純潔なオークはお嫌いですか?

せんぷう

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人族と冒険とキングオーク

冒険のその先に

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『なんとか言ったらどーなんだよ? それとも? ご高尚な勇者様御一行はぁ、下々とは話も出来ねぇってことか?』

 エルフ…?

 オレをお姫様抱っこする男は確かに昨夜洞窟に置いて来たはずのエルフだ。治ったら好きにして良いと言ったのになんでいるんだろうか。

『可哀想になぁ、震えちまって』

 いや別に震えてません。

 とは言い難い雰囲気。なんとなく空気を読んでエルフにしがみ付き、勇者一行にそっぽを向く。

『カカ!! それ見たことか。子どもに嫌われる勇者ってのも、中々どーして…愉快だねぇ』

 優しく背中をポンポン、と叩かれる。すぐにオレを迎えに来たダイダラにそらよ。と抱っこしたまま返す。

『ありがとうございました…! 

 …ん? あなた、どこかで…』

『すまない!! うちの魔導師が大変失礼なことを。子どもに怪我はなかっただろうか?』

 ギクリ、とエルフとオレが肩を震わせたがその会話を遮って入ってきたのは勇者だ。これまた珍しい容姿のその青年は橙色の鮮やかな髪に一房の水色の髪が混じり、瞳は青。口元にある黒子で更に大人っぽい。

 年齢は二十代初め…くらいか?

『こら! 謝りなさい、パーシパー!! 室内であんな物騒なを召喚するんじゃない!』

 勇者に首根っこを掴まれて来たのは杖を持った全身真っ白ローブの少年。

 …あれ? 今、確か魔族って…。

『謝る? 何故だい。だってボクはそこから微量の魔力を感じた。それもただの魔力じゃない。

 魔族が出す禍々しい力さ』

 ビクゥ!!!

 ドクドク。ドクドク。心臓が耳元にあるような爆音を奏でる。恐ろしくて目も合わせられない自分はなんと臆病なのか。

 …ば、バレた…?

『誤魔化せるものか。魔族なんてボクに跪かない連中は全て殺せば良いんだから』

 明確な殺気を当てられ、益々ダイダラに掴まる力を強める。それを怖がっていると勘違いしたのかダイダラがしっかりと抱き直して身体を逸らす。

『さぁ。その子どもを寄越せ』

『いやそれコッチだし。御宅の魔力探知どーなってんの、ポンコツじゃん。

 魔族はコッチ。ほら、エルフですが何か?』

 迫る魔導師の前に立ちはだかったエルフは、なんと自らの正体を明かしてしまい帽子まで脱いで耳も出してしまった。一気に騒めきが訪れるギルド内。勇者一行も臨戦態勢に入ったのか陣形を整える。

『エルフ…?!』

『チッ、エルフだったのか…。まぁそれなら多少の誤差は働くかな』

 勇者が背中から剣を振り下ろす。ロングソード、というやつだろうか。刀身は美しい銀色で金色の文字が彫られている、恐らく天界族の言葉。

 白いローブの魔導師も杖を構え、かなり軽装な少年も腰にあったポーチから何枚か謎の紙を取り出す。全身を鎧で固めた大柄な騎士が前に出て、一番の年長らしい男性はズボンのみで上半身は裸の肌が小麦色に焼けた健康的な肉体を持つ。どうやら拳闘士のようだ。

 勇者、魔導師、軽業師、重騎士、拳闘士で構成されたパーティ。対峙するエルフはまるで彼らをバカにするように笑ってから両手を挙げる。

『えぇ~? 多勢に無勢過ぎない?』

『問答無用ですッ!! 魔族には魔族です!』

 軽装の少年が謎の紙を投げ付けると、落ちた場所の床に先程と同じ魔法陣が刻まれる。

 これ…、さっきと同じ召喚術式?!

 どうやら魔導師が紙に留めた魔法陣を同じパーティの少年に渡しているらしい。魔法陣によって喚び出されたのは無数のグール。

 こんな人の多い場所でなんて魔族喚ぶんだよ?!

『ミクス?! おまっ、グールはダメだ! 魔族には別に良いけどそいつらは…!!』

『ぁ、ぁあっ、ぁああああ゛ーッ!!』

 グール。

 死後、魔族に転じたそれらは生きる者を喰らう。魔族同士であれば喰うのではなく戦い、何度倒されても復活する為に厄介だが…周りに魔族以外がいると話は別。

 人を無差別に襲い、喰らい、止まらないのがグール。ギルドにいた冒険者たちはグールの対策を知らない新米や採取専門の人だっている。

 グールの雄叫びと共にギルド内はパニックに陥り、地獄絵図のようなことになった。

『はぁ…、やれやれ。身内の尻拭いはしないとね』

 ミクスと呼ばれた少年が勇者から鉄拳制裁を受ける中、その仲間たちの動きはスムーズであり状況に対する対処もスピーディーだった。その上でしっかりとエルフを攻撃してくる魔導師。

 …おいおい。本当に魔族、大丈夫そ?

『…ママ、ジゼ。ラックから離れないで』

 たまにグールがこちらを見るが、自慢のエメラルドグリーンの瞳をかっ開いて退魔の力を発動する。オレが魔色持ちと知る冒険者の一部はその力にあやかろうと後ろに集まる。

 良い判断だ。グールは動き回ると更に追って来るからな。

 勇者一行によりグールは早急に討たれ、騒ぎに乗じてエルフも消えた。みんなに謝って回る一行だが、その圧倒的な力に興奮が冷めない者もいる。

『…ジゼ様。彼らなら…』

 ダイダラがジゼに何か耳打ちをする中、ギルドの倒された椅子やらを直していたオレは一枚の紙が落ちていたのを拾う。

 大変、クエストの紙でも落ちたかな?

『この馬鹿ミクス!! あれはいざという時の最終手段だって言っただろーが!』

『だっ、だってエルフって超強い魔族だってパーシパー様がぁ!!』

 拾った紙に描かれた、魔法陣。二度も見ればわかる。それは間違いなく彼らが使った召喚魔法の為に必要なもの。

 …か、返さないと。

『スゲェな勇者ってのは!! やっぱ魔王を討つのは今代の勇者で決まりだな!』

『早く平和な世の中になってほしいよ! 頑張ってくれよ、勇者様!!』

 多くの人に囲まれる勇者一行。まるで近付けず、なんとかしなければと人々の足元を縫うように姿勢を低くして進む。

『魔族には、話せばわかってくれる者。話し合いの余地の無い者。様々だ。容赦ない暴力のみで我々を服従させる魔王軍を決して許すことは出来ない』

 キラキラと光り輝く青い瞳。夜空みたいに綺麗で純粋な美しさに、床を這うのを止めてしまう。

『強く、靭く…。我々は様々な冒険を経て魔王軍に挑む。仲間たちと共に魔族によって苦しむ人々を解放してみせる』

 湧き上がる歓声に、何処からともなく彼の名を呼ぶ声が高まる。

『我が名は勇者 エウルカ!! エウルカ・サロが人族の未来を切り開いてみせる! どうか我々に祝福を!!』

 そこに自分が入る余地など、ありはしない。狩られる側になるかもしれない自分が…いつ魔族だと見破られるかもわからない自分が、あの熱に触れてはダメだ。

 今回はエルフが助けてくれた…。でも、またあの魔導師みたいな人がオレの正体に気付いたら?

 手にした紙をポケットに突っ込んで、一人壁際に避難してこのお祭り騒ぎが早く終わることを祈る。

『良いか。ダイダラ』

 窓の外で、壁際に寄り掛かって立ち尽くすオレを見つめる者が楽しそうに笑ってから森を目指して姿を消す。そして、オレは知らない。

 もう一体。オレの姿をジッと見つめる存在を。

『…この世には、覆せない絶望がある』

 もうすぐ赤い月の夜。

 オレが見たかった月が、ようやく見られる。

『受け入れなければならない最悪な未来がある』

 早く夜にならないかなぁ。

『あの男では』

『話にならないぞ』








 数日後。

 魔王軍幹部一体により、今代の勇者エウルカ・サロ率いる勇者パーティが壊滅。勇者のみが行方不明だが与えられた証は粉々に砕かれ発見。

 魔王軍の侵攻、開始。


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