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竹の壁の章

滝の洞窟にて

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 ――ドドドドドッ!

 大きな音をたて、大量の水が滝から流れ落ちてくる。
 魔の森にこんな滝があったんだな。
 
 それにしても大きい。滝の下には落ちてきた水がたまり湖となっている。
 豊富な水量だ。これは水源として利用しても大丈夫だろう。
 問題は拠点から遠いってことだな。

「わぁー、すごいですね……」
「あぁ。観察がてら少し休もうか」

 リディアと岸に座り、湖を調べる。
 水は澄んでおり、煮沸しなくても充分に飲めそうだ。
 それだけではなくイワナのような魚も泳いでいる。
 
 どうするかな……。時計を見ると13時をまわったところだ。
 あまり時間は取れないが、少しくらい帰るのが遅れても大丈夫だろ。

「リディア、せっかくだしさ、魚でも食べないか?」
「お魚ですか? ふふ、大好きですよ。でも釣竿なんて持ってませんし……」

 ほうほう、リディアはお魚さんが好きなのか。
 こういうこともあろうかと、少量だが塩を持ってきたのは正解だったな。
 
「ちょっと待っててね。壁!」

 ――バシャッ!

 湖の一角、魚が泳いでいる範囲のみ壁で囲う。
 さらに囲いを狭くするよう壁で囲っていく。
 魚は逃げ場を失い、俺は手掴みで魚を取る。

 瞬く間に二匹のイワナのような魚をゲットした。
 
「すごーい! ライトさん、すごいです! そうか、そんな捕まえ方もあったんですね!」
「ははは、だろ? それじゃ火を起こすよ」

 久しぶりの魚だ。肉も好きだが、40になってからは魚の方が好きになってね。
 リディアは嬉しそうだが、何気に俺も楽しみだ。
 
 いつものように摩擦熱で火を起こし、竹を利用した串で魚を焼いていく。
 次第と魚はこんがりと焼けていき、最後に塩を振って、はい完成!

「出来たみたいだね。食べな」
「はい!」

 リディアは魚をハフハフと頬張る。
 美味そうに食べるな。
 どれ、俺も頂くかね。

 皮はこんがり、中はしっとり。
 おぉ、魚を焼いただけなのに日本を思い起こさせる味だ。
 これは米が欲しくなる味だな。

「うふふ、美味しいです」

 久しぶりの魚を食べ、とても満足だ。
 アーニャと村民にも食べさせてあげたくなったので何匹が捕まえていくことにした。
 今度は俺が壁を作り、リディアが魚を捕まえる。
 だが魚はツルツルしているのか、中々苦戦していた。
 
「あーん、待ってー」
「ははは、頑張ってくれよ」

 なんてデートっぽいことをしつつ、ようやく魚をゲットする。
 リディアは捕まえた魚を紐で結わえ、満足そうに笑っている。

「うふふ、やりました! ん? ライトさん、あそこ……」

 お? リディアが湖の対岸を指差した。
 ちょうど滝が落ちてくる場所だな。
 
「どうした?」
「あそこって洞窟になってませんか? ほら、滝の裏側です」

 どれどれ? 確かに彼女の言う通り、滝の裏側には洞窟があるように見える。
 それだけじゃない。見間違いかもしれないが、滝の裏から人影のようなものが見えた……気がした。

「見た?」
「は、はい。あれは獣ではなさそうですね」

 リディアも同じものを見たか。
 これは確かめる必要があるだろうな。
 だがもし人だったら、異形に囚われて自我を失った住人ではないだろう。
 だって明らかに人影は直立した姿だったからだ。
 
「確かめよう。もしかしたら人かもしれないからな」
「はい……」

 俺達は警戒しつつ滝の裏側に向かう。
 もちろん武器は構えたままだ。
 異形の囚われた者は自我を無くす。これは間違いないことだろう。
 だが自我を失うということは、俺達の敵になり得ないということでもある。
 だって意識というか敵意すら無いわけだからな。
 
 だからこそ俺達は警戒しなければならない。
 この未開の森に住み、かつ意識を、自我を持つ者は俺達の敵になり得るからだ。
 
「リディア、この森に住んでいる種族っていたか?」
「森に? いいえ、聞いたことがありません」

 リディアの話ではかつて王都があった時代ですら大型の獣が出没しており、さらに夜は異形も出るなどかなり危険な森だったそうだ。
 今と変わらんな。

「そうか。でも王都が滅んだ後に移住してきた種族がいるかもしれないしな」
「そ、そうですね。でもこんな危ない森に住む種族って本当にいるのでしょうか?」

 それを今から確かめにいくのさ。
 俺達はようやく滝の裏側に到着する。
 さっき見た通りだが、滝の裏には隠れるように洞窟が口を開けていた。
 自然が作り出した洞窟ではあるが、明らかに人の手が加わっている箇所が目に付く。

「あれを……」
「あぁ……」

 洞窟の壁には松明が刺さり、中を赤々と照らしていたからだ。

『グルルルルルっ……』
  
 そして洞窟の中から現れた者がいる。
 人ではなかった。
 全身は鱗に覆われており、冷血動物のような目をしている。
 二足歩行ではあるが、下半身には胴体と同じくらい太い尻尾がある。

「と、蜥蜴人。なんでここに……?」

 リディアが驚いている。
 蜥蜴人……っていうかリザードマンは威嚇するように喉を鳴らし、持っていた槍を俺達に突きつけた。

「グルルルルッ。人族と森人か。何故ここにいる?」

 とリザードマンは俺達に問いかける。
 おや? こいつは言葉が通じるな。
 コミュニケーションが取れるなら、無用な戦いは避けられるだろう。

「お、落ち着いてくれ。俺達は敵じゃない」
「ふん。人族が今さら何を言うか。ここは我らの家。部外者が立ち入って良い場所ではないぞ。即刻立ち去るのだ」

 あまりフレンドリーな種族ではないようだな。
 それにこいつの言葉から察すると人間に恨みを持っているような口振りだ。
 だが言葉は通じるんだし、せっかくだから話を聞いてみたい。

 俺はリディアが持つ魚をリザードマンに渡す。

「すまない。手土産も無く押し入ってしまって。これは詫びの品だ。受け取って欲しい」
「グルルルルッ? 土産だと? ふん、人から施しなぞ受けるつもりはない」

 リザードマンは魚を受け取ってくれなかった。
 その顔は蜥蜴そのものなので表情は読み取れないが、槍を構えたままだ。
 まだ警戒してるんだろうな。

「グルルルルッ……。貴方、誰か来たの……?」
「ウルキ、起きてきては駄目ではないか。下がって寝ていなさい」

 今度は洞窟の奥からもう一匹リザードマンが出てくる。
 痩せてるな。リザードマンの特徴なんかはよく分からんが、明らかにやつれているみたいだ。
 ウルキと呼ばれたリザードマンだが、言葉から察すると女性なのかもしれない。

「具合が悪いみたいだな。助けがいるなら言って欲しい。出来る限りのことをしよう」
「グルルルル……。人族の助けなど……」

「なぁ、あんたが人にどんな恨みを持っているかは知らん。だが個人的な恨みでその人を助ける方法を一つ捨てるのはバカのすることだ」
「くっ……。言わせておけば。ふん、仕方あるまい。こっちだ。入ってこい」

 リザードマンは洞窟の中に俺達を通してくれた。
 この世界に来て、最初から言葉が通じる相手は彼らが初めてだ。
 彼らなら何か知ってるかもしれない。
 
 俺はその可能性を感じていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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