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ピンチとアイス
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『…アニキ。トイレに行って来ても良いですか?』
『ああ。丁度挨拶も途切れたしな、行ってこい。会場出てすぐ右だ。迷子になるなよ』
刃斬に許可をもらい、ボスにも一言掛けてから早足でトイレに向かうと今まで静かだったインカムから多少の雑音が聞こえた。
【あ、あー、聞こえてる? 宋平くんが一人になるからって駆り出された犬飼だよ】
『わ。犬飼の兄貴だ…、聞こえてるよ』
凄い! なんかスパイ映画みたいだ!
【前から思ってたけど名前長いし犬飼で良いよ。わかったら早く用足して戻ってね】
『…なんか言い方が嫌。わかったよ、犬飼さん…』
犬飼のサポートもあり迷うことなくトイレに行けた。大して混んでないし、すんなりと会場に戻るが今度はボスたちが何処かわからなくなってしまった。
えーっと、確か…あの辺の絵画の近くだったような気がする。
『こちらで軽食のサービスをしております。宜しければ如何でしょうか』
『ぇ…?』
誰かに声を掛けられたかと思えば、ウェイターのお兄さんだった。比較的若い彼は銀色に輝くお盆を抱えながらにこやかに近くのテーブルへ案内してくれる。
『チーズにサンドイッチ、飲み物はワインにシャンパン、勿論緑茶にアイスティーとノンアルコールもご用意してあります。
ケーキに、この度は産地にこだわった濃厚アイスクリームもご用意してありますよ』
アイス…!!
奥の洒落たクーラーボックスには国産厳選品のみ使用! とデカデカと書かれた大変魅力的な見出しが俺を誘う。
こんなところでそんな美味しそうなものが食べれるなんて…!!
【あーあ。完全にウチの弟分が好物で釣られてるよ。こういうところでは飲食はしないのがこの業界の常識なんだけどねぇ、例外もあるけど】
耳元の言葉に意識を取り戻すと、ふと自分のマスクに気付いて渋々首を振る。
仕事中だしな。早いとこボスのとこ戻んねーと。
『…宜しければ、そちらのシークレットルームをお使いになりますか? 体調を崩した方などの為に用意された個室です。お食事の間、必要であればお使い下さい』
お兄さんに案内されたのは簡易的な部屋だが一人掛け用の真っ赤なソファにテーブルがあり、リラックスできるように小さくクラシックが流れていて驚く。
確かに、ここでならマスクを外してアイスが食べれそうだけど…。
『是非ご賞味下さい。シェフが腕を振るった最高の逸品ばかりですよ』
じゅるり。
完全に目がアイスに向くも、お仕事…しかも今は護衛中だと必死に自分に言い聞かせる。だけど意外にも耳元から天啓が降る。
【まぁ、アイスくらいならチャチャっと食べちゃいなよ。折角の機会だしね。刃斬サンに怒られないように早くしなさいよ、トイレ混んでるって伝えとくから】
神か?
犬飼からの許可が降りてウキウキしていると、アイスを貰って部屋へと入る。木製のスプーンか、すぐにアイスをすくえるアルミ製のかを選ばせてもらえるようで噂に聞くすぐにすくえる熱伝導スプーンを手に取る。
これ一度試してみたかったんだよなぁ。
『それでは、ごゆっくり。ああ…こちらは今日の為にブレンドされたスペシャルアイスティーです。アイスに合うので是非ともご一緒に』
丁寧にコースターの上に乗せられたアイスティー。氷が丸になっていてストローで突くとコロコロとして大変楽しい。
ワクワクしながらマスクを外してアイスにスプーンを差せば、あっという間にカチカチのアイスをすくえる。口に入れると緊張していた熱を冷ますようにアイスが溶けて濃厚なミルクの風味が広がる。
うっま~っ!!
『美味しいよぉ…、これがコンビニで気軽に買えたらなぁ…』
猿石にも食べさせてあげたい…。
【えげつない値段するだろうけどね】
パクパクと食べ進めるとアイスはすぐになくなってしまう。アイスティーを飲み干すと火照った身体も丁度良くなる。
人混みに緊張でかなり暑かったもんな、マスクは蒸れるし。
『…それにしても、この部屋…窓から見たのと家具の位置が違うような?』
【外からじゃ誰が何してるかわからないようにしてるんだよ。そこにある扉も見えなかったでしょ? 景観悪くするものやインテリアが合わないのを嫌うこともあるからね。
だから宋平くんは素顔を晒せるわけさ。まぁ使い方によってはパニックルームとかって呼ばれたりもするかな】
ほへー。お金持ちはそういうのも許せないのか、そしてそれをなんとかできる機転が凄いや。
そんな話を聞いていたらアイスはすぐに完食してしまった。
『お楽しみいただけたでしょうか? ああ、そちらはそのままで。お気遣いいただき、ありがとうございます。
この後もどうぞ、当館での催しをお楽しみ下さい』
丁度マスクをした後にタイミングよく現れたお兄さんに深くお辞儀をしてから部屋を出る。美味しいアイスに絶品のアイスティーでご機嫌になっていた俺は知らない。
背後で、無言のまま手袋をして俺の使った食器類を全てビニール袋に入れる謎のウェイターの行動を。
『また迷子だって? ったく、ナビ付けてやっても変わんねぇなぁ』
『うっ。ご、ごめんなさい…』
その後は会場で静かに生演奏が始まったりしたが、殆どBGM状態。何人もの人が低姿勢でボスに挨拶に来て再び俺はその背中にそっと隠れる。
丁度来てから三十分程が経過した頃だろうか。唐突に耳元から少し切羽詰まった声が聞こえた。
【…犬飼です。只今、スピーカーモードにて全員に情報を共有させます。
会場付近にて妙なトラックを複数確認。招待客に該当なし、内部に熱反応有り。周囲の通信を傍受しようと試みましたが失敗しました。
要警戒願います】
…警戒?
早口の犬飼の言葉を理解しようとした瞬間、右手首をボスに掴まれるとすぐに会場の端へと連れて行かれる。刃斬を見れば懐に手を忍ばせながらスマホで誰かに連絡を取っていた。
『…バーストラップじゃなくて肉弾戦を所望か。何かあるな』
『恐らく。余程の自信がなければ仕掛けないはずですが』
そこからは、あっという間の出来事だ。
演奏が終わって拍手が起こると、あらゆる場所に置かれた白いテーブルクロスに覆われたテーブルからガスのようなものが噴射された。真っ白なそれに会場中がパニックになり、勿論俺たちのすぐ近くにあったテーブルからもガスが出て、
挙げ句の果てには天井からもダメ押しとばかりに噴射してきた。
『っボス…!!』
慌ててボスに自分がしていたマスクをさせるが、あまりの量で部屋は完全に真っ白になる。すぐに刃斬によって地面に倒されると自分もポケットからハンカチを出して口と鼻を覆う。
暫くすると、バタバタと人が倒れる音がする。視界も悪く人々の混乱する叫び声や走り回る音。巻き込まれることを危惧してか、ボスはずっと壁際に俺を押し付けてくれていた。
一体なにが…、そもそもこの煙はなんだ?
『…っボス、脱出を。窓は全て上部に位置されている上に空調も破壊されるかと。この部屋から出るしかありません。先導します』
『通信もやられたな。気ィ付けな。この煙、どうやらかなり即効性が強ェ』
刃斬の先導で移動しようとした瞬間、瞬時にバランサーへと切り替えて周囲の情報を一つでも得ようとした。刹那、取り入れた情報を処理し切る前にボスの服を引っ張る。
『動いちゃダメだ…!』
『どうした?!』
バランサーは兎に角、五感が鋭くなる。そんな中で感じた異変は嗅覚に聴覚。今まで煙のせいでよくわからなかったが小さな音が鳴り続けている上に、嫌な匂いを嗅ぎ取る。
嗅いだことのあるそれは、ガスの匂いに他ならなかった。
『ガス臭いっ…!!』
『…! ボスっ、失礼します!!』
刃斬が咄嗟にボスと俺を覆うようにして押し倒すと同時に会場の入口辺りから酷い爆発音がした。どうやら会場の外で起こったらしいがあまりの威力に熱風で色んなものが飛んできて刃斬の背中に当たる。
『あにきっ』
『まだ動くな! …っ、これからが本番ってもんよ』
火事にはなっていないようだが匂いがよくわからなくなってしまった。
切り替えて耳を澄ませる。するとバランサーの耳が外からする足音を感知する。すぐに聞こえたのも無理はない、それは恐らく相当の重装備で体が重くなっているのかしっかりとした複数の足音だった。
だがそれだけではない。会場に一気に押し込まれた、フェロモン。何者かによるバーストラップ。相当なヒートを起こしたオメガでもいるのか、酷く甘ったるい匂いが会場を駆け抜ける。
『よいしょ、っと!』
刃斬の腕から抜け出して二人を庇うように前に出るとバランサーとして滲む力がオメガのフェロモンを霞ませる。怯む二人に横から襲い掛かる人物。それを死角から手元に落ちて来た絵画をぶん投げて倒すと思わずガッツポーズをしてしまう。初動さえ防いでしまえば後は二人だって上位アルファ、遅れは取らない。
『よし、よくやった…!』
刃斬が乱雑に俺の頭を撫でるとすぐにボスが走り出し、そのすぐ後を刃斬と俺が続く。ふと耳に付いたインカムを弄るが雑音しか聞こえない。
…通信もやられたんだ。
『この城から脱出する。襲撃者の目的は不明だが、ボスの安全を第一に。通信が途絶えた瞬間、援護が送り込まれる。それまでは生き延びろよ』
間もなく始まる、最悪の夜の死闘。
己の人生で一番の難所に当たるとも知らない俺は、無邪気なまま褒めてくれる二人の賛辞を受け取るのだった。
.
『ああ。丁度挨拶も途切れたしな、行ってこい。会場出てすぐ右だ。迷子になるなよ』
刃斬に許可をもらい、ボスにも一言掛けてから早足でトイレに向かうと今まで静かだったインカムから多少の雑音が聞こえた。
【あ、あー、聞こえてる? 宋平くんが一人になるからって駆り出された犬飼だよ】
『わ。犬飼の兄貴だ…、聞こえてるよ』
凄い! なんかスパイ映画みたいだ!
【前から思ってたけど名前長いし犬飼で良いよ。わかったら早く用足して戻ってね】
『…なんか言い方が嫌。わかったよ、犬飼さん…』
犬飼のサポートもあり迷うことなくトイレに行けた。大して混んでないし、すんなりと会場に戻るが今度はボスたちが何処かわからなくなってしまった。
えーっと、確か…あの辺の絵画の近くだったような気がする。
『こちらで軽食のサービスをしております。宜しければ如何でしょうか』
『ぇ…?』
誰かに声を掛けられたかと思えば、ウェイターのお兄さんだった。比較的若い彼は銀色に輝くお盆を抱えながらにこやかに近くのテーブルへ案内してくれる。
『チーズにサンドイッチ、飲み物はワインにシャンパン、勿論緑茶にアイスティーとノンアルコールもご用意してあります。
ケーキに、この度は産地にこだわった濃厚アイスクリームもご用意してありますよ』
アイス…!!
奥の洒落たクーラーボックスには国産厳選品のみ使用! とデカデカと書かれた大変魅力的な見出しが俺を誘う。
こんなところでそんな美味しそうなものが食べれるなんて…!!
【あーあ。完全にウチの弟分が好物で釣られてるよ。こういうところでは飲食はしないのがこの業界の常識なんだけどねぇ、例外もあるけど】
耳元の言葉に意識を取り戻すと、ふと自分のマスクに気付いて渋々首を振る。
仕事中だしな。早いとこボスのとこ戻んねーと。
『…宜しければ、そちらのシークレットルームをお使いになりますか? 体調を崩した方などの為に用意された個室です。お食事の間、必要であればお使い下さい』
お兄さんに案内されたのは簡易的な部屋だが一人掛け用の真っ赤なソファにテーブルがあり、リラックスできるように小さくクラシックが流れていて驚く。
確かに、ここでならマスクを外してアイスが食べれそうだけど…。
『是非ご賞味下さい。シェフが腕を振るった最高の逸品ばかりですよ』
じゅるり。
完全に目がアイスに向くも、お仕事…しかも今は護衛中だと必死に自分に言い聞かせる。だけど意外にも耳元から天啓が降る。
【まぁ、アイスくらいならチャチャっと食べちゃいなよ。折角の機会だしね。刃斬サンに怒られないように早くしなさいよ、トイレ混んでるって伝えとくから】
神か?
犬飼からの許可が降りてウキウキしていると、アイスを貰って部屋へと入る。木製のスプーンか、すぐにアイスをすくえるアルミ製のかを選ばせてもらえるようで噂に聞くすぐにすくえる熱伝導スプーンを手に取る。
これ一度試してみたかったんだよなぁ。
『それでは、ごゆっくり。ああ…こちらは今日の為にブレンドされたスペシャルアイスティーです。アイスに合うので是非ともご一緒に』
丁寧にコースターの上に乗せられたアイスティー。氷が丸になっていてストローで突くとコロコロとして大変楽しい。
ワクワクしながらマスクを外してアイスにスプーンを差せば、あっという間にカチカチのアイスをすくえる。口に入れると緊張していた熱を冷ますようにアイスが溶けて濃厚なミルクの風味が広がる。
うっま~っ!!
『美味しいよぉ…、これがコンビニで気軽に買えたらなぁ…』
猿石にも食べさせてあげたい…。
【えげつない値段するだろうけどね】
パクパクと食べ進めるとアイスはすぐになくなってしまう。アイスティーを飲み干すと火照った身体も丁度良くなる。
人混みに緊張でかなり暑かったもんな、マスクは蒸れるし。
『…それにしても、この部屋…窓から見たのと家具の位置が違うような?』
【外からじゃ誰が何してるかわからないようにしてるんだよ。そこにある扉も見えなかったでしょ? 景観悪くするものやインテリアが合わないのを嫌うこともあるからね。
だから宋平くんは素顔を晒せるわけさ。まぁ使い方によってはパニックルームとかって呼ばれたりもするかな】
ほへー。お金持ちはそういうのも許せないのか、そしてそれをなんとかできる機転が凄いや。
そんな話を聞いていたらアイスはすぐに完食してしまった。
『お楽しみいただけたでしょうか? ああ、そちらはそのままで。お気遣いいただき、ありがとうございます。
この後もどうぞ、当館での催しをお楽しみ下さい』
丁度マスクをした後にタイミングよく現れたお兄さんに深くお辞儀をしてから部屋を出る。美味しいアイスに絶品のアイスティーでご機嫌になっていた俺は知らない。
背後で、無言のまま手袋をして俺の使った食器類を全てビニール袋に入れる謎のウェイターの行動を。
『また迷子だって? ったく、ナビ付けてやっても変わんねぇなぁ』
『うっ。ご、ごめんなさい…』
その後は会場で静かに生演奏が始まったりしたが、殆どBGM状態。何人もの人が低姿勢でボスに挨拶に来て再び俺はその背中にそっと隠れる。
丁度来てから三十分程が経過した頃だろうか。唐突に耳元から少し切羽詰まった声が聞こえた。
【…犬飼です。只今、スピーカーモードにて全員に情報を共有させます。
会場付近にて妙なトラックを複数確認。招待客に該当なし、内部に熱反応有り。周囲の通信を傍受しようと試みましたが失敗しました。
要警戒願います】
…警戒?
早口の犬飼の言葉を理解しようとした瞬間、右手首をボスに掴まれるとすぐに会場の端へと連れて行かれる。刃斬を見れば懐に手を忍ばせながらスマホで誰かに連絡を取っていた。
『…バーストラップじゃなくて肉弾戦を所望か。何かあるな』
『恐らく。余程の自信がなければ仕掛けないはずですが』
そこからは、あっという間の出来事だ。
演奏が終わって拍手が起こると、あらゆる場所に置かれた白いテーブルクロスに覆われたテーブルからガスのようなものが噴射された。真っ白なそれに会場中がパニックになり、勿論俺たちのすぐ近くにあったテーブルからもガスが出て、
挙げ句の果てには天井からもダメ押しとばかりに噴射してきた。
『っボス…!!』
慌ててボスに自分がしていたマスクをさせるが、あまりの量で部屋は完全に真っ白になる。すぐに刃斬によって地面に倒されると自分もポケットからハンカチを出して口と鼻を覆う。
暫くすると、バタバタと人が倒れる音がする。視界も悪く人々の混乱する叫び声や走り回る音。巻き込まれることを危惧してか、ボスはずっと壁際に俺を押し付けてくれていた。
一体なにが…、そもそもこの煙はなんだ?
『…っボス、脱出を。窓は全て上部に位置されている上に空調も破壊されるかと。この部屋から出るしかありません。先導します』
『通信もやられたな。気ィ付けな。この煙、どうやらかなり即効性が強ェ』
刃斬の先導で移動しようとした瞬間、瞬時にバランサーへと切り替えて周囲の情報を一つでも得ようとした。刹那、取り入れた情報を処理し切る前にボスの服を引っ張る。
『動いちゃダメだ…!』
『どうした?!』
バランサーは兎に角、五感が鋭くなる。そんな中で感じた異変は嗅覚に聴覚。今まで煙のせいでよくわからなかったが小さな音が鳴り続けている上に、嫌な匂いを嗅ぎ取る。
嗅いだことのあるそれは、ガスの匂いに他ならなかった。
『ガス臭いっ…!!』
『…! ボスっ、失礼します!!』
刃斬が咄嗟にボスと俺を覆うようにして押し倒すと同時に会場の入口辺りから酷い爆発音がした。どうやら会場の外で起こったらしいがあまりの威力に熱風で色んなものが飛んできて刃斬の背中に当たる。
『あにきっ』
『まだ動くな! …っ、これからが本番ってもんよ』
火事にはなっていないようだが匂いがよくわからなくなってしまった。
切り替えて耳を澄ませる。するとバランサーの耳が外からする足音を感知する。すぐに聞こえたのも無理はない、それは恐らく相当の重装備で体が重くなっているのかしっかりとした複数の足音だった。
だがそれだけではない。会場に一気に押し込まれた、フェロモン。何者かによるバーストラップ。相当なヒートを起こしたオメガでもいるのか、酷く甘ったるい匂いが会場を駆け抜ける。
『よいしょ、っと!』
刃斬の腕から抜け出して二人を庇うように前に出るとバランサーとして滲む力がオメガのフェロモンを霞ませる。怯む二人に横から襲い掛かる人物。それを死角から手元に落ちて来た絵画をぶん投げて倒すと思わずガッツポーズをしてしまう。初動さえ防いでしまえば後は二人だって上位アルファ、遅れは取らない。
『よし、よくやった…!』
刃斬が乱雑に俺の頭を撫でるとすぐにボスが走り出し、そのすぐ後を刃斬と俺が続く。ふと耳に付いたインカムを弄るが雑音しか聞こえない。
…通信もやられたんだ。
『この城から脱出する。襲撃者の目的は不明だが、ボスの安全を第一に。通信が途絶えた瞬間、援護が送り込まれる。それまでは生き延びろよ』
間もなく始まる、最悪の夜の死闘。
己の人生で一番の難所に当たるとも知らない俺は、無邪気なまま褒めてくれる二人の賛辞を受け取るのだった。
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