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木の壁の章

チート【壁】

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【貴方の能力は壁でしたー】

 無人の広野にて。俺はこの世界を司るであろうアメンドウズという神からの手紙を……。

 ――グシャッ!

 握り潰す! おい、話が違うだろ!?
 俺にはすごいチート能力があるって言っただろうが!
 それが壁を生み出す能力って!

 い、いや落ち着け俺。
 壁という能力の他に神から付与された高いステータスとかもあるかもしれないじゃない?
 深呼吸してから握り潰した手紙を広げてみる。

【いたた。酷いですー。不信心者には罰が当たりますよー】
「うっさい。俺の能力って壁だけじゃないよな? 基礎体力がすごく強くて、めっちゃ高いステータスがあるとかさ」

【全く日本人はこれだからー。そういうと思って貴方のステータスを書いておきましたー。転移者特典としてステータスは自由に見られるようにしておきましたよー】

 よ、良かった。壁を生み出す能力だけじゃなかったようだな。
 と一安心したところで手紙の続きを読んでみる。
 そこには俺のステータスが記載したあった。


名前:前川 来人
年齢:40
種族:ヒューマン
力:5 魔力:0 
能力:壁レベル1(木)
村民満足度:0/3


 低っ!? 俺のステータス低すぎっ!?
 しかも村民満足度って何!? 壁レベルも謎だ。
 
 いかん、いかんぞ。
 俺は一介のサラリーマン。
 何も無い広野に投げ出され、かつ魔物と戦うチート能力も無い。だって能力は壁だし。
 何もしないまま、ここにいたら魔物や獣に襲われて……。

 と、とにかく生き残ることを考えねば。
 幸い今のところ魔物や獣はいない。
 どこか身の安全を確保出来る場所を見つけないと。
 
 ここは何も無い広野だが地平線の遥か先に鬱蒼とした森が見える。
 あそこならどうか? 水場とか木の実とかありそうじゃない?
 だが間も無く陽も落ちるし、移動するのは危険だよな……。

 こういう時は神様のチュートリアル的なものがあるかもしれん。
 手紙の続きを読んでみるか。

【ちっ。せっかく力を行使して人間を呼んだのに使えないチートでしたねー。さっさと次の人間を送るために力を蓄えないとー】
「ってこら!? てめえ、何言ってやがる!?」

【ひ、ひぃ!? 見てたのですかー!? わ、私は急用が出来てしまいましたー! 来人さん、楽しい異世界ライフをお過ごし下さい! 尚この手紙は自動的に消去されます!】

 と00何とか的な言葉を最後に手紙は俺の手の中で塵に変わる。
 ど、どうしよう。唯一の連絡手段である手紙も消え去った。
 
 ――ウォーン……

「ひいっ!?」

 遠くから聞こえる獣の声に俺は情けなく怯えてしまう!
 こ、怖ー!? どうにかして身の安全を確保せねば!
 
 しかし周りにあるのは草ばかり。
 このまま獣にでも囲まれでもしたら……。

 そ、そうだ! 俺にはチート能力があったじゃないか!?
 俺は手をかざして叫ぶ! 

「壁ぇっ!」

 ――ズシャッ

 俺が声を発すると、地面から突然数メートルはあろうかという壁が出現した!?
 こ、これだけじゃ駄目だ!

「壁ぇっ! 壁ぇっ! 壁ぇっ!」

 ――ズシャシャシャッ

 壁が出現し、四方を囲う形となった。
 俺はその場にへたりこみ、軽く壁に触ってみる。
 うん、壁だね。木で出来た壁だ。
 なんか安いアパートにある薄い壁だ。
 だが何も無いよりは心強い。

「これからどうなるんだろ……」

 ボソッと呟いてしまった。
 ここはどうやら魔族領というらしい。
 この世界がどうなってるかは知らん。聞く前に俺を召喚した神な消え去った……っていうか逃げた。
 何も分からない状況ではあるが、とにかく生き残ることを考えねば。

「まずは水だよな……」

 人間は一週間は食べなくても体内に蓄えた脂肪を燃やすことで生きることが出来るという。
 しかし水分は違う。3日も水分を摂らないと死んでしまうだろう。
 
 ここは荒野。先ほど見たところ、近くに川があるとは思えない。
 ならば進むべきは一つ。地平線の先にある森を目指す。
 あそこにならきっと水が……あるはず……。


◇◆◇


 ――チュンチュンッ

「眩し……」

 いつの間にか俺は寝ていたようだ。
 四方は木の壁に囲まれているが、特に屋根はついていないので、上を見上げると朝日が壁の内部を照らしていた。

 昨日から何も食べていないし、水分も一切摂っていない。
 喉がカラカラだ。

 今日から生きるために動かないと。
 俺は立ち上がり壁の外に……。っていうか、どうやって外に出ればいいんだ!?
 四方は俺が作り出した壁に囲まれている。
 壁は木製のようだがそこそこ厚みがあるようだ。

 特に格闘技を経験したわけでもないし、俺の腕力は平均的な日本人男性のそれと同じだろう。
 頑張れば壊せるかもしれんが、間違いなく怪我はするだろうな。

 と、とりあえずだな。この壁は俺が作り出したものだし……。

「き、消えろ」

 と壁に向かって声をかける。
 すると……。

 ――ズシャッ

 壁が地面の中へと消えていった。
 な、なるほど。自由に出し入れは可能みたいだな。
 これがどこまで役に立つか分からないが……。
 
「とりあえず行くかな……」

 俺は森を目指し第一歩を踏み出す。
 ここからが俺の異世界転移生活のスタートだ。
 
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