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第3話 異世界で見上げる夜空
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「これは魔石ってやつかな?」
トレントを撃退して暫く。
俺は降ろしていた腰を上げ、トレントの残骸へ近寄った。
驚いたことにトレントの体の中は空洞だったようで、ぽっかりと穴が開いていて。
その中を覗き込むと手のひらに載る程度の赤い宝石の様なものが外皮から延びた蔦に包まれる様に存在していたのである。
「貰っておくか」
俺は中に手を突っ込むと無造作に蔦を引きちぎって魔石を取り出す。
自分の体が無敵であると知らなければもう少し用心しただろう。
だけど今はもうその必要は無いことがわかった。
「これって街とかに持って行けば売れるんだよな?」
トレントが暴れたおかげで森の木々が倒された。
そのおかげで差し込んできた陽の光に魔石をかざす。
「綺麗というか禍々しい感じがするな」
外側は光を通して赤く見えるが、中央付近は光が通らないのか黒いままで。
それだけではなく、何か中でモヤモヤしたものが動いているように見える。
「ちょっと気持ち悪いけど捨てるのも勿体ないし……何か袋でもあればいいんだけど」
俺の自前の袋はぶらぶら揺れるだけで使えないしな。
などと全裸ギャグが頭に浮ぶが一人でそんなことを言っても寂しいだけだ。
「しかたない。何か袋の代わりになりそうなものを見つけるまでは手で持っていくしかないな」
トレントみたいな魔物がいるってことは、ここはどうやら『異世界』って所らしい。
通話が途中で切れてしまったので詳しく聞けなかったが、たぶんあの女神が管理している世界に俺は転生させられたと言うことなのだろう。
前世で転生ものの漫画とか読んでいて良かった。
おかげで色々これからやらなきゃならないこととかも想像出来る。
「しかしトレントか。さっき傷つけるまでは他の木と見分けがつかなかったんだよな」
見渡せば木、木、木。
木しか無い森の中で、他の木と全く区別がつかないトレントが紛れ込んでいるわけで。
「でも傷つけるまで襲ってこなかったってことは、思ったより凶暴じゃないのかも」
だとすると変に刺激さえしなければ大丈夫かもしれない。
ただそうなると目印を残して進むというのは難しくなる。
「いくら勝てるといってもあんなのに急に襲われるのはこりごりだしな」
しゃーない。
このまま真っ直ぐ歩いて行こう。
「たぶん近くに村とかあるんだろうし」
だとしても人里がある方向くらい教えておいて欲しかった。
あと服くらい用意しておいて欲しかった。
「村に着く前にせめて前だけは隠せる様に何か探さないと」
第一村人に変態扱いされて牢屋行きとか勘弁だぞ。
そんな事を考えながら俺は森の奥に向かって魔石を片手に歩き出す。
無敵なおかげで裸足でも怪我をしないのは助かった。
元の体だったら、すぐ足の裏が傷だらけになって歩くことも出来なくなっていただろう。
「足の裏の感覚が全く無くなってるわけじゃないけど、石を踏んでも痛くないんだよな」
もしかして靴が発明される前の人類とか、野生の動物の足はこんな感じなのかな。
そんなことを考えながら歩く。
歩く。
歩く。
「暗くなってきた気がする」
元々森の中はあまり光が差し込んでこない。
なので真っ暗ではないが常に薄暗かった。
だけどその薄暗さがどんどん闇に変っていくのはわかる。
「うーん、どうしよう。一旦ここらで休んだ方が良いのかな」
ずっと歩き詰めだったが疲労感はない。
たぶん無敵の体だからだろう。
それだけじゃなく空腹も喉の渇きも感じないのは、こういう状況では便利だ。
といっても食欲がないわけじゃない。
お腹は空いて無くても何かを食べたい飲みたいという気持ちは浮んでくるもの。
「ん?」
立ち止まって考えていると、耳に微かな水音が聞こえた様な気がした。
もしかして近くに川があるのだろうか。
「……あっちから聞こえる気がする」
じっと耳を欹てると、確かに水が流れる音がする。
もし川があるなら、その川沿いに下っていけば人里があるはずだ。
「行こう」
俺は水音の鳴る方へ駆け出す。
【無敵】のおかげで、足の下に何があっても怪我もしないし痛くないのはありがたい。
といっても足場は悪いし迫り来る木々を避けながらなのでそれほど速度は出ないが。
「あそこか」
既にかなり暗くなってはいるが、木々の間から森の切れ間が見えた。
俺はその方向へ更に速度を上げて走る。
耳に聞こえてくる水音がドンドン大きくなり、そして――
「ついたーっ!」
目の前に幅十メートルほどの川が現れた。
緩い流れが岩に当たり水音が響く。
「暗くてわかりにくいけど、汚くはなさそう」
俺は川辺に近づくと、魔石を一旦横に置いて両手で水を掬う。
手の中の水に、いつの間にか昇っていた月の光が反射して輝いていた。
「飲んでも大丈夫だよな?」
俺は両手に掬った水を飲んでみる。
ごくごくごく。
冷たい水が喉を通り過ぎていく感覚が心地よい。
「うまい! もう一杯」
誰も聞いていないというのについそんな言葉が口に出てしまう。
独り言が多くなったのはいつからだったろうか。
「っていうか本当に美味いな、この水」
思ったより美味しく感じて、俺は結局三度ほど水を掬っては飲みを繰り返してしまった。
あまり生水を飲み過ぎるのは良くないのはわかっていたはずなのに。
この森に来てから色々なことが起こったせいで、体じゃなく心が渇いていたのかもしれない。
「今日はここで寝るか」
森の中と違い、川辺には柔らかな草が生えた場所がある。
俺はそこまで行くとゆっくりと横になった。
「この草、ふかふかで気持ちいいな」
見上げれば綺麗な星空と明るい月。
だけどその星の並びはやはり見たことが無いもので。
「本当に異世界に来ちゃったんだなぁ」
そして俺は水音を子守歌にゆっくりと目を閉じたのだった。
トレントを撃退して暫く。
俺は降ろしていた腰を上げ、トレントの残骸へ近寄った。
驚いたことにトレントの体の中は空洞だったようで、ぽっかりと穴が開いていて。
その中を覗き込むと手のひらに載る程度の赤い宝石の様なものが外皮から延びた蔦に包まれる様に存在していたのである。
「貰っておくか」
俺は中に手を突っ込むと無造作に蔦を引きちぎって魔石を取り出す。
自分の体が無敵であると知らなければもう少し用心しただろう。
だけど今はもうその必要は無いことがわかった。
「これって街とかに持って行けば売れるんだよな?」
トレントが暴れたおかげで森の木々が倒された。
そのおかげで差し込んできた陽の光に魔石をかざす。
「綺麗というか禍々しい感じがするな」
外側は光を通して赤く見えるが、中央付近は光が通らないのか黒いままで。
それだけではなく、何か中でモヤモヤしたものが動いているように見える。
「ちょっと気持ち悪いけど捨てるのも勿体ないし……何か袋でもあればいいんだけど」
俺の自前の袋はぶらぶら揺れるだけで使えないしな。
などと全裸ギャグが頭に浮ぶが一人でそんなことを言っても寂しいだけだ。
「しかたない。何か袋の代わりになりそうなものを見つけるまでは手で持っていくしかないな」
トレントみたいな魔物がいるってことは、ここはどうやら『異世界』って所らしい。
通話が途中で切れてしまったので詳しく聞けなかったが、たぶんあの女神が管理している世界に俺は転生させられたと言うことなのだろう。
前世で転生ものの漫画とか読んでいて良かった。
おかげで色々これからやらなきゃならないこととかも想像出来る。
「しかしトレントか。さっき傷つけるまでは他の木と見分けがつかなかったんだよな」
見渡せば木、木、木。
木しか無い森の中で、他の木と全く区別がつかないトレントが紛れ込んでいるわけで。
「でも傷つけるまで襲ってこなかったってことは、思ったより凶暴じゃないのかも」
だとすると変に刺激さえしなければ大丈夫かもしれない。
ただそうなると目印を残して進むというのは難しくなる。
「いくら勝てるといってもあんなのに急に襲われるのはこりごりだしな」
しゃーない。
このまま真っ直ぐ歩いて行こう。
「たぶん近くに村とかあるんだろうし」
だとしても人里がある方向くらい教えておいて欲しかった。
あと服くらい用意しておいて欲しかった。
「村に着く前にせめて前だけは隠せる様に何か探さないと」
第一村人に変態扱いされて牢屋行きとか勘弁だぞ。
そんな事を考えながら俺は森の奥に向かって魔石を片手に歩き出す。
無敵なおかげで裸足でも怪我をしないのは助かった。
元の体だったら、すぐ足の裏が傷だらけになって歩くことも出来なくなっていただろう。
「足の裏の感覚が全く無くなってるわけじゃないけど、石を踏んでも痛くないんだよな」
もしかして靴が発明される前の人類とか、野生の動物の足はこんな感じなのかな。
そんなことを考えながら歩く。
歩く。
歩く。
「暗くなってきた気がする」
元々森の中はあまり光が差し込んでこない。
なので真っ暗ではないが常に薄暗かった。
だけどその薄暗さがどんどん闇に変っていくのはわかる。
「うーん、どうしよう。一旦ここらで休んだ方が良いのかな」
ずっと歩き詰めだったが疲労感はない。
たぶん無敵の体だからだろう。
それだけじゃなく空腹も喉の渇きも感じないのは、こういう状況では便利だ。
といっても食欲がないわけじゃない。
お腹は空いて無くても何かを食べたい飲みたいという気持ちは浮んでくるもの。
「ん?」
立ち止まって考えていると、耳に微かな水音が聞こえた様な気がした。
もしかして近くに川があるのだろうか。
「……あっちから聞こえる気がする」
じっと耳を欹てると、確かに水が流れる音がする。
もし川があるなら、その川沿いに下っていけば人里があるはずだ。
「行こう」
俺は水音の鳴る方へ駆け出す。
【無敵】のおかげで、足の下に何があっても怪我もしないし痛くないのはありがたい。
といっても足場は悪いし迫り来る木々を避けながらなのでそれほど速度は出ないが。
「あそこか」
既にかなり暗くなってはいるが、木々の間から森の切れ間が見えた。
俺はその方向へ更に速度を上げて走る。
耳に聞こえてくる水音がドンドン大きくなり、そして――
「ついたーっ!」
目の前に幅十メートルほどの川が現れた。
緩い流れが岩に当たり水音が響く。
「暗くてわかりにくいけど、汚くはなさそう」
俺は川辺に近づくと、魔石を一旦横に置いて両手で水を掬う。
手の中の水に、いつの間にか昇っていた月の光が反射して輝いていた。
「飲んでも大丈夫だよな?」
俺は両手に掬った水を飲んでみる。
ごくごくごく。
冷たい水が喉を通り過ぎていく感覚が心地よい。
「うまい! もう一杯」
誰も聞いていないというのについそんな言葉が口に出てしまう。
独り言が多くなったのはいつからだったろうか。
「っていうか本当に美味いな、この水」
思ったより美味しく感じて、俺は結局三度ほど水を掬っては飲みを繰り返してしまった。
あまり生水を飲み過ぎるのは良くないのはわかっていたはずなのに。
この森に来てから色々なことが起こったせいで、体じゃなく心が渇いていたのかもしれない。
「今日はここで寝るか」
森の中と違い、川辺には柔らかな草が生えた場所がある。
俺はそこまで行くとゆっくりと横になった。
「この草、ふかふかで気持ちいいな」
見上げれば綺麗な星空と明るい月。
だけどその星の並びはやはり見たことが無いもので。
「本当に異世界に来ちゃったんだなぁ」
そして俺は水音を子守歌にゆっくりと目を閉じたのだった。
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