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第一章 もらったスキルと呪いの少女
第12話 朝が来て、いざ街へ
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翌朝、目を覚ますと、女の顔が目の前にあった。
優美な曲線を描く頬、細く整った鼻筋、柔らかそうな薄桃色の唇。
絹糸のような黄金の前髪の下には、ぱっちりとしたエメラルドグリーンの瞳。睫毛がめちゃくちゃ長い——
「うわあああああっ!」
「す、すすす、すみません! 驚かせるつもりはなかったのです」
寝ぼけた俺が悲鳴を上げると、眼前の美女——リリア——が驚いて後ずさった。
「いや、こちらこそ、すまない」
「いえ。それよりも、昨晩は……とんだところをお見せしました!」
俺の間の抜けた返事に、リリアは深々と頭を下げる。
それを見ながら俺は、昨夜のあれが夢ではなかったのだと実感した。
リリアの白い裸身がしなり、うねる情景を思い出し、胸の鼓動が早くなる。
「事情はあとで話そう。今日はゴブリンのことを報告に行かなきゃいけないんだよな」
「はい。この村から1日ほど歩いたところに、バロワという街があります。そこに行く途中に小さな砦があるのですが、砦の兵に状況を説明すれば、領主殿に早馬を飛ばしてくれるはずです。それが住んだら、バロワに向かいましょう。私の家もそこにありますから」
「分かった。君についていこう」
その後、リリアは村人に金を払って、簡単な保存食と、俺のための着替えを用意してもらった。
俺の格好(安物のスーツに革靴だ)は、町中では目立ちすぎるからだ。着替えの服は麻で編んだようなシャツとズボンで、いささかゴワついているものの、着心地はよかった。皮でできた靴は、足になじむまでに少し時間がかかりそうだ。
「不要な混乱を避けるため、エイジさんは偽物の経歴を用意しておいたほうが良いでしょうね」
「そうだなぁ。どこか遠い国から来て、記憶を失ったことにしよう。あまり設定を作り込みすぎるとバレるからな。リリアとは森の中で偶然であって、意気投合したって感じでどうだろう?」
「それでごまかせると思います。バロワはこのあたり一帯の流通の拠点です。人の出入りが多く、変わった人もたくさんいるので、あまり気にされることはないかと」
そんな相談をしながら準備を整えると、俺たちは村人に例を言い、砦へと向かった。
「ところで、本当に武器はいらないんですか?」
馬車の轍が刻まれた街道を歩いている最中、リリアが俺に尋ねた。
俺が丸腰なのを知ると、スレンたち村人は護身用に斧か何かを持っていけと勧めてきた。
しかし、俺はどうも気乗りがしなかったので、代わりに丈夫な木の杖を一本もらうことにしたのだ。
「身の丈に合わない力は、いずれ自分の身を滅ぼす。いまの俺には、こいつだけで十分さ」
俺がそう言うと、リリアは「なるほど」と感心したように目を丸くした。
いまの俺の強さはリリアのスキルをコピペしたものに過ぎない。そんな借り物の力を力を振り回すなんて、ちょっと恐ろしくてできない。
「ま、なんとかなるだろう」
そう嘯くと、リリアはそれを余裕と解釈したのか、尊敬のようなまなざしを向けてきた。
俺はといえば、高校時代に他人の読書感想文を丸パクりし、うっかり文部大臣賞を取ってしまいったクラスメイトの顔を思い出していた。
あれは全校的に大騒動に発展したんだよなぁ。
感想文のコピペはダメ。ゼッタイ! 過ぎた力は身を滅ぼすのだ。
その後、俺たちは街道を歩きながら、お互いの話をした。
「なあ、リリアはやっぱり貴族のお嬢さんとかなのか? ほかの人とは育ちが違う感じがするけど」
街道を行き交う馬車や旅人を見た感じ、リリアの美貌や所作は、明らかに庶民のそれとはかけ離れていた。
「……確かに、前はそうでした。いまは違います。私の家はもうないので」
リリアは答えにくそうに言う。嘘をついている感じではないが、含みのある言い方だ。
うーん、没落貴族——いや、何らかの事情でお取りつぶしになった貴族のお嬢様ってところだろうか。
「エイジさんは、以前は何を?」
「俺は学校の先生。私立の研究機関で地道な文献研究をしながら、学生に指導するのが仕事。学生は、だいたいリリアと同年代か、少し年上が多かったかなぁ」
「研究機関ですか。エイジさんは、かなり身分の高い方なのですね」
「いやー。俺の世界には無駄にたくさん学校があってね。その中でも、俺の学校はだいぶ下のほう。で、俺の立場は教員の中じゃ下っ端。教員よりも、事務員のほうが威張ってるくらいだったね」
「学校や研究機関が多いのは、国が豊かな証拠です。素晴らしいと思います」
話してみると、リリアは頭の回転が速く、朗らかで、礼儀正しかった。
良く笑うし、冗談も言うが、不用意にこちらの事情に踏み込んでくる厚かましさはない。以前に非常勤で通っていた名門お嬢様大学(偏差値は天車学院大学の1.5倍くらいある)の学生には、こんな感じの子が多かった。
品の良い笑顔を浮かべながら楽しそうに話すリリアは、剣を振るって怪物の群れと戦うリリアや、獣欲に狂騒するリリアとはまるで別人のように感じられた。
そうこう話しているうちに、昼過ぎには小さな砦に辿り着いた。
リリアは兵士と顔見知りらしく、用事はあっけなく済んでしまった。彼女の話を聞いた兵士は、隊長らしき年かさの男にすぐ報告。隊長は村に兵士を四人派遣して調査に当たらせ、平行して領主のもとに早馬を走らせてくれた。
兵士たちの様子を見ると、どうやらリリアは有名人のようだ。
隊長をはじめ、男の兵士たちがやたらと話しかけてくる。彼らは俺に奇異の目を向けたが、リリアが事情を説明すると(嘘のプロフィールを伝えると、とも言う)、親身になってくれた。
隊長は俺のために、バロワの街の仮通行証を作ってくれた。
リリアが一時的な身元保証人となることで、俺も街に出入りできるようになるって寸法だ。正式な居住許可は、あとで申請すればいいらしい。
その後、なにかにかこつけて話しかけてくる若い兵士をほどほどにあしらい、俺たちはバロワの街へと向かった。
街に着いたら、まずは住む場所をどうにかしないと。
この世界って、アパート借りるのに保証人っているのかな?
優美な曲線を描く頬、細く整った鼻筋、柔らかそうな薄桃色の唇。
絹糸のような黄金の前髪の下には、ぱっちりとしたエメラルドグリーンの瞳。睫毛がめちゃくちゃ長い——
「うわあああああっ!」
「す、すすす、すみません! 驚かせるつもりはなかったのです」
寝ぼけた俺が悲鳴を上げると、眼前の美女——リリア——が驚いて後ずさった。
「いや、こちらこそ、すまない」
「いえ。それよりも、昨晩は……とんだところをお見せしました!」
俺の間の抜けた返事に、リリアは深々と頭を下げる。
それを見ながら俺は、昨夜のあれが夢ではなかったのだと実感した。
リリアの白い裸身がしなり、うねる情景を思い出し、胸の鼓動が早くなる。
「事情はあとで話そう。今日はゴブリンのことを報告に行かなきゃいけないんだよな」
「はい。この村から1日ほど歩いたところに、バロワという街があります。そこに行く途中に小さな砦があるのですが、砦の兵に状況を説明すれば、領主殿に早馬を飛ばしてくれるはずです。それが住んだら、バロワに向かいましょう。私の家もそこにありますから」
「分かった。君についていこう」
その後、リリアは村人に金を払って、簡単な保存食と、俺のための着替えを用意してもらった。
俺の格好(安物のスーツに革靴だ)は、町中では目立ちすぎるからだ。着替えの服は麻で編んだようなシャツとズボンで、いささかゴワついているものの、着心地はよかった。皮でできた靴は、足になじむまでに少し時間がかかりそうだ。
「不要な混乱を避けるため、エイジさんは偽物の経歴を用意しておいたほうが良いでしょうね」
「そうだなぁ。どこか遠い国から来て、記憶を失ったことにしよう。あまり設定を作り込みすぎるとバレるからな。リリアとは森の中で偶然であって、意気投合したって感じでどうだろう?」
「それでごまかせると思います。バロワはこのあたり一帯の流通の拠点です。人の出入りが多く、変わった人もたくさんいるので、あまり気にされることはないかと」
そんな相談をしながら準備を整えると、俺たちは村人に例を言い、砦へと向かった。
「ところで、本当に武器はいらないんですか?」
馬車の轍が刻まれた街道を歩いている最中、リリアが俺に尋ねた。
俺が丸腰なのを知ると、スレンたち村人は護身用に斧か何かを持っていけと勧めてきた。
しかし、俺はどうも気乗りがしなかったので、代わりに丈夫な木の杖を一本もらうことにしたのだ。
「身の丈に合わない力は、いずれ自分の身を滅ぼす。いまの俺には、こいつだけで十分さ」
俺がそう言うと、リリアは「なるほど」と感心したように目を丸くした。
いまの俺の強さはリリアのスキルをコピペしたものに過ぎない。そんな借り物の力を力を振り回すなんて、ちょっと恐ろしくてできない。
「ま、なんとかなるだろう」
そう嘯くと、リリアはそれを余裕と解釈したのか、尊敬のようなまなざしを向けてきた。
俺はといえば、高校時代に他人の読書感想文を丸パクりし、うっかり文部大臣賞を取ってしまいったクラスメイトの顔を思い出していた。
あれは全校的に大騒動に発展したんだよなぁ。
感想文のコピペはダメ。ゼッタイ! 過ぎた力は身を滅ぼすのだ。
その後、俺たちは街道を歩きながら、お互いの話をした。
「なあ、リリアはやっぱり貴族のお嬢さんとかなのか? ほかの人とは育ちが違う感じがするけど」
街道を行き交う馬車や旅人を見た感じ、リリアの美貌や所作は、明らかに庶民のそれとはかけ離れていた。
「……確かに、前はそうでした。いまは違います。私の家はもうないので」
リリアは答えにくそうに言う。嘘をついている感じではないが、含みのある言い方だ。
うーん、没落貴族——いや、何らかの事情でお取りつぶしになった貴族のお嬢様ってところだろうか。
「エイジさんは、以前は何を?」
「俺は学校の先生。私立の研究機関で地道な文献研究をしながら、学生に指導するのが仕事。学生は、だいたいリリアと同年代か、少し年上が多かったかなぁ」
「研究機関ですか。エイジさんは、かなり身分の高い方なのですね」
「いやー。俺の世界には無駄にたくさん学校があってね。その中でも、俺の学校はだいぶ下のほう。で、俺の立場は教員の中じゃ下っ端。教員よりも、事務員のほうが威張ってるくらいだったね」
「学校や研究機関が多いのは、国が豊かな証拠です。素晴らしいと思います」
話してみると、リリアは頭の回転が速く、朗らかで、礼儀正しかった。
良く笑うし、冗談も言うが、不用意にこちらの事情に踏み込んでくる厚かましさはない。以前に非常勤で通っていた名門お嬢様大学(偏差値は天車学院大学の1.5倍くらいある)の学生には、こんな感じの子が多かった。
品の良い笑顔を浮かべながら楽しそうに話すリリアは、剣を振るって怪物の群れと戦うリリアや、獣欲に狂騒するリリアとはまるで別人のように感じられた。
そうこう話しているうちに、昼過ぎには小さな砦に辿り着いた。
リリアは兵士と顔見知りらしく、用事はあっけなく済んでしまった。彼女の話を聞いた兵士は、隊長らしき年かさの男にすぐ報告。隊長は村に兵士を四人派遣して調査に当たらせ、平行して領主のもとに早馬を走らせてくれた。
兵士たちの様子を見ると、どうやらリリアは有名人のようだ。
隊長をはじめ、男の兵士たちがやたらと話しかけてくる。彼らは俺に奇異の目を向けたが、リリアが事情を説明すると(嘘のプロフィールを伝えると、とも言う)、親身になってくれた。
隊長は俺のために、バロワの街の仮通行証を作ってくれた。
リリアが一時的な身元保証人となることで、俺も街に出入りできるようになるって寸法だ。正式な居住許可は、あとで申請すればいいらしい。
その後、なにかにかこつけて話しかけてくる若い兵士をほどほどにあしらい、俺たちはバロワの街へと向かった。
街に着いたら、まずは住む場所をどうにかしないと。
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