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第四章 蠢く闇を打ち砕け
第57話 死闘の決着、そして
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たしかな手応えがあった。
炎の剣が燃え上がる。剣は刀身から紅蓮の業火を吹き上げながら、バウバロスの胸から肩までを大きく斬り裂いた。
「おお……っ!」
バウバロスの口から、気の抜けたような吐息と汚泥のような液体が吹き出す。
直後、やつの身体が傾ぎ、ボロボロになった怪物の巨体が、大きな音を立てて床に倒れた。
俺は呼吸を整えながら、バウバロスの姿を見下ろした。
バウバロスの身体が、四肢の先端から、ゆっくりと泥のように溶けていく。
しかし、まだ息はあるようだった。開いたままの目と、半開きになった口がわずかに動いている。もはや先は長くないだろう。
イヤな感じがした。
相手は無辜の人間を殺そうとした悪党で、俺たちの戦いは仲間を救うためだったとはいえ、自分の行動が一人の人間を死に追いやったという事実は、俺の心に重くのしかかってきた。
「おい」
罪悪感を紛らわせるため、俺はバウバロスに声をかける。虚ろな瞳がこちらを向いた。
「もう一度聞く。お前らはここで何をやっていた? あと、〈竜の娘〉とはどういう意味だ?」
俺の問いかけを受けて、バウバロスはわずかに頬をゆがめて見せた。
「どうなんだ?」
繰り返し聞く。
最後まで悪党っぽく振る舞ってくれると、こちらとしては多少気が楽になるのだが。
「………………ふふ」
しばしの沈黙の後、バウバロスの唇が皮肉げにつり上がった。
「よ……世に竜は数あ……れど……し、真なる竜……は……ただ一つ……。ほかは竜にありて……竜にあら……グオハッ!」
言葉の途中で、バウバロスは口から汚泥を吐いた。
「真なる竜は……、た、ただ一つ。其は、しゅ、しゅうま……」
「おい、どうした?」
バウバロスの言葉がよく聞こえなかったので、俺はやつに耳を近づけようとしたが、ザックが「おい、センセ。危ねえぞ!」と俺の肩を掴んだ。
「其は……人に……災いなす……者。神に……仇なす……者」
「もっと分かりやすく話せ」
「できぬよ……。我が心を捧げし神は……ルアーユ。狂気と惑乱の守護者なれば……グオッ……!」
バウバロスがまたひとしきり泥を吐いた。
嘔吐を終えると、バウバロスは力のない微笑を浮かべた。
「汝らの道行きに、呪いと苦痛のあらんことを……。汝らの住処に、汚辱と破滅がもたらされんことを! おお、我が神よ……! いま御身の元に参りまする……! 〈闇の手よ。我が身と心を喰らい、神の御許へ!〉」
バウバロスが突然、呪文のを唱えた。
俺は思わず「うおっ!」っと身構えた。
グズグズに崩れかかったバウバロスの身体から、手のような形をした紫色のオーラが立ち上った。
それはバウバロスの顔を鷲づかみにし……。
「ガハッ……!」
握りつぶした。
潰された頭は瞬時にして黒く染まり、溶け、汚泥となって床に広がった。
「最後は、自殺、でしたね……」
俺が振り向くと、リリアが立っていた。
目つきはしっかりしている。裏人格のリリアはいつの間にか引っ込み、表の人格が意識を取り戻したようだった。
「ああ、そうだな」
そう答えながらリリアの身体に触れてステータスを確認すると、MPは1になっていた。
MPが0になると裏リリアが出てきて、戻るときに1だけ回復させていくという仕組みなのだろうか?
まぁ、いまはそんなことどうでもいい。
「戦いは終わった。バロワに帰ろう。後始末や報告、再調査はあるだろうが、まずはゆっくり休もう」
「はい」
リリアが微笑みを浮かべた。
そのとき、俺の横で「ドサッ」っと、重たいものが床に落ちるような音がした。
「ザック!」
驚きの声をあげたのはイリーナだった。
俺が慌てて横を向くと、さっきまで元気に立っていたザックが、うつぶせで床に倒れている。
「おいおい、ザック。びっくりさせるなよ。寝るのは帰ってからに……」
床に膝を突いて、ザックの身体を揺すろうとしたとき、俺は彼の身体に起こった異変に気がついた。
炎の剣が燃え上がる。剣は刀身から紅蓮の業火を吹き上げながら、バウバロスの胸から肩までを大きく斬り裂いた。
「おお……っ!」
バウバロスの口から、気の抜けたような吐息と汚泥のような液体が吹き出す。
直後、やつの身体が傾ぎ、ボロボロになった怪物の巨体が、大きな音を立てて床に倒れた。
俺は呼吸を整えながら、バウバロスの姿を見下ろした。
バウバロスの身体が、四肢の先端から、ゆっくりと泥のように溶けていく。
しかし、まだ息はあるようだった。開いたままの目と、半開きになった口がわずかに動いている。もはや先は長くないだろう。
イヤな感じがした。
相手は無辜の人間を殺そうとした悪党で、俺たちの戦いは仲間を救うためだったとはいえ、自分の行動が一人の人間を死に追いやったという事実は、俺の心に重くのしかかってきた。
「おい」
罪悪感を紛らわせるため、俺はバウバロスに声をかける。虚ろな瞳がこちらを向いた。
「もう一度聞く。お前らはここで何をやっていた? あと、〈竜の娘〉とはどういう意味だ?」
俺の問いかけを受けて、バウバロスはわずかに頬をゆがめて見せた。
「どうなんだ?」
繰り返し聞く。
最後まで悪党っぽく振る舞ってくれると、こちらとしては多少気が楽になるのだが。
「………………ふふ」
しばしの沈黙の後、バウバロスの唇が皮肉げにつり上がった。
「よ……世に竜は数あ……れど……し、真なる竜……は……ただ一つ……。ほかは竜にありて……竜にあら……グオハッ!」
言葉の途中で、バウバロスは口から汚泥を吐いた。
「真なる竜は……、た、ただ一つ。其は、しゅ、しゅうま……」
「おい、どうした?」
バウバロスの言葉がよく聞こえなかったので、俺はやつに耳を近づけようとしたが、ザックが「おい、センセ。危ねえぞ!」と俺の肩を掴んだ。
「其は……人に……災いなす……者。神に……仇なす……者」
「もっと分かりやすく話せ」
「できぬよ……。我が心を捧げし神は……ルアーユ。狂気と惑乱の守護者なれば……グオッ……!」
バウバロスがまたひとしきり泥を吐いた。
嘔吐を終えると、バウバロスは力のない微笑を浮かべた。
「汝らの道行きに、呪いと苦痛のあらんことを……。汝らの住処に、汚辱と破滅がもたらされんことを! おお、我が神よ……! いま御身の元に参りまする……! 〈闇の手よ。我が身と心を喰らい、神の御許へ!〉」
バウバロスが突然、呪文のを唱えた。
俺は思わず「うおっ!」っと身構えた。
グズグズに崩れかかったバウバロスの身体から、手のような形をした紫色のオーラが立ち上った。
それはバウバロスの顔を鷲づかみにし……。
「ガハッ……!」
握りつぶした。
潰された頭は瞬時にして黒く染まり、溶け、汚泥となって床に広がった。
「最後は、自殺、でしたね……」
俺が振り向くと、リリアが立っていた。
目つきはしっかりしている。裏人格のリリアはいつの間にか引っ込み、表の人格が意識を取り戻したようだった。
「ああ、そうだな」
そう答えながらリリアの身体に触れてステータスを確認すると、MPは1になっていた。
MPが0になると裏リリアが出てきて、戻るときに1だけ回復させていくという仕組みなのだろうか?
まぁ、いまはそんなことどうでもいい。
「戦いは終わった。バロワに帰ろう。後始末や報告、再調査はあるだろうが、まずはゆっくり休もう」
「はい」
リリアが微笑みを浮かべた。
そのとき、俺の横で「ドサッ」っと、重たいものが床に落ちるような音がした。
「ザック!」
驚きの声をあげたのはイリーナだった。
俺が慌てて横を向くと、さっきまで元気に立っていたザックが、うつぶせで床に倒れている。
「おいおい、ザック。びっくりさせるなよ。寝るのは帰ってからに……」
床に膝を突いて、ザックの身体を揺すろうとしたとき、俺は彼の身体に起こった異変に気がついた。
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