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第一章 黒瑪瑙の陰陽師
《零》
しおりを挟むとある新月の夜のことだった。
「明るい空では星は輝けるはずがない。私がどれだけ手を伸ばしたとしても、到底あの夜空には成り代われないだろう」
遠く彼方に鏤められた星に手をかざし、男は落ち着いた声色の中、どこか羨ましさを潜ませながら呟く。
何故それが羨ましいのか、私が幼いせいなのか見当も付かない。
私は少し行儀が悪いと思いながら、男と一緒に寝殿造の中庭に続く階段に腰をかけ、ただ言われるがまま夜空を眺めていた。
隣で一緒に座っている男は、目が見えない。
白い狩衣を身に纏い、目は細長い白い布で覆い隠している。
それでも、今夜が新月だと分かるのは長年の努力と才能の賜なのだろう。
男は白い布越しにじっと私を見つめる。
目は見えていないはずだけれど、私にはそう見えた。
「貴方は、貴方が成りたいと思うことを成しなさい」
私の頭にそっと手を置き、付けられた名称を呼ぶ。
男が至ることが出来ず、願いを込めて作られた名前。
星を輝かす為の夜空は、先の未来でも変わらず咲き続けていた。
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