霧崎さんは好かれたい

夜桜アイル

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4話:霧崎さんはギルドに入りたい(中編)

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「そんな…バカな…」

どうした事か、メニューのボタンランプが一切灯っていない。
そんなはずはない、この学食は300円のラーメンが最安である。

300円を入れてメニューが光らないわけがない。
念の為ラーメンのボタンを押すも、ギルドの門は私に応えてくれない。

ま、まさかソロプレイ不可?
今流行りのパーティプレイ推奨なのか?

私の額から汗が滴り落ちる。手が震える。
先ほどまでの、歴戦の勇者感はそこには無く
戦場に裸で放り出された弱卒のように私は震えた。

そんな狼狽える私の後ろから声がかかる。

「あのー…ラーメン買うなら50円足んないですよ?」
「え…?」

私は、まさかそんな事は…と恐る恐る投入金額を見ると絶望した。
250円と表示されている。

そう、母は100円玉と50円玉を誤って私に渡していたのだ。

「…すいません」

250円を戻すと、フラフラとその場を去った。
ふらつく足で、食堂近くのベンチまで辿り着くと、腰を落とす。

私にギルドへの挑戦権は獲得できなかった…。
春の陽気な気温でさえ、私の今の荒み切った心は癒せなかった。

「ラーメン…食べたかったなぁ…。」

悔しさで涙が薄らと、視界を覆った。
小さなため息をついていると、私の濁った視界に誰かの手が映る。

「はい、50円。」

声の先に目をやると、小柄な女の子が50円玉を差し出していた。
中等部の子?いや、制服から見るに高等部、しかも私と同じ1年生のようだ。

「ラーメン食べるんだよね。はい、どうぞ。」

ニコっと笑いかけてくれる、その優しさに私は大粒の涙を流した。
まるで天使のようだった。

さっきまでの荒んだ冷え切った心が、一気に解凍された。

「あ、ありが…あり…ありがとう。」

泣きじゃくりながら、必死に感謝を言葉にした。

「じゃあねー。」

その子は、またニコっと笑うと、50円玉を私に渡し、その場を去って行った。
私は、その子が見えなくなるまで何度も深々と頭を下げた。

そして涙をぬぐい、私は再び戦場へと足を運んだ。
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