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第十一王子と、その守護者

王国式典の始まり

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 街で盛大に上がる花火。雨のように降る花。所狭しと広がる屋台。様々な種族が入り乱れる道。


 今日は、雲一つないこの良き日は……バーリカリーナ王国式典その日である。


 窓からいつもに増して華やかな街を見ながら……昨日用意した正装を目を移す。これを着る日は毎度えらい目に遭ってきたが、今日ばかりは違う。そしてベッドの横には小さく纏められたオレの荷物。


 今日の夜にでも、オレはここを発つ。


『結局……逃げずに最後まで来ちゃったよ。上等だな。オレは自分が誇らしいよ』


 唯一の後悔は王子の結婚式を見られないことだが、ここにも前世のような記録を残せる魔道具がある。ノルエフリンが後日それを送ってくれるらしいから、楽しみだ。


 結婚衣装も無事完成し、夜には届けてくれることになっている。大変有り難いことだ。体を張った甲斐があったというもの。しかもギルドでお世話になった人たちが食材をくれたり、結婚式を華やかにする魔道具なんかも祝いの品としてくれるそうでかなり賑やかな式になりそうなのだ。


『たくさんの人に会って、支えられて……最後には大変お世話になるんだ。

 いつかまた……戻って来たいな』


 まだ大事な式典があるというのに、早くも泣いてしまいそうになり慌てて顔を洗ってから着替えを始める。最後にいつも通り、鈴と糸の花を髪に飾れば完成だ。


『……さーて。最後の一日、頑張りますか!』


 成人を迎えるハルジオン王子。流石に今日の煌びやかな衣装はオレの手に負えないのでメイド長を筆頭としたメンバーで飾り立てられた。黒と金を中心にしつつ、ド派手とはいかなくても最近の王子の衣装にしてはまぁ派手な方。


『ノルエフリンも式典用だからいつもに増してカッコイイな』


『本当ですか? 慣れない衣装ですが、タタラ様にそう言っていただけると……着て良かったと思います。タタラ様はいつも通り大変素敵です!』


 第十一王子の守護騎士ということで、いつもは白を基調とした隊服を着ていたノルエフリンも黒の立派な隊服を新調されている。普段は各自で自分たちの定めた制服や、好きな衣装を着ているが今日のような式典の際には騎士は隊服。魔導師はそれぞれの王子或いは王女の色を取り入れた正装、または隊服。守護獣には規定はないが、必ず一目見てわかるよう数字か色を取り入れること。


 ちなみに隊服はバーリカリーナ王国で定められた服であり、王都内にて戦闘に準ずる者は一着は持っているものだ。


『その服装でおんぶやら抱っこやらしてみろ、王国中の恥となるのだぞ』


 いつか預かった腕輪をして立ち上がった王子は、誰がどう見てもバーリカリーナの王子である。美人さんだし気品もあるし文句なし。


『ちゃんと自分で歩くから大丈夫ですよ。この正装も直した側から破かれたりしたら堪りませんもんね』


『そうですね。タタラ様だけのために仕立て屋にアレコレ指示を出して作った特注ですから。

 おっと!』


 言った本人がノルエフリンに向かって側に置いてあった置物を投げ付ける。流石に当たれば無事では済まないと思ったのだろう、ノルエフリンも投げられたそれを見事キャッチした。


 ……オレのための、特注……?


『はぁ……。もう良い、さっさと行くぞ』


 部屋を自分で出て行ってしまった王子の背中を追いながらノルエフリンを見れば、苦笑いを浮かべている。よく見れば少しだけ耳が赤い王子の後ろ姿に、オレの笑い声が廊下に響く。


 王国式典は、城の中にある会場で行われ会場内の様子が国中に中継されている。他国の来賓のみが会場に来ていて厳粛なる空気に包まれていて中々息が詰まりそうだ。


『あっ、』


 各守護者たちが集まる控え席に移動すれば、かなりの人数の守護者たちがいた。十一番という文字の場所には席が二つあり、移動する際に知った顔が何人かいたので小さく手を振った。


 今まで見たことがなかった守護獣なんかもいて、正に錚々たるメンバー。中には会場に入りきらない守護獣もいるそうで、流石に留守番をしているそうだ。


【それでは、これよりバーリカリーナ王国式典を始めます】


 バーリカリーナ王国の、国王。初めて見た国王はまるで夜の信徒のように顔を隠していて表情もまるでわからなかった。王子曰く昔からそうだったようで不審に思う者は誰もいない。


 成人を迎えるのは二人。ハルジオン王子と、第十王子であるキッカ・久遠・バーリカリーナ王子。


 隣のスペースを盗み見れば五人の男女と、その後ろに守護獣の魔獣がいる。魔獣もそれぞれで人間をただ襲うだけのものが大半だが、時々魔王からの厳命が外れることもある。更に中には知識を得た希少な個体もいるのだ。小さな狐のような見た目の愛らしい白い魔獣は、その希少なタイプなのだろう。


 成人となればまた公務も忙しくなる。多くの者に祝われる二人の王子は、成人した姿を惜しげなく晒し少し遠くから大きな歓声が聞こえる。中継を見た民が祝ってくれているんだ。続いて学園を卒業した三人の王子と王女が紹介され、近いうちに彼らの就く職種も紹介されるらしい。


【先日のリーベダンジョンにて活躍した各守護者たちに、バーリカリーナ王国より宝物授与を開始します。魔人という脅威から王族を守護した働きに、心から感謝を。

 それでは、事前調査により宝物をご用意致しましたので代表して王子殿下、王女殿下に授与を】


 壇上に用意されたのは、大小様々な包装を施されたプレゼントたち。一番小さいのは紙っぺらみたいなもので……恐らく小切手や土地の契約書などはこれなのだろう。大半の王子や王女たちはこれを受け取っている。一番大きいのは一メートル以上あるバカでかい包みに入れられていて……中身はまるでわからない。誰か彫像でも頼んだ?


 謎のバカでかい包みは舞台裾から出て来たスタッフたちがカートに乗せ、そのまま運ばれて行った。流石に王子や王女にはアレは運べないだろうしな。


【続きまして、バーリカリーナ王国へ多大なる貢献をした者を表彰致します。この度は五名の王子と勇士が名を連ねます。

 一人目、新たな魔道具にて発展を促した最善の名を冠す第六王子タルタカロス・万国・バーリカリーナ殿下】

 
『……はいはい』


 タルタカロス殿下が開発した魔道具は、まだ完成はしていないが試作品まで出来上がった。王族にしかない魔力を媒介として、更に強力な結界を起こす魔道具。これさえあれば王族がわざわざ現地に赴く必要もなく、脅威が多いこの世界では大きな結果をもたらしたと言える。


 あのバビリアダンジョン崩壊の際にあんなところにいたのも、わざわざ自分で魔道具の調子を試していたからだ。


【二人目、北の国境にて異種族より国防を守った日の輪騎士団。代表として日の輪騎士団団長クロポルド・アヴァロア】


『はい』


 これはオレと殿下が出会う前から行われていた日の輪騎士団の長期任務。極寒と恐れられる地に住む謎の異種族の侵攻に急遽向かった日の輪騎士団が、見事にそれを負かして国境を守り抜いたのだ。


 今日も相変わらずイケメンな団長殿は、胸に新たな勲章と賞状を国王より賜る。惜しみない拍手に包まれながらピクリとも表情を動かさない、流石は騎士団団長である。


【三人目、東の大海に棲む巨大魔獣マンモヌゲリアス討伐により周辺地域に安寧を取り戻した功績を称えて冒険者、ギルド等級 全等級のイイルカ・ハートメア】


『……すみません、欠席しています』


【では、後日ギルドにて。次を発表します】


 まさかのボイコットである。


 しかし、全等級冒険者であればそれでも文句は言われない。なんせ全等級など国に一人が二人いれば良い方で、このバーリカリーナには確か四人が在籍するという歴代最高人数を誇る。


【四人目、バビリアダンジョン崩壊にて一人王命により現地に向かい速やかにこれを止めたことを評価して星の廻騎士団団長アイアシル・フリーリー。

 五人目、同じくバビリアダンジョン崩壊にて真っ先に現地に向かい多くの民を救ったことを評価して第十一王子守護魔導師タタラ。こちらはギルドのクエストにて現地に向かいましたが、クエスト以外の内容である民の救助に深く関わり……また、民からの感謝の声が多く届いたため特例として表彰します】


 その瞬間、まるで爆発でもしたかのように大きな歓声が街から響いた。その場の誰もが驚いていたし、オレも聞いていなかったことにオロオロするも空から飛んで来た撮影魔道具がオレを大きく映し出す。


 ……おーい、聞いてないよぉ。


『おーっす、迎え来てやったぜー。早く行くぞ行くぞー』


『あ、アシル様? って、ちょっと待っ……引く力が強ぇ!!』


 小っちゃな二人が手を繋いでおつかいみたいに表彰台まで歩いて行く姿が、水魔法によって映し出された巨大な水鏡にデカデカと映された。全く内容を知らされていないオレと全く周りを気にしないアシル様。何かの間違いなのではと不安そうにするオレを見て何を思ったのか、面倒臭そうに歩いていたアシル様が笑いかけ更に手を引いて歩いて行く。


 このお兄ちゃん絶対楽しんでますぜ?


『さんきゅー』


 アシル様の後で表彰台に乗り、初めてこの国の王様と対峙した。身長は高く百八十くらい。ほっそりとした体格でかなり長い金髪らしく、結ばれた髪がたまに見える。


【大儀であった。今後も励むように】


『身に余る光栄です。精進致します』


 まぁ辞めますが。


 なんて言えず、会場からの拍手に包まれて戻ろうとしたら……再びアシル様が良い笑顔で左手を差し出している。半ばやけになって右手を伸ばして帰る途中、街では花やら酒やら様々なものが飛び交い人々の笑い声が溢れてきた。


 実は乱闘とかしてないよね、アレ?


 遂にはテーブルやら酔っ払いなどが飛び交い始め、この国の行く末が不安になった。


『すまん。昨日の話し合いでお前も表彰されると言われていたのであった。つい忘れていたわ』


『タタラ様、素敵な勲章ですよ! とてもお似合いです!』


 堅苦しい式典は前半が終了。オレたちはみんなで移動を始めているが、その最中に大事なことをしていた。王子追求である。


『びっくりしました……。アシル様が来てくれなければ我が耳を疑ったまま固まっていましたよ。またオレを揶揄って伝えなかったんじゃ……』


『安心せよ。忘れていた』


 それはそれで問題ですねぇ。


 胸元に光る勲章。小さな銀色の丸と、それを更に覆うように金色の丸があり薄っすらとバーリカリーナ王国の国旗が刻まれている。そして赤と白のリボンによって更に華やかになったそれを見ていれば、王子に頭を撫でられる。


 ここを去る人間に勲章だなんて、無駄なものにお金を使わせてしまったものだ。


『リューシーに悪いことをしてしまいました。彼だってあの場にいたのに……』


『民を救うために魔法を使ったのはお前だ。そして民も同様にお前に救われたと思ったのだから、胸を張っていれば良い』


 王子に手を引かれれば、遅れていた移動する集団へ合流する。移動の際に知らない人がたくさんのおめでとう、を言ってくれた。勿論知っている人たちも、何人も……。


 胸に光る、この国を代表する者たちと同じもの。それを自分が持っているなんて不思議な気分で……やっぱり外したい。


『そのような不安そうな顔をするでない。今日一番の催しが始まるのだぞ、そんな顔で国民の前に立つなど許されることではなかろう』
 

『……やっぱりノルエフリンを替え玉にしましょうよ! なんかオレ、お腹痛くなってきましたー!』


『あ。タタラ様、整腸作用のある回復薬ならこちらに用意してあります』


 逃げることは許されない。


 本日の最大のイベントである、親善試合……という名の各守護者によるトーナメント式ガチンコバトルが始まるのである。



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