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第四章 蠢く闇を打ち砕け

第40話 進め、遺跡の奥深く

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 ランタンで入り口の奥を照らすと、長い通路が続いていた。床は代理石のような材質だが、うっすらと光を放っている。最初はランタンの光を反射しているのかと思ったが、どうやら石そのものが発光しているようだ。まるでフットライトのようだ。
 十分に明るいとは言えないが、少し先にいる人影には気付くレベルだ。

 俺たちは慎重に通路を進みはじめた。急がなければならないが焦ってはいけない。
 見える範囲に物理的な罠はなさそうだが、魔法を使った仕掛けがないとも限らない。

 十メートルほど進むと、通路が途切れ、広いフロアに行き当たった。
 天井の高さは三メートルほど。天井の素材も床と同じく発行する石のようだった。
 面積二十メートル四方ほどの空間には、整然とベンチのようなものや、机のようなものが並んでいた。淡い光を放っているところを見ると、これらの家具類も、床や天井と同じ材料でできているようだ。

 おおまかな見た目でいうと、大きな病院や役所の待合室に近い。だが、清潔さとは正反対の生臭い臭気が漂っていた。動物の血と、腐った肉、そして糞尿が混じり合ったような臭い。

 床を見ると、わらや丸太が乱雑に落ちている。ベンチには血が飛び散った後があった。ここを根城にしていたゴブリンのものだろう。臭気の原因はこれか。

 フロアの奥に一枚の扉が見えた。その傍らには下に続く階段がある。
 リリアが階段のほうに歩を進めようとした。そのときジールがハッとしたように鋭い小声を発する。

「リリアさん、何か聞こえる!」

 ジールは「静かにしろ」と言うように唇に人差し指を当てた。

——ズル、ズル——

 耳を澄ますと、階段のほうから何かを引きずる音がした。
 音を聞いたリリアが剣を抜き一歩前に出る。近くで見ると、リリアの宝剣が銀の光を薄く帯びているのが分かった。

「何かが来ます!」

 黒い人影が階段を登ってくる。足を引きずるような奇妙な歩き方——

「あれは……!!」

 それは人間だった。たぶん男だろう。
 金属の兜と鎖帷子を身につけ、短槍を手に持っている。鎖帷子はところどころ破れ、表面にはわずかに血がこびりついている。
 その姿を見たスレンがはっと息を呑む。

「あの人は……調査隊の兵士です!」

 スレンが「大丈夫ですか」と言って駆け寄ろうとしたが、俺は手で制す。
 なにか様子がおかしい。
 目をこらして見ると、身体のあちこちに黒い塊が張り付いている。黒い塊からは、歪んだ表情を浮かべた獣の顔が突き出ていた。
 あの村で見たルアーユ教徒と同じだ!

 足を引きずりながら、調査隊の兵士が歩いてくる。
 やっと顔がはっきり見える距離にまで近づいたとき、俺は胃の奥が締め付けられるような感触を覚えた。

 彼は顔をしかめ、うつろな目から涙をこぼしていた。歪んだ唇の端からは泡を含んだ唾液が垂れている。

「下がってください!」

 リリアが警戒の声を発し、剣を構えた。
 それを見た兵士の唇が震える。

「……はぁ、あ、あがっ! に、にげ……、逃げて……!」
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