると、それは跡形もなく消え去ってしまう。
それが悲しくて、悲しくて、ずっと一人で泣いている夢。
『目が覚めたか?!』
起きたらそこは、消毒液の匂いがした。
消毒液の匂いで一気に現実に戻った俺は、ゆっくりと視線を動かす。椅子から立ち上がった白衣姿の辰見がいて彼が言った言葉に反応するように笑ってみせた。
『っ、はー…。ったく、君は。電話の後でエレベーターに乗り込んだら人工知能とやらに強制的に弐条の部屋に通され、君を助けろと言われた。
で。此処まで運んで治療をしてたわけだ。…発語はなしか、もう少し寝てなさい』
お言葉に甘えて目を閉じると、再び眠ってから数分後に目覚める。言葉を発した俺に安心した様子を見せた辰見はすぐに身体に異常がないか確認してくれた。明確な傷は、自分で引っ掻いた手の甲だけで目立たない肌色の大きな絆創膏で塞がれている。
『倒れた時にどこかぶつけたか?』
『平気だよ。ぶつけてない、ただ…凄く気分が悪かったんだ。流石にちょっと無茶しちゃったな』
ごめんなさい、と呟くと辰見は眼鏡を外してから眉間を揉み解す。
『心配はしたし、無茶をすることには反対だが…バース性の専門医としてこの件はかなり貴重な資料だ。まさかバランサーのまま、ここまでオメガ性を引き出せるとは。
部屋丸ごとを巣作りの場所とするなんて、規格外にも程がある。…バランサーとして世界初なんじゃないのか?』
『あんまり嬉しくないなぁ』
だって本当に巣作りをしたいような相手がいるなら、オメガになっても良いのに。それをしないままバランサーで巣作りをするなんて、どうなんだ?
…報われないバランサーとして語り継がれたらどうしよう、恥ずかしくて死んじまう。
『そうだ! 匂い消し! 先生、ちゃんと匂い消ししてくれた?!』
『ああ。ちゃんとしておいたから、安心しなさい。…本当に良いのか。わざわざリスクを冒してまで元に戻してやったのに、伝えなくて。
それ。君はずっと離さなかった』
ベッドから起き上がった俺の腕の中には、くしゃくしゃになったシャツがあった。ずっと抱きしめていたせいで皺がついてしまったようでなんとか伸ばそうとするが既に手遅れだ。
やってしまったー!!
『やれやれ。あんな男のどこが良いのやら。ヤクザなのは勿論のこと、君をこんな目に遭わせる男だ。そこまで肩入れをしてどうする』
『…うう。先生の意地悪め、しょうがないだろ。どんなに報われないとしてもせめて幸せになってほしい。少しでも、その心に残りたい。
恋なんて、そんなもんだろ?』
足を抱えるようにして座る俺がそう言って照れながら笑って誤魔化していると、辰見が視線を左に逸らしてから小さな溜め息を吐く。
『…部屋に戻るか? 流石に君がいないと、騒ぎ出すと思うが。あまり長く部屋を明けないだろうしな』
『うん。かなり楽になった! 先生ありがとう、またよろしくお願いしまーす』
『もう来るな。頼むから来るなら普通に来なさい』
現地回収など御免だ、と愚痴を溢してからコーヒーを淹れ始める辰見の後ろ姿を見てから静かに医務室を抜け出す。
心配したように話しかけてきてくれたバースデイにお礼と謝罪を述べる。相変わらずお喋りな人工知能に私室のあるフロアまで送ってもらうと、そこにはもうオメガの匂いなんて残っていない。
静かにオメガの部屋の襖を閉じて玄関に座って待っているとエレベーターが動き出してこのフロアで止まった。中から出て来たのは、俺が見たいと言った紺色のスーツに綺麗に髪を流してワックスで固めたイケメンオーラだだ漏れのボスだ。
玄関にちょこん、と座った俺に気付くと驚いたように手を伸ばして自然に抱き上げられる。
『バカ、こんなとこにいる奴があるか。ちゃんと部屋にいろ…冷えてんじゃねェか』
怪我をしていない方の手を取られ、ギュッと繋がれると全身の血が沸騰するんじゃないかってくらい熱くなってから手汗が噴き出る。
『へへ、早く報告したくて。ちゃんとお部屋片付けておきましたよ。多分大丈夫だと思うけど、ダメだったらまた直してください』
ボスが部屋に向かう間は近くにいたくなかったけど、抱き上げられているとそうもいかない。襖を開けたボスはピタリと止まってから、部屋を見渡す。
…え。ど、どうかな。ダメそうか…?
『…驚いた。本当に…綺麗に戻ってやがる。
ああ、そうだな。この小物は此処に並べたし、本の配置も合ってる…。
お前はどんな魔法を使いやがった? 本当に…一回やそこらでか? とんでもねェ才能じゃねェか』
勿論こんなの、貴方にしか発動しない魔法だ。
『はは…、スゲェな。…宋平。ありがてェ、俺ァまだこの部屋が必要だったらしい。恩に着る。願いごとだったか? なんでも言ってみな』
ボスに頭を撫でくりまわされた俺はキャイキャイ言いながらも、その言葉には目敏く反応する。
意を決して口にするのは、デートのお誘い。
『実は、ボスに…。ボスのっ! 二十四日の予定を一時間…いやっ。三十分! 三十分でも良い。俺に…くれませんか…?』
常春家では毎年、クリスマスパーティーは二十五日。だから二十四日にどうしてもボスと過ごしてみたかった。恥ずかしくて、口にしたことをすぐに後悔したがボスからの返事が早かった。
『…俺もお前と過ごしてェと思ってた。なんなら夜もアジトでパーティーでもやるか? 明るい内は俺がお前をどこへでも連れてってやるよ』
『ほ、本当に?! それが良いっ、それが良いです!!
~、やった…!!』
なんだそれ、なんだよそれ…!!
最高過ぎる! ボスとデートが出来る上に帰ったら皆でパーティー? そんなの最高のクリスマスプレゼントじゃないか!
『約束! 約束ですよ、絶対破っちゃダメですっもう俺が予約したんですからね?!』
『ふ、落ち着け。わかったわかった、約束するから暴れんな』
笑いながらそう言うボスに抱き着くと向こうも優しく背中に手を回して優しく撫でてくれる。それが更に嬉しくてグイグイと強く抱きしめた。
『最高のクリスマスだ…。嬉しいなぁ、ふへ。ふへへ』
笑いが止まらない。
すっかり夢見心地な俺は、すぐ近くにいる人が切なそうに顔を歪めながら俺を抱きしめていることに全く気付かない。
その年は例年にない大寒波。
だけど俺だけは、クリスマスまで指折り数えて浮かれて寒さなんてまるで平気。本格的な冬の為にコートを出して身に纏う。
因みにクシャクシャにしたシャツは、刃斬にそっと渡して洗濯を頼むと懐疑的な視線を受けたので必死の弁明を並べるのだった。
ヤメテ、何に使ったかなんて聞かないでよ!!
『…そうだよな。返すだけ利口だ、犬はよく気に入ったモンを隠すもんだ』
『あーはいはい! もうそれで良いよ、どうせ俺は犬ですワン!!』
なんとでも言え! 今の俺は、無敵だ!!
『…楽しみだな、クリスマス。
そうだ! ボスや皆にクリスマスプレゼントを用意しないと!』
.
頭が痛い、胸が痛い。ズキズキして、ギュウギュウして自分の身体の悲鳴が明確に形として現れているのがわかって怖い。
『どこ…? あ。あった、こんなところに』
フラフラしながら部屋を出ると部屋から持ち出された物を探しに行く。クッションやぬいぐるみ、予備のカバーにタオルケット。フロアに散りばめられた沢山の物を探し、本能のまま手に取る。
見つけた物を抱いて部屋に戻り、元の場所に戻しては再び出るのを繰り返す。一度も見たことがないはずの引き出しの中も丁寧に物を揃えてからそっと閉じて、次の場所へ向かう。
『ちがう。こっち…、これはお揃いだから一緒に置かなきゃダメ…』
何度も頭痛や吐き気で立ち止まりそうになる身体に喝を入れて足を動かした。そして何度も何度もボスの私物を部屋に入れようとする自分を律しては本能に抗うように手の甲を引っ掻く。
ダメなのに。ボスのものは、入れちゃダメなのにっ。
『っ~、やだぁ…匂い全然足りないのに…、でも入れたらダメだ! でもっでも…!』
完璧になったはずの部屋で永遠に足りないものを求める自分が、バラバラになってしまいそうだ。頭と心が違う方に引き合っておかしくなる。
完璧なのに完璧じゃない…、なにこれ。頭おかしくなる…!
『はやく。早く戻らなきゃ…、ぅ!』
切り替えなきゃいけないのにどうしてもと、オメガの本能が泣き叫ぶ。仕方なくボスに内心謝罪を並べまくり寝室に向かえばラッキーなことに昨晩のものかシャツが一枚だけベッドに置かれているのを確認。入口から鼻を摘んで走り、シャツだけ持って帰ってきた。
あの部屋はボスの匂いが薄過ぎる。シャツに鼻を押し付けると、やっと得られたアルファの匂いに多幸感で腰が抜けた。
ああ。これをあの巣に持ち込めたら、どんなに幸せなんだろう…。
『っすき、だいすき…。俺、ちゃんと出来たよ。貴方だけの為に直した大切な巣なのに』
願わくば二人で入れたら、どれだけ幸せか。
『…におい、消さなきゃ…。二人の部屋、なのに…違うオメガのフェロモンなんて残せない…』
なんとかコントローラーを呼び起こしてバランサーに切り替える。そのまま倒れた俺はポケットからスマホを取り出すと履歴からある人物に連絡を入れて、床に放置する。スマホを耳に当てる気力すらない。ただ呆然と寝転び、呼び出し音に耳を傾けた。
【もしもし。…宋平? おい、どうした?
…宋平!? いないのか、どうしたんだ!】
腕に力が入らない。瞼が重く、頭の中に霧が掛かったように思考が遮られて上手く動けない。
『ディー、ちゃん…。お願い、先生を』
力尽きるように眠る俺の耳に最後に届いたのは、またしても勝手に起動する人工知能。相変わらず耳が良いなと少し笑いながら安心して意識を落とすと、誰かに呼ばれてから運ばれたような気がする。
夢を見た。
小さな巣の中で、誰かを待つ夢。沢山の衣服を纏って安心してその人を待つ。だけど、待てど暮らせど待ち人は来ない。不安に思って巣を出ると、それは跡形もなく消え去ってしまう。
それが悲しくて、悲しくて、ずっと一人で泣いている夢。
『目が覚めたか?!』
起きたらそこは、消毒液の匂いがした。
消毒液の匂いで一気に現実に戻った俺は、ゆっくりと視線を動かす。椅子から立ち上がった白衣姿の辰見がいて彼が言った言葉に反応するように笑ってみせた。
『っ、はー…。ったく、君は。電話の後でエレベーターに乗り込んだら人工知能とやらに強制的に弐条の部屋に通され、君を助けろと言われた。
で。此処まで運んで治療をしてたわけだ。…発語はなしか、もう少し寝てなさい』
お言葉に甘えて目を閉じると、再び眠ってから数分後に目覚める。言葉を発した俺に安心した様子を見せた辰見はすぐに身体に異常がないか確認してくれた。明確な傷は、自分で引っ掻いた手の甲だけで目立たない肌色の大きな絆創膏で塞がれている。
『倒れた時にどこかぶつけたか?』
『平気だよ。ぶつけてない、ただ…凄く気分が悪かったんだ。流石にちょっと無茶しちゃったな』
ごめんなさい、と呟くと辰見は眼鏡を外してから眉間を揉み解す。
『心配はしたし、無茶をすることには反対だが…バース性の専門医としてこの件はかなり貴重な資料だ。まさかバランサーのまま、ここまでオメガ性を引き出せるとは。
部屋丸ごとを巣作りの場所とするなんて、規格外にも程がある。…バランサーとして世界初なんじゃないのか?』
『あんまり嬉しくないなぁ』
だって本当に巣作りをしたいような相手がいるなら、オメガになっても良いのに。それをしないままバランサーで巣作りをするなんて、どうなんだ?
…報われないバランサーとして語り継がれたらどうしよう、恥ずかしくて死んじまう。
『そうだ! 匂い消し! 先生、ちゃんと匂い消ししてくれた?!』
『ああ。ちゃんとしておいたから、安心しなさい。…本当に良いのか。わざわざリスクを冒してまで元に戻してやったのに、伝えなくて。
それ。君はずっと離さなかった』
ベッドから起き上がった俺の腕の中には、くしゃくしゃになったシャツがあった。ずっと抱きしめていたせいで皺がついてしまったようでなんとか伸ばそうとするが既に手遅れだ。
やってしまったー!!
『やれやれ。あんな男のどこが良いのやら。ヤクザなのは勿論のこと、君をこんな目に遭わせる男だ。そこまで肩入れをしてどうする』
『…うう。先生の意地悪め、しょうがないだろ。どんなに報われないとしてもせめて幸せになってほしい。少しでも、その心に残りたい。
恋なんて、そんなもんだろ?』
足を抱えるようにして座る俺がそう言って照れながら笑って誤魔化していると、辰見が視線を左に逸らしてから小さな溜め息を吐く。
『…部屋に戻るか? 流石に君がいないと、騒ぎ出すと思うが。あまり長く部屋を明けないだろうしな』
『うん。かなり楽になった! 先生ありがとう、またよろしくお願いしまーす』
『もう来るな。頼むから来るなら普通に来なさい』
現地回収など御免だ、と愚痴を溢してからコーヒーを淹れ始める辰見の後ろ姿を見てから静かに医務室を抜け出す。
心配したように話しかけてきてくれたバースデイにお礼と謝罪を述べる。相変わらずお喋りな人工知能に私室のあるフロアまで送ってもらうと、そこにはもうオメガの匂いなんて残っていない。
静かにオメガの部屋の襖を閉じて玄関に座って待っているとエレベーターが動き出してこのフロアで止まった。中から出て来たのは、俺が見たいと言った紺色のスーツに綺麗に髪を流してワックスで固めたイケメンオーラだだ漏れのボスだ。
玄関にちょこん、と座った俺に気付くと驚いたように手を伸ばして自然に抱き上げられる。
『バカ、こんなとこにいる奴があるか。ちゃんと部屋にいろ…冷えてんじゃねェか』
怪我をしていない方の手を取られ、ギュッと繋がれると全身の血が沸騰するんじゃないかってくらい熱くなってから手汗が噴き出る。
『へへ、早く報告したくて。ちゃんとお部屋片付けておきましたよ。多分大丈夫だと思うけど、ダメだったらまた直してください』
ボスが部屋に向かう間は近くにいたくなかったけど、抱き上げられているとそうもいかない。襖を開けたボスはピタリと止まってから、部屋を見渡す。
…え。ど、どうかな。ダメそうか…?
『…驚いた。本当に…綺麗に戻ってやがる。
ああ、そうだな。この小物は此処に並べたし、本の配置も合ってる…。
お前はどんな魔法を使いやがった? 本当に…一回やそこらでか? とんでもねェ才能じゃねェか』
勿論こんなの、貴方にしか発動しない魔法だ。
『はは…、スゲェな。…宋平。ありがてェ、俺ァまだこの部屋が必要だったらしい。恩に着る。願いごとだったか? なんでも言ってみな』
ボスに頭を撫でくりまわされた俺はキャイキャイ言いながらも、その言葉には目敏く反応する。
意を決して口にするのは、デートのお誘い。
『実は、ボスに…。ボスのっ! 二十四日の予定を一時間…いやっ。三十分! 三十分でも良い。俺に…くれませんか…?』
常春家では毎年、クリスマスパーティーは二十五日。だから二十四日にどうしてもボスと過ごしてみたかった。恥ずかしくて、口にしたことをすぐに後悔したがボスからの返事が早かった。
『…俺もお前と過ごしてェと思ってた。なんなら夜もアジトでパーティーでもやるか? 明るい内は俺がお前をどこへでも連れてってやるよ』
『ほ、本当に?! それが良いっ、それが良いです!!
~、やった…!!』
なんだそれ、なんだよそれ…!!
最高過ぎる! ボスとデートが出来る上に帰ったら皆でパーティー? そんなの最高のクリスマスプレゼントじゃないか!
『約束! 約束ですよ、絶対破っちゃダメですっもう俺が予約したんですからね?!』
『ふ、落ち着け。わかったわかった、約束するから暴れんな』
笑いながらそう言うボスに抱き着くと向こうも優しく背中に手を回して優しく撫でてくれる。それが更に嬉しくてグイグイと強く抱きしめた。
『最高のクリスマスだ…。嬉しいなぁ、ふへ。ふへへ』
笑いが止まらない。
すっかり夢見心地な俺は、すぐ近くにいる人が切なそうに顔を歪めながら俺を抱きしめていることに全く気付かない。
その年は例年にない大寒波。
だけど俺だけは、クリスマスまで指折り数えて浮かれて寒さなんてまるで平気。本格的な冬の為にコートを出して身に纏う。
因みにクシャクシャにしたシャツは、刃斬にそっと渡して洗濯を頼むと懐疑的な視線を受けたので必死の弁明を並べるのだった。
ヤメテ、何に使ったかなんて聞かないでよ!!
『…そうだよな。返すだけ利口だ、犬はよく気に入ったモンを隠すもんだ』
『あーはいはい! もうそれで良いよ、どうせ俺は犬ですワン!!』
なんとでも言え! 今の俺は、無敵だ!!
『…楽しみだな、クリスマス。
そうだ! ボスや皆にクリスマスプレゼントを用意しないと!』
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