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第6話 はじめての人助け
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森の中を彷徨い続けて、すでに四十日は過ぎただろうか。
いい加減そろそろ人に会いたい。
第一村人はいずこに……。
そんな思いに尻を叩かれる様に俺は夜も眠らず先に進む。
右手にはランタン代わりの光るカエルが入った籠をぶら下げひたすら進む。
「ちょっと暗くなってきたな」
手にした籠から漏れるひかりが少し弱くなった様に感じる。
仕方なく籠の隙間から指を突っ込みカエルの腹を突く。
『ゲコゲコ』
すると途端にカエルが発する光の量が増えて、足下を明るく照らし出した。
「もう少しで朝だから頑張ってくれよ」
そう言いながら途中で捕まえた変な虫をカエルに喰わせる。
この不思議なカエルを見つけたのは偶然だった。
日が落ちて寝床を探している時だった。
このカエルの群れが集まって眠っていることを知らずに、その中に足を踏み入れてしまったのである。
「あの時の足の感触は忘れらんねぇ」
ぐんにょりとした何かを踏んづけた感覚と同時に、一斉に周囲が眩しい光に包まれたのだ。
一体何が起こったのかわからず、へんな罠でも踏んでしまったのかと思ったが。
それが刺激を与えると光るという謎の性質を持ったカエルだと知った俺は、そのカエルを懐中電灯代わりにすることに思いついたのだった。
「四匹いたカエルくんもお前で最後だからな。大事にしないと」
カエルを即席で作った籠の中に四匹入れたまではよかったのだが。
どうやら光っている間はかなりの体力を消耗するらしいと気がついた頃には既に二匹が昇天。
慌てて餌と水をやってなんとか持ち直させようとしたのだが時既に遅し。
もう一匹もすぐに力尽き、最後に残ったのが今居るピョン吉だ。
「がんばれピョン吉」
『ゲコゲコ』
俺の励ましの言葉にピョン吉が軽快な鳴き声を上げる。
どうやら先ほど与えた餌が気に入った様だ。
「安心しろ。あと十匹くらいは捕まえてあるから、日が昇ったらまた喰わせてやるぞ」
『ゲコッ』
そんなピョン吉との会話――実際には独り言だが――を交しながら俺は先を急ぐ。
といってもこのまま進んだとして人里に出られるという確証は無い。
だけど止まっていてはいつまで経っても原始の生活からは抜け出せない以上進むしか無い。
「ワニ皮のリュックもそろそろ一杯になっちまう」
泉で意図せず倒してしまったワニ魔物の残してくれた遺産は、今や立派なワニ皮のリュックとなっていた。
その中には大量の魔石が詰まっていてかなり重い……はずだ。
実際、一度襲いかかってきた魔物を魔石入りのリュックで殴ったらかなりエグいことになったから間違いない。
「そろそろ日が明けてきたか……」
俺は一度足を止め周囲を見る。
森の中はいまだに暗い。
だがうっすらと光が差してきているようで。
「ピョン吉、ご苦労様」
俺は籠の中にピョン吉お気に入りの虫を二匹ほど放り込んでから、籠ごと袋に仕舞い込む。
こうしてやるとピョン吉は、餌を食べた後そのまま眠って光を放たなくなるのだ。
「おやすみピョン吉」
俺はその袋をリュックの横にぶら下げると、段々明るくなって来た森を歩き始めようとした。
「ん?」
その時だった。
俺の耳に久々に聞く人間らしき声が飛び込んできたのは。
「あっちの方か」
俺は声が聞こえてきたとおぼしき方向に駆け出した。
この地にやってきてやっと初めて人に会える。
そう焦る心に冷や水をかけるかの様に、はっきりと聞こえてきたそれは人と人が争う音だった。
「死ねぇっ!」
「ひぎゃああああっ」
「た、助けてくれぇ」
激しい剣戟の音が響く中、様々な悲鳴と怒声が飛び交う。
「お、おいっ! 貴様何者だっ」
「なんだこいつ。突然森の中から出て来やがったぞ」
そんな争いのまっただ中に俺は勢い余ってそのまま突入してしまった。
殺気立つ男たちの姿を見て俺は心底安心する。
「良かった……人間もちゃんといたんだ……」
四十日も森の中を彷徨っていたせいだろう。
俺の心の中に「もしかしてこの世界に人はいないのかも知れない」という不安が生まれていた。
だけど目の前に確実に人間がいる。
服装からして中世か近世あたりの文化レベルだと思うが、間違いなく人間だ。
そんな人間の足下には数人の死体が転がっていて、その知覚に馬車が一台止まっているのが目に入った。
どうやら今まさに馬車が野盗っぽい男たちに襲われている場面に飛び込んでしまったらしい。
「ど、どうする?」
「見られた以上生かして返すわけにもいかねぇ。こいつも殺せ」
状況確認をしていると、突然男が二人襲いかかってきた。
彼らの装備は鎧というには軽装な防具と帽子の様な兜。
片手に一メートルほどの長さの剣を持っている。
そして顔は覆面で隠されていて目元しか見えない。
「危ないなぁ」
俺は振り下ろされた二人の剣線を軽く躱すと少し距離を取る。
その程度の攻撃では、森の中で魔物と戦い続けていた俺に当てることは出来ない。
「なっ!?」
「避けただとっ!」
彼らにとって俺の動きは予想外だったのだろう。
突然現れたみすぼらしい格好の男が、二人がかりの攻撃を難なく避けたのである。
二人の男は慌てて後ろに下がった俺に向かって二撃目、三撃目を放つ。
だが当然当たるはずもない。
「まぁ、当たっても効かないんだけどね」
とはいえ剣が当たっても傷一つ追わない姿を人に見せるのはためらわれる。
魔物と違ってそんなことを知られたら噂にされて村八分な目に遭いそうだからだ。
記憶は曖昧だがそういう物語は山ほど読んだような気がする。
とりあえず自分の力はあまり見せない様にして襲われている人を助けよう。
どうやら馬車の中にはまだ人がいるようだし。
馬車の窓からこちらを見ているオッサンをちらりと見つつ俺は男たちを倒す順番を考える。
「ひぃふぅみぃ……六人か」
どうやら男たちはまず先に俺を殺すことに決めたようだ。
最初に攻撃を仕掛けてきた二人と共に俺をゆっくりと取り囲んでいく。
「手加減は覚えたつもりだけど、人間相手は初めてだから――」
俺の呟きに男たちが反応する。
「何をぶつくさ言ってやがる!」
「薄気味悪く笑いやがって! 頭がおかしいんじゃねぇのか?」
「足がすくんで動けねぇみたいだな」
どうやら俺をちょいと頭のおかしなヤツだとなめてくれているみたいだ。
それは好都合だと思ったとき。
「お前ら、何を遊んでやがる!!」
俺が出て来たのと反対側の森の中から巨体の男が現れて大声を上げた。
ひと目見てわかった。
この男こそ、野盗のリーダーであると。
一人だけ他より装備のグレードが高いだけでなく、まるでマンガの世界かのような巨大な斧を片手にぶら下げているその姿はまさに強者の風格と言えた。
「よし決めた」
「?」
俺はこちらにノッシノッシと歩いてくる男にむかって一気に距離を詰める。
驚いた男が慌てて斧を俺の脳天に振り下ろす。
「死ぬなよなっ」
が、それより先に俺の拳がヤツの鎧に守られた腹に届いた。
「がはぁっ!?」
体をくの字に曲げ、手にしていた斧と共に男は真正面の大木に向かって吹き飛び激突する。
同時に口から大量の血を吐き出し、男の巨体はずるずると地面に落ちていった。
手加減したとは言ってもまだ人間相手の加減はわからない。
もしかしたら殺してしまったかも知れないが相手も俺を殺そうとしたのだ。
それに既に馬車の護衛らしき人々は彼らの手で殺されている。
因果応報というやつだろう。
「……」
「……」
「……」
俺を囲んでいた男たちは一体何が起こったのかわからず一言も発しない。
「降参するなら今のうちだからな」
振り返って俺は男たちに向かって降伏する様に促した。
一人ぐらいはリーダーの敵だと襲いかかってくるかと思ったのだが――
「こ、降参します」
「死にたくない」
「こんな奴に敵う訳ねぇ」
野盗たちは全員武器をほっぽり出し白旗をあげたのだった。
いい加減そろそろ人に会いたい。
第一村人はいずこに……。
そんな思いに尻を叩かれる様に俺は夜も眠らず先に進む。
右手にはランタン代わりの光るカエルが入った籠をぶら下げひたすら進む。
「ちょっと暗くなってきたな」
手にした籠から漏れるひかりが少し弱くなった様に感じる。
仕方なく籠の隙間から指を突っ込みカエルの腹を突く。
『ゲコゲコ』
すると途端にカエルが発する光の量が増えて、足下を明るく照らし出した。
「もう少しで朝だから頑張ってくれよ」
そう言いながら途中で捕まえた変な虫をカエルに喰わせる。
この不思議なカエルを見つけたのは偶然だった。
日が落ちて寝床を探している時だった。
このカエルの群れが集まって眠っていることを知らずに、その中に足を踏み入れてしまったのである。
「あの時の足の感触は忘れらんねぇ」
ぐんにょりとした何かを踏んづけた感覚と同時に、一斉に周囲が眩しい光に包まれたのだ。
一体何が起こったのかわからず、へんな罠でも踏んでしまったのかと思ったが。
それが刺激を与えると光るという謎の性質を持ったカエルだと知った俺は、そのカエルを懐中電灯代わりにすることに思いついたのだった。
「四匹いたカエルくんもお前で最後だからな。大事にしないと」
カエルを即席で作った籠の中に四匹入れたまではよかったのだが。
どうやら光っている間はかなりの体力を消耗するらしいと気がついた頃には既に二匹が昇天。
慌てて餌と水をやってなんとか持ち直させようとしたのだが時既に遅し。
もう一匹もすぐに力尽き、最後に残ったのが今居るピョン吉だ。
「がんばれピョン吉」
『ゲコゲコ』
俺の励ましの言葉にピョン吉が軽快な鳴き声を上げる。
どうやら先ほど与えた餌が気に入った様だ。
「安心しろ。あと十匹くらいは捕まえてあるから、日が昇ったらまた喰わせてやるぞ」
『ゲコッ』
そんなピョン吉との会話――実際には独り言だが――を交しながら俺は先を急ぐ。
といってもこのまま進んだとして人里に出られるという確証は無い。
だけど止まっていてはいつまで経っても原始の生活からは抜け出せない以上進むしか無い。
「ワニ皮のリュックもそろそろ一杯になっちまう」
泉で意図せず倒してしまったワニ魔物の残してくれた遺産は、今や立派なワニ皮のリュックとなっていた。
その中には大量の魔石が詰まっていてかなり重い……はずだ。
実際、一度襲いかかってきた魔物を魔石入りのリュックで殴ったらかなりエグいことになったから間違いない。
「そろそろ日が明けてきたか……」
俺は一度足を止め周囲を見る。
森の中はいまだに暗い。
だがうっすらと光が差してきているようで。
「ピョン吉、ご苦労様」
俺は籠の中にピョン吉お気に入りの虫を二匹ほど放り込んでから、籠ごと袋に仕舞い込む。
こうしてやるとピョン吉は、餌を食べた後そのまま眠って光を放たなくなるのだ。
「おやすみピョン吉」
俺はその袋をリュックの横にぶら下げると、段々明るくなって来た森を歩き始めようとした。
「ん?」
その時だった。
俺の耳に久々に聞く人間らしき声が飛び込んできたのは。
「あっちの方か」
俺は声が聞こえてきたとおぼしき方向に駆け出した。
この地にやってきてやっと初めて人に会える。
そう焦る心に冷や水をかけるかの様に、はっきりと聞こえてきたそれは人と人が争う音だった。
「死ねぇっ!」
「ひぎゃああああっ」
「た、助けてくれぇ」
激しい剣戟の音が響く中、様々な悲鳴と怒声が飛び交う。
「お、おいっ! 貴様何者だっ」
「なんだこいつ。突然森の中から出て来やがったぞ」
そんな争いのまっただ中に俺は勢い余ってそのまま突入してしまった。
殺気立つ男たちの姿を見て俺は心底安心する。
「良かった……人間もちゃんといたんだ……」
四十日も森の中を彷徨っていたせいだろう。
俺の心の中に「もしかしてこの世界に人はいないのかも知れない」という不安が生まれていた。
だけど目の前に確実に人間がいる。
服装からして中世か近世あたりの文化レベルだと思うが、間違いなく人間だ。
そんな人間の足下には数人の死体が転がっていて、その知覚に馬車が一台止まっているのが目に入った。
どうやら今まさに馬車が野盗っぽい男たちに襲われている場面に飛び込んでしまったらしい。
「ど、どうする?」
「見られた以上生かして返すわけにもいかねぇ。こいつも殺せ」
状況確認をしていると、突然男が二人襲いかかってきた。
彼らの装備は鎧というには軽装な防具と帽子の様な兜。
片手に一メートルほどの長さの剣を持っている。
そして顔は覆面で隠されていて目元しか見えない。
「危ないなぁ」
俺は振り下ろされた二人の剣線を軽く躱すと少し距離を取る。
その程度の攻撃では、森の中で魔物と戦い続けていた俺に当てることは出来ない。
「なっ!?」
「避けただとっ!」
彼らにとって俺の動きは予想外だったのだろう。
突然現れたみすぼらしい格好の男が、二人がかりの攻撃を難なく避けたのである。
二人の男は慌てて後ろに下がった俺に向かって二撃目、三撃目を放つ。
だが当然当たるはずもない。
「まぁ、当たっても効かないんだけどね」
とはいえ剣が当たっても傷一つ追わない姿を人に見せるのはためらわれる。
魔物と違ってそんなことを知られたら噂にされて村八分な目に遭いそうだからだ。
記憶は曖昧だがそういう物語は山ほど読んだような気がする。
とりあえず自分の力はあまり見せない様にして襲われている人を助けよう。
どうやら馬車の中にはまだ人がいるようだし。
馬車の窓からこちらを見ているオッサンをちらりと見つつ俺は男たちを倒す順番を考える。
「ひぃふぅみぃ……六人か」
どうやら男たちはまず先に俺を殺すことに決めたようだ。
最初に攻撃を仕掛けてきた二人と共に俺をゆっくりと取り囲んでいく。
「手加減は覚えたつもりだけど、人間相手は初めてだから――」
俺の呟きに男たちが反応する。
「何をぶつくさ言ってやがる!」
「薄気味悪く笑いやがって! 頭がおかしいんじゃねぇのか?」
「足がすくんで動けねぇみたいだな」
どうやら俺をちょいと頭のおかしなヤツだとなめてくれているみたいだ。
それは好都合だと思ったとき。
「お前ら、何を遊んでやがる!!」
俺が出て来たのと反対側の森の中から巨体の男が現れて大声を上げた。
ひと目見てわかった。
この男こそ、野盗のリーダーであると。
一人だけ他より装備のグレードが高いだけでなく、まるでマンガの世界かのような巨大な斧を片手にぶら下げているその姿はまさに強者の風格と言えた。
「よし決めた」
「?」
俺はこちらにノッシノッシと歩いてくる男にむかって一気に距離を詰める。
驚いた男が慌てて斧を俺の脳天に振り下ろす。
「死ぬなよなっ」
が、それより先に俺の拳がヤツの鎧に守られた腹に届いた。
「がはぁっ!?」
体をくの字に曲げ、手にしていた斧と共に男は真正面の大木に向かって吹き飛び激突する。
同時に口から大量の血を吐き出し、男の巨体はずるずると地面に落ちていった。
手加減したとは言ってもまだ人間相手の加減はわからない。
もしかしたら殺してしまったかも知れないが相手も俺を殺そうとしたのだ。
それに既に馬車の護衛らしき人々は彼らの手で殺されている。
因果応報というやつだろう。
「……」
「……」
「……」
俺を囲んでいた男たちは一体何が起こったのかわからず一言も発しない。
「降参するなら今のうちだからな」
振り返って俺は男たちに向かって降伏する様に促した。
一人ぐらいはリーダーの敵だと襲いかかってくるかと思ったのだが――
「こ、降参します」
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