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『そーへーっ!! おら、何処行った迷子ォ! お前どんだけアジトで迷子になりゃ気が済むんだ!』
『ずみまぜんんっ!!』
わーん、と涙ぐみながら迎えに来てくれた兄貴たちに駆け寄ると仕方ないとばかりに頭を軽く叩かれる。
昨日から晴れてヤクザの仲間入りをしてしまった俺は次の日もアジトに来ていた。連休だし予定もないと言ったら多少は馴染んでおけと下っ端の兄貴たちの部屋に放り込まれ、雑用をしていたのだが。
『だって…、ビル広いし全部黒いしっ何階とかも書いてないし地図もなくて…』
『敵勢力が突っ込んでくるかもしんねーのに親切に地図なんか書いとくバカいるわけねーだろ』
ショッピングモールじゃねーんだぞ、とペチペチと頬を叩かれると再び嘘泣き開始。
覚えられるかチクショウ!!
『流石におつかいはまだ早ぇって』
『したら何さすんだよ。ずっと溜まり部屋にいても同じ奴しかいねーじゃん』
『急いても仕方ねぇって。十五の舎弟が出来たなんてあっという間に広まるだろうし、その内周知されんだろーよ』
お兄様方は意外と面倒見が良い。顔面凶器だし、口を開けば大変教育に宜しくない言語を操るが腕っぷしは間違いないんだろう。大半のメンバーは筋骨隆々な上にアルファが多い。体格に恵まれるのはアルファの特徴の一つだ。
『…兄貴たちは普段は何をするんですか?』
『そうだな…。基本的には金の回収にシマの見回り。取引の現場で護衛、…後は…色々だ』
へー…結構色々あるんだなぁ。
ぞろぞろとみんなで部屋に戻る。そこは基本、溜まり部屋と呼ばれる部屋で自由に使って良い憩いの場だ。他の部屋より圧倒的に広々としていて畳のスペースなんかもあり快適で寝ている人やスマホを弄る人、テレビを見ている人など様々。
『戻ったは良いが、そろそろ昼だな』
『腹減ったなー。なんか頼むか』
そんな言葉を皮切りに次々とみんなが壁にぶら下がっていた出前用のメニューを取る。
ほう。出前が一般的なのか。
『宋平! お前なんにする?』
『俺、お弁当持って来たから大丈夫です』
生憎と出前を取れるほどの金銭的な余裕はないんだよなぁ、借金うん千万の世界だし。
畳の隅に置いてあった鞄からお弁当箱を取り出すとみんなが興味津々、とばかりに寄って来た。弁当だ、弁当? みたいな言葉が飛び交うからちょっと面白い。
『…それ、まさかお前自分でか?』
『はい。いつもは兄たちが作ってくれるんですけどお休みの日だから…パパッと作って持って来ました』
兄貴だけは未だ部屋で寝ていたみたいだから、料理の痕跡を残さないよう静かに作って最速で仕上げた。おにぎりを頬張り、水筒のお茶をグビグビ飲んでいると物珍しそうにしていた一人が話し掛けてきた。
『宋平。茶は給湯室で好きに淹れて良いから、水筒は持って来なくて良いぜ? それ重いだろ』
『…良いんですか?』
『おう! 弁当も冷蔵庫あるから、好きに入れろよ』
『宋平! レンジも使って良いんだからな!』
次々に声を掛けられ、嬉しくて何度も頷く。畳で寝転がっていた人がズイ、とお弁当を覗き込むと無言で卵焼きを指差す。他の人がボカボカとその人の頭を殴るが構わず卵焼きを口に放ってあげた。
『…んめぇ』
更にわらわらと人が集まって来てお弁当を覗かれる。流石に恥ずかしくなって来たところで出前が続々と到着したらしい。人手がいるようでみんなが出払い、ようやく静かにお弁当を突く。
これからも夕飯用にお弁当作ったりしないとなぁ。というか、バイト始めたって兄ちゃんたちに言わなきゃ。
それから俺は頑張ってビルの部屋を覚えたり、簡単な書類の記入や運搬などをした。何度か刃斬が様子を見に来たが他の兄貴たちにしっかりと着いていく姿に安心したようですぐに持ち場に戻ってしまった。
『宋平ー! お前もう帰って良いってよ! お疲れさん』
『はーい。本日はお世話になりました。お先に失礼します!』
お疲れー、お疲れ様ー。と各所から声が響く。エレベーターに乗り込もうとボタンを押すと、すぐに一番左のやつが来たのでそれに乗り込む。
ラッキー!
『…あ?
なぁ、もしかしてアイツ…ボスんとこの直行エレベーター乗ったか…?』
エレベーターに乗り込むとすぐに上へと上がって行ってしまう。誰かが上の階にいて先にボタン押してるんだなー、なんて暢気に考えていたらとある階にてエレベーターが完全に止まってしまう。
【QRコードを翳してください】
…ん?
機械から発せられる言葉に頭の中は疑問符でいっぱいだ。
QRコード? え。いや、知らないけど。
【QRコードを翳してください】
『…わ、わからん。取り敢えずもう一回ロビーのボタンを…』
【QRコードを翳してください】
受け付けてくれないんですけど!!
何度もロビーのボタンを押すが、ウンともスンとも言わない…というかQRコードしか言わない!
嘘だろ?! これって確実に閉じ込められてないか?!
『うわぁあああ!! やだーっ、出してくれー!』
エレベーター…密室、死…。
閉塞感と絶望感によって完全に泣き出した俺はバンバンと扉を叩く。このまま死ぬのでは、という恐怖が最高潮に達した瞬間…何故か赤い光が灯ってゆっくりと扉が開く。
『…何騒いでんだ』
『はっ。ぼ、ボスぅううー!!』
扉が開いた先には真っ黒な着流しに身を包んだボスが気怠げに立っていた。迷うことなくボスの身に突進した俺はえぐえぐと情けなく泣きながらエレベーターを指差す。
『もうエレベーターなんか乗んないですっ、ずっとQRとかわけわかんないこと言って…! 俺はロビーのボタン押したのにぃ~っ』
階段だ! これからは階段使うからな、このポンコツエレベーターが!
『うっ、うぅ…死ぬかと思った、腰抜けた』
『お前はビビリなのか度胸があんのか、わけわかんねェな。ったく…ウチのモンが、んなピーピー泣くんじゃねェよ。ほら、来い』
ボスに抱っこをされると、静かに閉まるエレベーターが目に入る。思わずベッ、と舌を出すとボスの肩に顔を突っ伏す。
はぁ…。おんなじ体温、マジ安心する…。
『良いか? 向かって一番左のはこの階に直行のエレベーターだ。三つエレベーターがあるフロアじゃ俺に用がない限りは左のには乗るな。この階には専用のQRコードがねェと入れねェんだよ』
ソファに下ろされると、ボスから直々にエレベーターの種明かしをされてほーん…と聞き入る。まさかそんな仕組みとは思わず驚いた。
だって完全にエレベーターぶっ壊れたと思ったし。
『俺の部屋にはあのエレベーターの内部が映された防犯カメラがある。偶々それを見てみりゃ…、泣き叫ぶガキがいるもんだから我が目を疑ったぜ』
はいごめんなさい、もうしません。
未だに笑みを浮かべるボスは俺の目尻から涙を拭ってくれた。すると机の上に置かれたスマホが振動し、ボスがそれを取る。
どうやら電話らしい。
『…なんだ。ああ、此処にいる。出られなくなってピーピー泣いてたから、今慰めてるとこだ』
大きな手が頭に乗せられ優しく撫でられる。明らかに俺のことを話しているとわかる会話だ。きっと瞬く間にこの醜態が広がるに違いない、泣きそう。
『いや、良い。俺が下まで送る。…良いってんだろ、黙れ』
ピッ。と通話を切ると社長椅子に掛けてあった上着を取り、ボスが下を指差す。
『おら迷子。この俺が直々に送ってやるから、行くぞ』
『えー…エレベーター乗るんですか…?』
階段なんかで行けるか、と笑うボスに促されてソファから立つと広い背中を追っていく。先にエレベーターに乗ったボスの前であからさまに嫌そうな顔をすると、そっと手を伸ばされる。
『なんだ。この俺が一緒にいて、怖いモンでもあるってえのか?』
『…うう。俺が良いって言うまで離れないで下さいよ、絶対約束ですからね!』
『喧しい新入りだな。俺は約束は破らねェよ』
エレベーターに乗り込むとボスの左腕にしっかりとしがみ付き、電子版の数字が少なくなっていく様子を齧り付くように見つめていた。
…確かにこのエレベーターは、兄貴たちと乗ったやつより早いし中も豪華な気がする。
『着いたぞ』
今度はしっかりとロビーに着いた。ボスが降りるから若干引き摺られるようにして一緒に出ると、エレベーターの前で頭を下げて待機していた人たちが俺を見てギョッとしている。
『で? 俺はいつまでお前から離れちゃならねェんだ?』
『うぐ。た、大変ありがとうございました…もう離れていただいて大丈夫デス』
そうかよ、と笑うボスからそっと離れる。
『宋平』
自動ドアまで歩いているとボスに呼ばれて小走りで近くまで戻る。袖から何かを取り出したボスがそれを渡してきたので受け取れば、真っ黒な最新式のスマホだった。
『仕事用だ。必要な連絡先やらは全て入ってる。しっかり充電して肌身離さず持ってな』
『貰って良いんですか?! やったー!』
最新式だ、ワーイ!!
『なんかあったらそれ、絶対ェ壊せよ』
『あ。はい』
まぁ、重要機密ですもんね…御意。
『ま。それを壊す機会がないよう、精々お祈りしておくんだな』
『…ボスぅ。それフラグです…』
再びお礼を言ってからアジトを出る。自動ドアを出る間際、チラッと後ろを振り返ったけどそこにはもう誰もいなかった。暗くなり始めた街を駆け、駅まで走る。
『早くしねーとっ、これ逃したら暫くない…!』
急げー、と走る俺のとんでもないバイトが始まった。
.
『ずみまぜんんっ!!』
わーん、と涙ぐみながら迎えに来てくれた兄貴たちに駆け寄ると仕方ないとばかりに頭を軽く叩かれる。
昨日から晴れてヤクザの仲間入りをしてしまった俺は次の日もアジトに来ていた。連休だし予定もないと言ったら多少は馴染んでおけと下っ端の兄貴たちの部屋に放り込まれ、雑用をしていたのだが。
『だって…、ビル広いし全部黒いしっ何階とかも書いてないし地図もなくて…』
『敵勢力が突っ込んでくるかもしんねーのに親切に地図なんか書いとくバカいるわけねーだろ』
ショッピングモールじゃねーんだぞ、とペチペチと頬を叩かれると再び嘘泣き開始。
覚えられるかチクショウ!!
『流石におつかいはまだ早ぇって』
『したら何さすんだよ。ずっと溜まり部屋にいても同じ奴しかいねーじゃん』
『急いても仕方ねぇって。十五の舎弟が出来たなんてあっという間に広まるだろうし、その内周知されんだろーよ』
お兄様方は意外と面倒見が良い。顔面凶器だし、口を開けば大変教育に宜しくない言語を操るが腕っぷしは間違いないんだろう。大半のメンバーは筋骨隆々な上にアルファが多い。体格に恵まれるのはアルファの特徴の一つだ。
『…兄貴たちは普段は何をするんですか?』
『そうだな…。基本的には金の回収にシマの見回り。取引の現場で護衛、…後は…色々だ』
へー…結構色々あるんだなぁ。
ぞろぞろとみんなで部屋に戻る。そこは基本、溜まり部屋と呼ばれる部屋で自由に使って良い憩いの場だ。他の部屋より圧倒的に広々としていて畳のスペースなんかもあり快適で寝ている人やスマホを弄る人、テレビを見ている人など様々。
『戻ったは良いが、そろそろ昼だな』
『腹減ったなー。なんか頼むか』
そんな言葉を皮切りに次々とみんなが壁にぶら下がっていた出前用のメニューを取る。
ほう。出前が一般的なのか。
『宋平! お前なんにする?』
『俺、お弁当持って来たから大丈夫です』
生憎と出前を取れるほどの金銭的な余裕はないんだよなぁ、借金うん千万の世界だし。
畳の隅に置いてあった鞄からお弁当箱を取り出すとみんなが興味津々、とばかりに寄って来た。弁当だ、弁当? みたいな言葉が飛び交うからちょっと面白い。
『…それ、まさかお前自分でか?』
『はい。いつもは兄たちが作ってくれるんですけどお休みの日だから…パパッと作って持って来ました』
兄貴だけは未だ部屋で寝ていたみたいだから、料理の痕跡を残さないよう静かに作って最速で仕上げた。おにぎりを頬張り、水筒のお茶をグビグビ飲んでいると物珍しそうにしていた一人が話し掛けてきた。
『宋平。茶は給湯室で好きに淹れて良いから、水筒は持って来なくて良いぜ? それ重いだろ』
『…良いんですか?』
『おう! 弁当も冷蔵庫あるから、好きに入れろよ』
『宋平! レンジも使って良いんだからな!』
次々に声を掛けられ、嬉しくて何度も頷く。畳で寝転がっていた人がズイ、とお弁当を覗き込むと無言で卵焼きを指差す。他の人がボカボカとその人の頭を殴るが構わず卵焼きを口に放ってあげた。
『…んめぇ』
更にわらわらと人が集まって来てお弁当を覗かれる。流石に恥ずかしくなって来たところで出前が続々と到着したらしい。人手がいるようでみんなが出払い、ようやく静かにお弁当を突く。
これからも夕飯用にお弁当作ったりしないとなぁ。というか、バイト始めたって兄ちゃんたちに言わなきゃ。
それから俺は頑張ってビルの部屋を覚えたり、簡単な書類の記入や運搬などをした。何度か刃斬が様子を見に来たが他の兄貴たちにしっかりと着いていく姿に安心したようですぐに持ち場に戻ってしまった。
『宋平ー! お前もう帰って良いってよ! お疲れさん』
『はーい。本日はお世話になりました。お先に失礼します!』
お疲れー、お疲れ様ー。と各所から声が響く。エレベーターに乗り込もうとボタンを押すと、すぐに一番左のやつが来たのでそれに乗り込む。
ラッキー!
『…あ?
なぁ、もしかしてアイツ…ボスんとこの直行エレベーター乗ったか…?』
エレベーターに乗り込むとすぐに上へと上がって行ってしまう。誰かが上の階にいて先にボタン押してるんだなー、なんて暢気に考えていたらとある階にてエレベーターが完全に止まってしまう。
【QRコードを翳してください】
…ん?
機械から発せられる言葉に頭の中は疑問符でいっぱいだ。
QRコード? え。いや、知らないけど。
【QRコードを翳してください】
『…わ、わからん。取り敢えずもう一回ロビーのボタンを…』
【QRコードを翳してください】
受け付けてくれないんですけど!!
何度もロビーのボタンを押すが、ウンともスンとも言わない…というかQRコードしか言わない!
嘘だろ?! これって確実に閉じ込められてないか?!
『うわぁあああ!! やだーっ、出してくれー!』
エレベーター…密室、死…。
閉塞感と絶望感によって完全に泣き出した俺はバンバンと扉を叩く。このまま死ぬのでは、という恐怖が最高潮に達した瞬間…何故か赤い光が灯ってゆっくりと扉が開く。
『…何騒いでんだ』
『はっ。ぼ、ボスぅううー!!』
扉が開いた先には真っ黒な着流しに身を包んだボスが気怠げに立っていた。迷うことなくボスの身に突進した俺はえぐえぐと情けなく泣きながらエレベーターを指差す。
『もうエレベーターなんか乗んないですっ、ずっとQRとかわけわかんないこと言って…! 俺はロビーのボタン押したのにぃ~っ』
階段だ! これからは階段使うからな、このポンコツエレベーターが!
『うっ、うぅ…死ぬかと思った、腰抜けた』
『お前はビビリなのか度胸があんのか、わけわかんねェな。ったく…ウチのモンが、んなピーピー泣くんじゃねェよ。ほら、来い』
ボスに抱っこをされると、静かに閉まるエレベーターが目に入る。思わずベッ、と舌を出すとボスの肩に顔を突っ伏す。
はぁ…。おんなじ体温、マジ安心する…。
『良いか? 向かって一番左のはこの階に直行のエレベーターだ。三つエレベーターがあるフロアじゃ俺に用がない限りは左のには乗るな。この階には専用のQRコードがねェと入れねェんだよ』
ソファに下ろされると、ボスから直々にエレベーターの種明かしをされてほーん…と聞き入る。まさかそんな仕組みとは思わず驚いた。
だって完全にエレベーターぶっ壊れたと思ったし。
『俺の部屋にはあのエレベーターの内部が映された防犯カメラがある。偶々それを見てみりゃ…、泣き叫ぶガキがいるもんだから我が目を疑ったぜ』
はいごめんなさい、もうしません。
未だに笑みを浮かべるボスは俺の目尻から涙を拭ってくれた。すると机の上に置かれたスマホが振動し、ボスがそれを取る。
どうやら電話らしい。
『…なんだ。ああ、此処にいる。出られなくなってピーピー泣いてたから、今慰めてるとこだ』
大きな手が頭に乗せられ優しく撫でられる。明らかに俺のことを話しているとわかる会話だ。きっと瞬く間にこの醜態が広がるに違いない、泣きそう。
『いや、良い。俺が下まで送る。…良いってんだろ、黙れ』
ピッ。と通話を切ると社長椅子に掛けてあった上着を取り、ボスが下を指差す。
『おら迷子。この俺が直々に送ってやるから、行くぞ』
『えー…エレベーター乗るんですか…?』
階段なんかで行けるか、と笑うボスに促されてソファから立つと広い背中を追っていく。先にエレベーターに乗ったボスの前であからさまに嫌そうな顔をすると、そっと手を伸ばされる。
『なんだ。この俺が一緒にいて、怖いモンでもあるってえのか?』
『…うう。俺が良いって言うまで離れないで下さいよ、絶対約束ですからね!』
『喧しい新入りだな。俺は約束は破らねェよ』
エレベーターに乗り込むとボスの左腕にしっかりとしがみ付き、電子版の数字が少なくなっていく様子を齧り付くように見つめていた。
…確かにこのエレベーターは、兄貴たちと乗ったやつより早いし中も豪華な気がする。
『着いたぞ』
今度はしっかりとロビーに着いた。ボスが降りるから若干引き摺られるようにして一緒に出ると、エレベーターの前で頭を下げて待機していた人たちが俺を見てギョッとしている。
『で? 俺はいつまでお前から離れちゃならねェんだ?』
『うぐ。た、大変ありがとうございました…もう離れていただいて大丈夫デス』
そうかよ、と笑うボスからそっと離れる。
『宋平』
自動ドアまで歩いているとボスに呼ばれて小走りで近くまで戻る。袖から何かを取り出したボスがそれを渡してきたので受け取れば、真っ黒な最新式のスマホだった。
『仕事用だ。必要な連絡先やらは全て入ってる。しっかり充電して肌身離さず持ってな』
『貰って良いんですか?! やったー!』
最新式だ、ワーイ!!
『なんかあったらそれ、絶対ェ壊せよ』
『あ。はい』
まぁ、重要機密ですもんね…御意。
『ま。それを壊す機会がないよう、精々お祈りしておくんだな』
『…ボスぅ。それフラグです…』
再びお礼を言ってからアジトを出る。自動ドアを出る間際、チラッと後ろを振り返ったけどそこにはもう誰もいなかった。暗くなり始めた街を駆け、駅まで走る。
『早くしねーとっ、これ逃したら暫くない…!』
急げー、と走る俺のとんでもないバイトが始まった。
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