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裏切られました
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「クレア。君との関係は今日限りだ」
その日、突然宮廷の裏庭に呼び出された私は、愛する人にそう告げられた。
彼の名はグリン・グラハム。
彼はこの国の第一王子で、私は男爵家の令嬢。
もし二人の関係が明らかになれば、身分差のせいで周囲から猛反対を受けるのはわかっていた禁断の恋。
裏庭で密会を続けて来たのも人の目を気にして始めたことだった。
だけど、王子は私のことを永遠に愛すると言ってくれたのだ。
「たとえこの国の全ての人たちを裏切ることになったとしても、僕は君を永遠に愛するよ」
「嬉しい……私も愛するわ」
奇しくも同じこの裏庭で愛を確かめ合ってからまだそれほど時は経っていない。
なのに彼はその永遠の愛を誓った同じ口で、私に別れを告げたのだ。
「そんな……私を永遠に愛すると言ってくれたあの言葉は嘘だったのですか」
「あの時は本心だったさ」
「では国を、全てを裏切ってでも愛すると言ってくれたのは」
「それも本気だった」
王子は真面目な顔でそう答える。
だけれどその瞳には得も言われぬ、私を見下す様な感情が浮かんでいて。
彼の言葉が全て嘘であったと、私はその時悟ったのです。
だけれど、それを信じたくない心が私の口を動かすと、未練たらしい言葉を紡ぐ。
「でしたらどうして」
「他に好きな娘が出来たんだ」
「そんな……」
「わかって欲しい。僕の心はもうあの子に――エリザベールに奪われてしまったんだ」
「エリザベール……。あの伯爵家のご令嬢ですか?」
「ああそうだ。明日正式に僕と彼女の婚約が発表される」
明日。
明日と言えば本来なら私と王子の婚約が正式に発表される日だったはず。
それが私ではなくエリザベールとの婚約発表になるなんて。
「だからもう君とは会うことは無いし、なによりこの宮廷に君が出入りできるのも今日までだ」
一介の辺境の男爵令嬢でしかない私が、頻繁に王族の住む宮廷に出入りできたのも王子の口添えがあったから。
それを失えば宮廷に許可無く入ることは出来なくなってしまう。
「……」
「君がこの庭を見ることが出来るのも今日が最後になるな。存分にその目に焼き付けてから帰ると良い」
茫然自失の私に王子はそう言うと「明日の準備があるのでこれで失礼する。短い間だったが楽しかったよ」と言い残し彼は付き人と共に裏庭を去って行く。
私は現実が認められないまま、その後ろ姿に手を伸ばしかけ――
「全部、嘘だったのですわね。私との関係はあの人にとってただの火遊びにしか過ぎなかった……そういうことなのでしょう?」
私は伸ばし掛けた手を引き戻すと、美しく整えた爪が手のひらに突き刺さり、血を流すほど強く拳を握りしめて怨嗟の言葉を紡いだのでした。
「私の心と体をもてあそんだ貴方の罪……私は絶対にゆるしませんわ」
その日、私を裏切らないと誓った王子に裏切られた私は、その王子が王となる戴冠式の日にこの国を裏切ることを決め、行動を開始したのでした。
その日、突然宮廷の裏庭に呼び出された私は、愛する人にそう告げられた。
彼の名はグリン・グラハム。
彼はこの国の第一王子で、私は男爵家の令嬢。
もし二人の関係が明らかになれば、身分差のせいで周囲から猛反対を受けるのはわかっていた禁断の恋。
裏庭で密会を続けて来たのも人の目を気にして始めたことだった。
だけど、王子は私のことを永遠に愛すると言ってくれたのだ。
「たとえこの国の全ての人たちを裏切ることになったとしても、僕は君を永遠に愛するよ」
「嬉しい……私も愛するわ」
奇しくも同じこの裏庭で愛を確かめ合ってからまだそれほど時は経っていない。
なのに彼はその永遠の愛を誓った同じ口で、私に別れを告げたのだ。
「そんな……私を永遠に愛すると言ってくれたあの言葉は嘘だったのですか」
「あの時は本心だったさ」
「では国を、全てを裏切ってでも愛すると言ってくれたのは」
「それも本気だった」
王子は真面目な顔でそう答える。
だけれどその瞳には得も言われぬ、私を見下す様な感情が浮かんでいて。
彼の言葉が全て嘘であったと、私はその時悟ったのです。
だけれど、それを信じたくない心が私の口を動かすと、未練たらしい言葉を紡ぐ。
「でしたらどうして」
「他に好きな娘が出来たんだ」
「そんな……」
「わかって欲しい。僕の心はもうあの子に――エリザベールに奪われてしまったんだ」
「エリザベール……。あの伯爵家のご令嬢ですか?」
「ああそうだ。明日正式に僕と彼女の婚約が発表される」
明日。
明日と言えば本来なら私と王子の婚約が正式に発表される日だったはず。
それが私ではなくエリザベールとの婚約発表になるなんて。
「だからもう君とは会うことは無いし、なによりこの宮廷に君が出入りできるのも今日までだ」
一介の辺境の男爵令嬢でしかない私が、頻繁に王族の住む宮廷に出入りできたのも王子の口添えがあったから。
それを失えば宮廷に許可無く入ることは出来なくなってしまう。
「……」
「君がこの庭を見ることが出来るのも今日が最後になるな。存分にその目に焼き付けてから帰ると良い」
茫然自失の私に王子はそう言うと「明日の準備があるのでこれで失礼する。短い間だったが楽しかったよ」と言い残し彼は付き人と共に裏庭を去って行く。
私は現実が認められないまま、その後ろ姿に手を伸ばしかけ――
「全部、嘘だったのですわね。私との関係はあの人にとってただの火遊びにしか過ぎなかった……そういうことなのでしょう?」
私は伸ばし掛けた手を引き戻すと、美しく整えた爪が手のひらに突き刺さり、血を流すほど強く拳を握りしめて怨嗟の言葉を紡いだのでした。
「私の心と体をもてあそんだ貴方の罪……私は絶対にゆるしませんわ」
その日、私を裏切らないと誓った王子に裏切られた私は、その王子が王となる戴冠式の日にこの国を裏切ることを決め、行動を開始したのでした。
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