無敵チートで悠々自適な異世界暮らし始めました

長尾 隆生

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第9話 カエルと街と門兵と

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※予約投稿をミスして7話が公開されてませんでした(>_<)
※公開し直しましたのでよろしくお願いします。(7~11話の頭に同じお詫び文をのせました。明日くらいに消します)
 


 街へ着くまでの間、時々野盗どもの尻を叩きつつマーシュにこの世界のことを色々聞くことが出来た。

 どうやら彼は俺が『記憶喪失のふりをしたお忍びの騎士』だと完全に勘違いしてくれた様で。
 たぶんこの世界で生まれ育った人間であれば聞かないであろう質問にもわかりやすく答えてくれた。

「色々教えていただいてありがとうございます」
「いえいえ。お役に立てて光栄ですアンリ様」

 すっかり俺たちは打ち解け合った結果、マーシュは俺のことをアンリと呼ぶ様になっていた。
 それは良いのだが。

「様は止めてくださいよ」
「これは商人としてのクセですので」

 どうしても様づけだけは止めてくれなくて。
 俺は終始こそばゆい思いをしながらも会話を楽しんでいた。

 なんといっても数ヶ月ぶりの会話だ。
 森を彷徨っている間は独り言かピョン吉に一方的に話しかけるくらいしか出来なかったわけで。

 そうそう、ピョン吉と言えばマーシュから驚くような話を聞かされた。
 ピョン吉こと光るカエルはこのあたりの森にしか住んでない貴重な魔物で、好事家の間ではかなりの高額で取引されているらしい。

 といっても俺の様に光源に使うためではなく、珍しいペットとして飼われるとか。
 たしかにピョン吉を常に光らせようとすると、餌や水をきちんと与えたりしなければならず結構面倒だ。

 この世界には魔力で光る魔道具もあるらしいので、普通の人たちはそちらを使うのが当たり前。
 いちいち魔物を飼ってまで光源にするような奴はいない。

「しかし驚きましたな。ライトフロッグを捕まえたとなるとかなり森の奥まで入られたのですか?」
「ちょっと道に迷ってしまって」
「本当によくご無事で。いくらアンリ様がお強くても魔瘴の森の奥に迷い込めば生きては帰れなかったでしょうからね」

 命を落とした冒険者の三人に悪いので口にはしないが。
 彼らの戦う音が聞こえていなければ俺は今もまだ森を彷徨っていたかもしれない。

「それでアンリ様はそのライトフロッグをどうなさるおつもりで?」
「どうとは?」
「もし売るつもりがあるのならわたくしのツテで高く買ってくれる売人を紹介させていただきますが」

 ピョン吉を売る……か。
 正直そんなこと考えてもいなかった。

 短い間だがピョン吉の能力にはかなり助けて貰ったし、一方的にとはいえ話し相手にもなってくれた。
 愛着もあるし出来れば手放したくは無い。
 だけど。

「もし売られたら、そのあとピョン吉はどうなるんですかね」
「そうですね。ライトフロッグを求める様な人はかなりの好事家ばかりですし人間よりも大事にされると思いますよ」
「うーん。とりあえず保留でいいですか?」
「もちろんです。そのライトフロッグはアンリ様のものですから。ただ……」

 このまま街の中に持って行くならライトフロッグを人前で出すのは止めた方が良い。
 マーシュはそう言うと目線を野盗たちに向けた。

 黙々と汗を流しながら馬車を曳く彼ら。
 人を殺し、商人の積み荷を奪うことになんら罪悪感すらない彼らの様な者が町中にもいるということだろうか。
 今の俺なら奇襲されても毒を盛られても死にはしないが注意はしておこう。

 そんなこんなで気がつくと道の先に高さ十メートルはありそうな街の外壁と大きな門が見えてきた。
 あれだけ頑丈そうな壁なら魔物や野盗が襲ってきても安心だろう。

 そんな壁から街の中に入るための門もかなり堅牢そうに見える。
 マーシュが言うにはこの町にはあのような大門が街の東西に一つずつあるらしい。

 俺たちが今向かっているのは東門だ。

 門の前にはすでに数台の馬車が駐まっていて、それぞれの馬車の周りには数人の兵士と馬車の護衛らしき人々が何やら話をしているのが見える。

「あれは何をしてるんですか?」
「荷物の検査とか通行証の確認ですね。っと、こっちに気がついたみたいです」

 こちらから見えると言うことはあちらからも見えると言うこと。
 気がついた兵士が何やら慌てた様に門の方へ向かっていく。
 そして暫くすると数人の仲間をひきつれて俺たちの馬車へ向かってやって来る。

「おい、お前ら止まれ」

 俺は野盗たちに繋がっていた蔦を曳いてそう命令すると奴らは足を止めその場にへなへなとへたり込んでしまった。

「話はわたくしがしますので、アンリ様はここで御者のふりをしていてください」
「御者のふりですか?」
「変に彼らにアンリ様の素性を探られたくはないでしょう?」

 俺は素直に頷くと馬車から降りて兵士たちの元へ向かうマーシュを黙って見送ったのだった。



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