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魔獣の巣穴と光魔法
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「フォル。本当にこんなに村から離れた所にミューリくんがいるの?」
『ああ、間違いない』
「いくら山になれている子供といっても、こんな所まで土地勘があるとは思えないが」
ディアナたちはやっとスピードを落としたフォルディスの背中の上で周りを見渡す。
村から山の奥へフォルディスが飛び込んでしばし。
魔獣が目指したのは村からかなり離れ、沢を一つ飛び越した先であった。
そんな所まで小さな子供が一人でやってくるにはかなりの時間が必要になるはずだ。
「もしかしてこんな遠くまで来ないとエリキ茸がもう採れなくなってるってことなの?」
「かもしれないな。だが、それにしても遠すぎるとは思うが」
『多分お主らが言っていることは間違いだ』
「えっ」
フォルディスはさらに歩む速度を緩め周りの臭いを嗅ぎながら答える。
『この辺りにはエリキ茸の臭いはしない』
「じゃあどうしてミューリくんはこんな所まで……」
『簡単なこと。そのミューリとかいう坊主は魔獣の巣に連れて行かれたからだ』
「どういうことだ?」
『そやつは村の側で魔獣に襲われて餌として連れ去られたと言っておるのだ』
「ええっ、じゃあ早く助けてあげないと」
「それよりもミューリは無事なのか?」
フォルディスの言うように魔獣がミューリを襲って餌として連れ去ったなら、もう殺されていても不思議では無い。
いや、むしろ生きている可能性の方が少ないのではないか。
『坊主なら無事だろう。多少怪我をしているようだがそれほど出血もしていないし、臓腑をまき散らしたような臭いもしない』
「臓腑……」
フォルディスの言い方に顔を青ざめさせるディアナの横で、アシュリーは何か気がついた様子で口を開く」
「餌を殺さず巣まで連れ去る……もしかしたらその魔獣というのはフォレストスパイダーか?」
フォレストスパイダー。
森の奥深くに生息するという巨大な蜘蛛型の魔獣である。
個体数はそれほど多くないが、繁殖期になると自分より大きな獣や魔獣を自らの体から吐き出した糸を使って捕獲し、巣に持ち帰りその生体に直に卵を産み付けるという生態が確認されている。
ただ殆どのフォレストスパイダーは大きくても体長は一メルほどしかなく、人を襲う事はめったに無い。
『我には魔獣の名などはわからぬが、香りからして虫けらであることは間違いなさそうだな』
「虫けらか。お前にとってはそうかもしれないが、我らにとったら子供とはいえ人間の子供を襲って生け捕りにするほどの個体は強敵だぞ」
「そんなことより早く助けに行こうよ。もしアシュリーが言ったとおりだったら卵を産み付けられちゃうんでしょ?」
「そうだな。ただまだ生きているなら卵は産み付けられていないはずだ」
底まで話した所で、ゆっくりと歩みを進めていたフォルディスがその足を止める。
『あの穴の中に坊主がいる』
フォルディスの視線を二人が追うと、山肌にアシュリーの背丈より大きな穴がぽっかりと空いているのが見えた。
それがフォレストスパイダーの巣穴らしい。
「でかいな。私も今まで何体かフォレストスパイダーは倒してきたが、あれほどの大きい巣穴は初めて見る」
「ということはその蜘蛛さんってあれくらい大きいって事だよね」
『その虫けらは近くにはいないようだな』
「多分卵を産み付けたあと子供たちが生まれたら食べるための餌がまだそろってなくて狩りにいったのだろうな」
「つまり今がチャンスってこと?」
ディアナとアシュリーが顔を見合わせて頷き合う。
『お前たちはさっさと巣穴から坊主を連れ出してこい。我は前で見張っててやる』
「頼むぞ」
「怪我しないでね」
『誰に言っている。力は戻っていないとはいっても虫けらごときに後れは取らぬ』
心配げな表情で先に巣穴には行っていくアシュリーの後を追うディアナに、フォルディスは凶悪な口に笑いを浮かべて答えると穴に背を向け見張りを開始した。
「明かりを付けるぞ」
「うん」
巣穴の中に入ったアシュリーは、村人から受け取っていた松明に魔法で火を付ける。
「光魔法が使えればそちらの方が良いんだけどな」
「私使えるよ?」
「は? 今なんて?」
きょとんとした表情でとんでもないことを口走ったディアナに、アシュリーは思わず間の抜けた声をあげてしまう。
「だから光魔法なら使えるよ。えいっ」
ディアナの間の抜けたかけ声に合わせ、二人の間に光り輝く球体が突然現れた。
それを驚きの表情で見ているアシュリーに、ディアナは自慢げな顔で胸を張る。
「光魔法なんて高度な魔法をお前が? どうして?」
「フォルがね、旅に出た日に『お前は光魔法が使えるはずだ』って教えてくれたの」
「使えるはずだって……理由はあとでフォルから聞き出すとして、それだけで使えるようになったのか?」
「うん。といっても光を出す事しかまだできないんだけどね。夜とかに便利だよ」
アシュリーは松明の火を消しながら頭を押さえる。
「そんな力があるならどうして私と会った後にキャンプとかで使わなかった……あっ。お前夕飯を食べると直ぐ寝てたな」
「旅は疲れちゃうし、ディアナのご飯美味しいからつい食べ過ぎちゃって眠くなるんだよね」
料理が美味しいと言われ、少し嬉しくなったアシュリーだったが、今はそんなことを話している場合では無い事を思い出し、ディアナに「その光を前方に向けてくれ」と告げると巣穴の奥に向けて再び歩みを進める。
ディアナの光魔法のおかげでかなり明るくなった巣穴の中は思ったより深く、かなり奥まで進んだ所でやっとそれらしき場所にたどり着く。
円形にくりぬいたような形のその部屋には、アシュリーが手を伸ばしても届かないような高さに白い繭のような物が何個もぶら下がっているのが目に入った。
『ああ、間違いない』
「いくら山になれている子供といっても、こんな所まで土地勘があるとは思えないが」
ディアナたちはやっとスピードを落としたフォルディスの背中の上で周りを見渡す。
村から山の奥へフォルディスが飛び込んでしばし。
魔獣が目指したのは村からかなり離れ、沢を一つ飛び越した先であった。
そんな所まで小さな子供が一人でやってくるにはかなりの時間が必要になるはずだ。
「もしかしてこんな遠くまで来ないとエリキ茸がもう採れなくなってるってことなの?」
「かもしれないな。だが、それにしても遠すぎるとは思うが」
『多分お主らが言っていることは間違いだ』
「えっ」
フォルディスはさらに歩む速度を緩め周りの臭いを嗅ぎながら答える。
『この辺りにはエリキ茸の臭いはしない』
「じゃあどうしてミューリくんはこんな所まで……」
『簡単なこと。そのミューリとかいう坊主は魔獣の巣に連れて行かれたからだ』
「どういうことだ?」
『そやつは村の側で魔獣に襲われて餌として連れ去られたと言っておるのだ』
「ええっ、じゃあ早く助けてあげないと」
「それよりもミューリは無事なのか?」
フォルディスの言うように魔獣がミューリを襲って餌として連れ去ったなら、もう殺されていても不思議では無い。
いや、むしろ生きている可能性の方が少ないのではないか。
『坊主なら無事だろう。多少怪我をしているようだがそれほど出血もしていないし、臓腑をまき散らしたような臭いもしない』
「臓腑……」
フォルディスの言い方に顔を青ざめさせるディアナの横で、アシュリーは何か気がついた様子で口を開く」
「餌を殺さず巣まで連れ去る……もしかしたらその魔獣というのはフォレストスパイダーか?」
フォレストスパイダー。
森の奥深くに生息するという巨大な蜘蛛型の魔獣である。
個体数はそれほど多くないが、繁殖期になると自分より大きな獣や魔獣を自らの体から吐き出した糸を使って捕獲し、巣に持ち帰りその生体に直に卵を産み付けるという生態が確認されている。
ただ殆どのフォレストスパイダーは大きくても体長は一メルほどしかなく、人を襲う事はめったに無い。
『我には魔獣の名などはわからぬが、香りからして虫けらであることは間違いなさそうだな』
「虫けらか。お前にとってはそうかもしれないが、我らにとったら子供とはいえ人間の子供を襲って生け捕りにするほどの個体は強敵だぞ」
「そんなことより早く助けに行こうよ。もしアシュリーが言ったとおりだったら卵を産み付けられちゃうんでしょ?」
「そうだな。ただまだ生きているなら卵は産み付けられていないはずだ」
底まで話した所で、ゆっくりと歩みを進めていたフォルディスがその足を止める。
『あの穴の中に坊主がいる』
フォルディスの視線を二人が追うと、山肌にアシュリーの背丈より大きな穴がぽっかりと空いているのが見えた。
それがフォレストスパイダーの巣穴らしい。
「でかいな。私も今まで何体かフォレストスパイダーは倒してきたが、あれほどの大きい巣穴は初めて見る」
「ということはその蜘蛛さんってあれくらい大きいって事だよね」
『その虫けらは近くにはいないようだな』
「多分卵を産み付けたあと子供たちが生まれたら食べるための餌がまだそろってなくて狩りにいったのだろうな」
「つまり今がチャンスってこと?」
ディアナとアシュリーが顔を見合わせて頷き合う。
『お前たちはさっさと巣穴から坊主を連れ出してこい。我は前で見張っててやる』
「頼むぞ」
「怪我しないでね」
『誰に言っている。力は戻っていないとはいっても虫けらごときに後れは取らぬ』
心配げな表情で先に巣穴には行っていくアシュリーの後を追うディアナに、フォルディスは凶悪な口に笑いを浮かべて答えると穴に背を向け見張りを開始した。
「明かりを付けるぞ」
「うん」
巣穴の中に入ったアシュリーは、村人から受け取っていた松明に魔法で火を付ける。
「光魔法が使えればそちらの方が良いんだけどな」
「私使えるよ?」
「は? 今なんて?」
きょとんとした表情でとんでもないことを口走ったディアナに、アシュリーは思わず間の抜けた声をあげてしまう。
「だから光魔法なら使えるよ。えいっ」
ディアナの間の抜けたかけ声に合わせ、二人の間に光り輝く球体が突然現れた。
それを驚きの表情で見ているアシュリーに、ディアナは自慢げな顔で胸を張る。
「光魔法なんて高度な魔法をお前が? どうして?」
「フォルがね、旅に出た日に『お前は光魔法が使えるはずだ』って教えてくれたの」
「使えるはずだって……理由はあとでフォルから聞き出すとして、それだけで使えるようになったのか?」
「うん。といっても光を出す事しかまだできないんだけどね。夜とかに便利だよ」
アシュリーは松明の火を消しながら頭を押さえる。
「そんな力があるならどうして私と会った後にキャンプとかで使わなかった……あっ。お前夕飯を食べると直ぐ寝てたな」
「旅は疲れちゃうし、ディアナのご飯美味しいからつい食べ過ぎちゃって眠くなるんだよね」
料理が美味しいと言われ、少し嬉しくなったアシュリーだったが、今はそんなことを話している場合では無い事を思い出し、ディアナに「その光を前方に向けてくれ」と告げると巣穴の奥に向けて再び歩みを進める。
ディアナの光魔法のおかげでかなり明るくなった巣穴の中は思ったより深く、かなり奥まで進んだ所でやっとそれらしき場所にたどり着く。
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