純潔なオークはお嫌いですか?

せんぷう

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勇者の証

父と子

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『うそ、…ボクの息子が、生きて…だって、ナラはっ…!』

 ランの召集に応じてやって来たキングオークとたくさんのオークたち。魔王であるランへの形式か、皆が最初は首を垂れていたのに一番前にいた三体が瞬く間にランを凝視する。

 正確には、その腕に抱かれたオレに、だ。

『まさか死者蘇生…? いやいや、流石にそれはっ…まさかやったのか?!』

『マジかラン!! ちょ、…だとしても! そんなん口も利けない木偶人形が出来上がるだけじゃ…』

『ナラお人形じゃないもんっ』

『シャベッタァ!!!』

 ギャーッ! と典型的な叫び声を上げて回れ右して、猛ダッシュで逃げるデンデニアを追い掛ける。ランが追いかけて来ようとしたけど、それより前にデンデニアに担がれたオレたちが輪に戻る方が早かった。

『本物だわ!! 全ッ然追いつけねーくせに、ちょっと速度下げたらニコニコして得意気に追い付いたような顔してやがる! こんなチョロいキングオークはナラしかいねぇ!』

 悪口かよ!

 いつかの雪辱を晴らすべく、ムキムキの腕に雑巾絞りの刑を執行しようとしたが腕が太すぎてまるで手が届かない。断念しよう。

『うおーっ、ナラお前なんで生きてやがんだ?!』

 デンデニアに高い高いをされてキャーキャー騒いでいるとスッと誰かに抱っこが変わる。目をパチパチと瞬かせ、紫色の瞳にオレが写る。

『ナラだよー』

『…微かに天界族の気配がする、が…確かにナラだ。私たちのナラが…誇りが、帰って来たのか?』

 両手で丁寧に支えてくれるランツァー。いつも冷静で感情を表に出すのが少ない余裕があるキングオークだけど、今日は違う。

 じわじわとランツァーの目に溜まる涙。あまりにも珍しい光景に驚く。

 だって、ランツァーが泣くなんて…見たことないのに…。

『っなるほど。大体の察しはついた。…だが、やはりあの日の私の采配は明らかなミスだった。

 すまなかった、ナラ…。痛い思いも辛い思いもまだ経験させたくなかったのに一度に全部、与えてしまった。助けに行けなかった…すまない、本当に…すまなかった』

 当時の魔王様からの命令を受けたのはランツァーだ。だからきっと、あの日のことを後悔してくれていたんだろう。

『良いよー。ナラもね、ちょっと寄り道したから帰るの遅くなっちゃった。

 …みんながナラのこと、もう忘れてたらどうしようって考えたら…ちょっと怖くなっちゃったんだ』

 だってオークはそういうものだもん。

『忘れるわけないっ…!!』

 激情に任せたような、悲鳴のような声が響く。オレが飲み込んだ言葉を否定するのは、きっと…オレが死んで誰よりも涙したであろう遺された者。

 そっとランツァーがオレを降ろしてくれると、優しく背中を押してくれて歩き出す。だけど彼は少しだって待てなかったようで勢いよく抱き着いてきた。

『どうして魔法を使ったりしたんだ!! アレはナラを護る為に用意したんだ!』

 そう。オレを護るよう父さんが心を込めて風魔法を刻んだ御守り。

 それをオレはランや他のオークの為に使った。

『君はっ…君は、ボクが授かった唯一の宝物なんだよ…!! 美しくて可愛いボクの誇り…最弱のボクから産まれた、最愛の子どもなのに!!』

 父さんが望まなければオレは産まれなかった。

 そして、例え少し特殊な産まれでもオレは父さんに大切に育てられた。大所帯になってからも父さんは変わらずオレの身を案じ、護ろうと必死だった。

『っいなく、なるなよぉ…まだ…まだ、たった十数年しか、いっしょに過ごしてっ、ないのにぃ…!』

『…とうさ、』

『っ…、おいで!』

 涙が止まらない父さんの様子を見たかったのに、ずっと父さんの薄い胸に押し込められる。だけど安心するのは自分の父であり、変わらず若草の良い香りがオレを包むから。

 泣き虫で感情的で、だけど誰よりもオレのことに一生懸命で大切にしてくれる唯一の肉親。

『おまけにランの奴にまで…、くそッ。

 …だけど、良いや…。ナラが生きていて、幸せになるなら…それだけで十分だもん』

 と、父さんがランを認めた…?!

『父さん? 良いの、だって父さんはランのこと嫌いだって…』

『大嫌いだよ、気に食わないし。…でも仕方ない、アイツ以上に強い魔族もいないわけだし、最愛の息子を預けるなら最強の男にくらいなってもらわないと』

 は、ハードル高っけぇ…。

 だけど既になっているのがランの凄いところだ。知らない間に魔王になってるんだもん。

 やっぱりランは一途でカッコいい最高の…。

『まぁアイツ。そろそろナラを吹っ切って新しい番の候補、何体かいたらしいけどね』

『っ、カシーニ!!!』

 あ。

 …そ、そうだよね…オレなんてほら、死んでたし? なんなら最弱のキングオークとかオレだし…強くないし、デカくないし…色んなとこが…。

『あーあー。どんどん萎れていくわ、ウチの子…』

『カシーニの一番よくないところを引き継いだな、…超ネガティブなところ…』

 返す言葉もなくデンデニアやランツァーの言いたいように言われている。手を繋いで歩いていた父さんも流石にオレの落ち込み様にはビビったのか立ち止まってよしよしと頭を撫でてきた。

 今にも飛んで来そうなランを止め、父さんはいつもの不敵な笑みを浮かべる。

『でも新しい番は出来てないよ。これからだってナラ以外なんて出来やしないさ。

 ボクちゃんの可愛いナラ。ちゃんと射止めておけるよね?』

 深い緑色の瞳が覗く。初めて見る父さんの新しい顔に少し惚けつつ、すぐに気を取り直してしっかりとその手を握り直す。

『…うん! と、取り敢えずどうしたら良いかな、父さん!』

『え? あー取り敢えず雑に投げキッスでも飛ばしてみれば?』

 投げキッス?

 それ本当に効くの、と思いつつランと向かい合う。記憶の中の投げキッスのポーズ? を探り当て、実践してみる。

 なんかこう、キュッと内股にして…右手は父さんと繋いでるから左手で投げポーズ。ついでに下手くそなウインクもオマケして完成だ。

 その後、一体のキングオークが放ったちゃちな投げキッスにより魔王が赤面して吹き飛んだという逸話が生まれた。

『…キングオークってお笑い集団だっけ?』

『ぅおい! なんでエルフがこんなとこいやがる!! コロセェ!』

『あーもう面倒臭いッ!!

 チビぃ!! 早く話を進めてなんとかしろ!!』



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