純潔なオークはお嫌いですか?

せんぷう

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勇者の証

ナラの真実

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 Side:ジゼルヴァ

 待ち伏せか…!!

 戦闘態勢に入ろうとしたが、何か…違和感がある。大きな個体が小さな個体を抱き上げてこちらに歩いて来て…より近付くとその正体がわかった。

 大きい方は数年前、儂を投げ飛ばしたキングオークであり小さい方はあの神の魔法で消し炭になったはずの個体だった。

『…馬鹿な、あの時…確実に殺したはずだ…』

 キングオークは不死身なのか?!

『で、殿下…!』

 ダイダラに呼ばれて同じ方角を見る。そして、更なる苦境を理解して思わず下唇を噛んだ。

 二体のキングオークの更に向こうには三体の上位魔族…そしてまた向こうには何体ものハイオークやオークの軍勢がいた。その旗印は、オークのもの以外に驚愕すべきものがある。

 の旗印。

 噂程度にしか聞いていなかったが、あの旗が掲げられるのはそこに魔王がいる時のみ。

『魔王、だと…?!』

 儂らが動けないでいる中、二体は何かを話すと大きい方が渋る中…小さい方のキングオークだけが更に近付いて来る。少しだけ距離を空けた場所で立ち止まったキングオーク。

 …随分と、整った容姿をしている。

 しかも髪はエメラルドグリーン。金と銀が混じる不思議な瞳をした幼いキングオークは、その目に儂らを写すと何故か嬉しそうに笑った。

 な、なんだ…?!

 ギリギリまだ、逃げられる距離。マキヤが退路を確保しようとしている気配を感じてなんとか逃げようと思考を巡らせる。

 だが、一歩でも多く距離を稼ぎたいこの状況で、何故かダイダラが前に出た。

『早まるなよっダイダラ…!』

『…ですが、殿下…』

 こんな戦況では頭が変になるだろう。ダイダラの腕を掴んで一斉に回れ右をし、走り出す。その瞬間、後ろから焦ったような声が聞こえたが、すぐ後でドサリと妙な音がした。

 この音…、転んだのか?

 そう理解した瞬間…儂は無意識に振り返ってしまった。それはダイダラも同じで、手まで下に伸ばしかけ。

 長らく子どもの世話をしてきた。だから、背後でそうした音がした時はあの子が転んでしまったのだと脳が勝手に判断して身体が動く。

 思った通り、キングオークの子どもは転んでいた。その反動で首から下げていたネックレスが取れてしまったようでコロコロと転がって来る。

『…は?』

 足元に転がって来たそれには既視感しかない。

 …だってこれは、ラックのものだ。

 それだけではない。パカリ、と開いたペンダントは特殊な造りをしているようで開閉が出来たらしい。その中からポロッと出て来た何か。

 アガーネス王家の紋章が刻まれた美しいエメラルド。この世に二つとないそれを持ち、ラックのペンダントを持ち、エメラルドグリーンの髪を持つ者。

 儂は宝石を。ダイダラはペンダントを持って、顔を上げた。

 先程までそこにいたはずの幼いキングオークはいなくなり、目の前には…最愛の子どもが俯いたまま立っていた。

『ラック…? は、なんだ…キングオークの見せる幻覚か?!』

 訳がわからない。今、どんな顔をするのが正解なのか全くわからない。混乱を極めた儂ら。少しの間、黙っていたラックが重い口を開く。

『…ラック、二人のことずっと騙してたの』

 再びキングオークへと変化した子どもは和装の裾を握りしめて俯いたままだ。

『ラックの本当の名前は、ナラ・

 らく、しゃみー…ラクシャミー?!

 堪らず復唱した儂らにラック…否、ナラは俯いた顔を更に深く下げる。

『…ナラはキングオークの末席まっせき。あの日、初めて戦に連れて行ってもらって…二人と、もっと仲良くなりたくて人族のフリをして会いに行ったの。

 ナラは…人間と、お喋りしたくて…友だちに、なりたかったんだ』

 そう言われるとあの頃は妙に都合よく日々を過ごせていた。性奴隷にも関わらず最後のあの日を除いて誰にも呼ばれず、清いまま。ラクシャミーが差し入れてくれる食べ物で十分生きていけたし、寒さもかなりマシだった。

 初対面からシーツを被っていた子ども…、何者かの手付きで顔を見せられないのだと勝手に解釈していたが、違った。

 キングオークだから、見せられなかった…ということなのか?

『…何故、最初から人族に擬態して接触しなかった』

『死んでから変身できるようになったから…、それまでナラは何も出来ないキングオーク。死んでようやく力を手に入れて、君たちを見つけた。

 だから、今度こそ…人族の姿ならあの時よりも、もっと仲良くなれると思って…それで…』

 ああ。そうか。

 儂はこの子を、やっぱり殺していたのか…。

『…あ、ちがうっ違うよ!! 確かにナラは死んだけどっ、助けてくれたのもジゼだもん!

 天界族が…あー、人族的には神様かな。この宝石の持ち主がね、時間を掛けてナラを生き返らせてくれたんだ。ジゼたちを救ってくれたからって…他にも、まぁ…ごちゃごちゃ言ってたけど。

 ジゼがナラを助けてくれたの。だから、平気…ナラは勝手に飛び出して死んだ。それをジゼのくれた宝石が救ってくれた! だから、…そういうこと!』

 神が…?

 必死になって儂は悪くないのだと熱弁するナラ。その姿は間違いなく儂らのよく知るラックであり、魔族だなんて言われてもピンと来ない。

 わかるのは、ナラの後ろに控える多くの魔族が全く手を出して来ないことからどれだけこの子が重要な存在かということ。

 ナラを救う理由など、わからない…神の思し召しなどちっぽけな人族に理解し尽くすなど不可能。

『魔王軍筆頭、キングオークのラン・カーンだ。俺様を覚えているな? 人族』

『ま、魔王…?!』

 ふさふさとした黄色い髪に、儂に似た赤い目をしたキングオークが出て来た。少し面影は異なるが確かにあの日のキングオークに違いない、が。

 魔王?! コイツ…! あれから進化して魔王になりやがったのか!!

『テメェらの所業を赦すつもりなんてねぇ。それどころか人族なんざ絶滅させてやろーと軍を動かし始めたとこだったんだからな』

 巨大なキングオークが隣に来てもナラはちっとも怯えない。それどころか不服な顔を隠しもせず、魔王に何度も脇に攻撃を加えた。

 …コイツは勇者か?

『…だが、曲がりなりにも助けたキッカケはテメェらであり、どーしてかウチのナラはテメェら人族を大層気に入ってる。

 はぁ。ったく…オイ、ランツァー! こういうのはお前の仕事だろ。コイツら見てっとやっぱ殺したくなるから後はお前がやれ』

『うわ。横暴…。

 仕方ない。では、初めまして。可愛いナラのオトモダチ、ということでここからは私が引き継ぐ。同じくキングオークが一柱、ランツァー・フォイヤネルだ』

 またしても巨大なキングオークが後ろから出て来て、こっちは対峙するだけで心臓が飛び出そうだ。そんなこちらの気を知ってか知らずか、相手は丁寧な口調で話を始めた。

『話をする。

 …そうだな。内容としては…こちらから提示する、謝礼と未来について、だな』


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