無敵チートで悠々自適な異世界暮らし始めました

長尾 隆生

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第2話 無敵な初勝利

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「電話かよっ! しかも据え置き電話かよっ!」

 思わずツッコミを入れてしまったが、その声は誰もいない薄暗い森の中に木霊するばかりで。

「と、とにかく何か着るもの……って、こんな所にあるわけ無いか」

 自称女神との意味不明な会話の間は気が紛れていたが、それが終わると途端に不安が心に浮んできた。
 と思ったのだが。

「あれ? そんなに不安じゃないぞ」

 もしかして。

「さっき女神様が『心も体も無敵に』とか言ってた気がするけど、そのせいか」

 心が無敵になるという言葉の意味はよくわからないけど、たぶん不安とか恐怖みたいな一般的に負の感情と呼ばれる様なものを抑制出来るということなのかも。

 薄暗い森の中。
 たった一人全裸でいるというのに、それほど恐怖心を感じなかったのもそのせいか。

「ありがたいっちゃぁありがたいけど……」

 それでもやっぱり全裸は辛い。
 精神的にと言うより感覚的にだ。

「どこかに大きな葉っぱとか無いだろうか」

 上を見上げるが、このあたりの木々はどちらかというと針葉樹のようで、望みに叶う様なものは見当たらない。
 かといって地面に落ちている訳もない。

「とりあえずまずは森から出るのが先決だな」

 俺はそう決心すると森の中を適当に進むことにした。

「一応目印は付けていくか」

 さっき女神様が突き刺してみればと言った石を手に取る。
 そして一番近くにあった木へ近寄って、その尖った石で幹に傷を付け――

『グギャアアアアアオオオゥ』
「うわっ」

 突然傷つけた木が雄叫びを上げ、その枝で俺の体をなぎ払って来た。

 予想外のことに、俺は無防備なまま受け身も取れずにそのまま別の木に体を思いっきり打ち付けられてしまう。

 その衝撃は、俺の体ごとぶつかった木をへし折る様な勢いで。
 体に激しい衝撃を感じ、俺は死を覚悟した。

 だが。

「痛――くない?」

 辺りに散らばる落ち葉や枯れ木、頭の上から降り注ぐ葉の中、俺は呆然と折れた木にもたれかかっていた。
 あれだけ激しく殴られて叩き付けられたというのに、衝撃を感じただけで体のどこからも痛みが伝わってこない。

「もしかしてコレが……」
『グギャアアア』

 俺が体中をペタペタと触って、怪我や痛みもないことを確認していると、さっき俺を攻撃した木のバケモノが地面から根っこを引き抜こうとし始めた。
 もしかして歩けるのだろうか。

 いつの間にかただの木だったはずのそれは太さも増し、枝が丸太の様に変化している。
 さらに何倍にも膨らんだ幹には鈍く金色に光る瞳と大きな口が開いていて。
 完全にその正体を現していた。

「たしかああいう木の魔物ってトレントって言うんだっけか」

 心の無敵は発動したのだろう。
 いきなり衝撃的なことが起こったというのに変に冷静になってそんな事を考えた。

「どうする? 逃げるか? 戦うか?」

 本当に俺が【無敵】なのだとしたら、トレント相手でも十分に勝ち目はあるはずだ。
 それに攻撃して、もしそれが通じなくてもヤツの攻撃も俺には通じない。

「これからここで生きて行くなら逃げるわけにはいかないよな」

 おれはゆっくりと立ち上がると、根を引き抜き枝を激しく振りながら向かってくるトレントを睨み付ける。
 そして左前の構えを取って右手を引く。

「武術の心得とか無いけど、まぁなんとかなるだろ」

 ゲームやアニメのシーンを思い浮かべながら俺はトレントの動きに集中する。
 トレントはそんな俺の構えなどお構いなしに無警戒に近寄ると、その枝を鞭の様にしならせ俺に叩き付けた。

 びゅんっ。

 風切り音と共に振り下ろされるソレは、さっき俺を遠くまで叩き飛ばしたものより早く強力なはずだった。
 しかし意識を集中し、無敵モードとなった俺にはそれがまるでスローモーションの様に見え。

「ここかっ」

 振り下ろされた枝に向かって左腕を振るう。

 ゴッ。

 俺の腕とトレントの太い枝がぶつかる鈍い音。
 だが今度の俺は吹き飛ばされることはなかった。

 僅かに足下が沈み込む様な感覚に続いて、目の前まで迫っていたトレントの枝が、俺の腕が当たった部分から真っ二つに折れて弾け飛んでいく。

「っ!」

 そして左へ腕を振った勢いを利用して、腰に構えた右手を無防備なトレントの顔面に突き刺す様に放った。

 拳に伝わってくる衝撃は一瞬。
 気がつけば俺の拳が突き刺さった場所を中心にトレントの体がまぷたつに引き裂かれ、上半身はさっきの俺のように別の木に叩き付けられていた。

「やった……勝ったんだ……」

 俺は目の前で倒れていくトレントの下半身を見ながら、その場にへなへなと座り込む。
 いくら無敵の心と体を貰ったと言っても、いままで人と殴り合うことすらしたことは無かった。
 なのに成り行き上とはいえ、しかもあんなバケモノと戦ったのだから仕方が無い。

「はぁ、疲れた……」

 僅かに感じる地面の冷たさを尻に感じながら、初めての勝利の疲れを俺は噛みしめたのだった。

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