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至高の思い出
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【先行するからついて来てヨー? ちゃんと陸路からだから安心しなヨ】
あれから花畑に降り立ったのはスマホを付けたドローンだった。弐条会の所有物で、白澄が操作して俺たちを空から探していたらしい。洞窟を出られたからスマホの位置情報も復活して、日没前に見つけられたのは幸運だと喋っている。
『宋平。段差あるから揺れるぞ』
『は、はいっ』
なんとか通れるような岩場を降りて行けば、最初に泳いで島に向かった時の海岸に出る。そこからはもうわかるとボスがドローンに付いたスマホに伝えると、ドローンは一気に上昇して見えなくなった。
『あの、…スーツ…ダメにしちゃって、ごめんなさい』
『お前が悪ィってわけでもねェだろ。気にすンな。ちゃんと無事に帰って来たなら、それだけで良い』
ボスにおんぶされながらビーチに戻る。広い背中におぶられ、肩に掴まりながらもう片方の手にはしっかりと集め直した花束がある。
…ふへへ、一輪は押し花とかにして…後はドライフラワーとかにしようかな。兄さん、やり方知らないかな?
誰も見ていないのを良いことにニヤニヤと花束を見つめては思い出に浸る。
『ボス、今日はもう何処にも行かないんですか?』
『行かねェが…、お前まだ帰らねェつもりか。戻り次第帰っても良いンだぞ』
なんだって?!
『え、やだっ…嫌です! だって兄貴たちが花火っ、花火も上げてくれるって約束…』
折角用意してくれたのに、皆だって花火を見たかったはずなのに…俺のせいで中止なんて、そんなの嫌だ。
『ボスとも花火…見たい、です』
どうにか引き留めたいという気持ちで咄嗟に出た言葉。我儘になるから普段は言わないようなことを、頑張って言ってみるとボスはその場でピタリと立ち止まってから僅かに首を横に向けた。
『…足が痛んだり、気分が悪くなったら帰るからな』
『はい…! ありがとうっボス!』
やったー! なんとか花火は開催だ!
嬉しくて後ろからボスに抱き着けば、勿論お互い顔は見れないけれど優しく俺の腕に触れる感じから嫌がられてはいないんだと確信できる。
たまに後ろから戯れ付いたり、花束を見せてちょっかいを出しているのにボスはそれを一切咎めることなくしたいようにさせてくれるのだ。
『着いたな』
ビーチに出るとボスは俺を背負い直して黒い塊の集団の元へ歩き出す。日が暮れ始め、もう皆の姿がよくわからない。だけど、こちらに向かってくる塊に気付いた俺たちは静かに笑い出す。
『『『ボス!! 宋平!!』』』
一緒に笑って彼らに応える。大きく手を振ると、集団から一際速くこちらに向かって来る影が。これも正体がすぐわかる。お願いしなくても無駄だとわかっているボスがゆっくりと俺を浜に降ろしてから抱き直して正面を向かせてくれた。
『ッそうへい!!!』
手を伸ばせば直前で減速して勢いを殺し、抱き着いてきた猿石。胸に顔を埋める彼をずっと撫でてあげた。可哀想なくらい震えるから、負けじとしっかり抱きしめる。
『ごめんっ、ごめんソーヘー…ごめんな、オレっ、オレのせいで』
『アニキのせいなわけないだろ? 俺がちゃんと怪我したこと言わなかったからだよ。ごめんね、アニキと遊ぶのが楽しかったから…もう少し遊びたかったんだ。
助けを呼びに行ってくれて、ありがとう。アニキならきっと無事だって信じてたよ』
涙のせいか、日差しのせいか…可哀想なくらい真っ赤になってしまった目を見て後で目薬さしてあげるから、と告げれば幸せそうにフニャっと笑ってから再びスリスリと胸に擦り寄る大きな甘えん坊を甘やかす。
それからも続々と皆が合流して、覚さんにはすぐに他に傷がないか確認をされた。白澄はドローンを操るリモコンを放り投げて合流するものだから慌てて部下たちがキャッチしてから回収作業に回る。
海からは黒河が船に乗って現れ、俺を見つけると嬉しそうに海に飛び込んでザバザバと海を歩いてこちらに来た。
…やっぱり双子だな。
『無事か、宋平』
『刃斬の兄貴! …この度はお騒がせして、申し訳ありませんでした。ボスの身を危険に晒して…その、』
『あ? バーカ。ガキがそんなこと気にするな。元気ならそれだけで上等。
…だが。そろそろお前の身体にGPSを直接埋め込むべきではないかと、意見が一致してきてるぞ』
俺はペットか!! 迷子防止やめて!
とんでもない計画を身を震わせていると、少し離れた場所で立っている犬飼を見つける。スマホ片手に他の人に指示を出す姿に違和感を覚えて、俺を連れて行こうとするボスにそちらに行ってほしいと伝えた。
『犬飼さん』
こちらを見た犬飼は安心したように笑みを浮かべた後で無意識に肩を落とすような仕草をした。だからすぐに、この人にもたくさん心配させたんだと気付く。
『ただいま』
謝るより、きっと…笑顔を見せた方が彼らは喜んでくれるとわかった。だから。再び正面から貴方たちに向き合える喜びが、少しでも伝わるように。
目を見開いた犬飼が一瞬、ほんの一瞬だけ涙ぐんだような顔をした気がしたのに少し下を向いてから顔を上げたらいつも通りの剽軽な笑顔だった。
『おかえり! …全く、あんまり兄貴分たちの肝を冷やさないでよね。
ボス、お疲れ様です。コテージでシャワー浴びて来て下さいよ。その後で撤収作業、始めます?』
『…いや。予定通り、最後までやれ。花火が見てェって駄々っ子がいてな』
俺が許可を貰いました! みたいなドヤ顔を晒すと周囲が一気に騒つく。てっきり帰ると思っていたのだろう。少し荷物を片付けていた様子に気付いて余計なことを言ってしまったかと落ち込む。
が、すぐに各所から喜びの声が上がってそれぞれの役割の場所へと散って行く。
『ボス! 花火の支度整うまでスイカ、スイカ割りもして良いンすか?!』
『おーし、業者入れて最終調整入るぞー』
『あ。ボス、宋平にアイスも用意してます』
好きにしろ、と告げるボスに野郎どもは歓声を上げながら海パン姿で走り回る。呆れたような…でも少し嬉しそうなボスにコテージへと連れて行かれる。覚さんにサポートしてもらって患部を濡らさないようにシャワーを浴び、汚れを落としてもらう。
あったかいシャワー嬉し過ぎるっ!!
『帰ったらちゃんとお風呂に入って暖まりましょう。今日もこの後はちゃんと服を着るように』
着替えてからドライヤーで髪を乾かしてもらい、眠気に襲われながらも何とか耐える。
『宋平。この花、持って帰るんでしょう? 容器に水を入れて状態を保ちますね』
『あ! ありがとう、覚さん!』
プラスチックの容器に入れられた花を見て、また顔がニヤける。そんな顔に冷たいペットボトルが当てられて驚くと、してやったり顔の覚さんに水分補給を促された。
『もうすぐスイカ割りだそうです。君には特別な騎馬を用意しましたよ』
騎馬?
シャワーに入ったボスをコテージに置き、覚さんにおんぶされて外に出るとライトアップされたビーチには見事なスイカが並んでいる。
そして目の前には仁王立ちの猿石。首から下げたプラカードには【馬(鹿)】と書かれている。
なんかの罰ゲームか…?
『君は歩けませんからね。だから代わりの足です』
そうして出来上がったのが、猿石に肩車されてから目隠しをされ…棒を持つ俺。因みに猿石にも目隠しがされた。
間抜けな絵面に何人かの笑いを堪えるような声が聞こえたが、致し方ない。やるからには全力だ。
『よし! 俺たちの華麗なスイカ割りを見せてやる!』
『スイカわり?』
イマイチ内容がよくわかってない人がいるっぽいが、その場でグルグル回ると周りから歓声と拍手が響く。五感が死にそうなのでベータに切り替えると、普通に頭がフラフラするが騎馬である猿石は然程ダメージがないらしい。
色んなところから右やら左やら真っ直ぐやら、声がする。猿石に俺が指示を出して進んでもらってから座ってもらうと静かに棒を構えた。
間違いないっ…ここだ!!
『せいっ!』
カン。
ビーチに響く間抜けな音。続いて響いたのは俺の悲鳴。突然の出来事に猿石が大きな声を出してから目隠しを取る。
『じんじんするうぅう』
『ソーヘーっ?! だ、誰にやられた!!』
棒を手放してじんじんする両手を出すと猿石がオロオロしながら俺を抱っこして覚さんの元に連れて行く。勿論、治療法なんてないので苦笑い気味の彼に頭を撫でられる。
俺はスイカを叩いたにも関わらず、割ることが出来なかった。スイカには傷一つない。
『…アレか。肩車のせいで踏ん張りが付かなかったのか。可哀想に…』
『あー。なるほど、腕の力だけだったからか』
中々に痛かったので猿石の肩に顔を埋める。あとちょっと恥ずかしい。
そんな俺を見て何を思ったのか、猿石が俺を片手で抱きながら移動するとシートの上に鎮座するスイカに向き合う。やがて右手を握りしめてから大して振り被ることもしないで、拳を下ろした。
バキャッという音と共にスイカが飛び散る。素手で、スイカをかち割った猿石に周囲はシンと静まり返り…やった本人は嬉しそうにそれを指差す。
『ソーヘーの敵討った! 割れば良いんだよな?』
『アニキすっげぇ!! 俺も割りたいっ』
素手で! スイカを!
憧れの眼差しを送るとなんとも嬉しそうに胸を張る。割ったスイカを拾うと俺に渡してから満面の笑みを浮かべた。
『ソーヘーは危ねーからダメ。でもソーヘーには俺がいるから良いだろ? いくらでも割ってやるからな!』
『いや全部割るなよお前!!』
追加のスイカを持って来た犬飼にそう叫ばれるが、猿石は気にせず次のスイカへと狙いを定める。近くにあった椅子に降ろされ、遠ざかる代紋を見つめながらスイカにかぶり付く。
うん! 甘くて最高だ!!
『アニキ頑張って~』
『応ッ!』
『ちょっとぉ! 宋平くんってば止めてよー!!』
いや、だって…スイカの素手割り、もう一回見たいから…仕方ないよな?
.
あれから花畑に降り立ったのはスマホを付けたドローンだった。弐条会の所有物で、白澄が操作して俺たちを空から探していたらしい。洞窟を出られたからスマホの位置情報も復活して、日没前に見つけられたのは幸運だと喋っている。
『宋平。段差あるから揺れるぞ』
『は、はいっ』
なんとか通れるような岩場を降りて行けば、最初に泳いで島に向かった時の海岸に出る。そこからはもうわかるとボスがドローンに付いたスマホに伝えると、ドローンは一気に上昇して見えなくなった。
『あの、…スーツ…ダメにしちゃって、ごめんなさい』
『お前が悪ィってわけでもねェだろ。気にすンな。ちゃんと無事に帰って来たなら、それだけで良い』
ボスにおんぶされながらビーチに戻る。広い背中におぶられ、肩に掴まりながらもう片方の手にはしっかりと集め直した花束がある。
…ふへへ、一輪は押し花とかにして…後はドライフラワーとかにしようかな。兄さん、やり方知らないかな?
誰も見ていないのを良いことにニヤニヤと花束を見つめては思い出に浸る。
『ボス、今日はもう何処にも行かないんですか?』
『行かねェが…、お前まだ帰らねェつもりか。戻り次第帰っても良いンだぞ』
なんだって?!
『え、やだっ…嫌です! だって兄貴たちが花火っ、花火も上げてくれるって約束…』
折角用意してくれたのに、皆だって花火を見たかったはずなのに…俺のせいで中止なんて、そんなの嫌だ。
『ボスとも花火…見たい、です』
どうにか引き留めたいという気持ちで咄嗟に出た言葉。我儘になるから普段は言わないようなことを、頑張って言ってみるとボスはその場でピタリと立ち止まってから僅かに首を横に向けた。
『…足が痛んだり、気分が悪くなったら帰るからな』
『はい…! ありがとうっボス!』
やったー! なんとか花火は開催だ!
嬉しくて後ろからボスに抱き着けば、勿論お互い顔は見れないけれど優しく俺の腕に触れる感じから嫌がられてはいないんだと確信できる。
たまに後ろから戯れ付いたり、花束を見せてちょっかいを出しているのにボスはそれを一切咎めることなくしたいようにさせてくれるのだ。
『着いたな』
ビーチに出るとボスは俺を背負い直して黒い塊の集団の元へ歩き出す。日が暮れ始め、もう皆の姿がよくわからない。だけど、こちらに向かってくる塊に気付いた俺たちは静かに笑い出す。
『『『ボス!! 宋平!!』』』
一緒に笑って彼らに応える。大きく手を振ると、集団から一際速くこちらに向かって来る影が。これも正体がすぐわかる。お願いしなくても無駄だとわかっているボスがゆっくりと俺を浜に降ろしてから抱き直して正面を向かせてくれた。
『ッそうへい!!!』
手を伸ばせば直前で減速して勢いを殺し、抱き着いてきた猿石。胸に顔を埋める彼をずっと撫でてあげた。可哀想なくらい震えるから、負けじとしっかり抱きしめる。
『ごめんっ、ごめんソーヘー…ごめんな、オレっ、オレのせいで』
『アニキのせいなわけないだろ? 俺がちゃんと怪我したこと言わなかったからだよ。ごめんね、アニキと遊ぶのが楽しかったから…もう少し遊びたかったんだ。
助けを呼びに行ってくれて、ありがとう。アニキならきっと無事だって信じてたよ』
涙のせいか、日差しのせいか…可哀想なくらい真っ赤になってしまった目を見て後で目薬さしてあげるから、と告げれば幸せそうにフニャっと笑ってから再びスリスリと胸に擦り寄る大きな甘えん坊を甘やかす。
それからも続々と皆が合流して、覚さんにはすぐに他に傷がないか確認をされた。白澄はドローンを操るリモコンを放り投げて合流するものだから慌てて部下たちがキャッチしてから回収作業に回る。
海からは黒河が船に乗って現れ、俺を見つけると嬉しそうに海に飛び込んでザバザバと海を歩いてこちらに来た。
…やっぱり双子だな。
『無事か、宋平』
『刃斬の兄貴! …この度はお騒がせして、申し訳ありませんでした。ボスの身を危険に晒して…その、』
『あ? バーカ。ガキがそんなこと気にするな。元気ならそれだけで上等。
…だが。そろそろお前の身体にGPSを直接埋め込むべきではないかと、意見が一致してきてるぞ』
俺はペットか!! 迷子防止やめて!
とんでもない計画を身を震わせていると、少し離れた場所で立っている犬飼を見つける。スマホ片手に他の人に指示を出す姿に違和感を覚えて、俺を連れて行こうとするボスにそちらに行ってほしいと伝えた。
『犬飼さん』
こちらを見た犬飼は安心したように笑みを浮かべた後で無意識に肩を落とすような仕草をした。だからすぐに、この人にもたくさん心配させたんだと気付く。
『ただいま』
謝るより、きっと…笑顔を見せた方が彼らは喜んでくれるとわかった。だから。再び正面から貴方たちに向き合える喜びが、少しでも伝わるように。
目を見開いた犬飼が一瞬、ほんの一瞬だけ涙ぐんだような顔をした気がしたのに少し下を向いてから顔を上げたらいつも通りの剽軽な笑顔だった。
『おかえり! …全く、あんまり兄貴分たちの肝を冷やさないでよね。
ボス、お疲れ様です。コテージでシャワー浴びて来て下さいよ。その後で撤収作業、始めます?』
『…いや。予定通り、最後までやれ。花火が見てェって駄々っ子がいてな』
俺が許可を貰いました! みたいなドヤ顔を晒すと周囲が一気に騒つく。てっきり帰ると思っていたのだろう。少し荷物を片付けていた様子に気付いて余計なことを言ってしまったかと落ち込む。
が、すぐに各所から喜びの声が上がってそれぞれの役割の場所へと散って行く。
『ボス! 花火の支度整うまでスイカ、スイカ割りもして良いンすか?!』
『おーし、業者入れて最終調整入るぞー』
『あ。ボス、宋平にアイスも用意してます』
好きにしろ、と告げるボスに野郎どもは歓声を上げながら海パン姿で走り回る。呆れたような…でも少し嬉しそうなボスにコテージへと連れて行かれる。覚さんにサポートしてもらって患部を濡らさないようにシャワーを浴び、汚れを落としてもらう。
あったかいシャワー嬉し過ぎるっ!!
『帰ったらちゃんとお風呂に入って暖まりましょう。今日もこの後はちゃんと服を着るように』
着替えてからドライヤーで髪を乾かしてもらい、眠気に襲われながらも何とか耐える。
『宋平。この花、持って帰るんでしょう? 容器に水を入れて状態を保ちますね』
『あ! ありがとう、覚さん!』
プラスチックの容器に入れられた花を見て、また顔がニヤける。そんな顔に冷たいペットボトルが当てられて驚くと、してやったり顔の覚さんに水分補給を促された。
『もうすぐスイカ割りだそうです。君には特別な騎馬を用意しましたよ』
騎馬?
シャワーに入ったボスをコテージに置き、覚さんにおんぶされて外に出るとライトアップされたビーチには見事なスイカが並んでいる。
そして目の前には仁王立ちの猿石。首から下げたプラカードには【馬(鹿)】と書かれている。
なんかの罰ゲームか…?
『君は歩けませんからね。だから代わりの足です』
そうして出来上がったのが、猿石に肩車されてから目隠しをされ…棒を持つ俺。因みに猿石にも目隠しがされた。
間抜けな絵面に何人かの笑いを堪えるような声が聞こえたが、致し方ない。やるからには全力だ。
『よし! 俺たちの華麗なスイカ割りを見せてやる!』
『スイカわり?』
イマイチ内容がよくわかってない人がいるっぽいが、その場でグルグル回ると周りから歓声と拍手が響く。五感が死にそうなのでベータに切り替えると、普通に頭がフラフラするが騎馬である猿石は然程ダメージがないらしい。
色んなところから右やら左やら真っ直ぐやら、声がする。猿石に俺が指示を出して進んでもらってから座ってもらうと静かに棒を構えた。
間違いないっ…ここだ!!
『せいっ!』
カン。
ビーチに響く間抜けな音。続いて響いたのは俺の悲鳴。突然の出来事に猿石が大きな声を出してから目隠しを取る。
『じんじんするうぅう』
『ソーヘーっ?! だ、誰にやられた!!』
棒を手放してじんじんする両手を出すと猿石がオロオロしながら俺を抱っこして覚さんの元に連れて行く。勿論、治療法なんてないので苦笑い気味の彼に頭を撫でられる。
俺はスイカを叩いたにも関わらず、割ることが出来なかった。スイカには傷一つない。
『…アレか。肩車のせいで踏ん張りが付かなかったのか。可哀想に…』
『あー。なるほど、腕の力だけだったからか』
中々に痛かったので猿石の肩に顔を埋める。あとちょっと恥ずかしい。
そんな俺を見て何を思ったのか、猿石が俺を片手で抱きながら移動するとシートの上に鎮座するスイカに向き合う。やがて右手を握りしめてから大して振り被ることもしないで、拳を下ろした。
バキャッという音と共にスイカが飛び散る。素手で、スイカをかち割った猿石に周囲はシンと静まり返り…やった本人は嬉しそうにそれを指差す。
『ソーヘーの敵討った! 割れば良いんだよな?』
『アニキすっげぇ!! 俺も割りたいっ』
素手で! スイカを!
憧れの眼差しを送るとなんとも嬉しそうに胸を張る。割ったスイカを拾うと俺に渡してから満面の笑みを浮かべた。
『ソーヘーは危ねーからダメ。でもソーヘーには俺がいるから良いだろ? いくらでも割ってやるからな!』
『いや全部割るなよお前!!』
追加のスイカを持って来た犬飼にそう叫ばれるが、猿石は気にせず次のスイカへと狙いを定める。近くにあった椅子に降ろされ、遠ざかる代紋を見つめながらスイカにかぶり付く。
うん! 甘くて最高だ!!
『アニキ頑張って~』
『応ッ!』
『ちょっとぉ! 宋平くんってば止めてよー!!』
いや、だって…スイカの素手割り、もう一回見たいから…仕方ないよな?
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