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仕事の出来る男のイロハ
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Side:刃斬
『終わったー!! っしゃ、飯食おうぜ!』
『ちょっと?! 通信機付けたまま叫ぶなよ、鼓膜死ぬでしょ?!』
喧しい。
本当に、喧しい。
時刻は二十三時。とある施設にて殲滅作戦が完了し、それぞれが撤収作業に勤しむ。そんな中で一人、誰よりも成果を上げた男が上機嫌のまま積み上げた敵の山の上に座って鼻歌を歌う。
…はて。何処かで聞いたような…。
『ア、アイツ…キミチキ! の代表曲歌ってますネ?』
『間違いないヨ! さては…宋平くんの鼻歌を完コピして覚えてるんだヨ!』
ああ、道理で。
たまに楽しそうに鼻歌を歌う宋平がそんな曲を奏でていたような気がする。完全に染まってやがるな。
『ボス。押収品の例の物、やはり数が…』
『足らねェか。この場になかったとなれば、恐らく下っ端にでもくすねられたな。調べろ』
『御意』
捕らえていない人間の情報を集めていると覚が車を手配して待機していると連絡が入る。後始末も既に済んでいるので必要な情報だけ掻っ攫って帰路に着く。
『帰りは何処か寄りますか?』
『…いや、良い。宋平が夜食作ってくれてる。車置いたらお前も来い』
『おや。私の分もあるんですか? …大丈夫ですか、本当に?』
覚の視線の先には背中を向けて座る猿石の姿。奴が不機嫌にならないかと不安になっているようだが、心配はない。
『安心しろ。あれで機嫌が良い。結構量あるらしいから平気だろ』
『それなら少し戴きます。久々ですね、全員で食事を摂るなんて…』
確かに。
振り返れば猿石は敵の山から滑り落ち、犬飼は機材を持って車に運ぶ。黒河は眠たそうに欠伸を漏らしつつ服の汚れを確認し、白澄はスマホ片手に部下に捕える人間を選別させていた。
個性の塊のような一癖も二癖もある連中。
こういう時は大体が現地解散かアジトに各々で帰っていたが今日は違う。
『連絡は来ましたか?』
一人少し離れた場所に立っていたボスはスマホの画面を閉じるとすぐに歩き出す。
『来てねェな。どうやら今夜はちゃんと眠れたらしい』
帰った時間を考えるとまだ寝ていない可能性もある。宋平の睡眠障害だが、本人は家だと眠れなくなる時があると言っていたがアジトではほぼ必ずと言って良いほどに寝る。
そこには必ず、ボスがいる。
『…テメェらまさか俺のフロアで騒ぐつもりか?』
アジトに到着するといの一番に駆け出した猿石が宋平の用意した夜食を次々とテーブルに置く。当然のように茶を淹れていた犬飼もハッとしたように急須を引っ込めた。
『えーだって溜まり部屋持ってって他の奴に強請られたら面倒だろ? 俺もう宋平の飯分けねぇよ?』
まぁ、一理ある。
面倒になったらしいボスが許可を出せばすぐに黒河と白澄も支度を手伝う。テーブルにはおにぎりにだし巻き玉子、みぞれ汁にからあげ。サラダに胡瓜の漬物まで用意されていた。デザートにクレープまで出されると料理なんてからっきしな俺たちは言葉を失くす。
『ソーヘーがアジトに住んだら毎日ソーヘーの作った飯、一緒に食えるのに…』
ガツガツとおにぎりを頬張る猿石の言葉に誰もが返す言葉を失っていた。それくらい目の前の料理は惜しいものだ。
『あ。これボスの。宋平が個別にしたからこれは食べちゃダメって言われてたんだったわ』
猿石が細長い皿を取ると、そこには一本の綺麗なだし巻き玉子が盛り付けられていた。側には大根おろしまであり、猿石が醤油差しを渡してくる。
『ふっ。これは俺が作った!』
『は?! この玉子を?!』
『ちげぇわ。この大根だ』
思わず身を乗り出す犬飼に吊られて全員が視線を向けるがただの勘違いで終わった。しかし大根おろしだけでも大したものだ。料理なんざ一番無縁な男に。
『大根おろしくらいで威張るなよな』
『ンだと?! ソーヘーめっちゃ感謝してたし!』
大皿に乗っただし巻き玉子を取り、目一杯大根おろしを付けて頬張る猿石。数回咀嚼してからキョトンとする男に覚が笑う。
『それ殆ど大根おろしの味しかしないのでは?』
図星だったようで嚥下した後は黙ってだし巻き玉子だけを頬張る。美味かったらしい。その表情だけで十分だった。
『梅のおにぎり美味しいネ~』
『ツナマヨこそ最高だヨー』
別の味の握り飯を食らう双子に、みぞれ汁を飲んでホッとした表情を浮かべる覚。サラダを取り分ける犬飼に自らのリクエストである料理を眺めるボス。
…こんな光景、滅多になかったな。
裏社会の重鎮として君臨してきた弐条会。最近では更なる躍進により敵も増えた。そんな緊張感が続く日々の中で繋がれた不可思議な縁によって、アイツはやって来た。
無垢な子どものように汚れた俺たちに着いて来て、自分の子どものように見ず知らずの粗暴なアルファの大男に寄り添い、初めて愛を貰うように恥じる子ども。
足りなかったピースが埋まるようにアイツは弐条会に馴染み、俺たちはいつの間にかまた強固な組織へと成長を遂げていた。
『お前食わねぇの? 全部食うぞ』
当然のようにそこにいる男は、他人と関わることを極力避けていたなどと誰が思うか。
『巫山戯んな。テメェは食い過ぎなんだよ、遠慮しろ少しは』
大切なのに遠ざけたい。
あの日の朝、あの家のチャイムを自分が鳴らさなければこんな感情も抱かなかったのか。それでも、自分に手を伸ばして安心したように身を委ねる子どもを他人に預けられるかと聞かれれば
無理。その一択しかない。
『ヤベー…クレープにも味がっ! 複数あるんですけど?!』
『凄いですね…。あの数時間で作ったとは思えません』
『俺も手伝ったからな!!』
もしも。猿石が言ったことが、現実になったなら。きっと子どもはこの空いたソファにでも座っていたのかと柄にもないことを思う。
それでも。この場にいたら、さぞや嬉しそうに笑っていたのだろう。
『ボス。お好きなものを』
覚にクレープが敷き詰められた皿を見せられ、少し迷ってからボスは甘辛からあげと手書きされたクレープを取った。
『それタレが溢れるかもしれないから気を付けて食えってソーヘー言ってた』
『…ああ』
次は俺に皿が差し出されたのでミカンと書かれたものを手に取る。ラップを取れば四角にされたクレープから甘い匂いが漂う。一口齧ればすぐに生クリームとミカンが顔を出し、疲れた身体に甘みが染みる。
それぞれが好みのものを手に取り、美味い美味いと大した語彙力もない感想を口にした。だが普段は出前で同じようなものばかり口にしているせいか満足感が半端なかった。
『んー…、今日のからあげも美味かったけど前のが美味かった…ような? なぁ。ソーヘーに揚げ物の一式買ってやれよ』
『あの台所じゃ手狭だろ。…いっそ増築するか』
まるで独り言のようにボスが喋っているが、周囲は今日一番の衝撃に全員が動きを止めた。
う、嘘だろ…あのボスが…、ボスが誰かに貢ぐなんてそんなことが起こるのか?!
アイスに始まり着物、更にはキッチンだ。
『や、やりますか…?』
問題はない。問題は特にないのだが、どうしても声が上擦ってしまうのは否めない。ボスは少し考えた末に保留とした。
その理由は恐らく、金や工事などそんなことではなく…。
『本人に欲しいって言わせてからな』
言うか? いや、言わないだろう。常識的に考えてあの子どもがそんな高価なものを強請るはずがない。
しかし。それはそれとして、あの子どもが…何かを強請るというのは非常に。非常に個人的に、興味がある。
…何でも買い与える自分が想像出来てキモいな。
『えー。すぐ工事しろよ、要るだろキッチン…』
『お前が欲しいのはキッチンじゃなくて宋平ちゃん自身だネ!』
『そうだヨ。キッチンと宋平くんはセットだヨ!』
ガヤガヤと再び騒がしくなると食べ終わった食器を犬飼と覚が片し始める。そんな中で再びスマホを取り出したボスは無言のままそれを見つめ、立ち上がった。
紺色の着流しを揺らしながら歩くボスは歩きながらスマホを耳に当てる。
電話、となるとまさか…。
『よォ。随分と早ェ受け取りじゃねェか。
…おい。どうした、宋平…?』
最初は意地の悪い笑みを浮かべていたボスは明らかに宋平へ電話を掛けていた。だが、二、三言葉を交わした後にボスの雰囲気が変わる。
やれやれと思って車の鍵を手にした俺も何かあったのだとすぐに気付けた。
『…何でもねェじゃわからねェだろ。お前自分がどんな声してるかわかってンのか』
少し苛立った様子のボスの近くでスマホを起動してすぐに宋平を送り届けた連中から話を聞く。最後に見送った連中から手掛かりを聞けば、問題なく帰れたはずだと返答がくる。
だが、どうやら路地裏で兄と合流したらしくその後確認したらちゃんと駅に到着したらしい。
…なんだって路地裏で?
『訳を言え。さもなけりゃ、これから迎えに行ってやろォか?』
よっぽどの声だったのかボスは今にも出て行きそうな勢いで羽織まで手に取る。
『…疲れてねェよ。この会話の後に俺が気分良く眠れると思うか? なに。お前は眠れる? …ったく』
行くんですか? え。行きますよね?
若干の不安を感じると徐々にボスの雰囲気が柔らかくなってきている気がする。ウチの気難しいボスをこうも喋らせる人間がいたか。
…いないな、人類初だ。
落ち着いて来た口調にこれは出番はないかと鍵を手放そうとした瞬間、
『そうか。それは重畳
今から行く。待ってろ』
慌てて鍵を握り直してエレベーターへと駆け出した。
仕事でも恋愛ごとでも、大切なのは悩むくらいなら行動しろ、だ。流石ですボス。
.
『終わったー!! っしゃ、飯食おうぜ!』
『ちょっと?! 通信機付けたまま叫ぶなよ、鼓膜死ぬでしょ?!』
喧しい。
本当に、喧しい。
時刻は二十三時。とある施設にて殲滅作戦が完了し、それぞれが撤収作業に勤しむ。そんな中で一人、誰よりも成果を上げた男が上機嫌のまま積み上げた敵の山の上に座って鼻歌を歌う。
…はて。何処かで聞いたような…。
『ア、アイツ…キミチキ! の代表曲歌ってますネ?』
『間違いないヨ! さては…宋平くんの鼻歌を完コピして覚えてるんだヨ!』
ああ、道理で。
たまに楽しそうに鼻歌を歌う宋平がそんな曲を奏でていたような気がする。完全に染まってやがるな。
『ボス。押収品の例の物、やはり数が…』
『足らねェか。この場になかったとなれば、恐らく下っ端にでもくすねられたな。調べろ』
『御意』
捕らえていない人間の情報を集めていると覚が車を手配して待機していると連絡が入る。後始末も既に済んでいるので必要な情報だけ掻っ攫って帰路に着く。
『帰りは何処か寄りますか?』
『…いや、良い。宋平が夜食作ってくれてる。車置いたらお前も来い』
『おや。私の分もあるんですか? …大丈夫ですか、本当に?』
覚の視線の先には背中を向けて座る猿石の姿。奴が不機嫌にならないかと不安になっているようだが、心配はない。
『安心しろ。あれで機嫌が良い。結構量あるらしいから平気だろ』
『それなら少し戴きます。久々ですね、全員で食事を摂るなんて…』
確かに。
振り返れば猿石は敵の山から滑り落ち、犬飼は機材を持って車に運ぶ。黒河は眠たそうに欠伸を漏らしつつ服の汚れを確認し、白澄はスマホ片手に部下に捕える人間を選別させていた。
個性の塊のような一癖も二癖もある連中。
こういう時は大体が現地解散かアジトに各々で帰っていたが今日は違う。
『連絡は来ましたか?』
一人少し離れた場所に立っていたボスはスマホの画面を閉じるとすぐに歩き出す。
『来てねェな。どうやら今夜はちゃんと眠れたらしい』
帰った時間を考えるとまだ寝ていない可能性もある。宋平の睡眠障害だが、本人は家だと眠れなくなる時があると言っていたがアジトではほぼ必ずと言って良いほどに寝る。
そこには必ず、ボスがいる。
『…テメェらまさか俺のフロアで騒ぐつもりか?』
アジトに到着するといの一番に駆け出した猿石が宋平の用意した夜食を次々とテーブルに置く。当然のように茶を淹れていた犬飼もハッとしたように急須を引っ込めた。
『えーだって溜まり部屋持ってって他の奴に強請られたら面倒だろ? 俺もう宋平の飯分けねぇよ?』
まぁ、一理ある。
面倒になったらしいボスが許可を出せばすぐに黒河と白澄も支度を手伝う。テーブルにはおにぎりにだし巻き玉子、みぞれ汁にからあげ。サラダに胡瓜の漬物まで用意されていた。デザートにクレープまで出されると料理なんてからっきしな俺たちは言葉を失くす。
『ソーヘーがアジトに住んだら毎日ソーヘーの作った飯、一緒に食えるのに…』
ガツガツとおにぎりを頬張る猿石の言葉に誰もが返す言葉を失っていた。それくらい目の前の料理は惜しいものだ。
『あ。これボスの。宋平が個別にしたからこれは食べちゃダメって言われてたんだったわ』
猿石が細長い皿を取ると、そこには一本の綺麗なだし巻き玉子が盛り付けられていた。側には大根おろしまであり、猿石が醤油差しを渡してくる。
『ふっ。これは俺が作った!』
『は?! この玉子を?!』
『ちげぇわ。この大根だ』
思わず身を乗り出す犬飼に吊られて全員が視線を向けるがただの勘違いで終わった。しかし大根おろしだけでも大したものだ。料理なんざ一番無縁な男に。
『大根おろしくらいで威張るなよな』
『ンだと?! ソーヘーめっちゃ感謝してたし!』
大皿に乗っただし巻き玉子を取り、目一杯大根おろしを付けて頬張る猿石。数回咀嚼してからキョトンとする男に覚が笑う。
『それ殆ど大根おろしの味しかしないのでは?』
図星だったようで嚥下した後は黙ってだし巻き玉子だけを頬張る。美味かったらしい。その表情だけで十分だった。
『梅のおにぎり美味しいネ~』
『ツナマヨこそ最高だヨー』
別の味の握り飯を食らう双子に、みぞれ汁を飲んでホッとした表情を浮かべる覚。サラダを取り分ける犬飼に自らのリクエストである料理を眺めるボス。
…こんな光景、滅多になかったな。
裏社会の重鎮として君臨してきた弐条会。最近では更なる躍進により敵も増えた。そんな緊張感が続く日々の中で繋がれた不可思議な縁によって、アイツはやって来た。
無垢な子どものように汚れた俺たちに着いて来て、自分の子どものように見ず知らずの粗暴なアルファの大男に寄り添い、初めて愛を貰うように恥じる子ども。
足りなかったピースが埋まるようにアイツは弐条会に馴染み、俺たちはいつの間にかまた強固な組織へと成長を遂げていた。
『お前食わねぇの? 全部食うぞ』
当然のようにそこにいる男は、他人と関わることを極力避けていたなどと誰が思うか。
『巫山戯んな。テメェは食い過ぎなんだよ、遠慮しろ少しは』
大切なのに遠ざけたい。
あの日の朝、あの家のチャイムを自分が鳴らさなければこんな感情も抱かなかったのか。それでも、自分に手を伸ばして安心したように身を委ねる子どもを他人に預けられるかと聞かれれば
無理。その一択しかない。
『ヤベー…クレープにも味がっ! 複数あるんですけど?!』
『凄いですね…。あの数時間で作ったとは思えません』
『俺も手伝ったからな!!』
もしも。猿石が言ったことが、現実になったなら。きっと子どもはこの空いたソファにでも座っていたのかと柄にもないことを思う。
それでも。この場にいたら、さぞや嬉しそうに笑っていたのだろう。
『ボス。お好きなものを』
覚にクレープが敷き詰められた皿を見せられ、少し迷ってからボスは甘辛からあげと手書きされたクレープを取った。
『それタレが溢れるかもしれないから気を付けて食えってソーヘー言ってた』
『…ああ』
次は俺に皿が差し出されたのでミカンと書かれたものを手に取る。ラップを取れば四角にされたクレープから甘い匂いが漂う。一口齧ればすぐに生クリームとミカンが顔を出し、疲れた身体に甘みが染みる。
それぞれが好みのものを手に取り、美味い美味いと大した語彙力もない感想を口にした。だが普段は出前で同じようなものばかり口にしているせいか満足感が半端なかった。
『んー…、今日のからあげも美味かったけど前のが美味かった…ような? なぁ。ソーヘーに揚げ物の一式買ってやれよ』
『あの台所じゃ手狭だろ。…いっそ増築するか』
まるで独り言のようにボスが喋っているが、周囲は今日一番の衝撃に全員が動きを止めた。
う、嘘だろ…あのボスが…、ボスが誰かに貢ぐなんてそんなことが起こるのか?!
アイスに始まり着物、更にはキッチンだ。
『や、やりますか…?』
問題はない。問題は特にないのだが、どうしても声が上擦ってしまうのは否めない。ボスは少し考えた末に保留とした。
その理由は恐らく、金や工事などそんなことではなく…。
『本人に欲しいって言わせてからな』
言うか? いや、言わないだろう。常識的に考えてあの子どもがそんな高価なものを強請るはずがない。
しかし。それはそれとして、あの子どもが…何かを強請るというのは非常に。非常に個人的に、興味がある。
…何でも買い与える自分が想像出来てキモいな。
『えー。すぐ工事しろよ、要るだろキッチン…』
『お前が欲しいのはキッチンじゃなくて宋平ちゃん自身だネ!』
『そうだヨ。キッチンと宋平くんはセットだヨ!』
ガヤガヤと再び騒がしくなると食べ終わった食器を犬飼と覚が片し始める。そんな中で再びスマホを取り出したボスは無言のままそれを見つめ、立ち上がった。
紺色の着流しを揺らしながら歩くボスは歩きながらスマホを耳に当てる。
電話、となるとまさか…。
『よォ。随分と早ェ受け取りじゃねェか。
…おい。どうした、宋平…?』
最初は意地の悪い笑みを浮かべていたボスは明らかに宋平へ電話を掛けていた。だが、二、三言葉を交わした後にボスの雰囲気が変わる。
やれやれと思って車の鍵を手にした俺も何かあったのだとすぐに気付けた。
『…何でもねェじゃわからねェだろ。お前自分がどんな声してるかわかってンのか』
少し苛立った様子のボスの近くでスマホを起動してすぐに宋平を送り届けた連中から話を聞く。最後に見送った連中から手掛かりを聞けば、問題なく帰れたはずだと返答がくる。
だが、どうやら路地裏で兄と合流したらしくその後確認したらちゃんと駅に到着したらしい。
…なんだって路地裏で?
『訳を言え。さもなけりゃ、これから迎えに行ってやろォか?』
よっぽどの声だったのかボスは今にも出て行きそうな勢いで羽織まで手に取る。
『…疲れてねェよ。この会話の後に俺が気分良く眠れると思うか? なに。お前は眠れる? …ったく』
行くんですか? え。行きますよね?
若干の不安を感じると徐々にボスの雰囲気が柔らかくなってきている気がする。ウチの気難しいボスをこうも喋らせる人間がいたか。
…いないな、人類初だ。
落ち着いて来た口調にこれは出番はないかと鍵を手放そうとした瞬間、
『そうか。それは重畳
今から行く。待ってろ』
慌てて鍵を握り直してエレベーターへと駆け出した。
仕事でも恋愛ごとでも、大切なのは悩むくらいなら行動しろ、だ。流石ですボス。
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