純潔なオークはお嫌いですか?

せんぷう

文字の大きさ
上 下
2 / 52
黄金の時代

専属ベッド様

しおりを挟む
『まだかなぁ~』

 ファンタジー溢れるこの世界で第二の生を受けて早十年。前世で楽しい高校生活を夢見ていたのに、いつの間にか死んでいつの間にか転生したがあっという間の歳月だった。

 それでもキングオークという魔族にとって十歳のオークは割と大人扱いだ。なのに俺だけはまだまだ子どもよね、って感じで過保護過ぎる。

 オークのお城に用意されたオレの部屋は高級ホテルのファミリー向けの一室かと疑う程に広く、また大変子どもっぽい部屋だ。ベッドは白黒で統一されつつ、フリルやらリボンまで付いているし天井まである巨大なクローゼットには全く着ていない服が数十着はある。

 大変な無駄遣いっぷりだが、オークたちがオレをこんなに甘やかすのもオレ自身が希少種であるだから。

 まぁ、そのキングオークがどういうものかも未だによくわからない。

『遅いなぁ。夕方には帰って来るって言ったのに』

 ただわかるのは今世の自分が…自分で言うのもアレだが、中々に可愛らしいということだ!!

 エメラルドグリーンに光り輝く髪には天使の輪が浮かび、ウルトラキューティクルヘアー。瞳は魔族だということを忘れさせるような金と銀が入り乱れた神聖さすら感じさせる輝きを放つ。ぷっくりとした唇にぷにっぷにの頬。子どもならではの無邪気な笑顔は何体ものオークをノックアウトさせてきた。

 ふふっ…罪なキングオークだな。

 だが今は、そのぷにぷにな頬を膨らませたまま窓にへばり付いては城門の方を見つめたまま。

 今、オークの軍勢は魔王軍の指令を受けて魔王軍に反旗を翻した逆賊を討つ戦に出ている。オレは今その戦から帰る仲間たちと父を待つ最中だ。

『折角レアな種族に転生しても、こんな弱々なんじゃなぁ。いつもいつも置いていかれるし?』

 オーク族の最強種であるキングオークは、このオークの国にはオレを含めて五体。他のキングオークはみんな強くて何かしら秀でているにも関わらず、オレは全く長所がない。

 つまり最強の種族でありながら雑魚である。

『あっ!! 来たーッ』

 城門が開かれて何体ものオークが列を成して帰って来たのだ。瞬く間に立ち上がってパタパタと走って部屋を出ると、一目散に駆け出した。

『若君、走っては危ないですよ』

『ということは帰還されたか。早くに決着が着いたから当初より大分お早い帰還だ』

『圧勝らしいからな。流石はオーク最強の黄金世代』

 城の大階段を小さな足で一段ずつ降りていると、城の扉が開かれて四体のシルエットが背後の夕焼けによって照らし出される。他のオークたちが膝を付く中、オレはハッとして止めていた足を動かして声を上げた。

『おかえりなさいっ』

 巨体なオークに合わせて作られた階段は小さな体には合わず、大変だ。それでもオレの声に気付いたらしい四体は嬉しそうに声を上げながら手を振ってこちらに近付いてくる。

 あぁ、クソ! もっと足が長けりゃなぁ!

 ヤケになって焦ったのがいけなかった。何度も転びそうになるから気を付けるよう父さんにも言われてたのに、焦ってしまった。

 あ、っと気付いた時には足を踏み外してしまっていて一気にパニックになってしまう。衝撃から逃れようと目を閉じて身を固くしたのに、次に訪れたのは自分を包む温もりだった。

『早っ?! おま、戦場より速く駆け出すとかどーよ…まぁそれでナラが無事なら良いけどよぉ』

『ナイスキャッチ、というやつか。そんなことを言って…デンデニア。お前だって魔法を発動していただろう? 魔法より速い肉体とは恐れ入るがな』

 ゆっくりと目を開くと、そこには自分が降りていた階段がありタンタンと階段を降りる振動が体に伝わる。腰とお尻に回された手に、頬に触れる黄色い髪。

 少し汗を含んだそのオークの匂いをよく知るオレは嫌でも自分を助けてくれたのが誰かを悟る。

 ああ…、なんでよりによってアンタが助けてくれるわけさ。

 キングオーク最強の戦力とされる近接戦負けなしの彼は、ラン・カーン。昔は大好きで片時も離れず彼の服を握って歩いては父さんをヤキモキさせた。初めて名前を呼び、何度だって彼の元に飛び込んでは自慢の肉体で易々と抱っこをされたものだ。

 捕虜として並べられた、とある王国の刺客として潜り込んだ人族をランが殺してしまったシーンを見て大泣きしてから彼とはマトモに顔を合わせて話していない。もうあれから二年は経つにも関わらず。

『…ただいま。ナラ』

 優しく背中を摩りながら叱りもしないで、ただ安心したようにオレを抱え直して呟くように言葉を返してくれたランに鼻の奥がツンと痛む。

 二メートルを軽々と超えた長身はあっという間に階段を下りるとその場に立ち尽くしてしまう。

 な、なんで下ろしてくんねーのっ?!

『なぁーこっちにもナラくれよぉ。癒しくれ、癒し~』

『黙れ死ね触んな変態垢がつく』

『息を吸うように暴言!! おま、ナラが関わった時は目がマジなんだよ怖すぎぃ!』

 最初こそ突然のことで心臓が飛び上がってしまったが、赤ん坊の頃からずっと自分を抱っこしているスペシャリスト。何故かたまにあやすように体を優しく叩いたり、心地良い熱があったりで段々と瞼が重くなる。

 ふぁあ、と欠伸を漏らして広い肩に頬を乗せてウトウトしていると一際大きな振動がやって来た。

『僕ちゃんの可愛い息子を返せっ!! 貴様はいつもいつもっ…可愛いナラがもっと可愛かった昔から! 僕ちゃんから息子を奪いやがって!』

 ああ。父さん、父さんだ…。

 ランの膝を蹴り上げようとした父さんの動きを見抜いたようで少し強く抱きしめられる。飛び上がっても綺麗に着地してオレへの負荷を抑えてくれたのか大したダメージはなし。

『なに避けてんだよッ!! さっさと僕ちゃんのナラを返しやがれ』

 父さんとお話したい気持ちはあるのだが、どうにもこの睡魔からは逃れられない。グリグリと肩に顔を擦り付けてベストポジションを見つけるとオレは呆気なく眠りに着いてしまった。

 ごめんね、父さん…。起きたらちゃんとおかえりなさい、する…から。

『聞いてやがんのか、ランこの野郎…!』

『…黙れ。カシーニ』

 そうだ、ラン…ランにも、ちゃんとありがとうって伝えなきゃな。

 でもちょっとだけ、寝かせてくれ…。

『あらら。寝ちゃってらぁ』

『ふむ。恐らく我々を迎える為に早起きでもしたのであろうな。行くぞ、それぞれ支度を整えて食事だ。そこで詳しく話そう。

 …カシーニ。仕方ないだろう、すぐに起きるだろうからそんな射殺すような目でランを睨むな』


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

幸福からくる世界

林 業
BL
大陸唯一の魔導具師であり精霊使い、ルーンティル。 元兵士であり、街の英雄で、(ルーンティルには秘匿中)冒険者のサジタリス。 共に暮らし、時に子供たちを養う。 二人の長い人生の一時。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

処理中です...