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第一章 黒瑪瑙の陰陽師

《十九》

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「結界整備師って、みんなあんな風に戦えるものなのか?」

 静まり返った客席で、春明は一匹の蜘蛛に問いかける。
 春明が向ける視線の先には、今もなおシリウスが意識を失い眠りにつく。
 横になる彼の腹の上には、黒い猿面が置かれていた。

「おめぇは背丈だけじゃなく、頭までちんちくりんなのか? 整備師ら全員あんなんだったら、ただの暴力集団だろ」

 呆れる蜘蛛の声は猿面から聞こえた。
 春明の手により落下されたあと、牡丹はシリウスの腹の上に落下。
 少年の荒ぶる勢いは収まらず、そのまま猿面を上から被せられていた。

「あぁ? さっきからちんちくりんってバカにしやがって。いいか、オレが仮にチビ……ならテメェは豆粒じゃねえか!」
「そりゃそうに決まってるだろ。おめぇは人間、俺様は蜘蛛。虫と比べてデカいのは当たり前だろ、チビ」
「だから、チビって言うな!」

 猿面から聞こえる虫の声に、春明は面と向かって暴言を吐く。
 直接姿を見なければ、牡丹に嫌悪感を出さず、落ち着いて対話が出来ていた。

「しかし、なんだ。おめぇが勢いで被せたとは言え、案外落ち着くな、ここ」
「へぇ? そうなのか?」

 突発的な判断で舞面を被せた春明だったが、予想外の牡丹の反応に胸をなで下ろす。
 しかし、それもつかの間。

「暗さヨシ。狭さヨシ。隠れやすさヨシ。思わず糸を張ってリフォームしちまいたいくらいだ、あっひゃっひゃ」

 ケタケタと不気味に笑う牡丹に、春明の表情があっという間に真顔となる。

「よし、防虫剤。仕舞う時、入れ忘れねぇようにしよう」
「防虫剤程度、俺様には効かねえよ。せめて殺虫剤くらい用意しなきゃなぁ?」
「テメェ、家宝に殺虫剤なんてかけられるか!」

 舞面に変色を起こしてしまえば、末代までの恥さらし者。
 表情が一転し再び憤慨する春明に、牡丹はため息を漏らす。

「その家宝とやらで俺様を隠すなんざ、おめぇの虫嫌いも大概だと思うぞ」
「うるせぇ、虫! お前に言われたくない!」
「へいへい、我が儘なガキだこって」

 牡丹は春明の横暴さを受け流し、カタカタと猿面を揺らしながら相づちを打つ。
 動きはあるものの蜘蛛の言葉は本当で、面の暗さが心地良く姿を現すことは無い。
 春明は恐る恐る、猿面の眼を近づき覗く。

「なあ、クモ。お前、アイツとは付き合い長いんだろ。なんでアイツはあんな……怖いモノ知らずなんだ?」

 明確なまでの脅威を前にして、黒い目をした青年は平然と敵と対峙する。
 無機質で、されど嫋やかに。
 人形のような表情で語りかけた桜下を、春明は忘れられなかった。

「いい場所を用意してくれた礼だ。一つだけ忠告はしてやるよ」

 カタリ、と。

 舞面の裏から小さな音が響く。
 飄々とした態度とはまるで違う。
 春明の問いに対し、牡丹の態度には厳かな気迫があった。

「な、なんだよ」
「さくに関わるのはもうやめておけ。おめぇも、そこで寝ている検非違使も、人生狂うぞ」

 嘘偽りのない、虫の知らせ。
 蜘蛛は彼らを突き放した訳ではない。

 シリウスと春明。
 これ以上、彼らが桜下と関われば後戻りが出来なくなる。
 斉天の舞を見事に果たした二人への褒美として、蜘蛛は警告した。

「分かったか?」

 静かでありながらも厳しく、碧緑の瞳は少年を見つめる。
 春明はじっと舞面と向き合うと、やがて意識がないシリウスに視線をずらす。

 茶の汚れが目立つ紺色の軍服。
 鼻筋通った顔に目立つ赤い擦り傷。
 埃まみれの金髪に巻きつけられた漆黒の包帯。

 意識は未だ戻らない友人の寝姿に、少年は硬く拳を握った。

「分かった、聞かねぇ」

 少年は立ち上がり、舞面に背を向ける。
 見上げた視線の先は、外に繋がる出入り口だった。

「オレがちゃんと、この目で見てくる」

 ダッ、と少年は駆け出す。
 勢いに任せて、真っ直ぐに。

 一歩、二歩。
 そして、三歩目。

 ピタリと、少年の歩幅は意図しない位置で止まる。

「あぁ?」

 春明が驚き視線を下に落とす。
 何も無い。
 だが、たしかに足に何かが絡みつきびくりとも動かない。

「ん、だよ、コレ!」
「はぁ……マジかおめぇ……」

 後ろから聞こえる呆れ声。
 春明は首を動かし振り向こうとする。
 すると、結界の糸は足だけではなく、春明が少しでも動くたびに身体に纏わり付く。

 足から腰、腰から肩、終いには頭部。
 中途半端に横を向いた状態で、春明の身体は完全に見えない糸で絡みついた。

「おまっ、結界解け!」
「マジでアイツのところへ行こうとしやがって……本当に頭ちんちくりんだな」

 春明は暴れて振り払おうとするも、その場からビクリとも動かせない。
 まるで、映像を一時停止したように。
 少年は蜘蛛の糸にまんまと捕まった。

「畜生! なんでお前こんなことしやがる!」
「おめぇが勝手に出ねぇよう保険だ、保険」
「保険?」
「めんどくせぇの極まりだが、アイツに頼まれたからな。俺様を置いてったのは、見張りをしろって意味だ。救援が来るまで、おめぇがさくを追いかけないようにするためにな」

 はぁ全く、と深いため息を漏らす蜘蛛。
 一方、糸が絡みついてもなお抵抗を見せた春明だったが、途端に腕の力が抜けていく。
 冷静になり、頭が冴え。

 自分の置かれた状況に、顔が熱くなっていく。
 危険な場所へ向かわないよう見張りを付ける。
 桜下の判断に、春明は納得がいくのと同時に、己の不甲斐なさに痛感させられた。

「そこで頭を冷やせ。舞は終わったんだ、もうおめぇにやれることは何もないぞ」

 蜘蛛の正論が春明の心に釘を刺す。
 舞殿の幕は下り、舞師として活躍で出来る場面は既に過ぎ去っている。

「ははっ、マジでだせえな……オレ……」

 乾いた声が空っぽの客席に響き渡る。
 糸に捕まった我を見て、春明は落胆の息を漏らす。

 これ以上はただの役立たず。
 向かった先にいる蛾を前に、少年はなす術もなく終わってしまうだろう。

 だが、それでも。

 ーー貴方、格好いいね。

「……っ」

 脳裏に響いた、桜下の声。
 純粋な黒い瞳に見つめられ、木漏れ日のように微笑んだ青年の姿が彼の衝動をかき立てた。

「オイ」

 冷静になり理性的になったのは一瞬のみ。
 蜘蛛の忠告はもう届かない。
 事実を突き詰められてもなお、舞師は歩みを止めようとはしなかった。

「おめぇが追っかけたとして、何が出来るんだよ」
「何も出来やしねぇよ!」

 子供が駄々をこねるように叫び散らかす。
 怖い気持ちはまだ十分にある。
 だが、それ以上に。
 舞師の意地プライドが春明を奮い立たせた。

「何も出来やしないけど、アイツから目を離しちゃいけねぇんだ!」

 牡丹は少年の行動をうんざりした様子で眺める。

「おいおい、服破けるぞ」

 勢いに任せの力加減と糸の強度に、斉天の衣装は張り詰めていく。
 音を立てながら、布地の端がほつれ、いずれは服が避けてしまう。

「おめぇは仮にも『来るな』と言われたようなもんだ。これ以上動けば大事な衣装は裂けちまう。おめぇは舞師、アイツは結界整備師。舞台は終われば、もう関係ねぇじゃねぇか」

 淡々とした言葉が冷たく棘のように刺さる。
 舞面の裏に潜む、蜘蛛の威圧が容赦なく春明に襲いかかる。

「ガキ、何故さくのところへ向かおうとする」

 魔王の如く、畏怖たる風格。
 黒い猿の舞面はの主人公ように、少年の前に立ちはだかった。

「オレが、舞師だからだ」

 しかし、緋色の髪の少年は物怖じせず。
 不敵に口角を釣り上がらせる。

「アイツが何者か関係ねぇ。けど、オレは、見に来てくれた観客をちゃんと見送らないと気が済まねぇ!」

 美化や誇張などでは言い表せない。
 勢いだけが増していく。
 彼が絞り出した本音は、我が儘な子供のそのものだ。

「それに、気に入ったヤツのところに行きたいのに理由はいるか!?」

 決意した少年は止まらない。
 ビリビリと、衣装の端が破れ、手首や頭にも糸が絡まっていく。
 勢い任せで牡丹の結界を抜け出せるはずない。

 それでも、あの黒い瞳の青年のもとに向かいたい一心から、躍動へと駆られていく。

「うおおおおお!! こなくそおおおおお!!」

 奇妙な掛け声を放ちながら、春明は一心不乱に前へ進もうとする。

 前へ、前へ。

 けれど、一ミリも動かない彼の行動に、

「本当のバカが」

 蜘蛛は呆れて結界の糸を解く。
 巻きついた糸はスッと消え、支えを無くした春明はバランスを崩しその場に倒れた。

「おわっ」

   ズサっと、白い衣装が埃にまみれ高級な生地の上に目立った茶色が付着する。
 いてて、と思わず声を上げるも擦り傷は一切ない。すぐに立ち上がり、後ろを振り返った。

「お前……」
「勘違いするんじゃねえ。やろうと思えばおめぇみたいなガキ、結界まみれにして黙らせるのなんざ朝飯前だ」

 不貞腐れる牡丹を、春明は不思議そうに眉間を避ける。
 何故、結界を解いたのか。
 その意図が読めず首を傾げると、牡丹の機嫌はますます損なっていく。

「じゃあ、何故やらんのか……みたいに思っているな。当たり前だ、それをやっちゃあ、さくが黙るはずがねぇ。おめぇと、この検非違使。相当、気に入られてるぞ」
「えっ」
「じゃなきゃアイツはここまでしねぇよ」

 蜘蛛視点から見た桜下は、やり過ぎなほど彼らに尽くしていた。
 その理由を牡丹は知るはずもなく、知る気さえ毛ほどもない。

 だが、毎年、斉天祭の日は必ず俯瞰に徹底した青年が、今年は彼らと出会い青春を謳歌する。
 隣人である蜘蛛は、彼らに少なからず感謝の意を持っていた。

「俺様がさくに殺されるくらいなら、てめぇが勝手をして、勝手にのたれ死んだ方が遥かにマシだ」

 気持ちと相反する言葉を述べながら、蜘蛛はカタリと舞面の奥に隠れる。

「クモ」

 春明はゆっくり近づき、石造りの面に触れる。
 面を拾い上げるまでは、流石に勇気が足りなかった。

「オレ虫は大嫌いだけど、お前はいいヤツだな」
「ケッ」

 春明の素直な言葉に、牡丹はそっぽを向く。
 人間の感謝など、虫には腹の足しにはならないからだ。

 一方、春明は気持ちの整理がつくと耳元にそっと手を添える。
 つるつると硬い感触が指を伝い、耳たぶ間には確かに朱色の棒が収まっていた。

「これも、返さねぇと」

 桜下が霊力酔い防止にと貸し出した如意金箍棒。
 春明は一度試しに外しても、もう吐き気に襲われることはなかった。

 だが、自分の舞が場を整えたたしかな結果を実感するも、喜びをかみしめる余裕はない。
 もう一度、ピアスのように金箍棒を耳にはめ直し、視線を横にずらす。

「……行ってくる」

 少年は静かに、検非違使に向かって挨拶を交わす。
 陽気な返事が返ってくることはもちろん無かったが、

 行くな、と。
 きっと彼は手を掴み、少年を止めるだろう。

 眠るシリウスの顔を、春明は苦笑いを浮かべる。
 仮に止められたとしても、やはり腕を振り払って走り出してしまう。
 そんな自分の姿が容易に想像出来てしまった。

「……行くか」

 春明の視線は、シリウスから逸れて上を見上げる。
 客席が階段状に敷き詰められたその先、観客たちが出入りする舞殿の入場口。
 外は、あの怪獣が住まう戦場となっているだろう。
 しかし、そこのあの青年がいるのならば。

「……っ」

 意を決し、春明は外へ向かって駆け出していく。
 ボロボロに汚れた白い衣装には一切気にも止めず。
 舞師という自分自身を、少しだけ忘れてしまうくらい、ただの少年になって。

 一歩、二歩。
 そして、三歩。

 もう、春明を妨げる結界の糸はない。

 ない、はずだが。

「なあ、クモ」

 たった一メートルの距離を走っただけで、彼は止まってしまう。
 何かの妨害ではない、春明自身の意志で走るのをやめていた。

「……なんだ」

 あれほどの啖呵を切っておいて、今更怖じ気づいたか?
 牡丹は春明の心境の変化に安堵と、落胆をしながら問いかけた。
 春明はゆっくりと、後ろを振り返る。

「アイツ……どっちの方向に行ったか、お前なら分かるか?」

 なんとも格好が付かない。

 軽快に挑もうとした少年は打って変わり、今は焦りに表情が歪んでいる。
 思い返せば、桜下の向かった先を春明は知る手立てがない。

「ハァ!?」

 途方に暮れる彼に向かって、蜘蛛の呆れ声が舞殿に反響した。


 ○


 祭りはすでに終わりを迎え、ガランと辺りは静まりかえる。

 ここは、舞殿を四つの区画に分けられたうちの一つ、出演者フロア。
 ガラス張りの天井は薄水色に夕日の紅が先込み、夏の空が移り変わる様をよく映し出していた。
 吹き抜け構造のフロアは高さ十階以上までにそびえ立ち、舞台に次いで舞殿の中で二番目に広い空間である。

 舞台に出演する著名人。
 斉天祭を仕切る、現場の作業員たち。
 警備に駆け回る、検非違使衆。

 本来であれば、この大ロビーは各フロアの中継地点であり、様々の人たちが集まり祭りを築き上げる玄関口となっていた。
 しかし、時間を問わず行き交う人々に賑わいを見せていたはずの場所が、今はどこにも人影は見えない。

 帝魔の撃退によって出現した妖魔はすべて消え去るも、残った傷跡がひどく目立つ。
 帝魔の撃退によって妖魔はすべて消え去り、荒れた廃墟だけ残される。

 床から壁にかけて入った大きなヒビ。
 段差が大きく欠けた、広間の階段。
 舞台へと長く続く、スタッフ用の入り口は瓦礫に埋もれる。
 修復までに長い月日を費やすほどの被害を、出演者フロアは受けていた。

 だが、その中で奇跡的に被害から回避したものがある。

 大ロビーの壁際に設置された、一際大きな白い門。

 門に付けられた五芒星の紋には薄らと紫の光りが灯り、機能は正常へと戻っていた。
 暴走の兆しはなく、ただ静かに鎮座する聖の成れの果て転位の奇跡

 騒動の諸悪の根源ともなるテムイ以外、無残にも壊された荒涼とした光景が広がる。
 天井の外壁に備え付けられた霊力数値計は、正常値を保ったまま。
 静かな余韻が続く、穏やかな時間のみが流れていく。

 けれど、それももうお仕舞い。
 何故ならば、フロアの入り口にはすでに結界整備師がやってきていた。

「着いた」

 ガシャン、と。
 大きな物音と共に静寂は破られた。

 フロアの入り口は十メートルの黒い蛾が侵入し、何かを狙うように複眼を動かしている。
 狙った先の対象は、止まる様子は見せず風を切るように駆け巡る。

 桜下は怪獣を引き連れて、最後の地へと赴いた。

 宙を舞い、黒い瞳が向けた視線の先では、蛾の魔の手が自身に迫っている。

「増えたか」

 その数、合計八本。
 人の手の形が黒い影となって伸び、八本の腕が交差し合いながら桜下に向かって突き進む。

「まあ、でも」

 何とかするしかない。
 桜下は床に着地し、すかさず視線を前へ向ける。

 一手、二手。
 そして、三手。

 向かってきた黒い影を、寸前で躱していく。
 黒い手の影は地面に突き刺さり、張った帯びのように伸びている。
 すかさず、そこに一歩足を踏み入れた。

「よいしょ」

 虫の腕を足場としようと、誰が考えようか。
 綱渡り同然の不安定さの上、上空を飛ぶ蛾から伸びた影は急な斜面となっている。

 横幅は五十センチほどの足場。
 立つことでさえも困難なはずの坂道を、青年はいとも容易く駆けていく。

 桜下は無表情で距離を詰める。
 これがもし対人間に向けられたものだとしたら、背筋を凍らせるほどの恐怖に陥っていただろう。

 だが、相手は正真正銘の化け物。
 物怖じする心など到底持ち合わせていない。
 突き刺さり抜けない手を震わせ、足場をより不安定にさせていく。

 この程度など、まだ前に進める。
 桜下は無言なまま、走る速度を緩めない。

 一歩、一歩、たわむ足場に掬われないよう足に気力を捻りこむ。
 しかし、視線を上に向け、見上げた先にはやってくる五本の魔の手が行く手を阻んだ。

 頭上に囲む蛾の伸びた手。
 無謀な策だと踏み、すぐに諦め不安定な足場から離れた。

 大理石の床に着地し、次の考えを巡らそうと、前髪を乱しながら顔を上げる。
 地面に突き刺さった三本の手は引き抜かれ、蛾の全ての手が自由を取り戻す。

 一、二、三、四……
 合計七本。

 瞬時に蛾の腕を数えるも、一本足りない。

 どこだ、と。
 斜め後ろに桜下が振り向くとすぐに答えが合わさる。

「あっ」

 声を漏らし、八本目の影の手の姿を見つけ、すぐさま駆けだす。
 見失っていた最後の手の影は設置されたテムイを怖そうと拳を握っていた。

「やめなさい」

 桜下はテムイの破壊を阻止するため、もう一度空中に跳ぶ。
 蛾の腕の手首に狙いを定め、見事一発蹴りが入れた。

 守られた白き門には、ヒビ一つも見当たらない。
 弾かれた腕は外壁に激突。
 ガラガラと、鈍い音が大ロビーに響き渡る。

「っ」

 瓦礫の雨が降りしきり、桜下の視界が遮られた。
 目をつぶってしまった一種の隙に、一気に伸びでた魔の手。


 やってくる蛾の魔の手に、青年の心は波音一つ荒げず。


 桜下の肢体は地面に着地することなく、両足を掴まれ宙づりとなってしまった。


「……なんで」

 逆さまになった世界で間近に迫る蛾の複眼を見つめる。

 万華鏡の先にいた窮地に陥った自身など他人事。
 蛾に向ける対抗心がするすると解けるように抜け落ちていく。

 細かに敷き詰められたかがみが現実を映す中、桜下は無感情に呟いた。

「遠ざけるだけで、良かったのに」

 目の前に居る蛾は、シリウスと春明、始めから彼ら二人には興味を示していなかった。
 シリウスが怪我を負い意識を失ったのは、彼が桜下をかばい間に入った所為せい

 蛾の複眼は、舞台に登場してからずっと桜下だけに殺意を向け続け、今もなお、宙づりとなった青年をどうやって仕留めようか思案を巡らせる。

 結局は、蛾を仕留めようとせず、ただ二人から遠ざけ、逃げ続ければ事足りたのだ。

 ーー逃げろ。

 それは、シリウスが伝えた刹那いっしゅん
 青いまなこの勘は蛾の狙いは桜下だと瞬時に見抜いていた。

 それでも、

「まあ、無理だよ」

 自問自答ならぬ、他問自答。
 万華鏡から跳ね返った無機質な言葉に、桜下は薄ら笑みを浮かべて答える。

 現実に対抗する合理性。
 天を見通す絶対的な勘。

 これらを用いてもなお、桜下の記憶にはシリウスが投げ飛ばされた残影がこびりつき離れなかった。

 しかし、過去きおくは過去。
 今は現実いま

 自慢の脚は動かせず、蟲に捕まった人形は為す術がなかった。


 嗚呼、それでも。
 二人からこの蟲を少しでも遠ざけたのならば。

 ならば、いいでしょう。
 最低限、やるべきことはやり遂げた。

 開いた巨大なあぎとを目前に、桜下はゆっくりと頷く。
 蛾の顎の中は人間の口内のように半円形に歯が陳列し、その中で凶暴な牙となった犬歯が鋭く輝いている。


 向けられた現実を直視しながら。
 やってくる未来に目を閉ざしながら。
 青年は自分の人生に納得していた。


 けれど、たった一つだけ。
 ほんの一握りの後悔があるとすれば。


「さよならぐらいは、言うべきだったかなぁ……」


 青い眼の検非違使、緋色の髪の舞師。


 そして、隻眼の……。


「……あの馬鹿にも」


 出会った彼らを思い浮かべながら、青年はぼんやり顎の奥底を眺めていた。

 自由な両手を、天に伸ばすことはせず。
 揺蕩たゆたう絶望に耳を澄ませ、こぼれ落ちる、

 今際の際に、


「さぁく!!」


 彼はやってきた。

 自慢の緋色の髪はかき乱し、白く澄んでいた衣装も今は無残に汚れだらけ。

 それでも、藻掻きながら天に手を伸ばし、懸命に舞台だいちに立ち続ける。

「……春明君?」

 何故彼が大ロビーにやってきたか、問いただす暇も無い。

 春明は大ロビーの入り口から一直線に駆けだし、蛾の魔の手に捕まった桜下を睨み付ける。
 巨大な虫に対する嫌悪感を意地と根性でねじ伏せ、耳に付けていたモノを外した。

「諦めるなぁ!!」

 精一杯の力を込めたられた投擲。
 舞師の少年の手から投げ出された希望は、彼の髪色を思わせる朱色の棍棒。

「……っ」

 放たれた赤い煌めきに、桜下は無意識に手を伸ばす。
 マッチ棒ほどの短い武器が回転しながら中を進んでいく。

 桜下の指先に触れるまであと僅か。

 だが、その前に、

「あっ」

 届かず落ちた。

 理由は単純。春明の投げる力が足りず、重力に従っただけ。

「おんめェ、マジで何しに来た!?」
「仕方ねえだろ、力技こういうのはオレは苦手なんだっ!」

 腰から下がる猿面から響く牡丹の怒号。
 朱色の武器が落ちていった先を見失い、春明は口調を荒げ大量の冷や汗を流す。

 ヒビの入った大理石の床によく目を凝らすが、朱色の棒は見当たらない。
 どこだ、どこだと下に視線を落とし歩いていくとカタカタと舞面が鳴る。

「オオイ、そっちに行くな! 蛾の真下だぞ!」

 牡丹の忠告に、春明はハッと上を見上げる。
 蠢く無数の魔の手に、剥き出しなった鋭利な歯並び。
 蛾に備わった全てのパーツに白目を剥きながら立ち止まってしまう。

 ギラリと光る巨大な複眼。
 春明の思考はすでに停止寸前。

 目を逸らすことも出来ず、逃げろと叫ぶ牡丹の声も届かない。

 やっぱ、肝心な時にオレってダセェ。
 僅かな思考の隙間で漏れ出た言葉に少年はため息を漏らした。

「春明君!」

 けれど、凛とした声が彼の思考に一筋の光を宿す。
 名を呼ばれた方向に首を傾けると、強い眼差しを向ける桜下の姿があった。
 左手は拳を作り垂れ下げ、何かを握りしめている。

 何を持っているのだろうか。
 春明はよく注意して目を凝らすと、

「……えっ」

 金の箍が填められた小さな朱色の棒。

 届いてなかったはず、と。
 春明は目を丸くするも、たしかに桜下の手の中に収まっていた。

「伏せてっ」

 桜下は拳を緩め、ふっと金箍棒を宙に投げた。
 同時に春明は頭を抱え、身を丸くする。

 桜下の手から離れた金箍棒は地面に転がることはなく、弾けて伸びる、朱色の棒。

 そして、狙い通りに。
 桜下を捕まえる、蛾の太い指にぶち当たった。
 蛾にとっては、突き指程度の痛みと怯み。

 だが、緩んだ魔の手から抜け出した桜下には充分過ぎるほどの機会チャンス

 空中で落下しながら、定めた標準。
 冷徹に光る桜下の視線の延長線には、巨大な複眼かがみ
 金箍棒は再びマッチ棒並に縮小し、足の甲で掬い上げる。

「はい」

 涼やかな掛け声を合図に、放たれたあかい弾道。
 蹴り上げた棒は直進しながら、二メートルまで伸びていく。

 がしゃん、と。

 桜下の渾身の脚力から打ち出された弾丸は空気を切り裂き、蛾の片眼を打ち砕いた。

「……すげ」

 春明の視線は頭を抱えながらも、そっと上を見上げていた。

 無数に敷き詰められた一枚一枚のレンズが、天井窓から入った夕陽に照らされ、赤く散って光り輝く。

 さながら血飛沫のように。
 蟲はきぃきぃと、初めて痛みに声を上げている。

 その最中、桜下は大地に降り立ち、すかさず少年の元に走り出す。

「捕まって」

 丸くなった春明を抱え上げ、さらに速度を増す。

 がらがら、どしゃん。
 もはや、振り返るまでもない。

 彼らが走り去った背後では、墜落した蟲と、地面には大きな亀裂を残していた。

「なんで来たの」

 開口一番。

 桜下は壁際まで走り去り、ゆっくりと春明を下ろしながら問いただす。
 どこかふて腐れた子供のように睨む黒い眼を、春明は底まで見通す勢いで眼力を入れる。

観客おまえを置いて逃げるなんて、オレには出来ねぇ」
「……はぁ、春明君はこう言いそうだから大先生には見て貰っていたのに」

 桜下は視線をずらし、春明の腰から下がる舞面を見つめる。

「ダメじゃん」
「言っても聞かねぇよ、こういう馬鹿は。だから連れてきた」
「ふぅん……それで、こっそり私に糸付けて、辿ってきたわけ」

 背中に手を回すと、手には微かに纏わり付く質感が残っていた。
 繊細で、透明な蜘蛛の糸。
 桜下が舞台を去る間際に牡丹が貼り付けたものだ。
 付着した糸を桜下は軽く手で振り払い、もう一度視線を春明に向ける。

「春明君」

 彼の目線まで腰を落とし、同じ高さの位置から訴えた。

「私は大丈夫だから、早くここから離れて」
「……っ」

 とても澄んだ黒い眼に、少年は吸い込まれそうになってしまう。
 夜空を体現したような漆黒。
 つい先ほどまで蛾の複眼を打ち砕いた獰猛さを併せ持つとは思えない。

 青年の眼差しはあでやかで美しく、声は壊れそうなほど優しかった。

「んなわけねえだろ……」

 けれど、少年は屈しない。
 ボソリと漏れ出た声が導火線となり、彼の心を爆発させる。

「大丈夫なわけねぇだろ!?」

 すり減った革靴の底。
 土汚れだらけの白いワイシャツ。
 そして、少年が垣間見た桜下が蛾に捕食されそうな瞬間。

「オレがその棒届けなかったら、お前喰わてたじゃねぇか!」

 春明は桜下の耳に収まった金箍棒を指さして強く睨み付けた。
 少年の迫力に気圧された青年はゆっくり立ち上がり耳に手を添えている。
 痛いところを突かれた青年は表情が一転、不機嫌そうに小さなため息を漏らす。

金箍棒キンコを届けてくれたのはありがとう。けど、無かったら無いで……なんとかしてたよ」
って、何だよ! 抵抗も何もしてなかったじゃねぇか!」
「まあ、失礼。ちょっとは頑張っていたんだよ」
「もっと頑張れよ! 舞台が終わった後に、お前が喰われてたなんて知ったら、オレが泣くぞ!?」

 必死に説得する春明の言葉に、桜下は首を傾げた。

「……そうなの?」

 キョトンと、純粋な無垢な反応。

 不思議そうに目を丸くする桜下に、春明の眉間の皺がみるみるうちに増えていく。
 自分の勘定いのちに全く見向きもしない。

 儚くも危うい桜下の反応を目の当たりにし、少年はツバを吐く勢いで怒鳴り散らす。

「当たり前だ、このアホ! 自分を何だと思ってやがる!」

 怒りと嘆きが大ロビーに響き渡る。
 怒髪天が空気を震わせ、赤い焔の髪が乱れ舞う。

「……ったく」

 彼らのやりとりを、猿面の目の縁から一匹のハエトリ蜘蛛がのぞき見る。
 じっと見つめる小さな目の先には、宿り主である桜下の姿。

 所詮は虫の独り言。
 人間たちに気づかれることなく消え去ってしまう。
 しかし、全長二センチほどのちっぽけな感情は、十年たってもなお色あせることなくあり続けた。

「うん?」

 けれど、干渉に浸るほど彼らの時間はない。
 始めに気づいたのは、桜下だった。

 ゆっくり開いていく広大な翅。
 再び力を宿す、強靱な手脚。
 右側の複眼を潰されてもなお立ち上がる、屈強な精神。

「嘘だろ……」

 鋭い視線を向ける桜下に気がつき、春明も同じ方向を向く。
 そこには、大ロビーの中央で巨体を起き上げる蛾の姿があった。

「アイツ、どうやったら倒せるんだよ!?」
「……さぁ?」
「さあって、お前……」
「言ったでしょ? 正真正銘の化け物だって」

 蛾は無事な左側の複眼をぎらつかせ、桜下の姿を捕らえる。

「今のでもダメだっていうのかよ……」

 間近に迫る虫の恐怖に、少年はただ震え上がった。
 金箍棒による会心の一撃も、蛾を絶命させるには至れない。
 愕然とする春明の前を、桜下は守るように立ちふさがる。

「まあ、でも……倒せなくても、追い出すくらいなら、なんとか」
「えっ」

 桜下の言葉に春明の琥珀色の瞳が揺れる。
 それは、決してまだある策に希望を見いだしたからではなく、

「まだやり合うつもりかよ」

 未だ自分一人で立ち向かおうとする、桜下の恐怖心の無さに。
 自分の言葉が届いていないと、少年は強く唇を噛みしめた。

「春明君は、優しいね」

 項垂れる少年の様子を気にかけ、青年は後ろを振り向かず声のみかける。
 感謝と憐憫が入り交じった感覚に、桜下は溺れそうになってしまう。

「貴方だけでも逃げて」

 これが少年を逃す最後の機会。
 自身はともかく、他者を巻き込みたくはない。
 青年は切実な願いを口に漏らすと後ろを振り返る。

 そこには、腕を組み仁王立ちした春明の姿があった。

「ぜってぇ、嫌だ」
「えぇ……」
「えぇ……、じゃねぇ。こうなったらオレも意地だ」

 少年は鼻息を荒らし、困惑する桜下の顔にぐっと近づき睨み返す。

「お前から目を離さない。お前が逃げねぇって言うなら、オレもここに居続けてやる。もう逃げろなんて言わねぇ。けどな、さっきみたいに自分テメェの命をすぐに諦めたりすんじゃねぇ」

 夜の帳にも屈さない少年の意地。
 大火たいかをも思わせる焔の髪が、桜下の頬を掠めていく。

「それだけは、オレは許さない」
「そっか……」

 変わらない少年の気質に、桜下は深くため息を漏らす。
 自分が今ここで蛾に喰われたら、誰がこの少年を守るのだろうか。
 風で飛ばされないように支える重石のように、春明は仁王立ちする足に力を入れた。

「分かったなら、さっさとアレ追い払ってくれ! マジな話、虫ほんと無理だから!」
「うん、わかったわかった」

 腕には酷く鳥肌を立たせてもなお、堂々とする姿勢は崩さない。
 桜下は意地を張る春明に、安堵の笑みをこぼしながら、目の前の敵を見据える。

「じゃあ、行ってくる。蛾が怖ければ、私から目を逸らさないように」

 いいね? と桜下は問いかける。
 そこに無機物な人形の姿などいない。
 かと言え、頼もしい大人とも違う。

「お前は……」

 目の前の青年は、仄かに耳を赤くさせあどけなく笑う。
 まるで得意げに話す無邪気な子供のように、春明の目には映って見えた。
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