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第十一王子と、その守護者

ご褒美

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 守護魔導師を辞めなくて良かったと心から思うのは、お城での生活があるからだと胸を張って言える。そう。だからオレは早く帰りたい。ダラダラとした昼下がり、日々違う種類のおやつ、そして三食のご飯。


 つまり、だ。


『ここじゃないんだよなぁ……』


 急変したダンジョンでの死ぬ気の鬼ごっこからの、魔人との戦闘。それらを終えてやっと帰れるとなったのにオレは月の宴騎士団に引き取られて、そのまま王都にある神典へと放り込まれた。


 理由は、魔人からの悪しき炎を受けてしまったため、浄化のためとかなんとか。


『魔人が治してくれたって言っても、だーれも信じてくれないんだもんなぁ』


 月の宴騎士団は、古くから王家に仕える歴史ある騎士団だが、月は浄化を象徴していて月の宴は神殿からも信頼されて優遇されるらしい。


 神殿は、神を信仰し人々に癒しを与える……まぁボランティア団体みたいなものらしい。勿論、神を信仰するため魔物は悪! という考えをお持ちでオレが魔人の炎に焼かれたと聞くや否や、このという広間に押し込められている。


 くるぶしほどまで浸かる綺麗な水と、その下の床には巨大な魔法陣。上からは特殊な魔道具によって貯められた月の光が様々な色を放ちながら中央に座るオレを照らす。そして少し離れた場所からオレに向けて祈りを捧げる信徒たち。


 これ、かれこれ一時間はこうしてるんだぜ……暇かよ、はよ終わろうよ……。


『早く帰りたいぃ……』


 頑張ってくれるのも、心配してくれるのも有り難いけど……早く解放してくれよぉ。


『大変申し訳ありません。信徒たちはタタラ様の見事なまでの黒いお姿に感動してしまい、少しでもそのお体に魔人の悪しき力が残らないようにと必死だったようです』


 儀式は結局二時間続いた。もう最後の方は寝てたけど、起こしてくれた信徒たちはみんなやり切ったような晴れやかな顔で優しい笑顔を向けてくれた。


 体調は一ミリも変わっていないが、たくさん祈ってくれてありがとうと伝えると感極まったようにまた祈ろうとしたから必死に止めた。そう、必死だったのはオレも一緒だったりする。
 

『トワイシー殿も、わざわざ私の付き添いなんて引き受けていただき感謝します。自分では神聖な儀式など恐れ多いのですが……これで身の潔白が証明されたも同然ですね!』


『ふふっ、私は役得でした。あの魔人をも巧みな話術で退ける英雄にも等しい存在を、こうして独占出来たのですから』


 巧みな……話術……?


『竜車にて治療も終えられたかと思いますが、お体はどうでしょうか。ダンジョンではその身を犠牲にして逃げ回っていたとフロンティナ姫様の守護魔導師、フレアー様から報告を受けていたのですが』


 儀式を受ける前から、月の宴騎士団の用意してくれた竜車でずっと治療を受けていた。怪我をした人たちと同じ竜車に押し込んでくれて構わないと言っても、魔人の炎を受けていつ容体が急変するかもわからないからと、ずっと一人別の竜車にいたのだ。


 月の宴騎士団の光魔導師は優秀だったから、もう体は全く問題ない。少し深い傷は痕が残ってしまったが別に気にしないから構わないと言ったのに光魔導師たちは悔しそうな面持ちのままだったのを覚えている。


『ええ。殆ど自分でやった傷ですし、こういう職業なら傷は絶えなくなるでしょう。光魔導師の皆さんにも気にしないでほしいとお伝え下さい』


 迎えが来ているからとトワイシー殿と神殿のやたら長い階段を降りる最中、ずっと信徒たちはオレを見ていた。何か用事かと振り返っても彼らはニコニコと手を振って来るばかり。


 黒ってのは、そんなに無条件に持て囃されるもんなのか。


『信徒の皆さんに、魔人に……私はただ黒いだけだというのに神聖化し過ぎです。魔人はただの同族意識かもしれませんが、魔人と比べても私の魔力量は張り合えません。現に一撃も与えられませんでした』


『勿論、人間に魔人の相手が務まるはずがない。しかし貴方は力では敵わなくとも決して勝てない相手を事実、撤退させてみせたのですよ。例えそれが魔人の気紛れだとしても、貴方が興味を惹かれるほどの相手になり得たから。

 今はただ、生還を喜びましょう』

 
 階段の踊り場にて、トワイシー殿が向けた視線の先には階下の柱に身を隠しながらもオレを待つノルエフリンがいた。


 神聖とされる神殿では彼の存在はどうしても恐れられる。そうわかっていて、迎えに来てくれたのだと思うと自然と笑顔が溢れてしまう。


『大切な守護魔導師が、拉致同然に攫われて随分とお怒りのようですね。何度も神典に抗議の連絡が届きましたから、彼も苦労したことでしょう。

 さぁ、行きなさい。バーリカリーナの新たな守護魔導師。またすぐにお会い出来る日を、楽しみにしていますよ』


 すぐに?


 不思議に思ってトワイシー殿を見つめてみるも、トンと軽く背中を押されて……手を振って別れを済ませてから再び石作りの整備された階段を駆け下りる。


 変なトワイシー殿。でも、ただ手を振る動作だけで絵になるってどうよ? あそこだけ切り抜かれた絵画みたいだわ。


『走り難いな、この神殿で貰ったサンダル……』


 軽くて木の皮で編まれたサンダルは石段を走るには頼りなく、しかしオレは一刻も早く帰りたい思いで駆ける。柱の陰から出て来たノルエフリンに、大きく手を振って再会を喜ぶ。


 たった数時間離れただけなのに、なんか凄い久しぶりな気がする。


『ノルエフリーン』


『タタラ様、階段を走って危な……いっ!?』


 あ、という言葉が漏れた瞬間……オレは階段を踏み外してまだ高い位置から身を投げた。なんたる気の緩み、なんたる失態。


 糸を出してなんとかしなくては、と思いつつ上手く思考が纏まらなくて結局……落ちた。


『ノルエフリン、僕の背を押さえていろ』


『なっ! で、殿下……?!』


 え? 殿下?


 地面に落ちると覚悟していたのに、オレは誰かに受け止められてそのまま抱き上げられた。なんとなくそれが誰なのかわかってしまい、そっと閉じていた目を開いた。


『……もう、怪我はないな?』


『殿下……?』


 何ということだ。


『全く……本当にお前という奴は。神典で清められ、月の宴の連中に治療までされて、最後に自分で階段から落ちるなど……お粗末にも程がある』


 なん、たることだ。


『だが、それだけ元気であれば……良い。お前はその騒がしさがウリなのだからな』


 誰……!!


『殿下!! 殿下、殿下!?』


『なんだ、流石に騒がし過ぎるぞ』


 だって、


 だって!!


『髪の毛がサラサラストレート、しかも超薄化粧!! えーっ!? 王子様みたいだ!!』


『……事実僕は王子様、だ』


 そう、何を隠そう今オレを抱き抱えているのはいつも金髪縦ロールの超クルクルヘアーに派手目な化粧をしているハルジオン王子ではない。


 サラッサラの髪をそのままに、ほんの少しだけナチュラルな化粧をした超美形な金髪蒼眼な完全なるイケメン王子がいるのだ。


 やだぁ、誰ぇ?


『頭まで打ち付けたんじゃないだろうな。お前が神典に長時間預けられると連絡を受けたから先に湯浴みを済ませたのだ。

 行くぞ。丁度良い、お前は暫くここにいろ』


『へっ?』


 ここ?


 現実逃避するように近くで信徒からオレの荷物を受け取っていたノルエフリンの方を向くが、苦笑いのまま頷かれてしまった。


 聞こえるよ……面倒臭いからそこにいろって声が、テレパシーかな。


『……触るぞ』


 不貞腐れながら小さくなっていく神殿を眺めていると歩きながら王子がオレの手を取った。それは、数時間前には決して消えない炎に焼かれて酷い有様だった手。あの熱さと痛みを思い出して堪らず体が震えると、体に回された腕の力が一層強まった。


 傷が、骨が、皮膚が……どんなに元通りになっても、あの時の感触と痛みが消えることはない。それだけは、いくら光魔導師でも、高名な信徒であろうと癒せはしない。


『一生の傷を残してしまったな……、酷いことをさせてしまった。お前はそれが自分の仕事だと言い張るだろうが、まだその小さな身に有り余る経験だ。

 僕といると、お前は……酷い目にばかり遭ってしまうな』


 悲しそうに笑うその顔には、そう……諦めたような何かがあった。


 オレは彼をこんな顔にするために焼かれたのではない。そんな風に辛い過去を思い出すような引き金になりたかったのではない。


『では、殿下』


 オレは、例え貴方が一人になったとしても、笑ってほしかったから手を伸ばしたのだ。


『ご褒美を下さい! 今日は、オレが酷い目に遭った日ではないのです。

 お仕事を頑張ったオレが、殿下から褒められて、ご褒美を貰って沢山良い思いをするんです。そうしたらオレは、貴方と出会って沢山幸せになるんです』


 おいおい、謝罪じゃ腹も胸も一ミリだって満たされないんだぜ? まだあれから、良くやったの一言だって貰ってないじゃないか。


『今日も良い日になりそうですね』


 ま。


 オレもお前も、ただの演習にしては散々だったけど無事に生きて帰れて良かったじゃないか。終わり良ければ全て良し!!


 いや、次こそはオレはあの魔人にギャフンと言わす!! 特訓あるのみ!


『……幸せ、……僕が、お前を?』


 元気よく頷けば、王子は暫く黙ったまま歩いていたが、ふと立ち止まってからキュッ眉を寄せて痛いくらいに抱きしめられた。唖然としながら視線だけでノルエフリンに助けを求めたが……なんかアホみたいに号泣してて、それどころじゃなかった。


 やだ、何この空間、超辛ぇ。


『でーんーかー、いーたーいー』


 しょうがないなぁ、最近の若人たちは。精神年齢三十路手前の寛大なるこのオレが受け止めてやるか、甘酸っぺぇぜ。


 しかし。この二人はそのまま数十分ほどそのまんまの姿勢で、時だけが無情に過ぎ去り結局耐え切れなくなったオレが暴れて王子の腕の中から脱出して二人の手を引きながら竜車へと向かう羽目になるのだった。





 お城に帰ってからの数日は、話を聞いた執事やメイドたちによって厳重なる療養生活を強いられた。彼らにとって魔人など出会えば死を表す象徴、それに攻撃されたと聞いた仲の良かったメイドたちは泣きながらオレを出迎えてくれた。

 
 あんなことがあったからか王子の公務も殆どなかったし、王子からも大人しくするよう言われてしまったために退屈な日々を過ごした。


『ご褒美……?』


『そうだ。なんだ、自分から言っていたのにもう忘れたのか』


 ある日のこと。王子のすぐ隣の部屋こそ、オレに与えられた私室。デンと真ん中に置かれたベッドに座って本を読んでいたらノルエフリンを連れた王子がやって来た。


『僕からと、あと国からもあるぞ』


『え? 国?』


 王子がノルエフリンに何か合図をすると、小脇に抱えていた馬鹿でかい本を手渡してきた。真っ黒な気品溢れる艶々のカバーをされ、読めない金の文字が書かれた鈍器にすら見えるそれ。


 その厚さ、正に辞書級。


『重いっ!!』


『今回の守護魔導師による功績は、全て主人である王子や王女の功績になるのだ。しかし王より賜る褒美は守護魔導師が選んで良いことになっている。

 簡単に言えば、褒美はやるから手柄は寄越せ、ということだな』


 好きなのを選べ、と言われるがそれどころではない。ノルエフリンはなんでもないように抱えていたがもうオレのお膝は今にも潰れそう。お高そうな本をベッドに乗せるのはどうなのかと一人でテンパっていたものの、見かねたノルエフリンが代わりに持ち上げ、一ページずつ見せてくれる。


 金や宝石、土地に旅行券……地位に武器に地竜まで様々。こんな豪華なカタログギフト怖いわ。


『何でも好きなものを一つ選んで良いそうだ』


『タタラ様、凄いですよ。名前だって貰えます。おや……家や山なんかもあります! お金も、平民でも贅沢をしなければ一生楽に暮らせますよ』


 確かにお金は嬉しい。名前も、スラムの人間には夢のような話だ。どれもこれも貴重で、身の丈に合わないものばかり。


 ページが進めば進むほど、何やらマニアックなものへと変貌していく。王冠やら船なんてのはまだわかる。


 ……しかし、


『わぁ……』


 クソ高いものや雲の上の住人が得るような宝物が沢山載る本の中で、一際オレの心をひいたのは、


 ぬいぐるみだった。


『ふわ、ふわ……』


 これも子どもの性だろうか。前世ではぬいぐるみなんて好きでもなかったのに、何故かそれは見た瞬間に目に焼き付いたのだ。


 真っ白なドラゴンぬいぐるみ。凄く大きくて、多分一メートルはあるビッグサイズだ。この世界でここまで大きなぬいぐるみはあまり見たことがない。大きな口を開けて角を生やし、真っ赤な羽を広げる可愛くてカッコイイそれは……オレのハートを鷲掴みにしたのだ。


『何か良いものがありましたか?』


『えっ?! ぁ、や……なんでもない!』


 しかし、それを欲しいと言うのは……いくら自分が子どもとはいえ恥ずかしかった。


『で、殿下……オレには恐れ多くて決められないので、何か無難なものを選んで下さい!』


 ああっ、なんだってぬいぐるみなんかにこんなに心がっ!! 畜生、いつか自分で買ってやるんだ!


 丁度その時、扉の向こうで執事さんが飲み物を持って来てくれたので荒ぶる心を鎮めるためにも自分で取りに走った。


『……ノルエフリン』


『はい。なんでしょう』


『あれは、何を見ていた?』


 結局国から貰えるご褒美は、王子が適当なものを選んでおくということで話がついた。あまりにも選択肢が多すぎてオレでは到底決められない。


 ……あのぬいぐるみ、可愛かったな。


 ぼんやりとあのイマイチ迫力に欠けるも、ボテってしたお腹とか無理して吊り上げたような瞳が可愛いぬいぐるみを思い浮かべる。


 しかし、悲しむことなどない。オレにだって守護魔導師としての仕事で得た給金があるのだ。勿論、中々の金額だ。明細を貰って小躍りしていたら無駄遣いしないようにと、何故かノルエフリンに釘を刺された。


 お母さんかよ、お前は。


『さて、次は僕からのご褒美だ』


 ベッドに座るオレと、それに向かい合うように椅子に座っていた王子が立ち上がってオレの隣に座る。フカフカのベッドが揺れて、それに合わせてオレの首も揺れる。


 王子のご褒美って何ぞ?


『僕にしてほしいこと、僕に出来ること、僕が叶えてやれること。何でも良い。

 願え、タタラ』


 なんでも?


 そう聞けば、王子は柔らかく笑ってみせた。いつもはオレにそんな顔を見せたりしなかったのに……一体どうした、団長殿に会えな過ぎて可笑しくなったのか!?


 なんて思ったが、そう思ってるのはオレだけらしい。近くに控えるノルエフリンも別に変に思っていないようで、むしろ何を言うの? みたいなワクワクした顔でこちらを見ている。


『殿下に、お願い……』


『国からの褒美ですら強請らないお前が、僕に何を願うのか興味はあるな。言ってみろ』


 何でも良いのか、じゃあ……。


 お願い、してみようかな……?





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