無敵チートで悠々自適な異世界暮らし始めました

長尾 隆生

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第33話 再生怪人は何故弱いのか

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「悪くない」

 俺は子爵の机に両肘をついて指を組み意味深に呟いてみた。
 子爵たちは俺の指示に従ってすぐに動き出し、今はもう屋敷にはいない。

「黒幕になった気分だ」

 門の前で倒れていた私兵どもを叩き起こし、連れ去ったスラム住民たちの元へ向かわせるように仕向けた。
 そして問題が無さそうな者は丁重に元のスラム街へ戻し、治療が必要な者は街の医者へ子爵の指示で搬送する様にさせる。

 スラム街住民の治療を嫌がっている医者であっても子爵からの命令であれば従わざるをえまい。
 それに適当な治療をされることも無いだろうから安心だ。
 しかも治療費は子爵持ち。
 医者たちもおかしなことは出来まい。

「しっかし子爵、ずいぶん溜め込んでんなぁ」

 俺は子爵から見せて貰った裏帳簿を眺めながら呟く。
 そこに並んでいるのは見たことも無い様な0の数……ではなく、現実は色々な数字が並んでいる。

 この国の貨幣価値はマーシュのおかげで大まかに理解しているつもりだが、今の子爵の資産はざっと俺が売った魔石100個分くらい。
 豪邸が百戸建つ金額だった。

「これだけあれば後は悠々自適の生活が送れただろうに、そんなに王都に戻りたかったのかねぇ」

 ド平民な俺には理解出来ないが、貴族として王都貴族と地方貴族では何か大きな違いがあるのかも知れない。
 もしかすると定期的に王都で舞踏会みたいなのが開かれていて呼ばれて行くと。

「田舎者が来ましたザマスよ」
「あらやだ。田舎者臭が移りそうですわ」
「ご婦人方が困ってるではないか。お前の様な者は壁際にでも立っていてくれないか?」

 みたいな扱いを受けるとか?

 たしかにそんな扱いを毎回やられていたら、いつか返り咲いてやると思うのはわからないでも無い。
 その手段が間違っていただけで、もしちゃんと相談を貰っていれば……って俺がどうにか出来る話でもないか。

「それに今のは全部妄想だしな。そういや実際の所なんでそこまでして王都に戻りたいのか聞いてないや」

 後で聞いてみるか。
 そう考えながら俺は席を立つ。

 黒幕ごっこにも飽きた。

「こんな所にいられるか! 俺は出て行くぞ!」

 死亡フラグを口にしつつ執務室を出る。
 屋敷の中は誰も居ないせいでやけに静かだ。

「さて、いったん病院に帰ってマーシュたちに報告を――ん?」

 屋敷の玄関を軽い足取りで出ると、屋敷の門から誰かがこちらに歩いてくるのが見えた。
 何やら巨大な斧を担いだその姿には見覚えがある様な気がする。

「よぉ兄ちゃん。久しぶりだなぁ」

 男は俺から十メートルくらい離れた場所で立ち止まると、重そうに自分の体以上もある斧を道の上に降ろす。
 かなりの重さなのだろう。
 綺麗に敷き詰められていた石畳が、斧を中心にしてまくれ上がり歪んでしまった。

 職人技の舗装なのに酷いことをしやがる。

「えっと……どなたさんですか?」

 俺のその言葉に男の顔がゆでだこの様に真っ赤に変っていく。
 もしかして俺に惚れた?
 なんて訳はなく、多分一瞬で怒りが有頂天・・・・・・になったのだろう。

「てめぇ!! この俺様を忘れたとは言わせねぇぞっ!」
「忘れた」

 即答してやった。

 いや、実際はもう思い出しているのだが。
 反応があまりにわかりやすすぎて、ついつい弄りたくなってしまったのだ。

 そういうやついるよね。

 奴の名前は……あれ?
 そういや名前なんだっけ?

 聞いたような気がするけど忘れてしまった。
 だって森から出てすぐ一撃で眠らせたから会話らしい会話をしたのは今が初めてなのだ。
 顔を覚えていただけでも誉めて貰いたい。

 とりあえず斧男と呼ぶことにしよう。

「俺様は泣く子も黙るランド様だっ!! 土下座して許しを請うなら半殺しで許してやろうと思ったが……もう許さねぇ」
「ランド……ランドね。うん、覚えた。でも最初から許す気なんて無かったくせにぃ」
「その減らず口もすぐに塞いでやらぁ」

 ランドは歯を砕けんばかりにギリギリと鳴らしながら降ろしていた斧を片手で持ち上げた。
 なかなかの力だ。
 もしかするとこの街では一番の怪力だったのかも知れない。

 だが、今じゃあ二番目だ。
 と言いたいところだが、俺は別に怪力でもない。

 無敵補正のおかげで物理的な攻撃に対して反作用的な何かが起こるだけなのだ。
 たぶんそういう所も女神が適当な仕事をしたせいだと思う。

「あの時は卑怯な不意打ちを喰らったせいで頭を打って気絶しちまったが、あんなマグレは二度は続かねぇ」

 ぶんぶんぶん。

 頭の上で器用に巨大斧を回すランドに俺はヒヤヒヤしてしまう。
 もし手を滑らせたらどうなってしまうんだろう。

「おいおい、顔色が悪いな。まぁそれも仕方ねぇか」

 ランドは自慢げな表情で斧を回す速度を上げる。
 危なすぎる。

「この巨大斧『ヘルクラッシュ』をここまで自由自在に軽々と扱えるのは、世界広しといえども俺様だけだからなぁっ!!」

 ランドは笑い声を上げると、斧を回すのを止め切っ先を俺の方に向けて言った。

「いつもは一瞬で真っ二つにしてやるんだが、テメェはそんな楽には死なせねぇ」

 舌なめずりというのだろうか。
 ペロリと以外に長い舌で唇を舐めるランドの目には先ほどまでの怒りや憎しみは消えていた。

 その代わりに浮んでいたのは弱い得物をいたぶる時見せる表情で。

「まずは手首足首を切り落として次に肘と膝。それからぁ――」
「あ、俺急いでるんで早くして貰って良いっすか?」

 何やらエグいことを言い出したランドに、おれはかぶせる様にそう言った。
 早く医者に戻らないと、俺を待っているかもしれないパレアに夜更かしをさせてしまう。
 まだ8歳の子供だからたぶんもうかなり眠いはずだ。

「テメェ……今の状況がわかってねぇようだな。もしかして頭がおかし――」
「って訳だからスマンね」

 まだ長々と話が続きそうだったので、俺はその話を断ち切ってランドに無造作に近寄った。

「馬鹿がっ!」

 その体に向かって巨大斧が振るわれる。
 しかし。

「ヘルクラッシュとか名付けたのってお前? センスなくない?」

 ドゴッ。

 斧は俺の体に当たる直前に方向を変え地面に突き刺さった。
 俺が当たる寸前に斧の横っ腹を殴りつけたからである。

「は?」

 何が起こったのか理解出来ず、俺の顔を呆けた表情で見るランドに。

「ところでコレをどう思う?」
「……」
「わからせ棒2号くんっていう俺の新しい相棒さ。ヘルクラッシュなんかよりよっぽど良い名前だろ?」
「何を――ゴガァァツ」

 そう言うと同時に、わからせ棒2号くんがランドの顎を砕いた。
 ドラゴンを殴ったときよりはかなり手加減をしたから死ぬほどでは無いとは思うが、回復魔法で治るかどうかは俺の知るところでは無い。

「……なんかいろんなもの垂れ流してる……」

 綺麗に整えられた子爵家の庭に、汚いオブジェが追加されてしまった。
 後の掃除はマキエダがやるのだろうか。

「さて、変な邪魔が入ったけど急いで帰ろ。あ、そういえばウラニアとかも医者で待ってるんだったっけ。すっかり忘れてたわ」

 俺は汚いオブジェとなったランドのことなど忘れて屋敷の外へ向かう。
 子爵たちが全員連れて行ったおかげで兵士に邪魔されることも無い。

「えっと……あの医者、どこにあったっけ。まぁ、歩いてりゃわかるか」

 一瞬浮んだ不安も、無敵の心がかき消して。
 俺は夜の街へ駆け出して行くのだった。




**** 今日も即席あとがき ****
(感想であとがきを楽しみにしてたという意見をいただきましたので28話から復活させてみました。気になる読者様は少し遡って読んで下さいませ)


あれだけ強かったのに二回目出て来たら激弱ってのは特撮あるある。

ゲームだと逆に出てくる度に強くなっているパターンも多かったりしますよね。

逆に特撮とかアニメだと強敵が仲間になっても弱体化されたとかの理由が無い場合は強いままで、ゲームだとそんな理由も無いのに滅茶苦茶弱くなるのが当たり前というね。

ま、ランドは仲間になりませんし最初から激弱ですけど。

冥土の土産に教えてやる!
レモン1個に含まれるビタミンCは実はレモン果汁換算で4~6個分なんだぜ!!

1個20mgだけど皮とかに含まれてる分を入れると100~120mgらしいぞ。

冥土の渡し守にでも話してあげてくれ。

それじゃあさらば!

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