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木の壁の章

なんか耳の長い女の子

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「ふんふふーん。らららー」

 鼻歌なじりに森の中を歩く。
 今なら森の熊さんとかが出てきても「ご機嫌よう」とか挨拶出来ちゃいそうな気分だ。
 嘘です。熊、怖いです。

 俺は大量のミンゴの実をゲットし、一度森を出て拠点を構えることにした。
 どうやら俺の能力である【壁】を使えば、簡易的ではあるが住居を作れるみたいだ。
 昨日は壁を横に走らせ、屋根を作ることも出来たし。
 
 森も平原の境目を拠点にすれば、食糧確保も容易になるだろう。
 そしてさらに嬉しいことに水を見つけたのだ。

 ナショジオでエドが言っていたように森では水は窪地に溜まるようだ。
 最近雨が降ったのかそこそこ大きい水溜まりがあった。
 だが所詮水溜まり。地面の泥がしっかり溶け込んでいる茶色の泥水なのだ。
 うーん、これを飲むには濾過してから煮沸しないと怖いな。
 しかし泥水とはいえ、体を拭くのに使えるしさ。

 とにかく手を加えれば飲み水として利用出来る。命を繋げる手段が増えたことが嬉しいんだ。
 ちなみに水はスキルで作った入れ物に入れてある。
 隙間から水が溢れることはないみたいで一安心だ。

 少し明るい未来が見えたことで足取りは軽い。
 さっさと森を出て、マイスイートホームの建設に取りかかるとしますか……?

 ――パキッ

 ん? な、何かいるな。
 茂みがガサガサと動いている。
 も、もしかして獣の類いか?

 逃げなくては……と思ったのだが、さらに試してみたいこともあったのを思い出した。
 例えば獣なんかの俺に害をなす奴が現れたとする。
 悲しいことに俺に戦う力は無い。だって出来るのは壁を作り出すことだけですし。

 しかしだよ? もしかしたら俺を襲おうとする獣なんかを壁で囲ってしまえば、逃げる時間は稼げるかもしれない。
 それに壁を壊すことが出来なければ、一方的に攻撃することだって可能だ。
 例えば獣を見つけて壁で囲い閉じ込める。
 ある程度ではあるが、壁の加工は自由自在。
 穴を作って槍なんかで安全なところからチクチクすれば、怪我一つ負うことなくお肉をゲット出来るかもしれないじゃない!?

 今のところ武器になるものは無い。お肉を食べるのは少し先になるだろう。
 だが俺の豪華なディナーになるであろう獣がどんな姿をしているのか見てみたくなった。
 一度鑑定して食べられるかどうかも調べてみたいしね。

 ちょっと怖いが、勇気を振り絞って茂みを覗いてみる。
 そこには……。

「あう……。ああぁ……」

 そこにいたのは獣ではなかった。
 っていうか、これって……。
 人じゃん!

「女? って君! 大丈夫か!?」

 地面に這いつくばり、呻き声をあげる女の子がいるではないか!?
 ボロのような服を纏い、髪も肌も泥で汚れている。
 助けなくちゃ。

 俺は水を地面に置いて、女の子のもとに駆け寄る。
 ん? 近くに寄って気付いたけど、この子ってなんか耳が長いな……。
 もしかしたら彼女はファンタジーでお馴染みのエルフという種族なのかもしれん!
 あくまでイメージでしかないが、エルフというのはスレンダーな美人さんだ。
 ちょっと期待しつつも、発見した第一村人ならぬ第一異世界人を抱き起こす!

 だが……。

「うあぁ……」

 とエルフっぽい女の子は呻くばかり。
 美人なのかもしれんが、服と体も泥だらけだなぁ。あんまりキュンと来なかった。
 って違うだろ!? そんな邪なことを考えている場合ではない!
 女の子が行き倒れてるんだから助けないと!

「き、君。大丈夫か? とにかく森から出よう。乗れるか?」
「あぅあー……」

 俺はしゃがみつつ、背を向ける。
 おんぶしてここから連れだそうとしたのだが、理解していないようだ。
 言葉が通じないのだろうか? 
 だとしたら困ったぞ。異世界言語を覚える必要があるのかな? 学生の頃から英語すらまともに話せない俺に異世界言語習得なんて無理ゲー過ぎる。

 仕方ないので多少強引に彼女を背負う。

 ――ムニュッ

「あばばっ!? ご、ごめん!」
「あぅぅ……」

 焦ってしまった。このエルフっぽい女の子はかなりご立派なものをお持ちのようだ。
 久しくこの素晴らしく柔らかい、男の夢が詰まったものは触っていないのだ。
 前回エッチなことをしたのは何年前なのだろう?
 40になってセカンド童貞街道まっしぐらな俺にとって、巨乳の刺激は強すぎるものだった。

 幸いなことに女の子は俺が焦っていることに気がついていないようだし、このまま森の外に向かおうかな。

 何とか彼女とコミュニケーションが取れるといいのだが。

 そんなことを思いつつ、歩くこと一時間。
 ようやく森の切れ目が見えてきた。

 ふー、半日ぶりの広野だ。
 ここなら森の中よりは安全かな? 壁も建てやすいし。

 彼女を下ろし、俺は壁を作り出す……前に。
 今日は俺一人じゃないし、少し広めに作ったほうがいいだろうな。

 そうだ! いいこと思い付いたぞ!

「君、ちょっと待っててね」
「あぅあー?」

 女の子を座らせ、能力を発動!

「壁! 壁! 壁!」

 ――ズゴォンッ!

 連続して壁を作り出す。一辺が五メートルはある大きな壁が出来上がった。
 同じように四方を壁で囲う。この壁は柵として利用するのだ。
 もし獣や未知の魔物が出たとしても柵と住居で二重の防御が出来る。
 
 そして囲いの中に簡易的な住居を建てる。
 昨日は天井も作れたので、今回は床板も作ってみた。
 ちなみに明かり取りのため、三方のみ壁で囲う。もし柵が破られたら即座に壁を作り出せばいい。

「出来たー。ねえ、君。中に入っていいよ」
「あうぁー」

 うーん、伝わってないなー。
 仕方ない。彼女の手を引いて中に入ることにした。
 それにしても彼女は汚れているな。
 せめて泥を落としてあげないと。

 俺は森から持ってきた水を使い、彼女を拭いてあげることにした。
 タオルは無いので、仕方なくインナーを脱いで水に浸す。
 軽く絞ってから……。 

「ちょっとごめんね」
「あうぅ」

 まずは泥に汚れた顔を拭く。
 ははは、なんか子供にしてるみたいだな。
 結婚なんかしたことないけど、家庭を持っていたらこんなことをしたのかもな……なんて思っていた時期が俺にもありました。

「ちょっ……。き、君って……」
「あうぁ?」

 言葉を失った俺を彼女は不思議そうに俺を見つめる。
 綺麗に汚れを落とした彼女。
 艶やかな金色の髪、吸い込まれるような水色の瞳。そして溢れんばかりのたわわな胸。

 めっちゃ美人だった。
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