謎の能力【壁】で始まる異世界スローライフ~40才独身男のちょっとエッチな異世界開拓記! ついでに世界も救っとけ!~

骨折さん

文字の大きさ
上 下
15 / 93
木の壁の章

リディアの気持ち

しおりを挟む
「よいしょっ……。そろそろ食べられるかな?」

 リディアは木に吊るしたウサギ肉を下ろす。
 しっかりと血抜きは出来ており、臭みも抜けていると判断した。

 彼女は肉を切って木製の鍋に入れる。鍋と言っても四角い箱なのだが。
 他にも水とナババの実、食べられる野草なども一緒に。
 
 熱く焼けた石を鍋に入れるとジューッという大きな音を立て、水はすぐに沸騰した。
 これは異邦人……他の世界から来た来人という男から学んだ調理法だ。
 
(うわぁ、久しぶりのお肉だ……。美味しそう)

 彼女は聖職者ではあったが、節制は必要無い。
 むしろ恵まれない者に施しとして食べさせるためにも狩りは励行されていたのだ。
 
 調理をしながらリディアは思う。
 先日リディアと来人は二人で狩りに出掛けた。 
 そこで出会ってしまったのだ。魔物のように大きな猪を。

 野生の猪は危険だ。彼らは雑食のためか肉も食らう。
 人もエルフも猪の餌さでしかないのだ。
 
 猪は足も速く逃げることは出来ないだろう。
 リディアは自分の命を救ってくれた来人を生かすべく、自身が犠牲になることを決意する。

 しかし来人は自身が持つ唯一無二の能力、【壁】を使い、猪の動きを止めたばかりではなく、槍を猪の頭に突き立てた。

(ライトさん、かっこよかったなぁ)

 リディアは来人の勇姿を思い出す。
 あの大きさの猪を一人で狩ったのだ。
 エルフは優れた狩人ではあるが、あのような狩り方が出来るのは来人一人だけだろう。

 リディアは焦っていた。
 一度ならず、二度までも来人に命を救われた。
 一度目は自我を失っていた自分を森から出してくれただけではなく、冷たくなった一晩中体を抱きしめることで暖めてくれた。
 そして二度目は猪から。
 なのに自分は来人の役に立っているのかと焦っていたのだ。
 
(それだけじゃないよね)

 リディアは思う。
 自分達を夜な夜な襲いにくる異形のことを。
 異形とは正体不明の魔物だ。
 かつてこの地に王都が栄えていた頃にも異形は存在していた。
 だが王都の城壁は高く頑丈で住民の生活を脅かす程ではなかった。
 
 住民は異形を厄介な隣人程度にしか思っていなかったのだ。
 しかし彼女が大人になる頃、突如異形の数が増え始める。
 城壁が破られ、襲われる人も増えてきたのだ。
 異形は人を殺すのではなく、森に連れ去る。
 連れ去られた者はリディアのように自我を失うのだ。
 
 当時の学者は異形が何をしたのか調べたが、何も分からなかった。
 何も解決策が見つからぬまま、魔王セタは異形達と戦い続けるが……。

 リディアが覚えているのは城壁が破られ、異形が王都エテメンアンキを襲う姿だった。
 彼女もその時に異形に捕まり、森に連れ去られたのだろう。
 
 そして意識が戻った時は見知らぬ人族の男に抱きしめられていた。
 
 リディアは驚いたが、彼が自分の命を助けるために抱いていることに気付く。
 とても暖かく、心地よかった。

(男の人に抱きしめられたのって、お父さん以来だよね……)

 そう、リディアは男性と交際したことは無いのだ。
 それは自身のコンプレックスが原因である。
 
 この世界のエルフは独自の美醜における価値観を持つ。
 リディアはこの世界ではさほど美人ではない。
 むしろ醜女として子供の時から苛められていた。
 それは彼女が持つ大きな胸が原因だった。

 エルフの女性は胸が小さければ小さい程美しいとされる。
 彼女の胸はエルフの中では異例の大きさだった。
 
 どうせ結婚出来ないんだから、教会にでも就職しよう。
 リディアはこんな想いで聖職者になった。
 別に信心深いわけではない。
 それに教会に勤める者は食べることについては困らなかった。
 国から安定的に給料は出るし、空いた時間で狩りも出来る。
 食べることが大好きな彼女にとって聖職者になることは天職だったとも言える。
 
 同族から女として相手にされず、彼女は食べることだけに楽しみを見いだした。
 そう、リディアは恋愛に関しては干物女だった。
 パッサパサだったのだ。

 それがどうだ? 
 気が付いたと思ったら、男に抱きしめられていた。
 しかもめっちゃ彼女のタイプだ。
 
 エルフは総じて若い顔をしている。
 他種族から羨ましがられる時もあるが、当人達はそうは思っていない。
 皆似たような顔をしており個性が無いのだ。
 だからエルフは大人……人間でいうところの中年の顔を好む。
 来人はリディアのどストライクゾーンにいたのだ。

 幸い来人はリディアのことを嫌ってはいないらしい。
 それどころか、自分のために色々と世話を焼いてくれる。
 彼女にとって千載一遇のチャンスが舞い降りたのだ。

 しかも来人は異邦人。時折異世界から訪れる特殊な力を持った者。
 異邦人の中には悪い者もいるらしいが、庶民の間では異邦人が主人公の冒険譚や恋物語が本になって大ヒットしていた。
 もちろんリディアも読んでいた。めっちゃはまっていた。

 異形に襲われるという吊り橋効果もあり、リディアは来人のことが好きになっている。
 恋愛についてはポンコツの彼女だが、自分の気持ちを来人に気付いて欲しくて頑張っているが、中々上手くいかない。

(やっぱり大きな胸が駄目なのかなぁ)

 そう思いリディアは憎々しげに自分の胸を掴む。
 
「いい匂いだね。って、何してんの……」
「ラ、ライトさん!?」

 後ろに来人がいた。
 咄嗟に胸から手を離すが、ばっちり見られていたようだ。

「で、出来上がったみたいです! た、食べましょう!」
「おぅ……」

 強引に話を切り替え食事の時間にすることに。
 
 二人で焚き火を囲みながら、久しぶりの肉に舌鼓を打つ。

「うふふ、美味しいです」
「あぁ、リディアは料理上手なんだな。いいお嫁さんになるぞ」

 来人が誉めてくれた。
 彼の言葉がスパイスとなり、さらに美味しく食べることが出来た。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...