いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう

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お盆の客人

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『あーあ。惚気のろけられちゃったネー』

『ホント。惚気られちゃったヨー』

 そうです。やらかしました。

 白澄に肩車をされた俺は自分のやらかしを思い出して彼の頭に腕を置いて顔を伏せる。

『ていうか宋平ちゃん。いつの間にバースデイのこと知ってたの?』

『そういえばアジトの防衛装置も動いてたヨ。…まさかバースデイが動かした?』

 なんだ。バースデイのこと、皆も知ってたのか…そう思って起き上がったら衝撃的な事実を知る。

『バースデイは随分前に稼働停止してるネ』

『え?!』

 まさかの発言に驚いて声を上げると白澄も頷いているので事実らしい。流暢りゅうちょうに喋る心配性な人工知能を思い出し、二人の話に耳を傾ける。

『アレは昔、刃斬が作ったAIだネ。器用なんだよネー。試作品とか言ってて使ってたんだけど欠陥が見つかったからって随分前に稼働停止して、そのままのはずだけど』

『ボスの為に作ったから、多分防衛機能が特化してるはずだヨ。まぁその後も新しいのは作ってないみたいなんだけど…』

 そうだったのか。

 稼働停止したはずなのに、なんで動き出したんだ? もしかして俺…ボスの部屋でなんか変なボタンとか押しちゃったのかな?!

『帰ったら聞いてみないと…』

『あ。まだ帰れないネ?』  

 え?

 アジトに帰っているのかと思えば確かに見覚えのない道を歩いている。気が付くと白澄に肩車を下ろされて片手で抱えられ、上半身に掴まるようにと指示を受けて白いベストに掴まった。

 そこから始まる大乱闘。人通りの少ない駐車場で突然囲まれ、数十人の男たちが武器を片手に雄叫びを上げて突っ込んでくる。アルファの双子相手に臆することもないのは、相当強い薬を飲んで対抗しているとわかる。

『やー。今日はお友達が沢山いますネ。これはこれは、腕が鳴りますネ?』

『特別ゲストがいるから楽しくなるヨ!』

 張り切る二人とは対極に、朝からとんでもないことに巻き込まれた俺はいそいそとマスクを付け直してバランサーとして五感を研ぎ澄ませる。

 たった二人とおまけの俺の立ち回りだが、悪くない。というか終始こちらが優勢だ。

『おっと…!』

 しかし、物陰からこちらを狙うスナイパーの存在に気づいて二人はすぐに車の陰に隠れる。ここにいて、と車と車の間に下ろされ白澄が後衛を片付ける為に駆け出した。

 松葉杖を構えてタイヤに寄り添って息を殺す。死角は全てバランサーの力で把握できるから、問題ない。

 …大丈夫。すぐに二人が迎えに来る。

『げっ』

 そう言い聞かせてすぐに敵が近付いてくるではないか。あの双子め、と恨み節を放ちながら地面に横になって松葉杖を構える。

 すると、知らない靴の持ち主がウロウロと歩き俺を探しているのかゆっくりと移動する。音を立てないようにそっと松葉杖を地面に置いて設置。

 男が膝をついて車の下を覗いた、次の瞬間。

『せいっ』

『ぎゃあああっ?!』

 顔目掛けて飛んで来た松葉杖に叫ぶ男は、なんとか顔面の激突は逃れたらしいが手に直撃したようでかなりもだえている。

 すまんな、許せ。

『おっ! いたいた!』

 ハイハイで移動していたら黒河が車から車へと渡って迎えに来てくれた。すぐにおんぶをしてもらうと途中で松葉杖を拾って白澄と合流する。スナイパーも片付けてしまい、双子は軽く服の汚れを払ってからスマホで連絡をしたり、何処からか現れた部下たちに指示を出す。

『なんかボスがめちゃくちゃ心配してるらしいから、お掃除はこれくらいにして帰ろうネ』

『爆弾奇襲の時も多分トラウマ発動したんだヨ。やっと通常通り動けるようになったかな』

 トラウマ…?

 今度は黒河の肩車で移動していると、すぐ近くの道路に弐条会の黒塗りの高級車が停まる。双子と車に乗れば運転席に座っていた覚が俺を見て安堵の表情を浮かべた。

『全く…。絶対安静なんですよ、その子。貴方たちのようなぶっ壊れ性能の身体じゃないんですからあまり連れ回さないで下さい』

『覚は相変わらず心配性だネ。…ボスは?』

『ずっと心配して上の空ですよ。朝の警報も防犯カメラの映像を見てからずっと顔色が悪いですし。すぐに会わせれば良かったのに貴方たちがわざわざ連れ出すから』

 ボス、心配してくれたのかな?

 まぁ確かに爆弾を打ち返すような映像を見て心穏やかな人もそういないだろう。でも昨日ちゃんと抗争の意気込み表明もしたから、大丈夫だろ。

『…ありゃ』

 そうして帰って来るとアジトには既に先客がいた。ロビーでボスに引っ付いて話をするのは、許嫁である羽魅だ。覚も知らなかったのか慌てて話を聞きに行く。

『なんか忙しそうだね』

 なんでもないように装うが、双子にはこの恋心を知られてしまっている。平気だけどわざわざあの中に割って入る勇気はない。

『今日はこのまま帰るよ。先生に一緒に行ってもらわないといけないし。

 牛丼ありがとう、すっごく美味しかったけど次は大盛りくらいにしてね!』

 松葉杖を突いて歩き出すとヒョイと身体が浮いてパニックになるも、すぐに黒河の肩車だと気付いて慌てて頭を掴む。

『辰見のとこネ? 送ってあげる』

『この子、ちゃんと見てないとすぐ事件に巻き込まれちゃうから困っちゃうヨ!』

 双子と共に移動すると、話しているボスと目が合う。すぐにこちらに来ようとしたが許嫁に腕を掴まれ何かを懇願されているせいで無理に振り解くことも出来ずにいるらしい。

『ボスー、ただいま。宋平ちゃん帰るから送って来ますからネ』
 
『戻ってから報告するヨ』

 すれ違い様にそう言う双子に再び一歩、踏み出し視線が絡む。だから極力、自然に笑みを作ってから手を振る。心配しないで、という気持ちは込めたが少し話したかったという寂しさが出てきてしまいそうで自分から目を逸らす。

 …うう。話したかったし、もっと姿だけでも見ていたかったなぁ。

『もう帰るのか? いや、構わないが…どうかしたのか?』

 医務室にいた辰見の前に下ろされると明らかにテンションの下がった俺の様子に気付いたようで背後の双子に目を向けるが、二人は何も悪くない。

 送ってくれたことに感謝と別れを告げる。

『ヤクザにタダ飯奢ってもらうだけ、なんて有り得ないネ。今度宋平ちゃんの作ったご飯を貰うってので手を打つとするネ』

『いやぁ楽しみだヨ~』

 …うわ。この二人が満足する量を作るの、マジで大変そうだな。

『あ。

 じゃあ、今度ウチに来てよ。今度のお盆、俺この足だからお墓参り行けないんだ。ウチのお墓あるとこ凄い砂利道だし危ないから。一人で留守番だからお昼食べに来てよ』

 それが良い、と提案したら二人して凄い顔をして俺を見つめてくる。何故だとさり気なく辰見の方を見ればこれ以上ないドン引き、みたいな引き攣った顔をしていた。

 …何故だ。

『…どうする、兄者』

『折角だし構わないネ。可愛い弟分からのお誘いを断るわけにはいかないしネ?』

 決まりだ、決まり!

 日付を聞かれたので前持って兄ちゃんたちが話していた日付を言えば予定も空いているようで、来てくれるらしい。

『急だけど、良いの?』

『当然ネ。ヤクザは約束を違えない、これ弐条会の鉄則だからネ?』

 楽しみにしてる、と頭を撫でられると嬉しくて返事をしてから約束ね、と言葉を交わす。

 それからすぐに辰見の運転で家に帰った。兄たちには死ぬほど心配され、足の怪我が少し悪化しただけだと辰見から説明を受けて心底安心していた。

 蒼二の説明と辰見からの援護もあり、二人の兄は今回の件は無事に終わったと信じてくれた。事情を知る蒼二からの微妙な視線から逃れ…再び足を治療することになった俺はコントローラーを呼び出し、アルファとなって家で安静に過ごして消しゴムを彫って次々とハガキを完成させる。

 そんな夏休みの半ば。

 三人の兄が墓参りと掃除に向かうのを見届けると、自宅の仏壇の花を整えてから久しぶりのお客様の為に支度を開始した。

『…増えとる!』

 お昼前に到着した兄貴分は、二人ではなく三人に増えていた。珍しいことに犬飼を加えた三人だ。

『どーも! いやぁ、いきなりでゴメンね!』

『うん。犬飼さんなら大丈夫かな。どうぞ上がってください』

 大喰らいメンバーが来たらヤバかったけど、犬飼さんならセーフ!

 スリッパを出して三人を迎えると、リビングに入ろうとした俺を黒河が引き止めてから呼び寄せる。どうしたのかと戻れば菓子折りの袋を差し出してからこう問われた。

『ご両親に挨拶をしたいんだけど…、我々でも顔を出して良いもんかネ?』

 困ったように頭を掻く黒河に未だ玄関から動かない二人。そんな気遣いに俺は嬉しくなって黒河の手を引きながら仏間へと案内した。

『良いに決まってるじゃん! …もう知ってるから、大丈夫だよ』

 四人で仏壇に手を合わせてからリビングへと向かい、用意していたハンバーグを出す。黒河には和風おろしハンバーグ、白澄にはチーズたっぷりハンバーグ。犬飼には好きなものを取ってもらった。

 大喜びでハンバーグを食べる三人と俺の笑い声が響く。特に白澄は大好物のチーズということで食が止まらず用意してあった大半のチーズハンバーグを一人で平らげてしまう。

 それから片付けを済ませてお茶にすると、何故か話題は…恋バナへと移行いこうするのだった。


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