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木の壁の章
リディア
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「お、おはようございます。わ、私はもう大丈夫ですから。そ、その……。足がお股に当たっていて……。くすぐったいんです」
「ごめん……」
エルフの女の子は俺に抱かれながら顔を真っ赤にしていた。
いきなりのことで理解出来ず咄嗟に謝ってしまったが……。
お股に足?
――モゾッ
「きゃんっ」
と声をあげる。足をどかそうとした時に擦ってしまったらしい。
し、しまった。そういえば低体温症だった彼女を助けるために夜通し抱きしめていたんだった。
「そ、そろそろ離してくれるの嬉しいのですが……」
と彼女は困った顔をしている。
慌てて彼女から離れ、お互い気まずい雰囲気の中向かい合う。
ん? でもさ、今この子ってしゃべったよな?
昨日彼女を発見した時は言葉を発することはなく、コミュニケーションは取れない状態だった。
それが今になって言葉は通じる。一体何が起こったというのだろうか?
分からないことだらけだが、話が通じるのは嬉しい!
ここは異文化コミュニケーションならぬ異世界コミュニケーションといこう!
「あ、あの……」
「ひゃいっ!?」
俺から話そうと思ったのに先に声をかけられた。
思わず変な声が出てしまう。
女の子と話すのは苦手ではないが、ここまでの美人さんだとやっぱり緊張しちゃうな。
「あのですね……。おぼろげながら貴方が私の命を救ってくれたのを覚えています。本当にありがとうございました」
とエルフは頭を下げた。
なんだ、そんなことか。当然のことだと思ってたからな。
そのことでお礼を言われたのは意外だった。
そういえば彼女の名前すら分からないんだったな。
このままお互い名無しの権兵衛さんってわけにも良くないだろう。
「別にお礼を言われることはしてないよ。当たり前のことをしただけだしね。あのさ、俺は来人っていうんだ。よろしく」
彼女も不安だろうから精一杯の笑顔で名を名乗る。
するとまるで花が咲いたような笑顔を返してくれた。
うわっ……。笑うと余計に美人だ。
「ライト。うふふ、素敵な名前ですね。そういえば自己紹介がまだでした。私はリディア。王都バクーで聖職者をしています」
「へー。リディアさんか。よろしくね。ところでその王都ってのは近いのかな?」
「ふふ、リディアでいいですよ」
聖職者っていうのがどういうお仕事なのかは知らないが、日本でいうところの巫女さんなのかな?
名前で呼んでいいと言ってくれたし、中々フレンドリーだ。
しかし俺の質問に彼女はキョトンとした顔をする。
何か変なことを言ったかな?
「王都が近い? それってどういうことですか?」
「いやさ、ここは何も無い無人の広野だよ。近くに王都があるなら嬉しいんだけど」
「なんですって!? すみません、ここから出して下さい!」
と彼女は慌てふためいている。
ただ事ではない雰囲気だ。
そとは危険だが、今のところ襲撃の気配は無さそうだし。
多分大丈夫だよな?
俺は壁の一面に向かって……。
「消えろ」
――ズズズッ
一言発すると壁は消え去る。
視界の先には膝下まで鬱蒼と草が繁る広野が広がっていた。
その光景を見たリディアは膝から崩れ落ちる。
「そ、そんな……」
「ど、どうしたんだ?」
彼女は落胆しているようだが、俺にはさっぱり状況が掴めない。
一先ずは彼女から話を聞いてみるしかないだろうな。
「あ、あのさ。このまま壁を開けてたらまた襲われるかもしれないんだ。落ち込んでいるところ申し訳ないが……」
「分かっています……。この光景を見てある程度理解出来ました。王都は滅んだみたいですね……」
王都が? どういうことだろうか?
壁を作り、落ち着いたところでリディアの話を聞いてみることにした。
「すまないが、俺はこの世界の状況を全く知らないんだ。ゆっくりでいいから話してくれないか?」
「何も知らない? ライトさんはバクーの住人ではないのですか? それに先ほどの魔法ですが、世界の理からは大きく離れた魔法です。魔力と魔法の等価交換の法則が当てはまりません。もしかしてライトさんは異邦人なのですか?」
異邦人って?
詳しく聞いてみると、この世界には時折強大な力を持った人間が現れるそうだ。
異邦人はその異能を使い、この世界に様々な恩恵をもたらした。
むむ? これってつまり転移者ってことなのかな?
でも話を聞くと転移者……いや、異邦人は一振で大岩を砕く力とか、天候を自由に操れたとか神のような力を持っていたそうだ。
うらやましい。俺もそんなチートが欲しかった。
俺の能力は壁を作り出すことだけだしなー。
変な期待をさせてはリディアに申し訳ないだろう。
「ごめん。俺も多分君の言うところの異邦人なんだろうけどさ。大した力は無いんだ」
「いえ、充分にすごいと思いますよ。無から有を生み出すこと自体が私達の常識を超越していますし」
とリディアは言ってくれた。
でもなー、有を生み出すって言っても壁オンリーだぜ?
それなりに使い勝手は良さそうだけどね。
いかんいかん、いつの間にか俺の話になっていた。
この世界の話の続きを聞かなくちゃ。
「あのさ、さっきは王都は滅んだって言ったけど何があったんだ?」
「はい……。はっきりとは思いだせませんが、ここは魔族領であり、王都バクーがあった場所です」
そうなの? でもさ、リディアを見つけた時は記憶どころかコミュニケーションが取れる状態では無かったぞ。
リディアには失礼だが、ここが別の場所だっていう可能性はあるんじゃない?
「ふふ、間違いないですよ。私は聖職者であり、精霊の声が聞こえます。以前私を守っていたこの土地の精霊の気配を感じますから」
「ほぇー……。さすがはエルフだ」
確かに彼女を鑑定した時は精霊魔法ってのがあったしな。
もしかしてリディアってかなりハイスペックなのかな?
あれ? 王都っていうのがここにあった訳だよな。
でもここにあるのは無人の広野と森だけだぞ。
王都がどれくらいの規模の都市だったのかは知らないけど、それが跡形も無く消え去ることなんかあるか?
破壊されたとしてもその痕跡が消えるまで長い時間がかかるだろ。
「あくまで俺のイメージなんだけど、エルフって長寿だと思うんだ。リディアはかつてこの地にある王都で生きていた。でもさ、君を見つけた時は森で意識を失っていたはずなんだけど」
「…………」
俺がリディアに問うと、彼女の目にうっすらと涙が浮かんだ。
「ごめん……」
エルフの女の子は俺に抱かれながら顔を真っ赤にしていた。
いきなりのことで理解出来ず咄嗟に謝ってしまったが……。
お股に足?
――モゾッ
「きゃんっ」
と声をあげる。足をどかそうとした時に擦ってしまったらしい。
し、しまった。そういえば低体温症だった彼女を助けるために夜通し抱きしめていたんだった。
「そ、そろそろ離してくれるの嬉しいのですが……」
と彼女は困った顔をしている。
慌てて彼女から離れ、お互い気まずい雰囲気の中向かい合う。
ん? でもさ、今この子ってしゃべったよな?
昨日彼女を発見した時は言葉を発することはなく、コミュニケーションは取れない状態だった。
それが今になって言葉は通じる。一体何が起こったというのだろうか?
分からないことだらけだが、話が通じるのは嬉しい!
ここは異文化コミュニケーションならぬ異世界コミュニケーションといこう!
「あ、あの……」
「ひゃいっ!?」
俺から話そうと思ったのに先に声をかけられた。
思わず変な声が出てしまう。
女の子と話すのは苦手ではないが、ここまでの美人さんだとやっぱり緊張しちゃうな。
「あのですね……。おぼろげながら貴方が私の命を救ってくれたのを覚えています。本当にありがとうございました」
とエルフは頭を下げた。
なんだ、そんなことか。当然のことだと思ってたからな。
そのことでお礼を言われたのは意外だった。
そういえば彼女の名前すら分からないんだったな。
このままお互い名無しの権兵衛さんってわけにも良くないだろう。
「別にお礼を言われることはしてないよ。当たり前のことをしただけだしね。あのさ、俺は来人っていうんだ。よろしく」
彼女も不安だろうから精一杯の笑顔で名を名乗る。
するとまるで花が咲いたような笑顔を返してくれた。
うわっ……。笑うと余計に美人だ。
「ライト。うふふ、素敵な名前ですね。そういえば自己紹介がまだでした。私はリディア。王都バクーで聖職者をしています」
「へー。リディアさんか。よろしくね。ところでその王都ってのは近いのかな?」
「ふふ、リディアでいいですよ」
聖職者っていうのがどういうお仕事なのかは知らないが、日本でいうところの巫女さんなのかな?
名前で呼んでいいと言ってくれたし、中々フレンドリーだ。
しかし俺の質問に彼女はキョトンとした顔をする。
何か変なことを言ったかな?
「王都が近い? それってどういうことですか?」
「いやさ、ここは何も無い無人の広野だよ。近くに王都があるなら嬉しいんだけど」
「なんですって!? すみません、ここから出して下さい!」
と彼女は慌てふためいている。
ただ事ではない雰囲気だ。
そとは危険だが、今のところ襲撃の気配は無さそうだし。
多分大丈夫だよな?
俺は壁の一面に向かって……。
「消えろ」
――ズズズッ
一言発すると壁は消え去る。
視界の先には膝下まで鬱蒼と草が繁る広野が広がっていた。
その光景を見たリディアは膝から崩れ落ちる。
「そ、そんな……」
「ど、どうしたんだ?」
彼女は落胆しているようだが、俺にはさっぱり状況が掴めない。
一先ずは彼女から話を聞いてみるしかないだろうな。
「あ、あのさ。このまま壁を開けてたらまた襲われるかもしれないんだ。落ち込んでいるところ申し訳ないが……」
「分かっています……。この光景を見てある程度理解出来ました。王都は滅んだみたいですね……」
王都が? どういうことだろうか?
壁を作り、落ち着いたところでリディアの話を聞いてみることにした。
「すまないが、俺はこの世界の状況を全く知らないんだ。ゆっくりでいいから話してくれないか?」
「何も知らない? ライトさんはバクーの住人ではないのですか? それに先ほどの魔法ですが、世界の理からは大きく離れた魔法です。魔力と魔法の等価交換の法則が当てはまりません。もしかしてライトさんは異邦人なのですか?」
異邦人って?
詳しく聞いてみると、この世界には時折強大な力を持った人間が現れるそうだ。
異邦人はその異能を使い、この世界に様々な恩恵をもたらした。
むむ? これってつまり転移者ってことなのかな?
でも話を聞くと転移者……いや、異邦人は一振で大岩を砕く力とか、天候を自由に操れたとか神のような力を持っていたそうだ。
うらやましい。俺もそんなチートが欲しかった。
俺の能力は壁を作り出すことだけだしなー。
変な期待をさせてはリディアに申し訳ないだろう。
「ごめん。俺も多分君の言うところの異邦人なんだろうけどさ。大した力は無いんだ」
「いえ、充分にすごいと思いますよ。無から有を生み出すこと自体が私達の常識を超越していますし」
とリディアは言ってくれた。
でもなー、有を生み出すって言っても壁オンリーだぜ?
それなりに使い勝手は良さそうだけどね。
いかんいかん、いつの間にか俺の話になっていた。
この世界の話の続きを聞かなくちゃ。
「あのさ、さっきは王都は滅んだって言ったけど何があったんだ?」
「はい……。はっきりとは思いだせませんが、ここは魔族領であり、王都バクーがあった場所です」
そうなの? でもさ、リディアを見つけた時は記憶どころかコミュニケーションが取れる状態では無かったぞ。
リディアには失礼だが、ここが別の場所だっていう可能性はあるんじゃない?
「ふふ、間違いないですよ。私は聖職者であり、精霊の声が聞こえます。以前私を守っていたこの土地の精霊の気配を感じますから」
「ほぇー……。さすがはエルフだ」
確かに彼女を鑑定した時は精霊魔法ってのがあったしな。
もしかしてリディアってかなりハイスペックなのかな?
あれ? 王都っていうのがここにあった訳だよな。
でもここにあるのは無人の広野と森だけだぞ。
王都がどれくらいの規模の都市だったのかは知らないけど、それが跡形も無く消え去ることなんかあるか?
破壊されたとしてもその痕跡が消えるまで長い時間がかかるだろ。
「あくまで俺のイメージなんだけど、エルフって長寿だと思うんだ。リディアはかつてこの地にある王都で生きていた。でもさ、君を見つけた時は森で意識を失っていたはずなんだけど」
「…………」
俺がリディアに問うと、彼女の目にうっすらと涙が浮かんだ。
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