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誕生日なのに、ツイてないなぁ…
人生始めての決闘がこんなのって、神様は私にどうしてほしいんだろうか。
「はぁ…」
私はため息をつきながら、パンが焼ける甘い匂いのする厨房で、ひたすらパンを捏ねていた。
一見簡単に見えるかもしれないが、実はとても筋力が必要な作業である。
だから、私の家族は毎日の鶏のささみと、筋トレを欠かさないし、幼少期には必ず、どこかしらの武道場に放り込まれて、修業をする。
姉は12歳、最後の試合で、結局は師範に勝ちを譲ったものの互角に戦い、「100年に1人の逸材なんだ、やめないでくれ!」と懸命に引き止められていた。
が、私にはパンを作るほうが向いているから、と武道をきっぱりやめ、今ではパンを作る修行に集中している。
私はといえば、パン屋を継ぎたいわけではないし、かといって他にしたいこともないので、16歳になった今でも、通っているままだ。
3歳から13年間やっている計算になるので、これでも筋肉はついてきているし、もう年上に負けるわけでもなくなってきた。
姉さんには…勝てないかもな。というか、私は剣で、姉さんは拳一つで戦うタイプの武術だから、比べるのが難しいけど。
でも、そこら辺の男の人よりは筋肉あると思う。背も若干私のほうが高いし。なぜだろう?
これでは彼氏などできそうにもない。
昔母さんに読んでもらった絵本では、格好良くて、お姫様よりも背の高い王子様が、白馬に乗ってお姫様を迎えに来ていたのになぁ。
「アベルー!」
「なにー?姉さん」
急に姉さんに呼ばれたので、いつの間にかパンを形成する作業に入っていた手を止め、布巾で手を拭いて、姉さんのいる店の方へと小走りで向かった。
「どうしたの、姉さん」
「このお客さんがアベルに用があるっていうから」
姉さんの立っている、勘定用のレジの前には、パンの入った大きな紙袋を小脇に抱えた、背の高い男が立っていた。
「あ、カイ!」
「ようアベル、久しぶり」
「最近来てなかったじゃん」
「いや、色々あってだな…」
「あ、ちょっと待ってて」
私は自分のおやつに焼いておいたベリーデニッシュを取りに、厨房へとダッシュした。
カイは甘いお菓子やパンが、大好きだったはず。
急いで形の良いものを選定し、紙袋にいれる。
まだ少し温かいデニッシュの熱が、袋越しに伝わってくる。
そしてまた店の方へと向かうと、姉さんとカイが話をしていた。
「今朝、そんなことがあったんですか」
「そうなの。アベルってば、かっわいそう」
「もう、なに勝手に話してるの!せっかくの話のネタを!」
私は急いで会話に割り込んだ。
姉さんは「早く言わないあんたが悪い」と鼻で笑い、カイは苦笑した。
「それで、アベルが勝ったんだな?」
「もちろん、伊達に剣やってたわけじゃないからね」
私とカイは数年前に、ここ、王都で一番大きい道場が開催する剣の模擬試合で初めて出会った。
こういう大規模な試合には出たことがなかったので、楽しみにしていたのだが、姉さんが熱を出してしまい、ピーク時には店番が足りなくなる、ということで時間制限付きで参加していた。
そして、そこで戦ったのがカイだった、というわけ。
結局、人数が多かったからカイとの1戦しかできなかったけれど、初めて自分の道場以外の人と戦えて学びを得れたから、本当に行ってよかったと思う。
その後、またウチの店で会ったのをきっかけに、なんとなく友達付き合いが続いている。
「でもさあ、私が勝ったっていうより、私の顔が勝ったっていうか…」
「イケメンぶりが?そりゃそうだろうな」
「いや、そっちじゃなくて」
私はデニッシュの入った紙袋を手で弄びながら顔を見られて尻もちをつかれたことを訥々と話した。
「ね、ヒドいと思わない?」
カイは少し真剣な目をして考え込んでいた様子だったが、
「あ、ああ、そうだな」
と言い、「ところで、」と話を続けた。
「アベルの手の中にあるものはなんだ?いい匂いがする気がするんだが」
さすがカイ。甘いものレーダーが王都一鋭い男だ。
「テッテレテ~、私特製のベリーデニッシュでーす。またあったかいから、早めに食べると美味しいよ」
笑顔と一緒に差し出すと、カイの目が輝いた。
「もらっていいのか?」
「もちろん!」
カイはまだパンを持っていない方の手でデニッシュを受け取り、私と姉さんにお礼を言って、店から去っていった。
「あんた、カイに彼女がいないうちに、嫁にもらってもらえばいいじゃないの」
「姉さんうるさい」
確かに、カイは私よりも幾分背が高いし、私とはタイプの違うイケメンだけど、なんというか、そういう関係っていうよりは、友達みたいな感じなのだ。
そんなことを姉さんに語ると、
「そういうヤツから男争奪戦争に負けるんだよなあ」
などとぼやいていた。
人生始めての決闘がこんなのって、神様は私にどうしてほしいんだろうか。
「はぁ…」
私はため息をつきながら、パンが焼ける甘い匂いのする厨房で、ひたすらパンを捏ねていた。
一見簡単に見えるかもしれないが、実はとても筋力が必要な作業である。
だから、私の家族は毎日の鶏のささみと、筋トレを欠かさないし、幼少期には必ず、どこかしらの武道場に放り込まれて、修業をする。
姉は12歳、最後の試合で、結局は師範に勝ちを譲ったものの互角に戦い、「100年に1人の逸材なんだ、やめないでくれ!」と懸命に引き止められていた。
が、私にはパンを作るほうが向いているから、と武道をきっぱりやめ、今ではパンを作る修行に集中している。
私はといえば、パン屋を継ぎたいわけではないし、かといって他にしたいこともないので、16歳になった今でも、通っているままだ。
3歳から13年間やっている計算になるので、これでも筋肉はついてきているし、もう年上に負けるわけでもなくなってきた。
姉さんには…勝てないかもな。というか、私は剣で、姉さんは拳一つで戦うタイプの武術だから、比べるのが難しいけど。
でも、そこら辺の男の人よりは筋肉あると思う。背も若干私のほうが高いし。なぜだろう?
これでは彼氏などできそうにもない。
昔母さんに読んでもらった絵本では、格好良くて、お姫様よりも背の高い王子様が、白馬に乗ってお姫様を迎えに来ていたのになぁ。
「アベルー!」
「なにー?姉さん」
急に姉さんに呼ばれたので、いつの間にかパンを形成する作業に入っていた手を止め、布巾で手を拭いて、姉さんのいる店の方へと小走りで向かった。
「どうしたの、姉さん」
「このお客さんがアベルに用があるっていうから」
姉さんの立っている、勘定用のレジの前には、パンの入った大きな紙袋を小脇に抱えた、背の高い男が立っていた。
「あ、カイ!」
「ようアベル、久しぶり」
「最近来てなかったじゃん」
「いや、色々あってだな…」
「あ、ちょっと待ってて」
私は自分のおやつに焼いておいたベリーデニッシュを取りに、厨房へとダッシュした。
カイは甘いお菓子やパンが、大好きだったはず。
急いで形の良いものを選定し、紙袋にいれる。
まだ少し温かいデニッシュの熱が、袋越しに伝わってくる。
そしてまた店の方へと向かうと、姉さんとカイが話をしていた。
「今朝、そんなことがあったんですか」
「そうなの。アベルってば、かっわいそう」
「もう、なに勝手に話してるの!せっかくの話のネタを!」
私は急いで会話に割り込んだ。
姉さんは「早く言わないあんたが悪い」と鼻で笑い、カイは苦笑した。
「それで、アベルが勝ったんだな?」
「もちろん、伊達に剣やってたわけじゃないからね」
私とカイは数年前に、ここ、王都で一番大きい道場が開催する剣の模擬試合で初めて出会った。
こういう大規模な試合には出たことがなかったので、楽しみにしていたのだが、姉さんが熱を出してしまい、ピーク時には店番が足りなくなる、ということで時間制限付きで参加していた。
そして、そこで戦ったのがカイだった、というわけ。
結局、人数が多かったからカイとの1戦しかできなかったけれど、初めて自分の道場以外の人と戦えて学びを得れたから、本当に行ってよかったと思う。
その後、またウチの店で会ったのをきっかけに、なんとなく友達付き合いが続いている。
「でもさあ、私が勝ったっていうより、私の顔が勝ったっていうか…」
「イケメンぶりが?そりゃそうだろうな」
「いや、そっちじゃなくて」
私はデニッシュの入った紙袋を手で弄びながら顔を見られて尻もちをつかれたことを訥々と話した。
「ね、ヒドいと思わない?」
カイは少し真剣な目をして考え込んでいた様子だったが、
「あ、ああ、そうだな」
と言い、「ところで、」と話を続けた。
「アベルの手の中にあるものはなんだ?いい匂いがする気がするんだが」
さすがカイ。甘いものレーダーが王都一鋭い男だ。
「テッテレテ~、私特製のベリーデニッシュでーす。またあったかいから、早めに食べると美味しいよ」
笑顔と一緒に差し出すと、カイの目が輝いた。
「もらっていいのか?」
「もちろん!」
カイはまだパンを持っていない方の手でデニッシュを受け取り、私と姉さんにお礼を言って、店から去っていった。
「あんた、カイに彼女がいないうちに、嫁にもらってもらえばいいじゃないの」
「姉さんうるさい」
確かに、カイは私よりも幾分背が高いし、私とはタイプの違うイケメンだけど、なんというか、そういう関係っていうよりは、友達みたいな感じなのだ。
そんなことを姉さんに語ると、
「そういうヤツから男争奪戦争に負けるんだよなあ」
などとぼやいていた。
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