14 / 35
第14話 マジックバッグ
しおりを挟む
「まさか……」
先ほどのマーシュの興奮っぷりからかなりの高額なのはわかる。
だけどそれがこの世界でどれほどの価値があるのかはわからなかった。
「それもお忘れなのですか?」
「お忘れなのです」
街にたどり着くまでの馬車で俺は必死に自分の『設定』を考えた。
マーシュにはお忍びの任務を帯びた遠い国の騎士だと思われているようなので基本その路線でいくことにしたが、それでは余りに無知な理由までにはならない。
なので俺が考えた俺の現状はこうだ。
・遠い東の国から何かしら任務を帯びて船で旅だったものの船が嵐に襲われ沈没。
・魔瘴の森近くの海岸に流れ着いたものの頭を打ったらしく記憶が曖昧でふらふらと森へ迷い込んだ。
・流れ着いたときに全ての荷物や服を失っていたものの、体が戦い方を覚えていたおかげで森の外周部を彷徨いながらなんとか生きながらえる事が出来た。
・なんとか人里に出ようと彷徨っていたところでマーシュが襲われている音を聞いて助けに入った。
・結局記憶は戻らず、俺は色々なこの世界の常識を忘れて今に至る。
正直かなり穴がありまくる設定だが、記憶が曖昧なのは嘘では無いし服も荷物も何もないまま森に放り出されたのも本当だ。
マーシュも色々突っ込みたい部分はありそうだったが、俺が命の恩人だということと彼が勝手に思い込んだ『お忍びの騎士』という設定のおかげでここまでなんとか誤魔化して来れたわけである。
「えっとですね……どう説明すればいいのでしょうか」
マーシュは暫く悩んだ後「例えばですね」と切り出した。
「金貨100枚もあればこの街にある普通の民家なら一軒買うことが出来ると言えばわかりますか?」
「ということは552枚あれば豪邸が建てられる?」
「立てられますね。庭付きの立派なものが」
たしかにそれならマーシュが驚いていたのも理解できる。
つまりは俺は一瞬にしてそれなりの金持ちになってしまったということだ。
「ですからわたくしが半額も貰って良いのかとおたずねしたわけなんですが」
「うん、まぁそれはかまわないんだけどね」
マーシュには色々手間をかけてしまったし、もしかすると危ない橋を渡らせてしまったかも知れないという負い目もある。
なので彼に半額を渡すことに関しては文句も何もない。
むしろマーシュに迷惑をかけてしまったお詫びの意味が強い。
それにいざとなればまだ手元に幾つも同じような魔石を持っている。
なので現状俺は金には困っていない。
「それでこの小袋の中に二百枚くらい金貨が入ってるんですか?」
この国の金貨って小麦チョコくらいの大きさなのだろうか。
そんなことを考えながら片方の袋に手を伸ばす。
「もしかしてこれもご存じありませんか?」
「普通の麻袋じゃないんですか?」
「……なるほど、そうですが……わかりました。百聞は一見にしかずといいますし、実際に見て貰いましょうか」
マーシュはそう言うと俺が掴もうとしていた袋を持ち上げる。
そして馬車の中に置いてあった木のバケツを引っ張りだし二人の間に置く。
「見ててくださいね」
そう言ってマーシュがバケツの上で袋をひっくり返すと。
がらがらがらがら。
ちゃりんちゃりんちゃりんちゃりん。
「えええっ」
小さな袋の中から大量の金貨がバケツの中に降り注ぐ。
一つ一つの大きさは五百円玉くらいだろうか。
それがどんどんバケツを埋めていくのである。
しかもそれが入っていたのは小さな小袋で。
とてもでは無いがこの量が入るとは思えない。
「まさかこれって」
「この袋は見かけと違って中に背負い袋半分くらいの荷物が入るマジックバッグというものでして」
「マジックバッグ!! やっぱり有るんだ」
「ご存じでしたか?」
「あ……えっと、噂でですけど」
まさか前世で読んでいた漫画で見たなんて言えるはずもない。
「でもこういうマジックバッグって高いんじゃないですか?」
「この町のギルドだとちょうど金貨五枚でしたね。この辺りは材料になる魔獣素材がふんだんに出回っているおかげで中央よりも安く手に入るんですよ」
金貨五枚か。
家一軒が百枚と考えると五枚でもそれなりのお値段だと思うが。
それでもマジックバッグの利便性を考えればかなり安いのかもしれない。
この袋だと背負い袋半分くらいの容量だとマーシュは言っていたが、大きなマジックバックを買えば更に多くのものを入れておけるに違いない。
そのことをマーシュに聞いてみようと俺は口を開きかけた。
そのときだった。
りんごーん。
りんごーん。
どこからか鐘の音が聞こえた。
と同時にマーシュの顔に「しまった」といった表情が浮かぶ。
「どうかしたんですか?」
「ええ、さっきギルドで言われたことをすっかり忘れていました」
マーシュは応えながらバケツの中の金貨を袋に急いで詰めていく。
「もしかして俺に関係あります?」
「いえ……実はさきほど荷主様から荷物を早く届けるようにとギルドに連絡があったそうなのです」
そういえばマーシュはこの町に頼まれた荷物を届けに来る途中に襲われたって話だった。
俺は馬車の片隅に置かれた一メートル四方の箱らしきものに目を向ける。
それなりの広さがある馬車の中にぽつんと一つ。
いったい中に何が入っているのか気にはなるが。
「そういうわけでわたくしはすぐに執政官様の所に向かわねばなりません」
「執政官?」
「はい。ルブレド子爵というお方でして、この街を実質治めていらっしゃいます」
子爵ということは貴族なのだろう。
マーシュはその貴族からの依頼で荷物を運んできたわけだ。
「それでアンリ様はどうなさいますか?」
「俺ですか? そうですね。お金も入ったことだし、とりあえず宿を決めてから服でも買いに行こうかなとおもってます。いつまでもマーシュさんから借りっぱなしと言うわけにもいかないし」
今の俺の服装はマーシュからかりた洋服である。
マーシュは俺よりもよく言えばふくよかな体格なので、紐で腰を縛ってはあるものの合っているとは到底言えないものだった。
「それなら良い宿を知ってますので、そこまでお送りしますよ」
「助かります」
右も左もわからないこの街だ。
自分で適当な宿を探すより、マーシュに任せた方が色々安心だろう。
「それでは急いで準備しますね」
マーシュ俺の返事を聞くと慌ただしく馬車の外へ飛び出した。
そして馬と馬車を固定していた留め具を外すとそのまま御者台へ上ると。
「出発します」
そう言って馬車を出発させたのだった。
先ほどのマーシュの興奮っぷりからかなりの高額なのはわかる。
だけどそれがこの世界でどれほどの価値があるのかはわからなかった。
「それもお忘れなのですか?」
「お忘れなのです」
街にたどり着くまでの馬車で俺は必死に自分の『設定』を考えた。
マーシュにはお忍びの任務を帯びた遠い国の騎士だと思われているようなので基本その路線でいくことにしたが、それでは余りに無知な理由までにはならない。
なので俺が考えた俺の現状はこうだ。
・遠い東の国から何かしら任務を帯びて船で旅だったものの船が嵐に襲われ沈没。
・魔瘴の森近くの海岸に流れ着いたものの頭を打ったらしく記憶が曖昧でふらふらと森へ迷い込んだ。
・流れ着いたときに全ての荷物や服を失っていたものの、体が戦い方を覚えていたおかげで森の外周部を彷徨いながらなんとか生きながらえる事が出来た。
・なんとか人里に出ようと彷徨っていたところでマーシュが襲われている音を聞いて助けに入った。
・結局記憶は戻らず、俺は色々なこの世界の常識を忘れて今に至る。
正直かなり穴がありまくる設定だが、記憶が曖昧なのは嘘では無いし服も荷物も何もないまま森に放り出されたのも本当だ。
マーシュも色々突っ込みたい部分はありそうだったが、俺が命の恩人だということと彼が勝手に思い込んだ『お忍びの騎士』という設定のおかげでここまでなんとか誤魔化して来れたわけである。
「えっとですね……どう説明すればいいのでしょうか」
マーシュは暫く悩んだ後「例えばですね」と切り出した。
「金貨100枚もあればこの街にある普通の民家なら一軒買うことが出来ると言えばわかりますか?」
「ということは552枚あれば豪邸が建てられる?」
「立てられますね。庭付きの立派なものが」
たしかにそれならマーシュが驚いていたのも理解できる。
つまりは俺は一瞬にしてそれなりの金持ちになってしまったということだ。
「ですからわたくしが半額も貰って良いのかとおたずねしたわけなんですが」
「うん、まぁそれはかまわないんだけどね」
マーシュには色々手間をかけてしまったし、もしかすると危ない橋を渡らせてしまったかも知れないという負い目もある。
なので彼に半額を渡すことに関しては文句も何もない。
むしろマーシュに迷惑をかけてしまったお詫びの意味が強い。
それにいざとなればまだ手元に幾つも同じような魔石を持っている。
なので現状俺は金には困っていない。
「それでこの小袋の中に二百枚くらい金貨が入ってるんですか?」
この国の金貨って小麦チョコくらいの大きさなのだろうか。
そんなことを考えながら片方の袋に手を伸ばす。
「もしかしてこれもご存じありませんか?」
「普通の麻袋じゃないんですか?」
「……なるほど、そうですが……わかりました。百聞は一見にしかずといいますし、実際に見て貰いましょうか」
マーシュはそう言うと俺が掴もうとしていた袋を持ち上げる。
そして馬車の中に置いてあった木のバケツを引っ張りだし二人の間に置く。
「見ててくださいね」
そう言ってマーシュがバケツの上で袋をひっくり返すと。
がらがらがらがら。
ちゃりんちゃりんちゃりんちゃりん。
「えええっ」
小さな袋の中から大量の金貨がバケツの中に降り注ぐ。
一つ一つの大きさは五百円玉くらいだろうか。
それがどんどんバケツを埋めていくのである。
しかもそれが入っていたのは小さな小袋で。
とてもでは無いがこの量が入るとは思えない。
「まさかこれって」
「この袋は見かけと違って中に背負い袋半分くらいの荷物が入るマジックバッグというものでして」
「マジックバッグ!! やっぱり有るんだ」
「ご存じでしたか?」
「あ……えっと、噂でですけど」
まさか前世で読んでいた漫画で見たなんて言えるはずもない。
「でもこういうマジックバッグって高いんじゃないですか?」
「この町のギルドだとちょうど金貨五枚でしたね。この辺りは材料になる魔獣素材がふんだんに出回っているおかげで中央よりも安く手に入るんですよ」
金貨五枚か。
家一軒が百枚と考えると五枚でもそれなりのお値段だと思うが。
それでもマジックバッグの利便性を考えればかなり安いのかもしれない。
この袋だと背負い袋半分くらいの容量だとマーシュは言っていたが、大きなマジックバックを買えば更に多くのものを入れておけるに違いない。
そのことをマーシュに聞いてみようと俺は口を開きかけた。
そのときだった。
りんごーん。
りんごーん。
どこからか鐘の音が聞こえた。
と同時にマーシュの顔に「しまった」といった表情が浮かぶ。
「どうかしたんですか?」
「ええ、さっきギルドで言われたことをすっかり忘れていました」
マーシュは応えながらバケツの中の金貨を袋に急いで詰めていく。
「もしかして俺に関係あります?」
「いえ……実はさきほど荷主様から荷物を早く届けるようにとギルドに連絡があったそうなのです」
そういえばマーシュはこの町に頼まれた荷物を届けに来る途中に襲われたって話だった。
俺は馬車の片隅に置かれた一メートル四方の箱らしきものに目を向ける。
それなりの広さがある馬車の中にぽつんと一つ。
いったい中に何が入っているのか気にはなるが。
「そういうわけでわたくしはすぐに執政官様の所に向かわねばなりません」
「執政官?」
「はい。ルブレド子爵というお方でして、この街を実質治めていらっしゃいます」
子爵ということは貴族なのだろう。
マーシュはその貴族からの依頼で荷物を運んできたわけだ。
「それでアンリ様はどうなさいますか?」
「俺ですか? そうですね。お金も入ったことだし、とりあえず宿を決めてから服でも買いに行こうかなとおもってます。いつまでもマーシュさんから借りっぱなしと言うわけにもいかないし」
今の俺の服装はマーシュからかりた洋服である。
マーシュは俺よりもよく言えばふくよかな体格なので、紐で腰を縛ってはあるものの合っているとは到底言えないものだった。
「それなら良い宿を知ってますので、そこまでお送りしますよ」
「助かります」
右も左もわからないこの街だ。
自分で適当な宿を探すより、マーシュに任せた方が色々安心だろう。
「それでは急いで準備しますね」
マーシュ俺の返事を聞くと慌ただしく馬車の外へ飛び出した。
そして馬と馬車を固定していた留め具を外すとそのまま御者台へ上ると。
「出発します」
そう言って馬車を出発させたのだった。
2
お気に入りに追加
2,506
あなたにおすすめの小説

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。


加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ
犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。
僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。
僕の夢……どこいった?

最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる