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木の壁の章

水を探しに行こう

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 リディアと一緒に森に行くことになった。
 目的は食糧と水の確保だ。

 今俺達が食べられるものはミンゴという水分の多い果物だけ。
 喉を潤すことは出来るが、水分を摂るのにいちいちミンゴを齧るのも面倒くさい。
 それにもう飽きちゃったし。あんまり美味しくないしさ。

 森の中にはミンゴ以外にも食べれる果物はあるみたいだ。
 
「ライトさん、あそこです!」
「はいよ」

 森を歩くこと一時間。ようやくお目当てのものを見つける。
 リディアが指差すほうにはバナナのような果物がなっていた。
 俺は果物の下で【壁】を作りだす。

 ――ズシャッ ドサッ

 壁は果物に命中。地面に落ちてきた。

「やりました! ナババの実です!」

 ナババですか。見た目はバナナそのものだが。

「ふふ、食べますか?」

 とリディアはナババを一本渡してくれる。
 食べ方も地球のバナナと同じように皮が剥けた。
 肝心なのは味だ。バナナは腹持ちも良く、栄養価も高い。
 さて、この世界のバナナの味はどうだろうか?

 ――カリッ シャクッ

 ん? およそバナナの歯ごたえとは違う食感が。
 固くて味がないなぁ。それにパサパサして口が乾く。
 なんだ、この粉っぽいバナナは?

「あんまり美味しくないね」
「ふふ、そうですね。ナババは粉にしてパンにするのが普通なんですよ」

 ほぇー、このバナナっぽい果物がパンに変わるのか。
 ん? そういえばリディアはナババの味を知ってたんだよな?
 食べ方を知ってるということは、生で食べても美味しくないことを知ってたはずだよな?
 
「えへ、ちょっとイタズラしたくなっちゃって」
「こら、大人をからかうなよ」

 リディアは少女のように笑う。
 ははは、こんな笑い方をするんだな。
 彼女の新しい一面が見られてよかったよ。

 とりあえずナババは食べられることが分かった。
 美味しくはないが、貴重な食糧なので持って帰ることにした。

「うふふ」
「なんだよ、まだ笑ってるのか?」

「いえ違うんです。ナババは綺麗な水がないと育たないんです。おそらくですが近くに川か池があるはずですよ」

 おおっ! 待望の水があるだと!
 彼女の話では、魔法は使えないが、精霊の声が聞こえるらしい。
 リディアが契約しているのは水の精霊であり、水辺を好むそうだ。

 俺とリディアはさらに森の中を進む。
 腕時計は昼の12時を示していた。
 帰る時間を考えると、3時には森を出たいところだな。

 そしてさらに歩くこと一時間。
 聞こえてきたのは川のせせらぎだった。

「水だ!」
「はい!」

 俺達は川に向かって走り出す。
 川はあまり大きなものではなかったが、それなりの水量があり、水も綺麗だった。
 本当は煮沸したほうがいいのだろうけど……。
 もう我慢出来ん!

 ――バシャッ ゴクンッ

 両手で水をすくい、口に運ぶ。
 おぉ……。異世界に着いてから初めてまともに水を飲めたよ。
 リディアも同じように川の水を飲む。
 やっぱりミンゴだけでは喉を潤せないからな。

 しっかりと水分を摂ったところで、少しだけ休憩していくことにした。
 二人で川縁に座り、今後のことを話す。

「あのさ、拠点を変えようか。俺の力を使えば家……いや、小屋ならすぐに出来るしさ」
「はい。確かに水原に近いほうが便利でしょう。歩いて二刻も離れたところまで水を汲みにいくのは面倒ですね」

 意見が一致する。このまま川を伝って下流まで向かうことにした。

「でもさ、この川ってどこに続いてるんだろう。このまま川沿いに歩いても森を抜けられるとは限らないよな」

 俺はキャンプ経験、サバイバル経験などないが、その手の動画は好きだった。
 その中で遭難時に川を見つけても川を下流に向かうのは危険な行為の一つだと言っていたのを思い出す。
 滝があったり、森の奥深くに向かう可能性もあるからだ。

「ふふ、大丈夫ですよ。精霊の気配を感じるんです。それも下流に向かうほど強くなっていますから。森の瘴気が薄れている証拠です」

 へぇー、そんなことまで分かるのか。
 さすがはエルフ。森の民だ。

「リディアはすごいね。精霊の声を聞こえるなんてさ」
「うふふ、誉めてもらうのは嬉しいけど私はライトさんの方がすごいと思いますよ」

「ははは、美人に誉められるのは嬉しいね。それじゃそろそろ行こうか」
「び、美人ですか? あ、ありがとうございます」

 おや? リディアが頬を染めている。
 誉められ慣れてないのかな?
 でもリディア程の美人なら十人中、十人が振り向くだろ。

 なんか照れてるリディアと一緒に川を下流に向かって歩きだす。
 もちろん【壁】で作った木製の入れ物にたっぷりと水を入れておいた。
 リディアは途中で石を拾っている。黒曜石みたいな石だな。
 何に使うんだろうか?


◇◆◇


 そして木漏れ日がオレンジ色に染まる頃、俺達はようやく森から出る。
 ここも今朝までいた平原とあまり大差ないが、近くに川があるのは嬉しい。
 
 さぁ、それじゃ新しい拠点を作るとするか。
 
【壁っ!】

 ――ズズズッ

 いつものように壁で四方を囲う。
 今回はやりたいことがあるので、少しだけ広めに拠点を作ることにした。
 
「わぁ、やっぱりすごいですね」

 とリディアは今日も感心してくれた。
 小説のようなチートとはいかないが、やっぱりそれなりに便利だな。

 俺達の小屋も作ったところで、今日の収穫を確認することに。
 地面に置いて二人で採ってきたものを並べる。
 こんな感じだ。

・真水:およそ5リットル
・ナババの実:約3キロ。味は無いが、パンの材料になる。
・黒曜石の欠片:約500グラム
・茶葉:道中で摘んできた。どこでも自生しているらしい。
・サワガニ:5匹。貴重なタンパク源。

「うわぁ、いっぱいありますね」
「あぁ。とりあえずしばらくは飢えることはなさそうだ」

 だがサワガニを捕まえたはいいが、生では食えんぞ。絶対お腹を壊すだろうし。
 水だってそうだ。さっきは我慢出来なかったので飲んでしまったが、基本的には煮沸するべきだ。

 そう、俺達には火が必要なのだ。
 リディアもお茶が飲みたいって言ってたし。

 俺は細長い壁を作ってから根元を消す。
 こうすることで木の棒を二本用意した。

「その棒でどうするんですか?」
「いやね、こうなったら火起こしをするしかないでしょ」

 まさか原始人みたいな火起こしをすることになろうとは。
 しかし火がなければ何も始まらない。
 せっかく採ってきたきた食糧が無駄になってしまうだろうし、火があればやれることの幅が広がるはずだ。
 
 俺は棒を手にとり、渾身の力で擦り合わせ始めた。

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