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第一章 もらったスキルと呪いの少女
第18話 魔女の提示した条件
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「どうかしら? 何か思い出した?」
バーバラさんがページを開くと、そこには複雑な文字の羅列。
その複雑さは漢字以上だった。まるで西夏文字のようである。
これまで一度も見たことがない文字だったが、俺の脳はそこに書かれている意味を自動的に解読し始める。
「——かつて竜あり。其れ貪欲にして苛烈。残忍にして狡猾。名をイゾームという。ジャワムの頂に棲み、世を睥睨し、神々に叛す。戯れに滅ぼせし国は七つ。千の城を毀滅し、十万の軍を殲滅し、百万の民を戮殺す。主神ディアソート、民を憐れみて妹神を地上に遣わし、一降りの剣を与え、これにあたらしむ——」
俺が本の一節を読み上げると、リリアは「なっ……!」と息を呑み、ギョッとした顔でこちらを見た。
バーバラさんのほうは、相変わらず人の良さそうな笑顔を浮かべたまま、
「あらあら! やっぱり古代語の先生だったのね! 良かったわね、エイジさん、リリアちゃん」
と言って、胸の前で小さく手を打ち鳴らしている。
「ははは……驚きましたね。まさか本当にそうだとは——」
お茶を濁すような返答をすると、バーバラさんは「ところで」と言いながら俺の手を取った。そして、俺の顔を覗き込むようにして尋ねた。
「あなたは古代語が読める。その能力を、今後どう生かしていくおつもり?」
予期していない質問に、俺は「えっと、あの……」と言い淀んでしまった。
一瞬悩んだが、ここは正直に答えておいたほうがいいだろう——そう判断し、俺は口を開く。
「——リリアのために使おうと思っています。俺はリリアに助けられた。彼女はいいやつだし、俺としては何か恩返しがしたい。リリアは冒険者です。将来的に、古代王国の遺跡に挑むこともあるでしょう。そのとき俺の力は彼女の役に立つはずです」
「それ以外には?」
「特に考えていません」
俺が即答すると、バーバラさんは「良い心がけね」と笑って、俺の手を放した。
「エイジさん。この年寄りと、一つ取引をしませんか」
「取引、ですか?」
バーバラさんの口角が、いたずらっぽく弧を描く。
「条件を呑んでくれれば、あなたはうちにある古代語の書物を自由に読んでいい」
「え、本当ですか?」
事前にリリアに聞いたとことでは、古文書は貴重だという話だった。やすやすと他人に読ませて良いものではないはずだ。
「——驚きました。で、条件とは?」
「条件は二つ。一つは、書物を家の外に持ち出さないこと。メモは取っても良いわ。もう一つは、書物を読むとき、内容を音読して私に聞かせてほしいの」
バーバラさんは「ほら、私は目が見えないでしょう? だから、代わりに本を読んでくれる人がいると助かるのだけど?」と言う。
「どう? 悪い条件じゃないと思うけど」
「分かりました。その取引、受けましょう」
俺が答えると、バーバラさんは「まあ、うれしい!」とはしゃいだ。
「では早速、明日からお伺いして良いですか? ご都合のいい時間は——」
「年寄りの一人暮らしですもの、いつ来てくれたって良いのよ。毎日でもいらしてくださいな!」
リリアのほうを見ると、目を白黒させていた。
バーバラさんの返答が予想外だったらしい。
☆ ☆ ☆
その後、俺たちはお茶を一杯ご馳走になり、バーバラさんの家を辞去した。
「バーバラさん、全然気むずかしい人じゃなかったぞ」
帰り道、屋台で買った串焼きとパンを食べながらリリアに話しかけると、彼女は眉をしかめながら、首をひねった。
「バーバラさんは、人の好き嫌いが激しい方なのです。私はかなり気に入られているほうなのですが、気に入らない相手だと『今日は気分が乗らないわ』と追い返してしまうのです。理由は分かりませんが、エイジさんはとても気に入られたようですね」
「そうなのかなあ。だったら良いけど」
そう答えながら、俺は何か釈然としないものを感じていた。
「それよりも、エイジさん」
「なんだい?」
「どうして異世界の人なのに古代語が読めるんですか? よく考えたら、パルネリアの現代語を喋れるのも変な話です。たしか、わたしと最初に出会ったときは、別の言葉を喋っていらしたと思うのですが」
さすがリリアは勘が良い。
「それは、だな……。俺もよく分からないんだが、どうも女神さまが何か細工をしてくれたみたいだ。俺にはそういうことが出来るらしい」
そう答えながら、俺は居心地が悪い気分を味わっていた。
リリアは顎に指を当てて考え込み、「不思議ですが、そう考えるしかありませんね」と答えた。
なんの努力もなく、人様が積み上げてきた技術や知識を扱うのは、やはり性に合わないな。
バーバラさんがページを開くと、そこには複雑な文字の羅列。
その複雑さは漢字以上だった。まるで西夏文字のようである。
これまで一度も見たことがない文字だったが、俺の脳はそこに書かれている意味を自動的に解読し始める。
「——かつて竜あり。其れ貪欲にして苛烈。残忍にして狡猾。名をイゾームという。ジャワムの頂に棲み、世を睥睨し、神々に叛す。戯れに滅ぼせし国は七つ。千の城を毀滅し、十万の軍を殲滅し、百万の民を戮殺す。主神ディアソート、民を憐れみて妹神を地上に遣わし、一降りの剣を与え、これにあたらしむ——」
俺が本の一節を読み上げると、リリアは「なっ……!」と息を呑み、ギョッとした顔でこちらを見た。
バーバラさんのほうは、相変わらず人の良さそうな笑顔を浮かべたまま、
「あらあら! やっぱり古代語の先生だったのね! 良かったわね、エイジさん、リリアちゃん」
と言って、胸の前で小さく手を打ち鳴らしている。
「ははは……驚きましたね。まさか本当にそうだとは——」
お茶を濁すような返答をすると、バーバラさんは「ところで」と言いながら俺の手を取った。そして、俺の顔を覗き込むようにして尋ねた。
「あなたは古代語が読める。その能力を、今後どう生かしていくおつもり?」
予期していない質問に、俺は「えっと、あの……」と言い淀んでしまった。
一瞬悩んだが、ここは正直に答えておいたほうがいいだろう——そう判断し、俺は口を開く。
「——リリアのために使おうと思っています。俺はリリアに助けられた。彼女はいいやつだし、俺としては何か恩返しがしたい。リリアは冒険者です。将来的に、古代王国の遺跡に挑むこともあるでしょう。そのとき俺の力は彼女の役に立つはずです」
「それ以外には?」
「特に考えていません」
俺が即答すると、バーバラさんは「良い心がけね」と笑って、俺の手を放した。
「エイジさん。この年寄りと、一つ取引をしませんか」
「取引、ですか?」
バーバラさんの口角が、いたずらっぽく弧を描く。
「条件を呑んでくれれば、あなたはうちにある古代語の書物を自由に読んでいい」
「え、本当ですか?」
事前にリリアに聞いたとことでは、古文書は貴重だという話だった。やすやすと他人に読ませて良いものではないはずだ。
「——驚きました。で、条件とは?」
「条件は二つ。一つは、書物を家の外に持ち出さないこと。メモは取っても良いわ。もう一つは、書物を読むとき、内容を音読して私に聞かせてほしいの」
バーバラさんは「ほら、私は目が見えないでしょう? だから、代わりに本を読んでくれる人がいると助かるのだけど?」と言う。
「どう? 悪い条件じゃないと思うけど」
「分かりました。その取引、受けましょう」
俺が答えると、バーバラさんは「まあ、うれしい!」とはしゃいだ。
「では早速、明日からお伺いして良いですか? ご都合のいい時間は——」
「年寄りの一人暮らしですもの、いつ来てくれたって良いのよ。毎日でもいらしてくださいな!」
リリアのほうを見ると、目を白黒させていた。
バーバラさんの返答が予想外だったらしい。
☆ ☆ ☆
その後、俺たちはお茶を一杯ご馳走になり、バーバラさんの家を辞去した。
「バーバラさん、全然気むずかしい人じゃなかったぞ」
帰り道、屋台で買った串焼きとパンを食べながらリリアに話しかけると、彼女は眉をしかめながら、首をひねった。
「バーバラさんは、人の好き嫌いが激しい方なのです。私はかなり気に入られているほうなのですが、気に入らない相手だと『今日は気分が乗らないわ』と追い返してしまうのです。理由は分かりませんが、エイジさんはとても気に入られたようですね」
「そうなのかなあ。だったら良いけど」
そう答えながら、俺は何か釈然としないものを感じていた。
「それよりも、エイジさん」
「なんだい?」
「どうして異世界の人なのに古代語が読めるんですか? よく考えたら、パルネリアの現代語を喋れるのも変な話です。たしか、わたしと最初に出会ったときは、別の言葉を喋っていらしたと思うのですが」
さすがリリアは勘が良い。
「それは、だな……。俺もよく分からないんだが、どうも女神さまが何か細工をしてくれたみたいだ。俺にはそういうことが出来るらしい」
そう答えながら、俺は居心地が悪い気分を味わっていた。
リリアは顎に指を当てて考え込み、「不思議ですが、そう考えるしかありませんね」と答えた。
なんの努力もなく、人様が積み上げてきた技術や知識を扱うのは、やはり性に合わないな。
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