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第27話 新しい相棒『わからせ棒一号くん』登場!

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 もうすぐ子爵の屋敷につく直前。
 俺は何人かの人が争う声を聴いて足を止めた。
 
「なんだ?」

 俺は走る速度を少し落としつつ騒ぎのもとを確かめる。

「これはいったいどういうことなんですか!」
「子爵に会わせろ!」
「約束が違うじゃないかっ」

 声からして数人の男女。
 それもかなり若いように思える。

「黙れゴミムシども!! 貴様らは素直にご子息様の護衛だけしていればいいんだ!」
「その任務はもう別の奴らがやってるよ」
「なんだお前ら。クビになったのか」

 嘲りを含んだ言葉を放ったのは子爵の屋敷の門兵だろう。
 先日来た時に聞いた覚えがある。

「だったらなおさら子爵に会わせるわけにはいかないな」

 俺は彼らに気づかれないように注意しつつ街灯の陰から蔭へ移りながら近づいていく。
 そして騒いでいる奴らの顔が確認できるまでに近づくと。

「あっ、あいつらは確か」

 騒いでいるのは冒険者のような身なりをした四人の少年少女たちで。
 その顔に俺は見覚えがあった。

「あのジグスとかいうおこちゃまと一緒にいた奴らじゃないか」

 魔性の森を出た後に不意打ちで俺を俺を……俺の大事な服を殺した奴らだ。
 購入してから享年数日。
 この街で初めて買った服にはそれなりに思い入れがあったというのに。

 それを彼奴らは無残にも……とかそんな冗談はおいといて。
 たしかさっきジグスの護衛はクビになったとか言ってたな。

 それってもしかしなくても俺を殺せなかったからなのだろうか。
 だったら悪いことをしたかな?
 いや、それは違うか。

「そりゃ今回は失敗したけど、あれは相手が悪すぎたからで」
「なんにしろお前らは既にジグス様の護衛の任は解かれて別の仕事に回されたんだろう? だったらその仕事を全うしてから文句を言うんだな」
「……そんなものねぇよ」
「は?」

 思いがけない答えだったのだろう。
 門兵が間の抜けた様な声を上げる。

 どうやらあの後彼らは情けなくも腰を抜かしたジグスを担いで街に戻った。
 しかし街に入った途端に『役立たずなんてもういらない! パパに言ってもっと強い奴隷に変えて貰うからお前たちは元のゴミ溜に帰ってしまえ!』と即刻クビを言い渡されたらしい。

 少年が悔しそうに話た内容を要約するとそんな事があったらしい。

「ん? スラムに帰れって……あいつらは元々スラムの住民だったのか?」

 俺は彼らの顔をもっとよく見ようと陰から身を乗りだす。
 その間も彼らの話は進み。

「ほほう。それじゃあもうお前たちは子爵様の私兵でもなんでもなくなったわけだな」

 尊大に胸を張って少年少女たちを見下す様に兵士が少年に尋ねる。

「そういうことだよ! もうあんなガキに奴隷みたいに扱われるのはごめんだったからスッキリしたぜ」
 
 そう答えたのは一番年長の少年だ。
 だがその横で少女が顔をしかめながら少年の服の裾を引っ張り叫ぶ。

「それじゃあ子爵様との約束が守れないじゃ無い!」
「約束ったって、もう破れらてるじゃないかっ!」

 その叫びに対して少年も強い口調で返す。
 どうやら彼らは子爵と何かしら約束を交してジグスの護衛……というか使いっ走りをやらされていたようだ。

「ふむ。ということは……おい詰め所から四、五人呼んできてくれ」
「はっ」

 少年たちと話をしていた門兵が、部下らしき男にそう命令した。
 そして命令を受けた部下が他の兵を四人ほど連れてくると、彼らに向けてこう言った。

「おいお前たち。スラムのゴミがここに四つも残っていたから回収しておけ」
「えっ」
「どういうことだよ!」

 一瞬で兵士たちに周りを囲まれて、少年少女たちはパニックに陥った。

「子爵様の命令でな。この街のゴミどもは街から追放することに決まったんだよ」
「ゴミって……まさかスラム街の皆を連れて行ったのって」
「そういうことだ。まぁ、街のやつらもおまえらのようなコソ泥には迷惑してたからスッキリするぜ」

 先ほど少年が言った言葉をそのままわざと返すように言う。
 そして続けて「すぐに追放はしねぇよ。ゴミの中でも使えそうなゴミは拾っておけとのご命令でな」と笑い。

「ただしお前らは拾われたのに『仕えねぇ』ゴミだったわけだからな。確実に追放だ」

 と言い放つ。

「なるほど。この子たちはスラムの子だったんだ。というともしかしてあれかな? もしかして君たちってサンテアたちのお姉さんお兄さん?」

 俺は少年少女の顔を見ようと彼らの前に回り込む。

「!!」
「だ、誰だ貴様っ」
「いつの間に」

 突然どこからともなく現れた俺にいきり立つ兵士たち。
 だけど俺は別にこっそりと近づいた訳じゃない。

「いや、別に普通に道を歩いてきただけだけど?」

 堂々と普通に物陰から出て歩いてきたってのに誰も気がつかなかっただけである。
 子爵ももう少し『使える』部下を雇うべきじゃないか。

「サンテアを知ってるのか!?」
「あなた、いったい何者なの」
「ご、ごめんなさいっ。もう襲ったりしませんから許してっ」
「……(気絶)」

 四者四様の反応を見つつ、俺はもう一度問い掛けようとしたのだが。

「危ないっ」

 ごいんっ。

 俺の後ろにいた兵士の一人が何かを俺の頭に向けて振り下ろしたらしい。
 痛くは無いが、口を開きかけていたせいで舌を噛んでしまったじゃないか。
 別にそっちも痛くは無いけど気分は悪い。

「人が話してる最中でしょうが」

 俺は頭の上に乗ったままの何かを握る。
 感触からすると警棒のようなものだろうか。
 さすがにいきなり剣で頭を真っ二つにしようとは思わなかったらしい。

 俺はその警棒を思いっきり引っ張って兵士から奪い取る。

「なっ……」
「おい、手加減しすぎだろ」
「いや、そこまで手加減はしてないぞ」
「全然効いてねぇみてぇじゃねぇか」

 兵士たちの間に動揺が広がっていく。

 彼女たちと話をする前にこいつらを黙らせておかないと面倒そうだ。
 先に殺っておくとするか。

「まぁ剣で襲ってきた訳じゃ無いから殺しまではしないけどさ。それでもしばらくはベッドの上で寝てるくらいは覚悟しておいてくれな」
「こいつ何を言ってるんだ」
「この数相手に勝てるとでも思ってるのか」
「どうやらこいつもスラム街のゴミみたいだな。半殺しにして牢にぶち込んでやる」

 五人の兵士はそれぞれ口々に叫びながら警棒を構える。
 俺に武器を奪われた兵士だけは素手で殴りかかってくるつもりなのかファイティングポーズだ。

「ってことはスラムから捨て去られた人たちは牢の中ってことなのね。情報ありがとうよ」

 素手で殴っても良いんだが、せっかく良い感じの棒を手に入れたからこれを使わせて貰おうとしよう。
 ついでに名前も付けてやろう。
 そうだな、こいつの名前は――

「わからせ棒くん一号。君は今日からわからせ棒一号くんだ」

 二号が出来るかどうかはわからないが、なんというか一号って響きって良いよね?

 俺は自分のネーミングセンスに満足すると兵士たちに向かって「それじゃあ早速『わからせ』てやりますかね」と戦いの開始を告げたのだった。



※今話にはあとがきはありません(なにしろ時間が無くってよぉ)
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