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石の壁の章

安息日に向けて☆

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「行ってきます!」
「では行ってまいります」
「ライト殿、それでは」

 リディア達はそれぞれ仕事に向かっていった。
 今の俺は彼女達の許可無く村の外に出ることが出来ない。
 うーん、俺の村なのになぁ。

 しかし今は好都合だと思っている。
 他の仕事に費やせる時間が増えたことだ。
 そこで今まで停滞していたことをやってみようと思っている。
 
「さてと……」

 俺は村を囲む壁の修復を終え、デュパがいる溜め池に向かった。
 彼は昨日と同じように鼻歌を歌いながら魚の世話をしていた。

「ラーラー。ララララー。グルルー。ラララー」

 ははは。ちょっとアレンジしてるじゃん。
 でもそれじゃ鐘一つだな。

「おはよ。すまんが邪魔するぞ」
「グルル。ライトか。今日も手伝いに来たのか?」

 いや、悪いが違うんだ。
 俺は溜め池の横で壁を生成する。

【壁っ】

 ――ズズンッ

「グルル。何をするのだ? 竹壁など出しおって」
「ははは、ちょっとやりたいことがあってね。俺のことは気にせず作業しててくれ。でもなるべく歌は歌っててくれ」

「歌だと?」
「あぁ。頼む」

「おかしな奴だ」
「俺もそう思うよ」

 デュパは少し戸惑っているようだが、再び歌いながら作業に戻る。
 それじゃ俺も始めるかな。

 竹壁の根元を消すと支えを失った竹はバラバラと地面に転がる。
 器用な村民はこの竹を使って家具や生活用品を作ったりしているのだ。

 俺は細目の竹を拾い、ダイヤモンドから作ったナイフで切る。
  
 ――スパッ

 おぉ、いい切れ味だな。
 長さは50㎝程度。こんなものだろ。
 
「グルル?」
「ははは、気にするなって」
  
 チラチラと俺を見るデュパに適当なことを言いつつ作業を進める。
 竹は中にも節があるからな。
 このままでは俺の目的のものにはならない。
 多少無理やりではあるがナイフを突っ込み強引に穴を開けた。
 
 よし、とりあえずこんなものだろ。
 次だ。唄口になる部分を慎重にナイフで削る。
 
 これでよし。ちょっと試してみるか。
 俺は息を吸ってから、唄口に空気を吹き込む。

 ――ボェー

 うーん、変な音。これは失敗だな。
 
「グルル? お前はさっきから何をしているのだ? もしかして笛でも作っているのか?」
「正解だ。上手く作れたらデュパの歌に合わせて吹いてみたくてね」

 ――ザバッ

 デュパは溜め池から上がってきた。
 そして俺の横にドカッと座る。

「手伝おう」
「あんたが? ははは、蜥蜴が笛なんか作れるのかよ」

「お前よりは器用だと思うがな」
「言ったな? ならどっちが上手く作れるか勝負だ!」

 俺達は二人で笛を作り始めるかな。
 素人のおっさんが二人集まったところでまともな笛が作れるとは思えないけどな。
 まぁ、やってみないことには始まらんだろ。
 
 作業をしつつデュパが聞いてきた。

「しかし何故笛など作るのだ?」
「んー、特にこれといった理由はないんだけどね。強いて言えば娯楽のためかな?」

 生きることに精一杯で、さらに夜には俺達の命を脅かす化け物が毎日のようにやって来る。
 今までそこまで考える余裕が無かった。
 でもシャニの歌を聞いて思った。
 娯楽は心の栄養だ。それがあるだけで心の糧となる。
 過酷な環境だからこそ娯楽は必要なんだ。
 
 それにこれはシャニのためにもなることなんだ。

「あのさ、後二日もすれば新月になるだろ? その日はみんな好きなことをすればいい。月に一回しかない休日になるんだ。俺達の安息日だな」
「グルル、安息日か。その日にこの笛はその日のためのものか? 良い考えだ。だが……。ははは、お前に笛が吹けるのか?」

 この蜥蜴野郎が。これでも中学校では吹奏楽部員やってたんだぞ。担当はトロンボーンだけどね。
 まぁ、それなりに音楽の成績は良かったしな。なんとかなるだろ? 多分。

 失敗を繰り返すこと十数回。
 ようやく納得出来るものが仕上がってきた。
 むふふ、それでは御披露目してやるか。

「よし、試してみるか。なぁ、歌い手さんよ。綺麗な歌声を聞かせてくれよ」
「グルル、承知した」

 デュパは立ち上がり、ノコギリで木を引くようなダミ声で歌い始める。
 ははは、その声でよく俺を馬鹿にしたもんだよ。

 ――ラーラー ララララー ラーラー ラララー

 デュパの歌に合わせて俺は笛を吹き始める。
 旋律に想いを込めて音を乗せる。

 ――ラーラー♪ ララララー♪ ラーラー♪ ラララー♪

 歌と笛の音が交じり合う。
 こんな蜥蜴のおっさんの声ですら、二つも三つも上手く聞こえるようになるのが不思議だな。
 ならばシャニの歌声ならばどうだろうか?

 もしかしたらこれがシャニと村民の間にある壁を壊してくれるかもしれない。
 これが俺が思い付いたことなんだ。

「……ラララー♪ ラーラー……♪ ライトよ、中々やるではないか」
「あんたに誉められてもなぁ。ふふ、まぁあんたの歌も中々だったぜ。手伝ってくれてありがとな。ってもうこんな時間か」

 いつの間に夕方になっていた。
 結局出来上がった笛はこの一本だけか。
 まぁ器用なものが作れば、これ以上のものが出来上がるだろうさ。

「グルル。ライトよ、帰る前に一曲聞いていくか?」
「だな。行くか」

 俺とデュパは牧草地に向かう。
 そして櫓の上で歌うシャニの声に耳を傾けた。

 ――ラーラー ララララー ラーラー ラララー

 夕日に向かって歌う彼女の透明な声。
 いつの間に俺はシャニの歌に心をとらわれていることに気付く。

 歌が終わり、俺はデュパに別れを告げ家に帰ることにした。

「迎えには行かぬのか?」
「あぁ」

 それだけ言って家路に着く。
 今彼女に会えば余計なことを言ってしまいそうだからな。

 シャニより先に家に戻るとリディア達が夕食を用意して待っていてくれた。

「ライトさん、お帰りなさい!」
「ごはんが出来てますよ」

「ただいま。そうだ、二人にも言っておかなくちゃ。二日後は新月だからな。せっかくだから好きなことをしようか。リディアは何をしたい?」

 先にリディアに聞いてみた。
 
「え? 何をしたいかですか……? 難しいですね。そうだ! ライトさんと一日裸で過ごしたいです!」
「リディアさん、ずるい! 私も混ぜてください!」

 いや、裸で過ごすのはさ、ほとんど毎晩してるじゃん。
 そうじゃなくて、もっと心に残るものをさ。

「んー、なら美味しいものが食べたいです!」
「いいですね! ライト様の世界の食べ物とか興味があります! 作ってください!」

 ん? 俺の手料理ってことか? 
 ははは、それぐらい別に構わないさ。
 よし、二人には美味しいものを作ってやるか。

 それともう一つ言っておかないとな。

「あ、あのさ……。悪いんだけど、夜の時間はシャニのために使ってあげたいんだ。一緒にいられないかもしれないんだが……」

 言い辛いことではあるが、シャニがここで心穏やかに暮らすためだ。
 
「ふふ、もちろん大丈夫ですよ。シャニは可愛い妹ですから」
「私も賛成です。シャニとは仲良くなりましたが、まだあの子はどこか心を閉ざしていると思うんです。それを取り払えるのは私達では無理です。ライト様でなくてはいけないんです」

 リディア、アーニャ……。
 二人とも俺には過ぎた女だよ。
 彼女達を抱きしめてキスをしておいた。

「ん……。ふふ、嬉しいです。でもせっかくの貴重な時間をシャニにあげるんですから」
「今夜はいっぱい可愛がってください……」
「もちろんだよ。二人ともありがとな。シャニが帰ってくるまで少し時間があるよな?」

 リディア達を抱き抱え二階に向かう。
 キスをしながら彼女達の服を脱がせていく。

「リディア、アーニャ……。愛してるよ」
「はい……。私もです……」
「ライトさん、大好き……」

 短い時間ではあるが、想いを込めて二人を抱いた。
 果てを迎えた俺達はベッドでイチャイチャしながら今日は何があったとか、安息日には何が食べたいとかくだらないことを話し平和な時間を過ごす。

「ふふ、私はラーメンっていう料理が食べてみたいな!」
「んー。なら私は甘いものがいいです。シュークリームってすごく美味しそうですね!」
「なら私はスイートポテトという菓子に興味があります」

 ほうほう。リディアはラーメンね。ナババの実があれば何とかなるだろ。
 シュークリームも今はミルクが手に入るからな。アーニャに食べさせてやれるはずだ。
 んでシャニはスイートポテト……って、シャニの声がする!?
 
 ここは二階のリディアとアーニャの部屋だ。
 一階には俺のベッドがあるが帰ってきたシャニにエッチな場面を見せないためにも二階に来たんだけど。
 っていうか、シャニがリディア達の部屋に!?
 いつ入ってきたの!?

「お、お帰り。いつからそこに?」
「いつからと言われましたら2時間前からです」

 ってことは全部見てたの!?
 俺がリディアのあんなところをペロペロしてるところとか、アーニャのそんなところをツンツンしてるところとか!?

「はい、見ました。全て拝見しています」
「忘れてくれ……」

 俺は恥ずかしかったけど、リディア達は笑ってたな。
 
 そしてさらに二日が経ち、村民達と過ごす初めての安息日がやってきた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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