上 下
17 / 20

激闘?フォルディスvsフォレストスパイター

しおりを挟む

「フォル、大丈夫かな?」
「大丈夫だろう。あいつは強い」
「でもこの巣のフォレストスパイダーってアシュリーも見たこと無いくらい大きいんでしょ?」
「この巣の大きさから推測するしかないが、今まで見たどの巣よりも大きいことは確かだな」
「だったらフォルでも危ないんじゃない?」

 アシュリーを軽々と放り投げたフォルディスの力は彼女も理解している。
 だが、実際の所他の強力な魔獣と比べてどれほどの力を持つのかはアシュリーにもはかりかねていた。
 なんせここに来るまでにフォルディスがアシュリーの目の前で倒してきた相手はアシュリーでも簡単に倒せる程度の魔獣と獣ばかりである。

「そうだな。急ごう」
「うん」

 ディアナの心配が移ったのか、急にフォルディスの事が心配になったアシュリーの速度が上がる。
 もしフォレストスパイダーが狩りを終え戻ってきて、さらに考えたくも無いがフォルディスが負けていたとしたら彼女たちにはもう逃げ場は無くなるのだ。

 やがて巣穴からの出口の光が彼女たちの視界に入る。

「出口だ!」

 外の様子を確認しようと速度を落としたアシュリーの横を、ディアナが走り抜ける。

「まて! 無防備に飛び出すんじゃ無い!」

 慌ててディアナの手を掴もうとアシュリーが手を伸ばす。
 が、その手は一瞬の差で届かない。

「フォルッ!!!」

 勢いよく飛び出したディアナの目が一瞬光に目がくらむ
 と、同時に彼女の耳にいつもの聞き慣れた、退屈そうな声が聞こえてくる。

「やっと帰ってきたかディアナ。我は暇すぎて眠ってしまう所だったぞ」
「フォル……」
「ディアナ! いきなり飛び出すなとあれほど……」

 フォレストスパイダーの巣から飛び出した二人は、その場の光景を見て唖然とし、口を開いたまま動けなかった。
 なぜなら――。

「それはまさか」

 アシュリーが震える指で指し示したのはフォルディスの足下。
 現在のフォルディスの大きさの倍はあるであろう大きな蜘蛛がその六つの脚を投げ出したような状態で倒れ込んでいたのだ。
 その複眼には既に光はなく、脚もピクリとも動いていない。

「ああ、これか? 突然襲いかかってきたからな。思わず倒してしまったが、かまわんだろう?」
「倒してしまったって。そいつこの巣穴の主だぞ」

 アシュリーのその言葉に、フォルディスは詰まらなそうに「それがどうした?」と答えて、ひょいっとフォレストスパイダーの背中から飛び降りて二人の方にやってくると、アシュリーの背負ったミューリに鼻を付けて臭いを嗅ぐような仕草をした。

「ふむ。ずいぶんと弱っているようだが生きてはいるな。おいディアナ」
「ひゃいっ!! あっ、フォル大丈夫だった?」
「何がだ」
「あんなおっきな蜘蛛相手にして、怪我とかしなかったのかなって」
「我があのような虫ころごときに後れを取るわけ無かろう。それよりも、その子供を回復してやれ」

 フォルディスはディアナにそれだけ告げると、その場に伏せてしまう。
 その適当な姿に少し文句を言うために口を開き書けたディアナだったが、アシュリーに肩を掴まれ言葉を飲み込んだ。

「えっ、何っ」
「お前、回復魔法も使えるのか!?」
「つ、使えるよ。光魔法が使えるんだからあたりまえでしょ」

 アシュリーの迫力にタジタジになりながらも、ディアナはあっけらかんとした口調でそれに答える。
 それを聞いたアシュリーは一瞬目を見開いた後、何かを諦めたように頭を振ると、ディアナを地面に寝かせているミューリの元まで引っ張っていく。

「お前の常識のなさを今はどうこう言っている場合じゃない。それより早くミューリに回復魔法を掛けてあげてくれ」
「わかった。任せて!」

 どんっと胸を強く叩いた後、強すぎたのか少し咳き込んでからディアナはミューリの横にしゃがみ込む。
 そして両手をミューリの体に向けるとゆっくりめを閉じ。

『ヒール』

 ディアナの両手のひらが光に包まれたかと思うと、その光がミューリの体を包み込むように広がって行く。
 やがてしばらくするとその光がゆっくりとミューリの体に吸い込まれるようにして消えると、フォレストスパイダーに掠われたときに付いたであろう傷がその体から消えていたのである。

「ふぅー。ちょっとがんばっちゃった」

 浮かんでもいない額の汗を拭う仕草をしながらディアナがそう言う。
 アシュリーはすっかり顔色の良くなったミューリの体を抱き起こす。
 すると。

「ミューリちゃん?」

 アシュリーの腕の中で、ゆっくりとミューリのまぶたが開いていく。
 今の自分の状況がよくわかっていないのか、ミューリはゆっくりと周りを見回し、アシュリーとディアナの顔に順番に目を向ける。
 そして最後に――

「ひいっ」

 フォルディスの姿を見て、きぜつしてしまったのであった。

「我の顔を見て気絶するとは失敬な子供だ」
「フォルが怖い顔をしてるのがわるいんだよ」
「我は昔からずっとこの顔だ。それよりもお前たち、その子供はそれでいいとして、まだ巣穴の中にとらわれてる者たちは救わなくて良いのか?」
「は?」

 フォレストスパイダーの巣穴の中には、ミューリの閉じ込められた繭以外にも何個もの繭がつり下がっていたのをアシュリーは思い出した。
 あの中にはまだ他にも人が捕まっているらしい。

「そうだった。おいディアナ、もう一度穴の中に行くぞ」
「えーっ、私ここで待ってちゃ駄目?」
「お前に光魔法を使って貰わないと真っ暗で何も見えんだろうが」
「松明使えば良いじゃん」
「五月蠅い! それに捕まってる人を助けたらその場で回復もしてもらわないとな」

 アシュリーはゆっくりと抱きかかえていたミューリを地面に横たえると、立ち上がってアシュリーの腕を掴んだ。
 そして。

「繭の中に魔獣もとらわれておるようだから気をつけてな」

 フォルディスのそんな人ごとのような呟きに顔を青ざめる二人なのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...