純潔なオークはお嫌いですか?

せんぷう

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人族と冒険とキングオーク

勇者

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 エメラルドグリーンの子どもを連れた冒険者一行としてオレたちは少しだけ有名になった。退魔たいまのエメラルドグリーンの瞳を持ち、同行するだけで魔族との遭遇率がグッと下がるからだ。

 魔族と遭遇したくない行商人や、旅人。他にも様々な理由を持つ人から指名を受けて隣街まで同行するだけのクエストも増えた。だけど途中で採取をしたり隣街からの帰り道がてら他のクエストを消化したりしてどんどん稼げるようになった。

 日々オレに渡されるクエスト料。ジゼたちは律儀にもキッチリ三等分してオレには必要な分だけ持たせ、後は専用の口座に貯金してくれている。

 そんなもの必要ない、無駄だと思っていたが…それら全てを下ろし、ある物を購入できた。

『はい。どうぞ』

 小さな蝋燭に照らされた洞窟の中。そこは以前までジゼとダイダラが過ごしていた場所で、今はオレがエルフを匿っている。

 黄緑色の液体が入った小瓶。特別な小瓶はまるで骨董品のように洒落ていて、普通の瓶に入れてその分を安くしてくれと突っ込まざるを得ない。

 最高級の回復薬。

 それを手渡されたエルフは、流石にそれが何か知っていたのか無事な方の右手をすぐには出さない。

『早く飲んでよー。夜中に抜け出して来たから、ママたちに気付かれたら困るんだ』

 ズイズイ押し付けるようにしてもエルフは何も言わず薬とオレを交互に見つめる。

 お値段にして軽く数十万、しかも固定ではない。時期や薬草の採れ具合なんかで値段が変動する…つまり時価。これでも一番安そうな時期を狙ってみてコレだ。因みに劣化スピードが物凄く早いから買い溜めなんて出来ない。

『…ばか、なの?』

 エルフの左腕はいくら治療したところで治らない。呪いによって骨からダメにされてしまったようで、この最高級回復薬レベルじゃないと話にならない。

 それでもまだ足りないから、その回復薬にありったけのオレの魔力を馴染ませた。呪い耐性のあるオレの魔力ならきっとランの魔力に対抗できる。

『勘違いすんなよ? オレ、お前のこと一ミリだって許してないんだからな! …でもお前は、その…役に立ちそうだから、そう…!

 オレの役に立つ為に生かしてやるんだ! 有り難く思ってグイッと飲め!』

 オレってば超魔族っぽい! 素敵!!

『非力なテメェが、全快になった俺に勝てるとでも思ってんの…? 言うことを聞く制約すらなしに、…頭お花畑じゃない?』

 未だ薬を受け取らないエルフの前にしゃがみ、短くなった金髪を指差す。

『だって腕が二本あった方が、髪の毛切りやすい。それはエルフの大事なモンだろ。ちゃんと綺麗にしとかないとな』

 オレにはセンスがないので散髪は協力不可。

 自分のはいつもダイダラが切ってくれるので、絶対に人の髪なんて切れない。エルフの髪は今も長さがバラバラ、切り口もなんか汚い。

『…男が泣く時に胸を借りたから…、借りはちゃんと返すもんだって父さんが言ってたもん。胸を借りたから、オレは腕を返す。

 別に治ったら好きに何処へでも行って良いけど。今度はあんまり無茶なことすんなよ?』

 流石にこんな高級品、二度目はないからな?

 差し出した回復薬が貰われる。瓶を開けてそれを口にしたエルフは暫くしてすぐに眠ってしまった。恐らく回復の為に体力も使うから眠ってしまう副作用なんかがあるのだろう。せっせと毛布や寒さ対策に藁をかき集め、エルフが風邪をひかないよう巣のようにしてみる。

 また明日来よう、そう判断して洞窟を出ると三分の二くらい赤く染まった月が頭上に浮かぶ。まるでそれから逃げるように家に帰ると、幸いにも二人はぐっすり眠っていた。

『…よく寝てる』

 ジゼはあの日から、何かを言いたげにオレを見つめる。だけどオレはそれに気付いていないかのように振る舞って過ごしていた。

 僅かな時間だ。少しでもたくさん、三人の楽しい思い出を増やしたい。

『ダメだもん』

 ベッドに潜ると、ジゼがオレを探すように手を動かして背中に触れると安心したように自分の方に引き寄せる。そっとその胸に寄り添い、鼓動の音を飽きず朝まで聴いていた。

『…夜だって、知らない奴にジゼの時間はあげない。全部の時間…ちょうだい』

 朝になる頃には前からジゼ、後ろからはダイダラに抱き付かれて大変嬉しい。そのせいか朝は少し遅刻気味で慌てて三人でギルドに向かう。

 その日は、随分とギルドが混んでいた。

『ラック。ズボン少し下がってますよ』

『あえ?!』

 しゃがんだダイダラが万歳をしたオレのズボンをグッと引き上げてポンポンとお尻を叩いて合図をする。足を抱えるような仕草にピンときてダイダラの首に手を回すとグンと視界が高くなった。

 ダイダラの肩に乗ると、更に人の多さがよくわかる。いつもの倍以上の人がいるんじゃないか?

『話を聞いたが、…どうやら勇者の一行がこの街に辿り着いたらしい…』

 ゆうしゃ…。

 勇者?!?

『本当ですか、でん』

『バカ! …今日は絶対に名前で呼べ。勇者と言っても最近証を贈られたばかりでパーティも組んで間もないらしいがな』

 勇者…、確かにウチに魔王様なんてのがいるくらいだから勇者がいたって不思議じゃない。

 マジかよ。ヤベーじゃん、世の中的には勇者が頑張って魔王と配下を倒してハッピーエンド…オレたち滅亡の危機…。

『ママ、証ってなぁに?』

『勇者様は天界族より証を頂くのですよ。証には色々ありますが、魔王を倒せる逸材だと判断された方には勇者の証として聖なる武器が贈られるとか。

 …武器以外にも、あるそうですけど…』

 チラッとジゼを見るダイダラ。だけどジゼは会話には入って来ない。周りの浮き足立った連中と違いジゼは勇者をあまり好まないようだ。

『来ましたよ、勇者一行』

 ギルドに入って来たのは五人。みんなが道を譲り、彼らの歩く場所が自然とできる。ダイダラの肩に乗っていたからよく顔が見える。

 勇者らしき青年は、自信に満ち溢れたような爽やかな笑みを浮かべて肩で風を切るように迷いなく進む。正に勇者、あれが勇者と言うに相応しい。

 …魔族、オワッタ…。

 いや! まだ諦めるのは早い!! ウチの魔王様だってっ、会ったこと覚えてないけどきっとスゲーんだからな?!

 そんなことを考えていた時だ。勇者一行の一人、真っ白なローブを頭から被った人が突然立ち止まると自身よりも大きな古い杖でドン、と床を叩く。

 刹那、

 突如としてダイダラの足元に出た魔法陣。そこから這うように出て来た真っ白な手にダイダラの足が掴まれる。バランスを崩したダイダラの肩から落ちたオレは宙に投げ出され…、またしても床に現れた魔法陣から伸びる無数の手に迫られた。

 きもっ?! 気持ち悪い!

 成す術なく落下する身体と、無数の白い手。

 グッと腕でガードして身を固める。だけどオレが落ちたのは硬い床でも、気味の悪い手の内でもなかった。

『おいおいおい! 勇者様御一行って奴は突然こんな幼気いたいけな子どもにこんなことしちまうのかー? みんな見ろよ、それが勇者様たちのやり方かねぇ?』

 黒い大きなキャスケットを深く被り、黒いノースリーブに少しダボっとした迷彩柄のズボンを履いた細身の男。僅かに覗く金髪と、オレをしっかりと抱く

『ちょぉっと酷ぇんじゃねーか?』


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