10 / 35
第10話 ここはジモティの街です
しおりを挟む
※予約投稿をミスして7話が公開されてませんでした(>_<)
※公開し直しましたのでよろしくお願いします。(7~11話の頭に同じお詫び文をのせました。明日くらいに消します)
マーシュが上手く話を付けてくれたおかげで、特に怪しまれることもなく街の中に入ることが出来た。
ちなみに今の俺の服装はマーシュが持っていた服に着替えたおかげで見かけだけなら町人Aにまで進化している。
もう原始時代には戻りたくは無い。
「全裸からやっと文明人なれた気がするよ」
野盗どもはすでに兵士に渡され、報酬は後で街の冒険者ギルドに取りに行くらしい。
報酬は俺が思っているほど高くは無いらしいが、逃げた馬を新たに買っても十分お釣りが出るくらいは貰えるとか。
それと護衛の冒険者たちの遺体と遺品も兵士に預けた。
これから街の火葬場で荼毘に付され、遺品はギルドを通じて遺族がいれば遺族へ送られるそうだ。
そのことを伝えに来た中年兵士の顔は微妙に疲れた様な表情をしていて少し気になったが、夜勤明けなのかもしれない。
「おつかれさまです」
つい前世のノリでそんな言葉が口に出てしまった。
兵士は俺に小さく片手を上げて応えると「行って良いぞ」とだけ告げて馬車を離れていく。
「こちらも準備が出来ましたよ」
兵士を見送っていると、馬車に新しい馬を繋いでいたマーシュから声が掛かる。
野盗という曳き手を失った俺たちは、門の近くにあった馬屋で新たな馬を購入したのだ。
馬屋には十頭ほどの厳つい馬が並んでいて、なかなか圧巻で。
その姿はサラブレッドというよりはばんえい競馬でそりを引いている馬に近い。
テレビでしか見たことは無かったが、実際そんな馬を目の前にするとかなりビビる。
無敵の力が心を落ち着かせてくれなければ少しチビってしまっていたかもしれない。
この歳でそれは嫌すぎる。
「それでは街の中へ向かいますよ」
マーシュが手綱を引き馬が動き出す。
力強い馬に曳かれながらゆっくりと門から街の中へ入ると一揆に視界が開けた。
目に入る町並みはまさにファンタジー世界のそれで。
俺は思わず感嘆の声を上げてしまう。
「うわぁ……」
「ここがジモティの街です」
街の中を興味深げに見ている俺にマーシュがRPGのNPCみたいな言い方で街の名前を教えてくれた。
もう一度話しかけたらまた同じことを言ってくれたりして。
そんなあり得ないことを考えていると、マーシュが「ところでアンリ様」と前を向いたまま話しかけてきた。
「アンリ様はこれから何か予定はありますでしょうか?」
「予定ですか? そうですね……とりあえず魔石を売ってお金を作ってから宿を探そうと思ってますけど」
俺はそこまで口にしてから思い出した。
そうだ。
この世界で魔石は売れるものなのかどうかをマーシュに聞くのを忘れていた。
今俺の持っているものでお金になりそうなのは魔石とピョン吉だけである。
そして出来ればピョン吉は売りたくは無い。
何度も死線を共にくぐり抜けてきた仲なのだ。
戦友と言ってもいい。
まぁ、マーシュから価値を聞かされたときはちょっと気持ちがグラついたが。
それもあの時だけで今はピョン吉の寿命が尽きるまで面倒を見てやりたいと思っている。
だけどもし魔石が売り物にならないのなら――その時はしかたない。
背に腹は代えられん!
出来うるなら優しくて可愛い女の子に飼われるように祈ってやろう。
というわけで俺は恐る恐るマーシュに聞いてみる。
「えっと……魔石ってこの街で売れますかね?」
「魔石ですか? たぶん買い取りしている店はいくつかあると思いますが。何せ私もこの街に来るのはずいぶんと久しぶりでして」
意外にもマーシュはこの街の商人ではないらしい。
そういえば依頼されて荷物を運んでいるとしか聞いていなかった。
それにしてもよかった。
どうやらこの世界でも魔石は無価値では無かったらしい。
「宝石店とかですかね? ちなみにこんな魔石なんですけど」
そういいながら俺は腰に下げた袋から一つ魔石をつまみ出す。
すると――
「っっ!!!」
マーシュが突然驚いた表情を浮かべ、手綱を思いっきり引っ張った。
そのせいで馬車が急ブレーキしたように大きく揺れる。
もちろん馬車にブレーキなんてついてはいないが。
「あ、アンリ様っ。それをすぐに仕舞ってくださいっ」
「えっ? うん」
俺はマーシュに急かされる様に急いで魔石を袋にしまう。
そのあいだ彼はなにやら辺りをキョロキョロと見回して、そして大きく息を吐いた。
「俺、なにかやっちゃいけないことやっちゃいましたか?」
「良かった。誰にも見られてなかったみたいですね」
そう言いながら止まった馬車をもう一度動かすマーシュ。
動き出した馬車は先ほどまでのゆったりした動きでは無く、かなり速度が上がっていた。
「とはいえ早くここを離れて安全な場所まで行きましょう」
「安全って……街の中で危険なんてあるんですか?」
俺の言葉にマーシュは一瞬きょとんとした表情を浮かべる。
「当たり前じゃ無いですか。そんな高価な魔石を持ってるなんて知られたら大変なことになりますよ!」
「ええぇ……」
後で知ったのだが。どうやら俺が何気なく見せた魔石はとんでもなく高額で売れるものだったらしい。
例えるなら何億円もする宝石を街中で見せびらかした様なものだったとか。
「とりあえず安全な場所まで急ぎましょう」
戸惑う俺を余所にマーシュはそう言うと街の奥に向けて馬車の速度を更に一段上げたのだった。
※公開し直しましたのでよろしくお願いします。(7~11話の頭に同じお詫び文をのせました。明日くらいに消します)
マーシュが上手く話を付けてくれたおかげで、特に怪しまれることもなく街の中に入ることが出来た。
ちなみに今の俺の服装はマーシュが持っていた服に着替えたおかげで見かけだけなら町人Aにまで進化している。
もう原始時代には戻りたくは無い。
「全裸からやっと文明人なれた気がするよ」
野盗どもはすでに兵士に渡され、報酬は後で街の冒険者ギルドに取りに行くらしい。
報酬は俺が思っているほど高くは無いらしいが、逃げた馬を新たに買っても十分お釣りが出るくらいは貰えるとか。
それと護衛の冒険者たちの遺体と遺品も兵士に預けた。
これから街の火葬場で荼毘に付され、遺品はギルドを通じて遺族がいれば遺族へ送られるそうだ。
そのことを伝えに来た中年兵士の顔は微妙に疲れた様な表情をしていて少し気になったが、夜勤明けなのかもしれない。
「おつかれさまです」
つい前世のノリでそんな言葉が口に出てしまった。
兵士は俺に小さく片手を上げて応えると「行って良いぞ」とだけ告げて馬車を離れていく。
「こちらも準備が出来ましたよ」
兵士を見送っていると、馬車に新しい馬を繋いでいたマーシュから声が掛かる。
野盗という曳き手を失った俺たちは、門の近くにあった馬屋で新たな馬を購入したのだ。
馬屋には十頭ほどの厳つい馬が並んでいて、なかなか圧巻で。
その姿はサラブレッドというよりはばんえい競馬でそりを引いている馬に近い。
テレビでしか見たことは無かったが、実際そんな馬を目の前にするとかなりビビる。
無敵の力が心を落ち着かせてくれなければ少しチビってしまっていたかもしれない。
この歳でそれは嫌すぎる。
「それでは街の中へ向かいますよ」
マーシュが手綱を引き馬が動き出す。
力強い馬に曳かれながらゆっくりと門から街の中へ入ると一揆に視界が開けた。
目に入る町並みはまさにファンタジー世界のそれで。
俺は思わず感嘆の声を上げてしまう。
「うわぁ……」
「ここがジモティの街です」
街の中を興味深げに見ている俺にマーシュがRPGのNPCみたいな言い方で街の名前を教えてくれた。
もう一度話しかけたらまた同じことを言ってくれたりして。
そんなあり得ないことを考えていると、マーシュが「ところでアンリ様」と前を向いたまま話しかけてきた。
「アンリ様はこれから何か予定はありますでしょうか?」
「予定ですか? そうですね……とりあえず魔石を売ってお金を作ってから宿を探そうと思ってますけど」
俺はそこまで口にしてから思い出した。
そうだ。
この世界で魔石は売れるものなのかどうかをマーシュに聞くのを忘れていた。
今俺の持っているものでお金になりそうなのは魔石とピョン吉だけである。
そして出来ればピョン吉は売りたくは無い。
何度も死線を共にくぐり抜けてきた仲なのだ。
戦友と言ってもいい。
まぁ、マーシュから価値を聞かされたときはちょっと気持ちがグラついたが。
それもあの時だけで今はピョン吉の寿命が尽きるまで面倒を見てやりたいと思っている。
だけどもし魔石が売り物にならないのなら――その時はしかたない。
背に腹は代えられん!
出来うるなら優しくて可愛い女の子に飼われるように祈ってやろう。
というわけで俺は恐る恐るマーシュに聞いてみる。
「えっと……魔石ってこの街で売れますかね?」
「魔石ですか? たぶん買い取りしている店はいくつかあると思いますが。何せ私もこの街に来るのはずいぶんと久しぶりでして」
意外にもマーシュはこの街の商人ではないらしい。
そういえば依頼されて荷物を運んでいるとしか聞いていなかった。
それにしてもよかった。
どうやらこの世界でも魔石は無価値では無かったらしい。
「宝石店とかですかね? ちなみにこんな魔石なんですけど」
そういいながら俺は腰に下げた袋から一つ魔石をつまみ出す。
すると――
「っっ!!!」
マーシュが突然驚いた表情を浮かべ、手綱を思いっきり引っ張った。
そのせいで馬車が急ブレーキしたように大きく揺れる。
もちろん馬車にブレーキなんてついてはいないが。
「あ、アンリ様っ。それをすぐに仕舞ってくださいっ」
「えっ? うん」
俺はマーシュに急かされる様に急いで魔石を袋にしまう。
そのあいだ彼はなにやら辺りをキョロキョロと見回して、そして大きく息を吐いた。
「俺、なにかやっちゃいけないことやっちゃいましたか?」
「良かった。誰にも見られてなかったみたいですね」
そう言いながら止まった馬車をもう一度動かすマーシュ。
動き出した馬車は先ほどまでのゆったりした動きでは無く、かなり速度が上がっていた。
「とはいえ早くここを離れて安全な場所まで行きましょう」
「安全って……街の中で危険なんてあるんですか?」
俺の言葉にマーシュは一瞬きょとんとした表情を浮かべる。
「当たり前じゃ無いですか。そんな高価な魔石を持ってるなんて知られたら大変なことになりますよ!」
「ええぇ……」
後で知ったのだが。どうやら俺が何気なく見せた魔石はとんでもなく高額で売れるものだったらしい。
例えるなら何億円もする宝石を街中で見せびらかした様なものだったとか。
「とりあえず安全な場所まで急ぎましょう」
戸惑う俺を余所にマーシュはそう言うと街の奥に向けて馬車の速度を更に一段上げたのだった。
1
お気に入りに追加
2,506
あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる