しあわせピエロ

夜桜アイル

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プロローグ(後編)

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「え、お、おう…誰?」

不意を突かれてそんな腑抜けた声が出た。
当然俺のところに訪ねてくるガキに心当たりはない。

「あの、これ…」

おどおどしながら手紙を差し出してくる。

貴方へ。
暫く娘を頼みます。

僅か二行の走り書き。
だが、見慣れた文字だった。
まさか

「なぁ、お前の母親…名前は?」
「え、みゆき…」

数年前に逃げた嫁さんだ。
ということは

「じゃあ、お前の名前は?」
「…は、はるか」

俺は大きく溜息をついた。

娘だ。

年が経って大きくなっているが、面影は残っていた。

やり直そうって事か?何故、娘だけを先に?
どっきりか?夢か?何で急に?手紙だけをよこした?
様々な疑問が一気によぎる。

「親父の…名前は?」
「ゆうた…です」

身に覚えのない名前だ。

「…え?おまえ市松…遥だよ…な?」
「い、いえ、田中遥…ですけど」

血の気が引くのを感じた。
あいつ再婚して、娘を体よく厄介払いしやがったか。

そう、娘もまた捨てられたってことだ。

「入れよ…」

もう追い払う気力も湧かなくなって、震える声でガキを家に誘う。

「あ、はいお邪魔します小父さん」

ガキはニコっと笑顔になって家に入っていく。

「小父さん…か。」

もう…どうでもいいわ…。
俺は静かにドアを閉めた。
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