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鉄の壁の章
人間の国アーネンエルベ
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北の大陸にて。
軍事国家アーネンエルベ。
五千年の歴史を誇る最強の国家だ。
その中心部には強固な城がそびえ立っている。
その廊下を急ぎ足で進む豪奢な服装の男がとある部屋の扉を叩く。
――トントンッ
『入れ』
「はっ!」
男の名はヴィルヘルム。この国の軍隊の総司令官だ。
ヴィルヘルムは部屋の中にいた男の前で膝を付き頭を垂れた。
「王よ。南の大陸で動きがあります」
「話せ……」
ヴィルヘルムは語りだす。
お抱えの魔術師が奇妙な魔力を感じたことを。
そして魔導鏡で詳しく調べてみたところ、どうやら僅かだが南に巣食う異形と呼ばれる魔物の数が減っていることを。
「異形が……。ヴィルヘルムよ、どう見る?」
「攻め時かと。この千年、異形という障害のため侵攻は遅れていました。これ以上待つことは出来ないでしょう。後数十年で北の土地は不毛の大地に変わります」
ヴィルヘルムの言った通りであった。
北の大陸は元々土地が痩せており、まともに作物が育たない。
なので人間達は南の国である魔王セタが治める王都エテメンアンキへの侵攻を企てていた。
北の大陸は鉱石が豊富に採れ、一方南は大穀倉地帯であった。
両国はその特産を輸出入を行い、利益を出してきた。
しかし隣の芝は青いとはよく言ったものだ。
人間は南の大地を自分達の手に治めたくなっていた。
だが異形の存在が彼らの足を止めていた。
エテメンアンキが異形に襲われ陥落寸前のところを狙っていたが、自軍も被害を受けると侵攻を止めていた。
そしてもう千年が経つ。
この好機を逃してはアーネンエルベに未来はないだろう。
だが彼らはただ指をくわえて時が過ぎるのを待っていたわけではない。
「いつ動ける?」
「準備には少々時間を頂きます。失敗は許されません。少なくとも一、いえ二年は……」
「いいだろう。すぐに始めよ」
「はっ!」
ヴィルヘルムは王に一礼をして去っていった。
王は窓から南を見つめる。
「もうすぐ手に入る。求めて止まなかった統一国家が」
そして王は壁にかかっている、かつての主君の絵の前で高々と右手を上げた。
軍事国家アーネンエルベ。
五千年の歴史を誇る最強の国家だ。
その中心部には強固な城がそびえ立っている。
その廊下を急ぎ足で進む豪奢な服装の男がとある部屋の扉を叩く。
――トントンッ
『入れ』
「はっ!」
男の名はヴィルヘルム。この国の軍隊の総司令官だ。
ヴィルヘルムは部屋の中にいた男の前で膝を付き頭を垂れた。
「王よ。南の大陸で動きがあります」
「話せ……」
ヴィルヘルムは語りだす。
お抱えの魔術師が奇妙な魔力を感じたことを。
そして魔導鏡で詳しく調べてみたところ、どうやら僅かだが南に巣食う異形と呼ばれる魔物の数が減っていることを。
「異形が……。ヴィルヘルムよ、どう見る?」
「攻め時かと。この千年、異形という障害のため侵攻は遅れていました。これ以上待つことは出来ないでしょう。後数十年で北の土地は不毛の大地に変わります」
ヴィルヘルムの言った通りであった。
北の大陸は元々土地が痩せており、まともに作物が育たない。
なので人間達は南の国である魔王セタが治める王都エテメンアンキへの侵攻を企てていた。
北の大陸は鉱石が豊富に採れ、一方南は大穀倉地帯であった。
両国はその特産を輸出入を行い、利益を出してきた。
しかし隣の芝は青いとはよく言ったものだ。
人間は南の大地を自分達の手に治めたくなっていた。
だが異形の存在が彼らの足を止めていた。
エテメンアンキが異形に襲われ陥落寸前のところを狙っていたが、自軍も被害を受けると侵攻を止めていた。
そしてもう千年が経つ。
この好機を逃してはアーネンエルベに未来はないだろう。
だが彼らはただ指をくわえて時が過ぎるのを待っていたわけではない。
「いつ動ける?」
「準備には少々時間を頂きます。失敗は許されません。少なくとも一、いえ二年は……」
「いいだろう。すぐに始めよ」
「はっ!」
ヴィルヘルムは王に一礼をして去っていった。
王は窓から南を見つめる。
「もうすぐ手に入る。求めて止まなかった統一国家が」
そして王は壁にかかっている、かつての主君の絵の前で高々と右手を上げた。
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