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鉄の壁の章

地人と新しい作物

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 滝の湖に村を移動させた翌日、俺はみんなと一緒に遭難者を保護する小屋に向かう。
 今朝になってとうとう新しい種族の遭難者が現れたそうだ。
 地人、そうドワーフである。
 
 かつてこの大陸には王都という大都市があり、様々な種族が住んでいたそうだ。
 リディアの種族である森人エルフ
 アーニャの種族である蛇人ラミア
 シャニの種族である犬人コボルト
 そして今朝保護したドワーフとまだ見ぬ種族の魔人の五大種族が定住していた。

 他にも外部から人族や猫人カジートも行商などで王都を訪れていたと。
 デュパ達リザードマンは本来北の大陸に住んでいた種族なので王都ではほとんど知られていないそうだ。

 それにしてもドワーフか。髭もじゃのおじさんみたいな種族をイメージするんだけど。
 どのような種族なのかリディア達に聞いてみた。

「はい、大体そんな感じで合ってますよ」
「へー、ならやっぱり鍛冶とかが得意なのかな?」

 今度はアーニャが答えてくれた。
 確かに鍛冶もするが、それは種族としての特徴である強い膂力を活かすためだと。
 鍛冶はハンマーを振り続けなくちゃいけないからな。
 がっしりした体格の種族の仕事なのだろう。

「ラミアでも鍛冶をしている人もいましたよ」
「へー、意外だね。でも確かにラミアの力は強いもんな。そう考えると不思議ではないか」

 だがやはり一流の鍛冶師はドワーフが多かったそうだ。
 なら彼らも是非仲間に引き込みたいところだ……と思い保護室に入ったのだが。
 
「ううん……」

 ん? なんか普通の女の子がベッドに横になっているんだけど。

「あ、あのさ。この子ってドワーフで合ってるかな?」
「た、多分」

 とリディアは自信無さそうに答えた。
 俺の思っているドワーフとは違うぞ。
 それにこの子はまだ子供じゃないか。
 見た感じ中学校に上がるか上がらないかといった感じの年齢に見える。

「その子は古代地人エルダードワーフです」
「シャニ、知っているのか?」

 今度はシャニが教えてくれた。
 エルダードワーフとは古代に栄えたドワーフだそうだ。
 見た目は全く違うが元々ドワーフはベッドで寝ているこの子のような人とほとんど変わらない姿をしていたらしい。
 それが長い時を経て今の姿に変わったそうだ。
 シャニが言うには王都でもあまり見ない種族らしい。
 
「ドワーフの先祖は妖精ニンフであり、それが進化したものだという説もあります」 
 
 ニンフか。いよいよファンタジー染みてきたな。
 今までも充分過ぎるほどファンタジーだったけど。

「でもなんでシャニはエルダードワーフなんて知ってるんだ?」
「部下でエルダードワーフがいましたから。見た目は人とあまり変わりませんが、彼女が起きたら違いが分かるはずです」

 へー、つまり今は分からないってことだよな。
 悪いとは思ったが眠っている少女を観察してみる。
 まぁ子供だよな。12、3歳ってところか。
 赤毛の少し短い髪。ボブっていうんだっけ?
 そして手足や腰は折れそうなほど細い。
 しかし病的な細さではなく、この身長にあった細さなのであまり気にならないな。

「ライトさん、こっちに寝てるのもドワーフですよ」
「ん? どれどれ?」

 もう一人いたか。
 向かいのベッドには、これぞドワーフ!といった髭もじゃのおじさんみたいな種族が眠っていた。
 リディア、アーニャもこのタイプのドワーフは見慣れているようだ。
 
 今は寝かしてあげよう。
 俺達は保護室を出て自宅に戻ることにした。
 その道中でリディア達は各々自分が担当する仕事に向かうため、俺と別れることに。
 アーニャだけは今日は俺と一緒だ。
 村民達に相談しなくちゃいけないことがあるからな。
 それの通訳を頼んでいる。

 それじゃ俺も自分の仕事をするかな。
 まずは傷んだ壁を直すため、村の囲う壁を調べる。
 昨夜は月に一度の満月であり、大量の異形が村を襲いに来た。

「でも特に傷んだところは見当たりませんね」
「だなぁ。やっぱり鉄壁って頑丈だな」

 特にひび割れも無く、壁には異形が爪を立てた跡しか見つけられなかった。
 特に修復する必要は無いと判断したので、そのまま次の仕事に向かう。
 今度は広くなった畑に何を植えるのかを決めなくてはならない。
 ここがアーニャの出番となる。

 畑に着くと村民達が俺を待っていた。
 彼らの前で今まで集めた野菜の種を並べていく。

「この中で育てたいものがあったら教えて下さいね」

 アーニャが村民達に説明すると、彼らはワラワラと種を並べるゴザの前で相談を始める。
 今までに集めた野菜、穀物の種は100を超える。
 しかし以前は畑に使える敷地も限られていたので育てる作物は必要最低限のものしか選べなかった。
 でも今は以前の4倍の畑があるしな。

 少しすると、次々に村民が育てる野菜の種を選んでいく。
 最終的に新たに5種類の農作物を育てることになった。
 これがラベレ村の主要農産物となる。


・ナババ:パンの原料。
・ミンゴ:果物。酒の原料にもなる。
・ヤマイモ:生食可。
・茶葉:薬の原料にもなる。
・カエデ:貴重な甘味。
・豆:保存がきく。大豆に近い。
・キャ菜:葉野菜。
・ワサビ:森辛子と呼ばれているらしい。
・綿花:植物性の生糸になる。
・オリーブ:地球のものより大きな実であり、より多くの油が採れる。
・玉ねぎ:保存がきく。地球のものより大きい。
・テンサイ:砂糖大根に近い種。


 これからはこのラインナップで作物を育てていく。
 どうやら半年後には冬がくるらしい。
 そうなれば農業は出来なくなるので、今のうちに保存がしやすい作物も育てていくことにした。
 
「以上だ。みんな頼んだぞ!」
「Ichdue!」

 といつもの謎の言葉と笑顔を残し村民達は仕事に戻っていった。
 ふぅ、結構時間がかかったな。もうすぐ3時になるか。
 一応3時で仕事を終え、自由時間になる、自分の時間を過ごしても良し、そのまま仕事をしても良しってね。
 割りと緩い規則の中、村を運営しているみたいに思うが実はそうでもない。
 かなりブラックだと思う。

「なぁ、アーニャ。村の生活は厳しくないか?」
「え? そんなこと考えたこともありませんが。むしろ以前より楽しく生活していると思いますよ」

 アーニャは言ってくれるのだが。
 そりゃ一日に働く時間は短くなっただろうし自由時間も増えただろうさ。
 
「でもさ、前の生活では休みは週に何日あった?」
「お休みですか、そうですね……。少なくとも週に1回はありました。最低でも月に8日は休んでましたね」
 
 そうなんだ、それが普通なんだよ。
 だがラベレ村では何もしなくていい休日は月に一回のみ。
 異形の襲撃が無い、新月の一日しか完全な自由時間が存在しないのだ。
 そう考えるとやはりかなりブラックな運営をしていると言わざるを得まい。

 やはり村民を増やしていくしか方法がないな。
 今の倍の人口があったらシフト制にして休みを増やすことが出来るはずだ。

 でも俺一人が何百人ものシフトを管理するのは無理だろうし。
 っていうかさ、そろそろみんな自由に商売とかしてもいい頃なのかもしれんぞ。

 別に資本主義、共産主義を語るつもりはないが、元々王都は自由に商売をして生活してたみたいだし。

「ねえ、アーニャさん」
「はい、なんでしょうか?」

「もしラベレ村で自由に生きていいとしたらどんな仕事をしたい?」
「仕事ですか……。ふふ、ライト様のお世話係をやりたいです」

 今とあんまり変わらないじゃん。
 ははは、もしかしたら永久就職の話をしてるのかもしれないな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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