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第二章 楽しい(?)異世界新生活
第23話 いざ、冒険者の宿へ
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さて、ジールに絡まれたせいで、もう帰りたい気分だったが、今日は一つやらねばならないことがある。
「さて、さっさと用事をすませるか」
「ええ、行きましょう」
俺とリリアが向かったのは、このバロワの街にある〈冒険者の宿〉だ。
冒険者の宿ってのは、その名の通り冒険者たちが定宿にしている施設のこと。元の世界の言葉で言えば、〈ドヤ〉ってところだろうか。あるいはネカフェ?
まぁ要するに、一晩いくらで泊まらせてくれる安宿である。
リリアのようにあまり街から離れないタイプの冒険者は、一軒家を持ったり、アパートを借りたりすることもあるのだが、隊商の護衛のような任務が多い者は〈冒険者の宿〉を利用することが多い。
だいたいの〈冒険者の宿〉は、酒場や食堂も兼ねている。ただの宿泊施設というだけではなく、同業者同士で情報交換をする場でもあるのだ。
また、何かしらの悩み事を抱えた依頼人が訪れる場所でもある。宿の主人は持ち込まれた依頼を整理し、店に集う冒険者に振り分けていくのが常だ。
簡単に言うと、冒険者のマネジメント機能も持っているのである。
この街にはいくつか〈冒険者の宿〉があり、いま俺たちが向かっている〈満月の微笑亭〉は、その中でももっとも大きく、古い歴史を持つ宿だった。
街の大通りに面した三階建ての建物は、街のランドマークの一つでもある。
「ごめんくださーい」
「やあ、リリアちゃんとエイジくんか。ようこそ、〈満月の微笑亭〉へ」
丈夫な木戸を開けて店に入ると、丸顔の中年男がカウンター越しに、にこやかな顔で出迎えてくれた。
彼がこの宿の六代目の店主、通称・満月さんである。
頭頂部がつるりとはげ上がり、いつもニコニコ笑みを絶やさない姿は、店名を体現していると言えよう。
ここ〈満月の微笑亭〉は、一階が食堂になっている。広いフロアにはいくつもの丸テーブルが並び、さまざまな風体の冒険者たちが食事や歓談に打ち興じていた。
俺たちが店内に入ると、彼らの動きが一瞬止まった。
俺の体に、そこはかとない好奇の視線が突き刺さるのを感じる。どの顔も「で、あいつは一体何者なんだ?」と言っているみたいに感じる。
そんな理由があって、俺はこの場所がちょっと苦手だった。
「今日はなんにする?」
俺たちがカウンターに腰掛けると、満月さんが注文を聞いてきた。
「わたしは柑橘を絞った炭酸水。エイジさんは?」
「俺も同じでいい」
「じゃあそれを二つ。それと軽くつまめる物をお任せで。あと、古代王国の遺跡について、何か情報があれば教えてください。最近、東の山のほうで、何か見つかったという噂を聞いたのですが——」
リリアは腰に下げた小袋から銀貨を三枚取り出し、満月さんに手渡した。
今日の俺たちの用事は、〈満月の微笑亭〉で古代遺跡の情報を確認することだった。
俺たちは日常的に古文書や町中の噂を自分たちで集めつつ、週に二回程度ここを訪れ、食事がてら情報の確認をしているのである。
「あいよ。でも、こいつは返さないといけないね」
リリアから銀貨三枚を受け取った満月さんは、そのうち一枚をリリアの手のひらに戻した。
これはつまり、「情報料の分は受け取れない」ということだ。
「情報は何もありませんか」
リリアが問いかけると、満月さんは気まずそうに眉を下げた。
「すまんね。実は、あるにはあるんだが——」
「ハッハー! 悪ィな、そいつはオレたちが先にいただいちまったのさ!」
「姫さんたちは一足遅かったね」
背後から声をかけられて振り向くと、ここに通ううちに顔なじみになった男女の姿があった。
「いよーう! 姫さんは今日も美人だな。エイジセンセの方は、相変わらず不景気そうなツラしてんな! ちゃんと飯食ってる? わはは!」
そんな軽口を叩きながら俺たちの肩をバンバン叩いてきた男——名前はザックという。
年の頃は三十前後で、短く刈り込んだ黒髪と、日に焼けた赤銅色の肌の持ち主だ。
肩幅や首回りはガッチリしており、上背は190センチくらいありそうだ。
大作りな顔には、いつも不敵な笑いを浮かべている。曲がったことが嫌いな性格で、豪放磊落を絵に描いたような男だった。
元は傭兵で、愛用の戦斧を手にしていろんな戦場を渡り歩いてきたらしいが、数年前に冒険者に転身したという。何度も死と隣り合わせの危険をかいくぐってきたため、ついたあだ名は〈豪運のザック〉。
「一足先にって、どういうことですか?」
リリアがザックに問うと、彼の隣にいた女が口を開いた。
「実は古代遺跡がらみで、領主サマから一件依頼があったのさ。定員は二名。アタシとザックで満員になっちまったってわけ」
こちらの女性はザックの相棒で、名前はイリーナ。
鮮やかな赤毛と、やや吊り上がった目が印象的な美人だ。ザックのような偉丈夫ではないものの、女性にしては大柄で、皮鎧から覗く二の腕は引き締まっている。
ウェーブのかかった髪を肩で揃えた姿は、炎を彷彿とさせる。
イリーナの首からは、細かい鎖で繋いだ聖印が下げられていた。
星をかたどったその聖印は、彼女が〈戦神マルセリス〉の司祭であることの証明だった。
マルセリスはこの世界で信仰されている神の一柱で、義と戦いの守護神だと言われている。その僕たる司祭は、自らが勇者と認める人材に寄り添い、ともに戦うことを誇りにしているのだそうだ。
信徒には、ざっくばらんで竹を割ったような性格の者が多く、イリーナもその例に漏れない。
ちなみにザックとイリーナのコンビは、〈満月の微笑亭〉の常連の中でもトップクラスの実力だと目されていた。
「ちなみに、どんな依頼か聞いても良いですか?」
リリアの言葉を受けて、ザックは自分の厚い胸板を拳で叩いた。
「ああ、大丈夫だ! 別に口止めされてるわえじゃねえしな。それに、今回の一件は姫さんとも関係あるしよ」
「さて、さっさと用事をすませるか」
「ええ、行きましょう」
俺とリリアが向かったのは、このバロワの街にある〈冒険者の宿〉だ。
冒険者の宿ってのは、その名の通り冒険者たちが定宿にしている施設のこと。元の世界の言葉で言えば、〈ドヤ〉ってところだろうか。あるいはネカフェ?
まぁ要するに、一晩いくらで泊まらせてくれる安宿である。
リリアのようにあまり街から離れないタイプの冒険者は、一軒家を持ったり、アパートを借りたりすることもあるのだが、隊商の護衛のような任務が多い者は〈冒険者の宿〉を利用することが多い。
だいたいの〈冒険者の宿〉は、酒場や食堂も兼ねている。ただの宿泊施設というだけではなく、同業者同士で情報交換をする場でもあるのだ。
また、何かしらの悩み事を抱えた依頼人が訪れる場所でもある。宿の主人は持ち込まれた依頼を整理し、店に集う冒険者に振り分けていくのが常だ。
簡単に言うと、冒険者のマネジメント機能も持っているのである。
この街にはいくつか〈冒険者の宿〉があり、いま俺たちが向かっている〈満月の微笑亭〉は、その中でももっとも大きく、古い歴史を持つ宿だった。
街の大通りに面した三階建ての建物は、街のランドマークの一つでもある。
「ごめんくださーい」
「やあ、リリアちゃんとエイジくんか。ようこそ、〈満月の微笑亭〉へ」
丈夫な木戸を開けて店に入ると、丸顔の中年男がカウンター越しに、にこやかな顔で出迎えてくれた。
彼がこの宿の六代目の店主、通称・満月さんである。
頭頂部がつるりとはげ上がり、いつもニコニコ笑みを絶やさない姿は、店名を体現していると言えよう。
ここ〈満月の微笑亭〉は、一階が食堂になっている。広いフロアにはいくつもの丸テーブルが並び、さまざまな風体の冒険者たちが食事や歓談に打ち興じていた。
俺たちが店内に入ると、彼らの動きが一瞬止まった。
俺の体に、そこはかとない好奇の視線が突き刺さるのを感じる。どの顔も「で、あいつは一体何者なんだ?」と言っているみたいに感じる。
そんな理由があって、俺はこの場所がちょっと苦手だった。
「今日はなんにする?」
俺たちがカウンターに腰掛けると、満月さんが注文を聞いてきた。
「わたしは柑橘を絞った炭酸水。エイジさんは?」
「俺も同じでいい」
「じゃあそれを二つ。それと軽くつまめる物をお任せで。あと、古代王国の遺跡について、何か情報があれば教えてください。最近、東の山のほうで、何か見つかったという噂を聞いたのですが——」
リリアは腰に下げた小袋から銀貨を三枚取り出し、満月さんに手渡した。
今日の俺たちの用事は、〈満月の微笑亭〉で古代遺跡の情報を確認することだった。
俺たちは日常的に古文書や町中の噂を自分たちで集めつつ、週に二回程度ここを訪れ、食事がてら情報の確認をしているのである。
「あいよ。でも、こいつは返さないといけないね」
リリアから銀貨三枚を受け取った満月さんは、そのうち一枚をリリアの手のひらに戻した。
これはつまり、「情報料の分は受け取れない」ということだ。
「情報は何もありませんか」
リリアが問いかけると、満月さんは気まずそうに眉を下げた。
「すまんね。実は、あるにはあるんだが——」
「ハッハー! 悪ィな、そいつはオレたちが先にいただいちまったのさ!」
「姫さんたちは一足遅かったね」
背後から声をかけられて振り向くと、ここに通ううちに顔なじみになった男女の姿があった。
「いよーう! 姫さんは今日も美人だな。エイジセンセの方は、相変わらず不景気そうなツラしてんな! ちゃんと飯食ってる? わはは!」
そんな軽口を叩きながら俺たちの肩をバンバン叩いてきた男——名前はザックという。
年の頃は三十前後で、短く刈り込んだ黒髪と、日に焼けた赤銅色の肌の持ち主だ。
肩幅や首回りはガッチリしており、上背は190センチくらいありそうだ。
大作りな顔には、いつも不敵な笑いを浮かべている。曲がったことが嫌いな性格で、豪放磊落を絵に描いたような男だった。
元は傭兵で、愛用の戦斧を手にしていろんな戦場を渡り歩いてきたらしいが、数年前に冒険者に転身したという。何度も死と隣り合わせの危険をかいくぐってきたため、ついたあだ名は〈豪運のザック〉。
「一足先にって、どういうことですか?」
リリアがザックに問うと、彼の隣にいた女が口を開いた。
「実は古代遺跡がらみで、領主サマから一件依頼があったのさ。定員は二名。アタシとザックで満員になっちまったってわけ」
こちらの女性はザックの相棒で、名前はイリーナ。
鮮やかな赤毛と、やや吊り上がった目が印象的な美人だ。ザックのような偉丈夫ではないものの、女性にしては大柄で、皮鎧から覗く二の腕は引き締まっている。
ウェーブのかかった髪を肩で揃えた姿は、炎を彷彿とさせる。
イリーナの首からは、細かい鎖で繋いだ聖印が下げられていた。
星をかたどったその聖印は、彼女が〈戦神マルセリス〉の司祭であることの証明だった。
マルセリスはこの世界で信仰されている神の一柱で、義と戦いの守護神だと言われている。その僕たる司祭は、自らが勇者と認める人材に寄り添い、ともに戦うことを誇りにしているのだそうだ。
信徒には、ざっくばらんで竹を割ったような性格の者が多く、イリーナもその例に漏れない。
ちなみにザックとイリーナのコンビは、〈満月の微笑亭〉の常連の中でもトップクラスの実力だと目されていた。
「ちなみに、どんな依頼か聞いても良いですか?」
リリアの言葉を受けて、ザックは自分の厚い胸板を拳で叩いた。
「ああ、大丈夫だ! 別に口止めされてるわえじゃねえしな。それに、今回の一件は姫さんとも関係あるしよ」
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