無敵チートで悠々自適な異世界暮らし始めました

長尾 隆生

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第12話 新人冒険者に俺はなる!!

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 ばーん!

 西部劇のように勢いよくスイングドアを開いて、俺参上!

 などということもせず、俺はマーシュの後ろについてギルドの中に入った。
 というかそもそもギルドの入り口はスイングドアでもなんでもないどころか、営業時間中はつねに開けっぱなしになっているらしい。

「酒場とかは併設されてないんだ……」
「ギルドは基本的に仕事の斡旋と報酬の支払い、冒険者の管理と情報提供の場ですからね。酒場とか食事までは提供してないんですよ」

 俺の想像していた冒険者ギルドだと、中に酒場兼食堂が併設されていて、そこで真っ昼間から荒くれた冒険者たちがエールを飲んで騒いでいるはずだった。

 だけどどうだろう。
 ギルドの中には酒場どころか飲食できそうな場所すらなく。
 ここはどちらかというと役所のように感じる。

「冒険者ギルドは公的機関ですからね。正確に言えば冒険者ギルド組合という所が運営しているのですが」

 ますます役所感が高まった。
 なんだか異世界に来たのに微妙に世知辛さを感じる。

「えっと、冒険者新規受付はあちらですね」

 俺が微妙な表情でギルドの中を眺めているとマーシュが一番奥の小さなカウンターを指さす。
 どうやらそこが冒険者登録を受付けるカウンターらしい。

「本当に大丈夫なんですよね?」
「大丈夫だ。問題ない」

 別に本名がバレても問題ないのだから当たり前なんだが。

「そうですか。それなら良いのですが、もし何か問題になりそうならすぐに言ってくださいね。私がなんとか出来ることならなんとかしますので」
「そのときは頼みます」

 これから俺は異世界で冒険者になる。
 そのことに俺は心が浮き立つ。

 心配なんてみじんも無い。
 むしろスキップしながら受付に向かいたい気分だ。

「それじゃあ行って来ます」
「あ、もちろん私もついて行きますよ」

 すっかり一人で受付けに行く気でいたが、よく考えなくてもマーシュも付いてきてくれるのは当然だった。
 おれは少し恥ずかしさを感じながら二人で受付に向かう。

「……誰も居ないんだけど?」

 カウンターまで辿り着いたはいいが、そこに職員の姿は見当たらない。

「まぁ、新人なんて毎日やってくる訳じゃ無いですからね」

 マーシュは笑いながらカウンターの上に置いてあった小さなベルを取る。
 そしてそれを軽く振るとカランカランと思ったより涼しげな音が鳴った。

「こういうときはこうして呼び出すんですよ」
「ああ、なるほど。それでこんなベルが置いてあったんだ」

 十センチほどの小さなベルをマーシュから受け取る。
 こういうので店員を呼ぶ居酒屋とかあった気がする。
 そんなことを考えていると――

「お待たせしました」

 カウンターの向こう側にある扉が開いてギルド職員がやってきた。
 他のカウンターはオッサンばかりだったので、きっとオッサンが出てくると思ったら――おばさんだった。

「……おっさんよりマシか」
「何か言いました?」
「い、いえ」

 聞こえないように呟いたつもりだったのに。
 地獄耳ってやつだろうか。

 俺は誤魔化すように「冒険者登録をしに来たんですが」と慌てて言った。

「冒険者登録は初めてですか?」
「あ、はい。もちろん」

 初めてだから登録しに来るんだろうに。

 何を言ってるんだとこの時は思ったのだが。
 どうやら何らかの理由で冒険者を辞めた人がまた冒険者に戻るために再登録するということが結構あるらしい。

 たとえば結婚を機に引退したが離婚したので戻ってくるとか。
 別の職業に鞍替えしたはいいが失敗して、借金返済のためにとか。

「それじゃあこの書類に必要事項を記入してもらって。それが問題なければギルドカードに貴方の魔力紋を登録することになります」

 魔力紋というのは指紋のようなものらしい。
 人の魔力の形というのば微妙に違っていて同じものは二つと無い。
 なのでその形を登録することで本人確認に使えるようになるのだという。

「えっと……名前だけで良いんですか?」
「簡単でしょ?」

 マーシュが某絵描きのようなことを言うが。
 たしかにこれは本当に簡単だ。

「文字は書けますよね?」
「たぶん。読めるから書けると思う」

 ここに来て初めて気がついたのだが、俺はこの世界の文字が普通に読めている。
 あまりに普通に読めていたので考えたことも無かったのだが、たぶん女神の力のおかげだろう。

 目に見えている文字は前世のものとは違うのに意味は普通にわかってしまう。
 しかも自動的に前世の言葉に変換されているっぽい。

「問題は書けるかどうかだけど」

 俺は緊張しつつおばさんからペンを受け取る。
 インクは無いみたいだが、たぶんこのまま書けるのだろう。
 お尻の部分に小粒の魔石らしきものが埋まっている所を見ると魔導具なのかもしれない。

「名前はアンリヴァルト……っと」

 名前をつけて貰ったときにマーシュから綴りは教えて貰っていた。
 なのでここは問題なく書くことが出来た。

 しかし驚いたのは普通にカタカナを書く感覚で書けたことである。
 マーシュが地面に棒で書いてくれた文字はアルファベットもどきだたっというのに。

「それでは次にこちらの冒険者カードに血を一滴垂らしてもらえますか」

 おばさんは名前を書いた紙を確認すると一端奥の部屋に戻っていく。
 そしてすぐに何か手にして戻ってくるとそう言ってナイフと共に一枚のカードをカウンターに並べた。

「血?」
「それで魔力紋が登録されますので」

 カウンターに置かれたカードはクレジットカードをちょっと厚くしたようなもので、一見すると石で出来ているように見える。
 表面は白く、うっすらと何か紋様が浮かんでいるが魔力回路とかそんなものだろうか?

「このナイフで指先を切れば良いんですね? わかりました」

 俺はカウンターからナイフを取りあげると恐る恐る自分の指先へ近づけていく。
 自傷癖がある訳でもないのでナイフで自分を傷つけるなんて初めての経験だ。

「……」

 ゆっくりと近づく切っ先に俺の心臓が早鐘を打つ。
 無敵の心でも怖いものは怖い。

「いきますっ」

 それでも冒険者登録するためにはこの最大の試練をのりこえねばならない。
 俺は心を決めるとナイフの刃を指先に当て――

「あれっ」

 小さな傷を付けるためにナイフをスライドさせたのだが。

「……やべぇ……」

 その段階になってやっと気がついたのだ。
 俺が傷一つ付かない無敵の体だったということに。



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