無敵チートで悠々自適な異世界暮らし始めました

長尾 隆生

文字の大きさ
上 下
31 / 35

第31話 冴えてる結界の破り方

しおりを挟む
「今、いったい何が……」

 やっと子爵の口が動いて出た最初の言葉がそれだった。

「俺がドラゴンを一撃で倒した。それだけのことだけど?」
「う、嘘だ。ありえない」
「それがあり得るんだな」

 俺はドラゴンを殴ったせいで粉々になってしまった『わからせ棒一号』の切れ端を大事に地面に置きながらそう答える。
 俺自身は無敵でも、さすがにドラゴンへの攻撃に彼は耐えられなかった。

「一号。君のことは忘れない」

 安らかに眠れ。
 そう祈りつつ立ち上がる。

「貴様は一体なんなんだ!」
「何だと言われても……何なんだろう?」

 はて。
 俺自身は俺のことを人間だと思っている。
 だけどよく考えるとこんな体の人間なんて存在しないんじゃなかろうか。

 だとすると神?

 いや、俺があんなアホな女神と同類とは思いたくない。

「バケモノめ!」

 そっか。
 俺はバケモノなのか。

 まぁ、たしかにドラゴンを殴り倒すことが出来るのはそれを超えるバケモノしかいないよな。
 なんだかしっくりいった。

「じゃあそれで」

 不思議とバケモノ呼ばわりされたというのに気にならない。
 これも無敵の心のせいだろうか。
 それともとっくに俺自身がその答えに行き着いていたのかも知れない。

「くそっ。お前は私を馬鹿にしてるのか!」

 何故だろう。
 子爵の言うとおりだと肯定してあげたというのに喜ぶどころか怒りだしてしまった。
 隣りに子供がいるのにみっともないったらありゃしない。

「別に馬鹿に何てしてないよ。だけど、そうだな」

 俺はちょっとだけ考えるそぶりを見せつつ。

「そのバケモノよりも子爵――アンタの方が何倍もバケモノみたいなことをしようとしてるってことは確かだな」

 俺の言葉にわかりやすく表情を歪ませるルブレド子爵には先ほどまで見せていた余裕は一切見られなかった。
 虎の子のドラゴンを一撃で倒されて、紳士然とした仮面を保てなくなったのだろう。

「それじゃあ今度は俺の番だな。すぐにそこに行くから待ってろ」
「ここに? 何を馬鹿なことを言っている」

 子爵が何か言ってるのを無視して俺は軽く肩を回す。
 そしてドラゴンとの戦いの前に閉まった扉の前に立つ。

「開くかな?」

 軽く扉を押そうと伸ばした手のひらが扉の手前で何かにぶつかった。
 どうやらこれが魔結界らしい。

「いくらお前があのドラゴンより強かろうと魔結界を破れる訳がな――」
「ふんっ」

 バキャッ。

 拳を見えない壁に叩き付けた途端。
 何かが砕け散る様な感覚と音がして。

「馬鹿な……ありえんっ。まさかあの商人に欠陥品を売りつけられたのかっ」

 どうやら自慢の魔結界が破壊されたことが信じられないのだろう。
 陰に成って見えないが、頭上から魔結界を売った商人に対する罵詈雑言が聞こえてくる。

 ちなみにマーシュは運搬役であって、売った商人では無い。
 なのに時折マーシュの名前が出てくるのは風評被害も甚だしい。

「まさか私が途中で積み荷を襲わせて支払いを拒否することを見越してっ。いや、その計画はランドが――」

 さて、焦ってとんでもないことを暴露している子爵から詳しい話は後で聞くとしてだ。
 俺がどうして魔結界を殴り壊せたのかを説明しよう。

「マーシュに相談しておいて良かった」

 服を燃やされマーシュに説教された後のことだ。
 俺は自分の身に起こったことを彼に説明したついでに「魔法を打ち消すにはどうしたら良いのか」について尋ねてみた。

 なんせあの時は迫り来る火の玉ファイヤーボールを殴って消そうとしたのに消せなかったせいで全裸になる羽目になったのだ。
 無敵とはいえ、俺の身につけているものは無敵では無い。
 なので次に同じようなこと画会った時に対処出来る方法があればと考えたのである。

「レジスト魔法か相反する魔法で相殺するかですかね」
「俺は魔法は使えないんだ」
「だったら魔法レジストの効果のある魔道具を身につけるとか。でも相手が強力な魔法使いだとレジストしきれませんが」
「他には?」
「他に……ですか? そうですね。魔法は基本的にそれより強い魔法をぶつければ消せるので、強い魔力を秘めた魔石でもあればそれでうけとめることで防げるとは思います。でもそんな勿体ないことは普通しませんけどね。魔石があるなら普通にレジスト用の魔道具に加工したほうが安全ですし」

 そう言って笑うマーシュの横で俺は大量の魔石が入った袋を手で触りながら思った。
 次に同じ米子とがあったらこの魔石を握って殴れば良いのか――と。

「効果は抜群だったな」

 なんせ今回握りしめていたのは魔瘴の森で俺が倒した中でも一番デカくて強そうだった『成獣になったレッドドラゴンの魔石』だったのだ。
 いくら子供ドラゴンの攻撃も防げる魔結界だとしても耐えられる訳が無い。

「パパっ、逃げようよっ」
「そ、そうだな」

 頭上から逃走しようとしている親子の声がする。
 いまさら逃げられる訳が無いのに。

「そろそろ子供たちも心配だし。さっさと後片付けしてスラムの皆を助けに行かなきゃな」

 俺はそう呟きながら目の前の扉を蹴り開けた。

「ギャッ」

 悲鳴の主は俺を案内してくれた執事のマキエダである。
 どうやら扉を閉めたのは彼の仕業だったようだ。

 離れには近づけないというのは嘘だったのか。
 そう思いながら意識を失っているらしい彼を放置してロビーに足を踏み入れる。

「ああっ。アイツがいるよっ」
「ん?」

 その声の主は二階席から急いで下りてきたジグスだった。
 後ろには子爵の姿も見える。

「秘密の脱出口とか作ってないのかよ」
「そんなものはこれから造るつもりだったのだよ」

 意外にも落ち着いた声で子爵が答える。
 その顔には全てを諦めた様な表情が張り付いていて、髪にも少し前まで無かった白髪が交じっている様に思えた。

「これだけは言っておくけど」
「なんだ?」
「俺は別にアンタを殺そうとかそういうことは考えてない」

 命も狙われたしスラム街の人々にも酷いことをしようとした。
 今まで彼に苦しめられてきた人も多いだろうことは理解している。

 だけどここで彼を殺してしまえば色々と面倒なことになるだろう。

 なんせ彼はこの国の貴族で、この街のトップである。
 そんな男が殺されたとなれば、例えそれが子爵自身が招いた結果だとしても問題になるだろう。
 最悪軍隊が送り込まれてこの街がぐちゃぐちゃになっても不思議では無い。

「だから話し合いをするために俺はここに来た」

 俺は子爵たちに歩み寄りながら自分が来た目的を話す。

「でもまぁ、話し合いって言っても俺の言うとおりにしないなら、その時は――わかってるよね?」

 子爵の真正面に立った俺は最後にそう付け加えると、満面の笑顔を作って見せたのだった。



***とりあえず急いで書いたあとがき***


ぎ、ぎりぎり間に合ったですわ。

前回のあとがきに書いた様に、お仕事の執筆に集中しててこっちが後れてしまいましたですわ。

とりあえず次回は『話し合い(脅迫)』ですわ。

スラム街の皆をたすけますですわよ。

魔石の使い方には色々あるのですわ。

最近「ですわ」が流行っていると聞いて連発してたら「ですわ」がゲシュタルト崩壊しそうですわ。

と言う訳で次回『アンリヴァルト死す! 希望の未来へレッツゴー!』をお楽しみに!

死なないけど。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

モブっと異世界転生

月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。 ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。 目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。 サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。 死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?! しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ! *誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...