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最終話【最期】

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赤ずきんちゃんの質問に答える事なく
乱れた息を必死で整えるかのように、荒く呼吸をする。

時折、滴るよだれが赤ずきんちゃんの頬に落ちるも
一切動揺することなく、ジッと狼を見つめる。

「これで…終わりだ…喰って…やる」

覚悟を決めたのか、大きな口をガバっと広げ
勢いよく赤ずきんちゃんの喉元に食らいつく。

だが、柔肌に牙が触れ、少量の血が流れたあたりで狼の牙が止まる。

「あ…が…」

このまま喰らいつけばいい、そう頭で思うもなぜか体が急に動かない。
自分の意思と裏腹に、体全体がじわりと痺れていくのを感じる。

「なん…で…」
「…不思議に思わなかった?」

赤ずきんちゃんはクスッと笑い、押し付ける狼の足から腕をすり抜け
ゆっくりと喉元に迫っている狼の口をどける。

「何でリンゴが木の下に転がっていたか?どうして狼さんが食べ終えるまで手を出さなかったのか?」

赤ずきんちゃんは鞄から小瓶を取り出し、狼に見せつける。

「もうわかるよね?痺れ薬。狩りの基本だよね?」

勝利を確信したかのように、口元いっぱいに笑みを浮かべニヤッと笑う。
その笑みに狼は死を直感した。

その感は正しいと言わんばかりに、赤ずきんちゃんは石棍棒を高く振り上げ
ニコっと笑いながら何度も狼にたたきつけた。

数分後、狼が白目を剥いたあたりで我に返ったのか
石棍棒をポイっとその場に捨て、狼の首を掴み、ズルズルと来た道を戻っていった。

最期に狼が見た景色は、村で狼鍋だよと大喜びする村人たち。
村に襲撃にいった仲間の狼が吊るされている様。

笑顔で自分の喉元に鉈を振り下ろす、赤ずきんちゃんの姿だった。
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